明暗分かれる村
自慢げに僕に挑発してくるマッツンだが、実情を知っている僕からしたら道化にしか見えなかった。
しかも行く気満々でオヤツを買いに行くとは。
気付いたら置いていかれる。
彼は雨で遠足が中止になり、家でオヤツを食べる子供のようになるんだなと思うと、少し憐れみを感じた。
本多忠勝と井伊直政。
この二人がゴブリン達を率いて、参加してくれるらしい。
又左やイッシー達と合流すると、彼等はチャラい感じで二人に絡んでいる。
そして真打という名の道化師が登場した。
マッツンは又左やイッシー達と進軍に参加しようとしたが、官兵衛に止められてしまう。
不審に思ったマッツンだったが、官兵衛と一緒に来たゴエモンにサインをしたところで、彼の幻術で眠らされてしまった。
マッツン、置いてけぼり決定である。
しかしそれは、官兵衛の策と共に、カッちゃんナオちゃんコンビのお願いでもあった。
自己評価の低い二人は、戦闘で万が一マッツンに被害が出る事を恐れたのだ。
二人はマッツンを僕へと任せて、進軍に参加した。
そこに現れたセンカクは、二人を見て珍しいと言った。
その理由を聞いた僕達は、マッツンが予想以上に重要人物であると、今更ながらに実感したのだった。
「ちょっと聞いても良いですか?」
「なんじゃ?」
「ゴブリンジェネラルとは、一体何でしょう?」
官兵衛ですら知らない知識。
所詮はゴブリン。
されどゴブリン。
将棋の歩と一緒で、実は奥深いのかもしれない。
「ゴブリンジェネラルとは、単純にゴブリンの中から生まれる上位変異種じゃ。変異というくらいじゃ。最初はそこまで強くない。だが、何かのキッカケで突然強くなる」
最初はホブゴブリンくらいの強さだけど、突然強くなって将軍にまでなるって事か。
でも疑問点はまだある。
「何でジェネラル同士が仲が良いと、珍しいの?」
「簡単じゃ。オヌシ等で考えてみい。魔王が居ない場合、誰が率いる?」
「誰って。・・・アレ?誰が率いるんだ?」
「魔族というのは弱肉強食。強い者が争って、皆を率いるのは必然なのじゃ」
「なるほど。ジェネラルは次のキングを狙う敵同士。本来なら争いはあれど、仲良くする事は無いというわけですね」
それってマッツンが居なければ、森の中ではカッちゃんとナオちゃんが血で血を洗う戦争を起こしていた可能性があるわけだ。
安土の近くでそんな事されてたらと思うと、ゾッとするな。
「さっきも言ったが、本来なら弱肉強食なのじゃ。それなのにキングが、この間抜けそうなタヌキとは。時代は変わったのかの?」
センカクは足で、マッツンの腹をツンツンとつついている。
それでも起きる気配は無く、むしろイビキが大きくなった。
寝ても起きてても、変わらず喧しい男だ。
こんな男の何が、ゴブリン達を刺激したんだろうな。
楽しそうなゴブリンを見る限り、マッツンがトップで良かったとは思うけどね。
「ところで仙人様は、何をしにここへ?」
「そうじゃった!最近オヌシだけ修行に来ないのは、どういう事なのじゃ!蘭丸もハクトも来ておるぞ」
ギクッ!
わ、忘れてた。
ゾーラさん達の件もあって、色々あったから。
という事にしよう。
「魔王は忙しいのです。それと蘭丸とハクトも、近々洞窟探索に向かってもらう予定なので、しばらくは修行出来ないかと」
「なんじゃと!?」
「二人だって安土の貴重な戦力なんでね。それに対して文句は言わないでほしいです」
何やら考え始めたぞ。
もしかして合宿するとかハードメニューを考えてたりして。
「決めた!ワシも行くぞい」
「え?何処に?」
「蘭丸とハクトと一緒に行くのじゃ」
何言ってんだ、このジジイ。
勝手に決めるんじゃないよ。
「魔王様。同意しましょう」
「同行を認めろと?」
「オイラも戦力として認めてはいますが、二人だけの初任務です。そしてかなりの重要任務になります。保護者という扱いで、一緒に行ってもらうのはいかがでしょう?」
そうなんだよなぁ。
帝国も狙ってると考えると、センカクが居ても悪くないのか。
はじめてのおつかいじゃないけど、行くなら陰ながら見守ってもらいたいんだけど。
「バレないように同行するのはアリ?」
「道中修行をさせるつもりなので、却下じゃ」
「・・・じゃあそれでお願いします」
予定外の同行者だけど、二人とも文句言わないよな?
