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二人の真意

 こうやって改めて聞くと、バスティも可哀想な男だな。

 実の息子に城を追い出されて監禁され、挙句の果てには死亡説を流されて王位を奪われたのだから。

 そんな彼の話で、洞窟にはかなり貴重な物があるという事が分かった。

 まさか信長が絡んでいるとは思わなかったが、実際はどんな物があるのかまでは分からないらしい。


 僕達は、二つの村の救援と南北の洞窟探索。

 これ等を全て同時に行うという事になった。

 四つに分かれた大作戦の会議が、ここに始まったのである。

 この作戦は、意外にもマッツンが鍵を握っていた。

 というよりゴブリンの力なのだが。

 マッツンの指示なら従うゴブリン達の協力を得て、村を解放しようという作戦だった。

 今回は総力戦。

 安土襲撃の犠牲が大きかったイッシー隊も、新たな隊員を鍛え上げて作戦に参加する。

 安土防衛のオーガを抜けば、ゴブリンの力すら借りて、更には蘭丸とハクトにも単独任務が与えられたくらいだ。

 そして僕はというと、まさかのお留守番だった。

 皆が忙しく出ていくのを見送った僕は、からかいに来たと思われるマッツンの相手をしていた。

 話を聞く限り、この男も留守番させられると強く思ったのだった。





 官兵衛の手のひらで踊らされているとも知らずに、馬鹿な男だ。

 そう考えると、目の前で僕を挑発しに来たこの男が、道化に見えてきた。

 当日、逆に馬鹿にしようと心に誓った僕なのだった。



「フッ。もう良いよ。自慢の腹太鼓でも見せてくれ」


「ムム!諦めたか。残念な男の為に、俺様のリズムを聞かせてやるぜ!」


 マッツンはリズム良く、腹を叩き始めた。

 前回は無かった側転腹太鼓等、芸に磨きが掛かっている。

 そのうち、バク宙腹太鼓や曲芸腹太鼓も出来そうな気がする。

 忘年会シーズンになったら、色々な企業に呼ばれたんだろうなぁ。

 無駄に腹も光ってるし、笑いを取るには最高の男だ。



「どうだ!俺様のビートを心に刻んだか!?」


「おぉ、最高に良かった。お前も旅支度してこいよ」


「ワハハ!それもそうだな。オヤツの準備もしなくては」


 オヤツは三百円までですよ。

 銅貨三枚くらいで換算すると、買える物なんか限られるけどね。

 そもそもアイツ、仕事してないのに金持ってるのか?



【ロックの事務所から給料出てるんじゃないの?】


 あ!

 それがあったか。

 それに今思うと、ゴブリン達に養ってもらってる感もある。

 ・・・ヒモだな。





 二日後。

 官兵衛とゴリアテは素早い行動で、ゴブリン達との交渉を終え、マッツンの同意の上という理由で作戦に参加した。

 第一陣として出発するのは、北のゴルゴンの村救援に向かう軍だ。



「ゴブリン一万と本多忠勝。準備出来たぞ」


「本多殿。よろしくお願いします」


 太田に引けを取らない大男が、ゴブリン達を率いて立っている。

 マッツンが居る時と違い、めちゃめちゃ怖い顔をしていた。

 それに応えたかのように、又左も緊張した面持ちで挨拶を交わす。



「固い!俺の事はカッちゃんで良いyo!」


「か、カッちゃん?」


「その代わり、前田殿達は、マッちゃんとケイちゃんって呼ぶから。よろしくぅ!」


 前言撤回。

 めっちゃ軽かった。

 後ろのゴブリン達も妙に陽気だし、又左達が場違いみたいな感じがする。

 一万人で、クラブでも行こうってノリだ。



「ヘイヘイ!カッちゃん!私達も行くんだゼエェェット!!」


「ナオちゃん!」


 井伊直政率いるゴブリン達もやって来た。

 彼等はカッちゃん組と違い、クラブというよりはレゲェのノリに近い。

 格好も赤と緑に黄色と、目がチカチカするような派手な色を使い、デニムパンツのような物を腰で履いている。

 頭は流石にドレッドヘアーではないが、少しパーマが掛かっている気がした。

 どうやったんだろう?



「俺達、こんな連中と行くのか?」


 井伊直政達を見たイッシーは、不愉快だと口にした。

 佐藤さんはそこまで嫌悪感を出していないが、ノリにはついていけてない。



「ヘイヘイ、お二人さん。もうちょっと気楽に行こうゼエェェット!!」


「うるさい!俺達は遊びで行くんじゃないんだ!」


 ヘラヘラした直政に、イッシーは激昂。

 しかし彼の態度は変わらない。

 むしろ、もっと力を抜いた感じがする。



「HAHAHA!」


 酒か?

