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新しい身体

 新しく出てきた扉を開けた先には、同じような白い部屋があった。

 違う点は、さっきの部屋よりかなり大きい。

 周りを見渡しながら歩いていくと、今度は大きな扉を見つけた。


「あの大きな扉が怪しいよね」


「怪しいな・・・。あの先に誰か居る気もする」



 二人がかりで開けた扉の先には、ちょっとした祭壇のようなものがあった。

 そしてその祭壇には、自分達以外の人が居た。


「おぉ!めっちゃ美人!」


「は?美人?髭の長いお爺さんでしょうが」


「お前!あんな美人が爺さんとか、目が腐ってるのか?」


「兄さんこそ!あんな威厳のありそうなお爺さんが、美人に見えるとか。何処かで頭でも打ったんじゃないの?」


 この野郎、さっきはあんなビビってたのに美人がなんちゃらとか、おかしくなったんじゃないのか。

 美人を前にしたみたいに、鼻の下伸ばしやがって!

 ハッキリ言ってキモいぞ!

 そんな険悪な雰囲気の中、その人物が声をかけてきた。



「あ、あの喧嘩しないでもらえますか?」


「あれ?美人が居なくなった・・・?」


「お爺さんも消えた」


 さっきまで二人が見た人物の代わりに、ちょっと気弱そうなお兄さんがオロオロしていた。


「あなたは?」


「申し遅れました。私、こちらの世界の神をしています」


 いきなりの神様登場か!


「神様ですか!?はじめまして、阿久野と申します」


 僕はあたふたしながらも、自己紹介をした。


「あ、あの!さっきの美人さんは何処に行かれたのでしょうか?」


 兄さんは神様より美人が気になるらしい。

 肝が据わっているというか、ちょっと呆れさせられる。

 このエロ兄貴が!


「先程見えていたのは私です。お二人が神様だと思う姿が、そのまま反映して見せていました」


「という事は、兄さんは神様は美人の女神だと思っていたってことだね」、


「お前は神様は爺さんだと思っていたと」


「喧嘩をされても困るので、仮の姿でこちらの身体を見せています」


「なるほど。それと神様のお名前を聞いてもよろしいでしょうか?」


「マジか~。さっきのお姉さんが良かった・・・」


 小声で言っているが、凹んでいるのが分かる。

 美人が消えてあからさまに気落ちしている兄を無視し、神様について聞いてみた。


「私に名前はございません。なのでどのように呼んでくださっても結構です」


「はぁ、分かりました」


「神様、ちょっと二人で話させてください」


 自称神に背を向けて兄を呼び、小声で話しかける。


「兄さん、これどう思うよ?」


「なんか気弱な新人サラリーマンみたいな人だよな」


「あの人の第一印象とかじゃなくて、神様だって話」


「あぁ、そっちか。こんな所で会ったんだから、本物じゃないの?」


 この人、何故こんな普通じゃない状態で、呑気に本物じゃないの?とか言えるんだろう・・・。


「悪魔が化けてるって可能性も考えたりしないの?」


「なるほど。そっちもあるのか」


「いえ、私は悪魔ではないですよ」


 いきなり後ろから声をかけられて、バっと振り返る。


「これでも一応は神なので、この空間の声とかは聞こえちゃうんですよね」


 申し訳なさそうにしながら答えてくれた。

 神様イヤー半端ないな!





「では神様。私達がここに居る理由を、教えてもらってもよろしいでしょうか?」


「はい。それともう少し楽にしてくださってもいいですよ」


「分かりました」


「では説明します。まずあなた方二人は、今のところは死んでいません」


「死んでないってよ!」


「うるさい!今のところって言ってるだろ。話を聞け」


 やはり簡単に信用する兄。

 今まで騙された事無かったのだろうか?

 我が兄ながらちょっと心配になってくる。


「はい、今のところです。このままだと寝たきりの状態で亡くなります。簡単に言いますと、あなた方二人の魂が一部欠けています」


「魂が欠けていると、どうなってしまうんですか?」


「肉体を動かすためのエネルギーが無いので徐々に衰弱していき、最後は死んでしまいます」


「何故、俺達の魂って欠けているんですか?」


「それはあなた方が強制召喚されかけたところを、私が無理矢理こちらに呼んだからです」


 強制召喚?異世界に呼ばれた的な感じか?

