犯人探し
事件だって!?
【これは本当にアレじゃないのか?】
分かっている。
僕達がアレをやってしまえると思う。
身体は子供、頭脳は大人。
名探偵やっちゃう?
僕等で犯人探し出しちゃう?
【やはりあの曲を流すしかないだろ】
「てれてって〜♪てれてっててれ〜、てれてれて〜ててて〜♪」
「いきなり何?」
【お前、違うだろ!つーか音痴じゃね?】
は?そこまでズレてないでしょ!?
ちょっと人の事を音痴呼ばわりするなら、鼻歌歌ってみなさいよ!
「てれてってー!てれてっててれー、てれてれてーてててー!」
「だからいきなり何!?というか何の曲だよ!」
(人の事言えないじゃないか!全然下手だったから!)
何だと!?
俺の方がマシだっただろ!
お前のてれてっててれーの所と、俺のてれてっててれーは違う。
(何処が?むしろ僕のてれてれて〜の方が、断然良かったね)
「おい!人の話聞けよ!」
痛い。
また拳骨を食らってしまった。
お前のせいだからな!
「あー、悪い。ちょっと事件と聞いて、俺等の中で喧嘩が始まってな」
「キャプテンですか?」
「あぁ、どうしても譲れない戦いが始まってしまったんだ。
その為に俺がちょっとね」
「それがさっきの鼻歌か。このうつけが!」
痛い。
うつけと言った方が、うつけなのだ。
バーカ!バーカ!
と蘭丸本人に言ったら、また拳骨されるだろう。
「そろそろ話を続けていいか?」
「悪い、続けてくれ」
雰囲気が変わったからか、ちょっと訝しげに見られた。
別に俺も弟も見た目は変わらんのだから、さっさと続きを話してほしい。
「事件と言っても、死人などは出ていない。ただ最近では怪我人が出てしまってな」
それは立派な傷害事件だろ。
名探偵である俺の活躍が必要という事だ。
(何処に名探偵が居るのかな?)
うるさいな!
黙ってろよ。
「最初はちょっとした物が無くなるとか、その程度だったんだ。本人達も何処かに忘れたとか、落としたくらいにしか思ってなかった。しかし段々と事が大きくなってな。私の家にも盗人が入って、荒らされた」
「町長の家がですか!?それは結構な大事ですな。そして何が盗られたので?」
「盗まれたのは伝書。伝書と言っても、我々には使えない魔法なのだが。光魔法の伝書だ」
「魔法の伝書なら、犯人は魔族なのでは?我等ヒト族が犯人扱いされた理由が、あるというのですかな?」
ズンタッタ達は、いきなり犯人として連行されたんだっけか。
そりゃちょっとキレ気味に言ってもいいよね。
「盗まれたのは伝書だけではないからだ。他にも周辺の鉱山を指し示す地図や、クリスタルに関する本が盗られている。貴重な物はこの辺りで、後は食料や水が主だな。伝書がついでで、地図や本が目的の可能性もある。その場合、ヒト族も疑わしいと思っている」
「理解しました。しかし、もう少し説明くらいしてくれても良かったのでは?」
「衛兵達も、自分達の家が被害に遭っているのでな。気が立っているのだろう。もう少し穏便に済ませるよう、指示を出しておく」
進展が無いからだろうな。
外部犯だと思い込まないと、味方を疑う事になるだろうし。
これで俺達じゃないって分かったら、疑心暗鬼になってギスギスした空気が流れるのかな。
「申し訳ないが、先に言っておく。私達はまだ、貴方達を完璧に信用したわけではない。必要以上に疑いはしないが、犯行が続く限りは怪しまれる事を覚悟しておいてほしい」
「変に勘繰れるよりかは、そうやって先に言ってもらった方が気が楽でしょ。俺達も身の潔白を証明する為に、犯人探しに協力しないといけないな」
(まさか、言っちゃうの?)