翌日、太田と官兵衛と長谷部。
そして蘭丸とハクト、急遽参加が決まったセンカクの六人が出発する事になった。
「携帯は持ったな?何かあったら、すぐに連絡をくれ」
「かしこまりました」
今回、各リーダーには携帯電話を渡してある。
懸念はヒト族であるイッシー達の第二軍だったのだが、ナオちゃんが簡単に覚えてくれたので、問題はクリアされた。
太田に渡すと、何も無くても毎日連絡が来そうだ。
僕は太田から官兵衛へと携帯を移動させた。
少し凹んでいるが、どうせすぐに立ち直りそうだし。
問題無いだろう。
それよりも気になるのはこっちだ。
「師匠!本当に一緒に行くんですか?」
「当たり前じゃ!連合に行くからと、しばらく修行を中断していたのに。またすぐに中断とは何事じゃ!」
「す、すいません!」
条件反射の謝罪をするハクト。
別に謝る必要なんか無い。
だって仕事だもの。
「中断が嫌だから、付いていって修行をさせるんだと。面倒なら断っても良いよ」
「コラァ!オヌシ、何を言うとるんじゃ!」
「いや、助かる!」
「は?」
「俺も修行の中断は嫌だったからな。師匠が一緒に来てくれるなら、こんなにありがたい事は無い」
さいですか。
このクソ真面目くんが!
僕はやらんもんね。
「魔王といえども、ワシは手加減はせんぞ。長可殿、後は頼みます」
「長可さん?」
「任せておいて下さい。ちゃんと見張っておりますので」
ゲエェェェ!!
このジジイ、長可さんに修行サボらないか監視を頼みやがった。
このままだと僕の悠々自適ライフが・・・。
「皆が帰るまで、修行は良いんじゃないかなぁ?」
「でしたら私とゴリアテ殿の手伝いをしますか?官兵衛殿が居なくなるので、とても忙しいのですが」
「しゅ、修行しよっかな!」
「あら、残念」
官兵衛の代わりとか、絶対に無理だろ。
だって前に見たけど、ゴリアテの部屋、お菓子だらけだぞ。
しかも半日後には、半分以下の量に減ってたし。
それだけ脳をフル回転させてる仕事なんて、やってられるか!
「サボるんじゃあないぞ」
「じゃ、出発しますよ」
洞窟探索組は、機動力勝負だ。
二組とも、トライクで向かう事になっている。
センカクは蘭丸の後ろへ座り、旅立っていった。
「お待たせしました」
「デカッ!」
ビックリして思わず声に出てしまった。
太田が持ってきたトライクは、改良されていた。
太田の身体に合わせて、普通のトライクよりサイズが大きいのだ。
そして後ろも、余裕で二人座れるようになっている。
コバが今回の為に、新たに作ったらしい。
「ぶべら号というらしいです」
「・・・」
酷いネーミングセンスだ。
自分の事を棚に上げるつもりはないが、これはいかがなものかと思う。
「あ、後ろには官兵衛用の二足歩行ロボが搭載されてるのね」
「本当だ。官兵衛さんもこれなら、洞窟内で杖で苦労する必要無さそうですよ」
コバがそこまで考えていたかは不明だが、ナイスというしかない。
しかもブレード搭載型なので、自衛も出来そうだ。
「それでは我々も、出発しましょう」
「魔王様。何があるか、自分の目で確かめてきますので」
「連絡待ってるよ」
太田はヒャッハー!と言いながら、トライクを出した。
まさか、自分が留守番になるとは思いもよらなかったな。
ん?
