助っ人
こんにちは。
僕、阿久野。
魔王やってます。
魔王なのに監視付きです。
皆が南北に分かれて救援や探索をしている中、毎日修行の日々。
今日は座禅を組んで集中するという修行中。
こんな事考えている時点で、全く集中してないんだけどね。
おっと、長可さんがこっちを見ている。
集中集中。
それはさておき蘭丸からの最後の連絡では、彼等は修行をメインで行ったせいで、他の連中の半分しか進んでないらしい。
流石の僕も任せた任務を放棄しているように思えて、怒鳴ってしまった。
遅れた事にセンカクも謝罪してきて、更には手を貸してくれるという話になった。
そんな中、北の又左達にも動きがあったらしい。
連絡が来てないのでよく分からないが、知らせが無いのは良い知らせってね。
でもね、やっぱり思うのよ。
毎日座禅を組んでみて、僕にはあまり向いていないんじゃないかって。
いやね、テレビゲームとかなら集中出来るのよ?
でも胡座で目を閉じて集中って、毎日は無理だから。
というわけで、僕はこの苦痛から逃れる為に、兄と交代する事にしました。
又左達、頑張ってるかな〜。
軽っ!
偵察って結構重要なんだけど、そうは思わせない口ぶりに、又左は少し戸惑った。
カッちゃんの影へと消える半ちゃんを見て、実力は高そうなんだよなと思った。
「か、カッちゃん」
「何?」
「半ちゃん達って、何なの?」
「何なのって、酷い言い方だなぁ。そりゃゴブリンだよ」
「いやいや!ゴブリンの中でも特殊ですよね!?」
「そんな他人行儀な話し方はやめてよ〜。もっと気軽にフレンドリーに。笑顔よ、笑顔」
強面のカッちゃんにフレンドリーとか言われても、又左と慶次は逆に、その怖い笑顔をやめてくれと願っていた。
「半ちゃんは上位種でござるな?」
「そりゃあ魔法使えるしねぇ。半ちゃんはゴブリンニンジャとかいう、変わった上位種だよ。彼以外には見た事無いなぁ」
「忍者でござるか!?凄いでござる!東の領地にしか居ないと言われる、希少種でござるよ。それと騎士王国にも、忍者と呼ばれるヒト族が居るって聞いたでござる」
「へぇ。ケイちゃん詳しいね」
「半ちゃん、今度手合わせしたいでござる」
慶次はそう言うが、又左としてはあまり意味が無いと思っていた。
猫田の事を考えると集団戦でもない限り、彼等の戦闘能力は慶次には及ばないと思ったからだった。
「ちなみにカッちゃんは、ゴブリン何なのでござるか?」
「俺か?俺はゴブリンジェネラルだよ。ナオちゃんも一緒。マッツンのおかげで俺等、殺し合いしなくて済んで良かったよ」
「こ、殺し合い!?どういう意味だ?」
聞き捨てならないその一言に、又左は思わず聞き返してしまった。
殺し合いなんて、あまり立ち入ってはいけないと思ったのに、どうしても気になってしまったのだ。
「簡単だよ。ジェネラルは更なる高み、キングを目指すのが普通なんだ。でも俺達にはマッツンが居る。俺もナオちゃんも、マッツンの事は信頼してるから」
「マッツン殿は強いのでござるか?」
「うーん、タフな男ではあるよね。それに俺達を導いてくれるし、何より見捨てないでくれたし」
確かに精神力はタフそうだ。
だが身体は脆弱そうなんだけど。
強いて言えば、腹は叩いてもダメージは無いだろうなと、又左は思った。
「マッツン殿は、魔王様にも引けを取らない方のようだ。良い王に会えたのだな」
「あぁ、サイコーのマブダチだぜ!」
又左はマッツンに、見当違いの方向で見直したのだった。
その頃、洞窟周辺を窺っていた太田一行。
彼等は、少し手詰まりを感じていた。
「マズイですね。まさか洞窟の近くで陣を敷いているとは」
「ワタクシが蹴散らしても良いのですが、流石に全員を倒すのは無理です。逃げられたら、援軍を呼ばれそうですね」
洞窟近くの森で見つけた、ヒト族の陣。
そこには数十人がテントや柵を作っていた。
遠くから見ただけでは詳しく分からなかったが、何かを待っているようだった。