「真実はいつも一つ!ジッちゃんの名にかけて!」
「キャプテン、お爺様の名前を教えてください!」
そういう意味で言ってんじゃない!
メモろうとするな。
「機密事項に関しては詳しく言えないが、協力してくれるなら話せる範囲は教えるように伝えておこう。どうか犯人探しを手伝ってくれ」
「分かりました。こちらとしても、疑われたままでは気分が悪い。是非とも協力させていただきましょう」
なんかお互いに握手はしてるものの、笑顔の裏は正反対って感じだな。
そこまで相性悪そうには見えないんだけど。
「じゃあまずは、聞き込みからだろう。警部殿、怪しい人物を教えてください」
「けいぶどの?怪しいと言えば、私の目の前の方々になるんですがね」
「ほう?なるほど、分かりました。キャプテン、私達は別行動を取らせていただきます。先に聞いておきますが、怪しい人物は斬り伏せても良いのでしょうな?」
「間違えて斬り殺しました。という連絡が来なければ良いですがね」
既に目が笑ってない。
アウラール町長とズンタッタの後ろに、龍と虎が見えるのは気のせいだよな?
この分だとズンタッタ達は、本気で斬り殺しかねない。
もし帝国側の人間なら、話も聞かずに斬るのはやめてほしいんだけど。
分かったら、お前かぁぁ!って有無を言わさずに斬りそうだから怖い。
「蘭丸はズンタッタと一緒に探してくれ。今回のズンタッタ、何かしでかしそうで怖いから」
「俺もそう思う。アウラール殿と、何故あそこまで喧嘩腰なのだろう?」
「そんなの俺にも分からん。でもお前が居た方が、あの人も無茶はしないはず」
もしかしたら貧乏くじかもしれないけど、すまんが頑張ってくれ。
こっちはこっちで、ちょっと怖いから。
「あの臭みが無くなれば、想像している味になるはず。あの臭みが・・・」
ずっと同じ事を繰り返している。
追い込み過ぎちゃったかな?
「もう少し気を楽にして考えていこう。悩んでばかりいても、良い案は浮かばないぞ?」
「あぁ?」
「すいません、もう何も言わないです」
首だけぐるっと回して、睨まれた。
悩み過ぎなのかウサギだからなのか、目が赤くて怖かったです。
「俺達はハクトと太田と、こっちで聞き込みするから。ズンタッタ達はそっちで頑張ってくれ」
二手に分かれて聞き込み捜査の開始だ!
「てれてーてれててれー、てれてれてーててれー」
スケボー欲しいな。
あとサッカーボール。
(キック力は身体強化で増強されるだろうけど、スケボーはあんなハイテクなのは無理)
普通のスケボーは作れるのか。
サッカーボールも作れそうだな。
でも俺、サッカーとか体育しかやってない。
(そんな事言ったら僕だって一緒だし。むしろスケボーも小学生の頃に少し遊んだくらいだから、あんなに上手く乗れる自信は無い!)
結論、俺達に名探偵は無理。
頑張って少年探偵団か。
あんまり役に立たなさそう・・・。
「キャプテン、適当に歩いてますが、聞き込みはしないのですか?」
おぉ、そうだったな。
名探偵になる事ばかり考えてて、本題の聞き込みを忘れてた。
誰に聞けばいいか分からんから、適当でいいか。
「そこの可憐なお嬢さん、どうもボクです。少々お時間よろしいですか?」
「そうね。よろしくないから、駄目かしら」
聞き込みは失敗したようだ。
凹んでなんかいない。
スタスタ歩いて行かれたって、別に凹みはしない。
ただね、もう少し幼児に優しくてもよろしくなくて?
俺だって見た目は子供なのよ?
よし、次行こう!
「ヘイ、そこの綺麗なお姉さん!」
「ちょっと急いてるので」
「あの、ちょっとお話を」
「人と会う約束があるの」
「・・・お婆さん、ちょっと話を聞いてもいいですか?」
「ワタシかい?帰ってご飯の支度するから。またね坊や」
俺、もう帰ってもいいかな?