「おい!皆は何処へ行った!?」
「もう出発したよ」
「なにいぃぃぃ!!俺様の事を誰も起こさないなんて。寝坊しちまったじゃねーか!」
寝坊じゃなくて、催眠術な。
行こうとしてたのは、夢の中だったのだと勘違いしているようだ。
「置いていかれて暇なら、仕事するか?」
「え・・・」
尻尾が途端に小さくなった。
やる気は無いらしい。
「やる事沢山あるぞ。官兵衛のしていた仕事がな」
「はん!俺様を縛る事は、何人たりとも出来ないのだ!アイアムフリーダム!」
そう言ってクソダヌキは、走って逃げていった。
どうせ暇そうなゴブリンの所へ、遊びに行ったんだろう。
「僕も帰って寝るかな」
「魔王様」
「あ、ハイ。修行しますです・・・」
又左達が救援に向かってから、数日が経った。
村の近くまで到着したという報告を受けた。
「それで、村の様子はどうなんだ?」
「ゴルゴンの村は、少数の怪我人が出ていますが、無事です。問題は石化を使って魔力が切れた複数の村人が、拉致されたという話でした」
やっぱりゴルゴンの能力を知っていたか。
いよいよ帝国の召喚者の仕業に違いない。
「今はゴルゴンの村の守備を固め、再び奴等が襲ってくるのを待っている状況です。誰かを捕まえて、連れ去った彼女達の居場所を突き止めます」
「了解した。引き続き、頑張ってくれ」
ゴルゴンの村は、安土のように燃やされたりしてないだけ、マシなのかな。
それよりも、まだ敵の人数が分からないのが痛い。
又左の事だから、冷静にやってくれるとは思うけど。
その翌日、南に向かったイッシー達からも連絡が来た。
「こちら真イッシー。ラミアの村を確認した」
「村はどう?」
「駄目だな。村人は居ない」
「えっ!?」
まさか、誰も居ないなんて。
北と南でここまで差が出るとは思わなかった。
「これからケールさんに確認を取ってから、村の中を捜索する。あっ!ちょっと!」
「ナオちゃんだよぉ〜!」
携帯を奪われたのか、急に声が陽気になった。
と思ったのは一言目だけ。
どうやらチャラいままでは居られないと、直政モードになっている。
「私が決めていいのか判断出来ないので、魔王様にご確認のですが。軍を三つに分けてもよろしいですか?」
「三つに?」
「ここには私以外に、イッシー殿と佐藤殿が居ます。村人の捜索は固まって行うよりも、手分けして行う方が良策だと思ったのです」
ふむ、直政の言っている事は間違っていない。
彼の判断なら任せられそうだ。
「現場の事はナオちゃん。いや、直政に一任するよ。僕に確認を取らず、イッシー達と相談して決めてくれ。少しの遅れが命取りになるかもしれないからね」
「承知しました」
「俺も了解だ」
「俺は了解じゃない!俺に軍を率いるなんて、出来ないぞ!?」
そういえば佐藤さんはそうだよね。
イッシーみたいに自分の部隊を持ってるわけでもないし、テンパってしまうのも仕方ない。
だけどここは、頑張ってもらうしかない。
それに探す場所に一つ心当たりがある。
「そしたら佐藤さんは、ケールさんに聞いて洞窟を探してみてよ。そっちには蘭丸達も向かってるはず。村人を連れ去って何かをするなら、洞窟の可能性があるからね」
「手探りより、そうやって指示してくれると助かる」
「でも、佐藤さんだけになったら携帯で連絡が出来なくなるから。洞窟へ行くなら、蘭丸達と合流した方が良いかもね」
「了解だ」
佐藤さんは元気良く返事をしてきた。
直政とイッシーが、何やら話し合っているのが聞こえる。
携帯から遠いから、何言ってるか分からんな。
おっと、直政が急に話し始めた。
「ケールさんが、生き残っているラミアの一人を発見したらしいです」
「良かったじゃないか!」
「それで、私達のするべき事も変更になりました」
「変更とは?」
「生き残りの話では、やはり洞窟が関係しているらしいです。携帯電話というこの連絡機が使える私が、ケールさんと村に残ります。そして蘭丸殿達との合流をイッシー殿と佐藤殿に頼む事にしました」