「おそらくですが、洞窟の中に入った仲間を待っているのでしょう。連絡が来なくなったら、別部隊が入るといった感じのようです」
「洞窟前にも見張りが立ってるし、どうしますかね。俺が倒してきますか?」
「いえ、すぐに交代の見張りにバレるでしょう。どうにか入る手立てを考えます」
見つからずに入る方法。
官兵衛はどう考えても、良い策が出てこなかった。
理由は太田である。
単純に、身体は大きくて素早いとはお世辞にも言えない。
最悪の場合、太田を囮にして、官兵衛と長谷部の二人で入るという方法しか思いつかなかった。
「もう少し考えさせて下さい」
腰のお菓子袋から連合で買った飴玉を取り出し、口の中へと放り込む。
甘くて大きいので、長時間無くならないから重宝しているのだ。
「む!官兵衛さん、移動します」
「どうしました?」
「誰か来た。向こうも洞窟を探ってるみたいだけど、こっちの事も見えます。敵かもしれないし、違う場所に隠れましょう」
太田の巨体は隠れきれないと長谷部は言って、彼等は更に入り口から遠ざかった。
すると辺りを見回しながら、洞窟の入り口の様子を窺う怪しい人物が現れた。
土色の外套に身を包んで、遠目では地面と同化しているようにも見える。
「何者だろう」
「洞窟を見ているという事は、あの者も中に用があるという事ですかね」
「もう少し様子を見ましょう」
官兵衛が動かないと決めると、二人も同意した。
しかし怪しいその者は、入り口から目を離し、辺りを見回し始める。
太田には頭を出すなと言って、長谷部は茂みの中からジッと覗く。
それなのに、目が合った気がしたのだ。
「気付かれた!?官兵衛さん!」
「まだ確定ではありません。動かないように」
しかし、ゆっくりとこっちへ歩いてくる怪しい男。
明らかにバレた。
太田と長谷部の武器を持つ手に、力が入る。
「もし攻撃してきたら、即反撃という事で」
「ワタクシの一撃をお見舞いしましょう」
いよいよ目の前まで男がやって来た。
官兵衛の合図を待つ二人。
だがその合図の手は、挙がる事は無かった。
近くに来た男が、外套で隠していた顔を露わにしたからだ。
「何故アナタがここに!?」
半蔵は村の東西南北の四方向に、仲間達と一緒に手分けして偵察に出た。
「洞窟は村から出て東の方だったかな。俺がそっちに行くから、皆は南北と西を頼むわ」
「まっかせとけぃ!」
軽いノリで散っていく仲間達。
彼等はまだゴブリンニンジャには達していない、ゴブリンシーフの面々だ。
隠密行動は、他のゴブリンよりはるかに長けている。
ニンジャに達している半蔵は彼等の上位種ではある。
だがあくまでも、下位種に命令するような感じではなく、仲間として彼等の事を見ていた。
東へと向かう半蔵。
そこで一人の怪しい人物を見掛ける事になる。
「こんな場所に顔を隠して一人で行動?逃げてきたゴルゴンの村人かな?」
半蔵はその者を少し様子を窺ってから、接触を図ろうとした。
しかし、予想外の事が起きた。
「何者だ?」
離れた場所から見ていた半蔵に、身体を向けて言ってくる怪しい男。
まさかバレるはずが無いと思っていた半蔵は、それでも様子を見ていた。
「出てこないなら、敵と見なす」
その手には直径一メートルにはなろうかという、大きな火球が出されている。
バレている。
半蔵は直感的に、無抵抗で姿を現す事にした。
「すまない。こっちも任務中なんだ」
「ゴブリン?」
「魔法が使えるという事は、魔族でよろしいか?声からして男性という事は、ゴルゴンの村人ではないよな?」
男は火球を浮かべたまま、半蔵の質問に答えようとはしない。
しかし、逆に質問で返してきた。
「ゴブリンがこんな所で、何をしている?」
「俺はゴルゴンの村人を助ける為に動いている」
「何故ゴブリンが、ゴルゴンを助けようとしている?」
「安土にゴルゴンが、助けを求めてきたんだ。魔王様はそれを聞き入れて、俺達を派遣したってわけだ。お前も魔族なら、安土の魔王くらいは聞いた事があるだろう?」