要らないでしょ、聞き込み出来ない魔王なんか。
ナンパしてるんじゃないんだよ!
ただ話を聞きたいだけなのに、それすらも聞いてもらえないなんて・・・。
「あの、キャプテン」
「何だ?慰めは要らないからな。慰められたら、ちょっと涙が出そうだからな」
「いえ、慰めではなくて」
違うのかよ!
ちょっとは慰めてくれよ!
このハートブレイクな魔王に、優しい言葉を掛けてくれよ。
「聞き込みするなら、お店とかで聞けば良いのでは?」
「・・・今から行こうかと思っていたんだ」
太田に教えられるとは思わなかった。
ちょっと悔しい。
「すいませーん、ちょっといいですか?」
「いらっしゃい、ボクは何が欲しいのかな?」
「買い物じゃなくて、ちょっと聞きたい事があるんですけど」
お店の人は話を聞いてくれそうだ。
ようやく聞き込みが出来る。
「お客じゃないのかい。まあ別に忙しくないからいいけどよ」
「話が終わったら、このオレンジ三つ欲しいかな」
「毎度!それで話って?」
「最近起きてる事件の事なんだけど、どういう事が起きてるか分かる?」
買い物すればすんなりと話してくれるかなと思ったら、本当にその通りだったとは。
どの世界も変わらないもんだなぁ。
「町長の家で盗難に遭ったってヤツか」
「それは聞いたんだけど、怪我人が出たとか何か盗まれたとか」
「他の事件ねぇ。盗まれたっていうか、空き巣に入られたのなら知ってるよ」
お?とうとう事件に進展アリか!?
「俺の家の二軒隣の男が仕事から帰ったら、ご飯食べられてたとか言ってたな」
「何それ。それって事件なの?」
「事件と言えば事件だろ。だって勝手に家に入られてるんだから。ただ不思議なのが、ご飯は食べられたけど他には何も取られてないらしい」
変な話だけど、確かに空き巣に入られたんだから事件か。
でも犯人は何故、メシだけ食べて出て行ってるんだ?
メシ食う余裕あるなら、金目の物を探すくらいの時間あるだろうに。
(単純に腹減ってて、ご飯だけ食べたかったんじゃない?)
何じゃそりゃ。
そんな暇あったら、金目の物を盗んで買えばいいのに。
「他にも似たような話があるぞ。家に帰ったらご飯食べられてたっていうのは、最近頻繁に起きているな。ただ変な話で、嫁さんの目の前で食べたばかりだとか一緒に食べたとか、不思議な事が起きてるらしい」
「それって本人が食べてないのに、食べてる所を見られているって事?」
「そういう事だな。嫁さんに確認したら、30分前に食べたでしょって言われたらしい。ソイツが食べたおかげで、また食材を買いに来る奥さんが増えたけどな。うちとしてはありがたいが、俺も帰った時に食べられてたらって考えると、他人事じゃないからなぁ」
それは何とも不思議な話だけど、その犯人って変装が出来るって事か。
しかも見た目は分からないくらいに、そっくりに。
この世界で、そんな上手く変装出来るか?
(というより、種族が違うのに変装なんか出来なくない?だって太田みたいなミノタウロスがリザードマンとか、どう考えたって無理でしょ)
という事は、やっぱり同じリザードマンの内部犯?
(いや、もう一つ可能性がある。考えられるのは魔法だね。でもそうすると、犯人は魔族って事になるんだよね)
変装が上手いリザードマンか、変装出来る魔法が使える魔族か。
どちらにしても、ヒト族は関係無さそうかな?
(僕もそう思うよ。クリスタルとか使えば可能性はあるだろうけど。変装出来る魔法とか、そんな魔法を使える魔族が協力してるとは思えないし)
どちらかっていうのはなんとなく分かったけど、これからどうすればいいんだ?