 昨日読んでたラノベも強制召喚ものだったけど、こんなんじゃなかったんだけどな・・・。

「ちょっと聞き捨てならない事を聞いたんですけど。無理矢理呼んだから魂が欠けたって事ですか?」


「その通りです。しかし、もしそのまま召喚されていたなら、おそらくは奴隷もしくはただのエネルギー源として扱われていたと思います」


「奴隷・・・」


 というか、エネルギー源ってどういう意味だろう?


「神様、エネルギー源って何ですか?」


 兄も疑問に思っていたらしい。


「エネルギーとは、あなた方の生命力みたいなものです。あなた方からすると異世界であるこの世界は、地球の方々の生命力がとても大きな力となります。そしてあなた方二人は、こちらの世界にあるドルトクーゼン帝国という国に強制召喚されたという事です」


「奴隷というのはどんな扱いですか?」


「一言でいえば戦士ですね。帝国の為に魔物や魔族、敵対する周辺国家との戦闘に駆り出されます。エネルギー源の方はもっと悲惨ですね。培養液に漬けられて死ぬまで生命力を抽出されます」


 奴隷は兵器でエネルギー源は使い捨ての電池みたいなものか。

 どっちが良いとか無いな。


「な、なるほど」


「兄さん、ドン引きしてるね」


「当たり前だろ!異世界召喚で俺TUEEEEだと思ってたら、奴隷か培養液漬けだぞ!?こんなの期待してたのと違う!!」


 まあ俺TUEEEEは置いといて、こういう反応にはなるよね。





「とまあ、召喚されかかってたところを無理矢理こちらに引き寄せたんですが、一部あちらに持っていかれたというわけです」


 神様に引き寄せられなかったら、どちらか二択だったのか・・・。

 神様グッジョブ!!



「状況は分かりました。しかし何故、わざわざ神様がこちらに呼んだんですか?僕等は奴隷や電池にされなかったので、助かったとは思うんですけど。別に神様的には召喚に干渉する理由が分からないのですが?」


「え゛!?あ・・・それはですね・・・」


 おい神様、目が泳いでるぞ。


「実は強制召喚されているのって、地球の、しかも日本人限定なんですよ。召喚主が意図的にやっているのかは分かりませんが。過去には召喚ではなく転移してきた日本人も居るんですが、多分それを参考に召喚してるからではないかと推測します」