「・・・なるほど」
外套で顔を隠した男は、考え込んだ末に火球を消し去った。
敵対しないと判断した半蔵も、投げられるように隠し持っていた苦無を腰へと隠した。
「貴方が何者かは知らないが、ここは今ヒト族が魔族を荒らしている。さっきの無詠唱を見る限り実力があると見受けられるが、多勢に無勢。一人では危険だぞ」
「そうですね。分かりました。私もお手伝いしたいと思います」
「その前に、貴方がどなたか聞いてもよろしいか?」
「申し遅れました」
男は外套を脱ぎ顔を見せると、綺麗な立ち振る舞いで自己紹介を始める。
「私は長浜の元領主、木下藤吉郎秀吉と申します」
官兵衛は顔を見せた秀吉に、立ち上がって頭を下げた。
「申し訳ありません」
「いえ、事情は聞いているので。それよりも、貴方は?」
官兵衛は今、自分が半兵衛ではない事を思い出した。
半兵衛だとバレないように、すぐに態度を改める。
「申し遅れました。オイラは官兵衛。黒田官兵衛と申します。シュバルツ家の遠縁で、今は安土に身を寄せています」
「シュバルツ家の?帝国の人間ですか?」
頷く官兵衛を見て、秀吉はマジマジと官兵衛を見た。
「そうですか。よろしくお願いします。それと聞いているというのは」
官兵衛の疑問に、秀吉はさっき会った半蔵の事を話し始める。
安土からゴルゴンの村救援部隊が来ている事。
洞窟の探索に内密に動いている事等、自分が把握している事を話した。
そして、官兵衛達の作戦に協力を申し出たのだった。
「それはとてもありがたいお言葉なのですが、何故このような場所に?」
「旅の途中です。東へ向かうにしても、帝国領があって行きづらいので、北から回ろうかと思ったのだけれど。予想以上に遠回りでね。近くに村があると聞いていたから、そこへ立ち寄ろうかと思ったんだ」
「それがゴルゴンの村だったというわけですか」
「村を探していたところゴブリンに会って、皆が洞窟の方に居ると聞いたので、少しお手伝いしようかなと思ったわけだよ」
「それは助かります!」
官兵衛は秀吉の助けに、心から感謝した。
魔法が使える。
これなら洞窟内へと入る事が出来ると、彼は算段を立てた。
「洞窟内へ向かいましょう」
「ちょっ待てyo!」
「誰だ!?その似てないアイドルのモノマネは?」
長谷部が反射的にツッコミを入れると、半蔵が姿を現す。
「イェーイ、俺参上」
グータッチを求めてくる半蔵。
太田と官兵衛、秀吉の三人は、何をすれば良いのか分かっていない。
長谷部は渋々、グータッチに応じた。
「ウェーイ!ハッチ分かってるぅ!」
「ハッチ言うな!」
本気で嫌がる長谷部に、半蔵はひたすらハッチを連呼する。
「ゴホン!服部殿でしたね?ここへは何をしに来たのですか?」
「そうそう。ちょっと洞窟へ入るのを待ってもらいたいんだyo」
「何故です?ゴルゴンの村で、何かありましたか?」
半蔵は又左達の指示で偵察に来ている事。
そしてゴルゴンが連れ去られている事を伝えた。
「この近くにある陣は見た?」
「見ました。しかしゴルゴンの姿は見ていないですね」
「俺の仲間が村の南北と西を探してる。一度戻って確認をするが、もし報告でゴルゴン達が見つからなかったら、洞窟に連れて行かれた事になるんだよne」
「我々が先行すると、ゴルゴンを助ける事に支障が出るというわけですか」
「さっすがカンちゃん!話が早いze!」
官兵衛はそれを聞いて、村へ同行する事を決めた。
「ところで俺さ、その人に色々と話しちゃったんだけど。本当に元領主様?」
「そうですよ。長浜国の元領主様です」
「マジかyo!俺、めっさタメ口で話しちゃった」
「ハッハッハ!別に構わないよ。今はただの旅人だからね」
「ホント?やったze!というか、ただの旅人ってそれ無職じゃん。職業みたいに言ってるけど、無職じゃne?それって俺達のマッツンと同じ、フリーダムだyo!」