(それなんだよねぇ。変装してるって言われても、僕等はこの町の人達知らないし。変装してなくても、リザードマンはリザードマンとしか判断出来ないからなぁ。他の魔族を見掛けたら、怪しいって思えるけど)
じゃあ他の魔族を探せばいいんだ!
(この町に居る他の魔族っていうのが、僕等なんだよね)
あ・・・。
それは俺でも分かるわ。
だからあの町長、俺達を疑っているのか。
「キャプテン、何やら考えておられますが、ハクト殿がちょっと」
「おじさん!これもっとある?」
え?ハクト?
何か思いついたの?
「ここにあるのが全部だなぁ。もっと欲しいって言うなら、他に売ってる所教えるけど」
「教えてください!」
「お、おぅ」
ハクトの迫力に押され気味だな。
というか、俺も少し驚いた。
ブツブツ言ってただけだったのに、何を見つけたんだろう?
「これ?」
「そう、それ」
なるほど。
確かに臭みが消えそうな物だった。
教えてもらったお店で、同じ物を追加で購入。
ハクトは屋台へ戻り、ラーメンの試作に取り組んだ。
俺達も一休みという事で、ラーメン作りを見学。
「クックック。これであの臭みは消え、あのラーメンと同じ味になるはず。完成したその時、僕は神の世界の料理人と肩を並べた事になる!」
ハーハッハッハ!って高笑いしてるけど、並ぶのは日本のラーメン職人です。
決して神の世界の料理人ではないです。
なんて言えるわけもなく、目がちょっと怖いハクトのラーメンの完成を待っていた。
「出来た!試作ラーメンぬの一号だよ!食べてみて」
丼を渡されて、まずは香りを確認。
うん、醤油ラーメンって感じの匂いだ。
箸で麺を持ち上げて食べる。
麺は普通だな。
もう少し細麺に改良すれば、スープに絡みやすくなるだろう。
ラーメンって太麺より細麺の方が、実はスープが絡むんだって。
高校時代、部活帰りのラーメン屋で教わった。
「ここまでは前と変わらないな。後はスープのみ。香りは前より豚骨の臭みは無くなってる」
「肝心なのはここからだね」
レンゲを持ち、そのスープを口にする。
「・・・美味い!」
あの食材、ラーメンに使うのか。
あんまり詳しく知らなかったけど、美味くなった。
自分でもスープを飲んで確認している。
成功までの苦労を思い出したのか、目の端には涙がうっすらと見えた。
「やった!僕は神の世界に足を踏み入れたんだ。ラーメン万歳!」
そうだね。
ラーメン職人の道を一歩踏み出したとは思う。
でも、ただラーメンを食べただけで、ここまでの再現率は凄い。
これは褒美を渡さなくてはならないな。
「ハクト、この料理を作ったキミは凄い。そしてこの料理を、もっといろんな人に知ってもらおうじゃないか!」
「それはどういう意味?」
「今キミが作っているその屋台。その屋台の主人をハクトにやってもらいたい。そしてこのラーメンを、世に知らしめようじゃないか!」
(もっと言えば、そのラーメン売上でスマホの使用料金を払おうじゃないか)
それは内緒にしましょう。
でも醤油ラーメンが作れたなら、スマホで味噌とトンコツラーメンも調べてみるか。
ベーシックな作り方を調べて、後はこっちでアレンジすればいいわけだし。
(それ良いな!そしたら屋台も少し大きくして、同時に何杯か作れるようにしないと)
うむ、夢が広がる。
自分では作らないけど。
「僕がラーメン屋の主人!」
「店の名前も自分で考えていいよ」
「んー、名前がハクトだからねぇ。じゃあ白い兎で」
「白い兎か。後で看板を作ろう。そして明日から、ラーメン屋台白い兎の開店だ!」
犯人探しは進まないけど、ラーメン屋の開店は進んだな。