 日本人限定というのは新しい情報だ。

 神様でも理由が分かってないのは気になるが。


「それで干渉した理由は?」


「あー、えぇとですね・・・。その召喚を見過ごしていたら、日本の神からクレームが来まして・・・。お前いいかげんにせぇよと、こちらの世界に雷を落とされました」


「・・・」


「・・・テヘペロw」


「テヘペロじゃねぇよ!」


 要は怒られたから干渉したわけだ。

 言われないとやらないとか、なんとも使えない神様だな。


「使えない神様だな」


 兄さん、ストレートに言い過ぎだよ。

 だが僕もそう思う。



「でも僕達はこのままだと、死んじゃうんですよね?どうするんですか?」


「ハイ!そこで二人には、申し訳ないですが自分で魂を回収してもらいたいと思います!」


「えー。なんで自分達で行くんですかぁ。神様が最初から召喚は駄目だぞって干渉していれば、こんな事にはならなかったんじゃないんですかぁ?」


 兄さん、段々態度が大きくなってる。

 でもその通りだとも思う。

 あまり本音を言って神様の機嫌を損ねたくないし、ここは兄さんに任せよう。


「それはですね、神である私が直接干渉すると、世界に影響を及ぼすからです。気候変動とか天変地異とか起きちゃったりするので」


「力抑えられないんですか?」


「まだ未熟なもので・・・」


「チッ!使えない」


 兄さん、さっきまでのビビりの欠片もないよ・・・。


「うぅ・・・。それにまだ新神なので信仰心が薄いんですよ・・・」


 なんか本当に新人サラリーマンみたいな神様だな。

 神なのに妙に腰が低いし。


「事情は分かりましたが、魂の一部が欠けている私達に扱える身体があるんですか?」


「俺達、自分の身体で回収に行けないんでしょ?」


 確かに。

 この欠けた魂だと、徐々に衰弱していくみたいだし。


「そこは勿論万全です!しかも最近、とっておきの肉体を準備しました!」


「とっておきの肉体?」


 来たか!?これはチートフラグでは!?


「この世界において、おそらく一番の肉体です。ちなみにお二人の肉体はガードレールに突っ込んでかなり破損されています」


「破損って・・・」


「見ます?特に運転されていた弟さんの身体は結構酷いですよ」


 僕の身体かよおぉぉぉ!!!

 酷いってどんなだか気になるけど、流石に自分の酷い身体とか見たくないわ・・・。



「お二人の身体は、魂の欠片の回収をしてもらっている間に、こちらで修復しておきます。なのでこちらの身体を使ってください」


 是非とも万全の状態に治して下さい!

 なんならちょっとイケメンにしてくれたり、ちょっと背を伸ばしたりしても分からないかと。



 そんな事を考えていると、目の前には宙に浮いている身体があった。

 190センチを超えるであろうか。

 明らかに僕達より大きい。

 ちょっと日焼けしたような色黒で筋肉質だ。

 しかしそれよりも目が行くのは、耳が少し尖っている事。

 これはもしかしなくても人ではないのか?


「こちらの方は人ではないのでは?」


「はいそうです。これは魔王の肉体になります」


「魔王!?」


 魔王とかチートフラグじゃないか!!


「つい最近、帝国に滅ぼされた魔王です。既に亡くなっていたので、帝国に回収される前にこちらで回収しました」


 負けてるの?


「負けた魔王の肉体が一番なんすか?」


「一概に最強とは言えませんが。本来の力を発揮していれば、ヒト族に負けるはずは無いんですけどね」


 本来の力と言ってるという事は、何かしら騙し討ちにでも遭ったのだろうか?

 魔王と呼ばれるくらいだ。

 多勢に無勢だったか、勇者的な人物に負けたとかかなだろう。


「なるほど。分かりました」



「んで、どっちがこの身体使うの?」


 そういえば身体は一人分だ。


「二人で使います」


「はい?」


「だから二人の魂をこの身体に入れます。魔王の身体は魂を入れる器も大きいので、十分入りますよ」


 さすがは魔王。

 器が大きいとか言われると納得出来るな。


「どうやって身体動かすんですか?」


「それは私には分かりませんよ。二人で一つの身体なんか動かしたことないですから」


「なんだそれ!」


 おいおい!なんでそこは投げやりなんだよ!

 もう少し説明があってもよくないか?


「他に準備出来る身体もありますが、魔王と比べると見劣りしますよ?魔物を狩りに行って返り討ちにされたゴブリンとか、畑を耕してた時に心臓発作で死んだ四十過ぎの農民とか」


「魔王にします!」



 考える余地無し。

 魔物の強さが分からないけど、返り討ちにされてる時点でお察しだろう。

 ましてアラフォーの農民のおっさんとか、僕等を足した年齢とほぼ同じじゃないか!

 僕か兄がどちらに入るにしろ、どっちを選んでも嫌だな・・・。


「ではこちらの紙に魔王の特徴を書いておいたので、あちらの世界で読んでみてください」


 そう言われた直後、自分達の身体がぼんやりと光りだした。

 目の前が段々と暗くなり、神様の声も遠くなっていく。


「ではあちらの世界に送ります。魂の欠片の数は二人合わせて全部で六つ。また分からないことがあれば、極力は手を貸しますので。頑張ってください」


「えっ!?ちょっ!!早くないですか!?まだ聞きたい事が山ほどあるんで・・・」





 言いたいことも言えず、僕等は気を失った。

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