 軽く飲み物を口にした直政は、イッシーの肩に倒れ込んだ。



「キミの隊員、初陣も居るだろう?今から固くなってどうする。今は緊張を解す時だ。隊を率いるなら、それを隊長が示せ!」


「なっ!?」


「ワハハ!固くなるのは裸の女の前ってね!おえぇぇ!!」


 盛大に吐く直政に、ゴブリン達は爆笑している。

 それに怒るかと思われたイッシーだったが、彼は何も言わなかった。



 この時、僕は何があったのか気付かなかったんだよね。

 後々イッシーに聞いて、直政がとてもキレる男だと知ったよ。

 ホント、マッツンの友達にしては勿体無い連中だ。



「待たせたなぁ!真打の登場だぜぃ!」


 金ピカな衣装に身を包んだマッツンが現れると、ゴブリン達のマッツンコールが大きくなった。

 腕の部分には紐のような物が何本も付いている。

 昭和のスターが着ていた衣装だ。



「マッツン!マッツン!」


「ウハハ!待て待て、皆の衆。祭りはこれからじゃい!」


 手を振りながら歩くマッツン。

 だが、それも静まり返った。



「ワハハ!ワハハ!楽しいなぁ!あ、ブッ!」


 彼は自分で紐を踏んで、盛大に顔面からコケた。

 どうやら自分の身長を考えず、長くし過ぎたらしい。



「この紐が!もう要らん!」


 ブチブチと紐を引っこ抜くマッツン。

 それを見て笑うゴブリン達に、マッツンは笑いながら怒っていた。



「お待たせしました」


 官兵衛も到着した。

 彼は太田と洞窟には、まだ向かわないらしい。

 詳しい場所はゾーラさん達から聞いたものの、周囲に怪しい気配が無いか調べてから、向かうとの話だった。



「何でゴエモン居るの?」


「え?官兵衛さんに呼ばれたんですけど」


「彼には後で仕事してもらうのでね」


 仕事?

 伝令役とかそんな感じかな?



「よし!野郎ども、いっちょ美人さん達を助けに行くぞー!」


「オォー!!」


 流石はマッツン。

 ゴブリンに檄を飛ばすのは上手いな。

 そしてゴエモンも何故か、マッツンを見て喜んでいる。



「生マッツンだ!ウケる!」


 笑われてるだけだった。

 この様子だと、子供からはお笑い芸人として人気はありそうだね。



「それでは前田殿、イッシー殿」


 二人が前に出ると、カッちゃんとナオちゃんも出てきた。



「第一軍、出発するぞ!」


 又左とカッちゃんが指示を出すと、ゴブリン達が動き始めた。

 又左が先頭集団を率いて、カッちゃんが後方を見るようだ。

 マッツンもそれに合わせて出ていこうとするが、官兵衛から止められてしまう。



「何で!?俺様も第一陣じゃないの?」


「まだです」


「そ、そうか。主役は後から登場するもんだよな」


 何を言っているのかよく分からない。

 自分に言い聞かせるように頷きながら、彼は手を振って又左達を見送った。



「よし!第二軍も出る!」


 イッシーの掛け声に、反対方向へ向かって出ていく第二軍。

 ナオちゃんもカッちゃん同様、後方担当らしい。

 酒飲んで吐いてるけど、大丈夫なのか?



「さてと、俺様の出番だな」


「いやいや、まだですよ」


「まだっておかしくない?もう出発してるよ」


「ゴエモンくん。サイン欲しいよね?」


「えっ!?マッツンのサイン?」


 ゴエモンが急に話し掛けられ、ちょっと驚いている。

 しかし、サインという言葉にマッツンもやぶさかではない。



「俺様のサイン欲しいの?仕方ないなぁ」


 ニヤニヤしながら、ゴエモンの服にサインを入れるマッツン。

 無駄にサインだけはカッコ良いな。



「ありがとう!マッツン!」


「サインももらった事だし。ゴエモンくん、仕事です」


 ここで仕事!?

 ゴエモンは、目の前の人にやるとは思っていなかったらしい。

 しかし仕事である。

 ゴエモンはマッツンの目を見た。



「何よ。そんなアツイ眼差しで見られても。ンゴォ〜!!」


 マッツンはゴエモンと目が合うと、その場で前へと崩れ落ちた。

 ゴン!という大きな音を立てながら頭をぶつけたにも関わらず、大きなイビキで寝ている。



「凄いな。頭打ってるのに起きないのかよ」


「ゴエモンくん。ありがとうね」


「い、行っても良いのかな?」


 ゴエモンは何度か振り返りながら、帰っていった。

 マッツンのサインは大事そうに持っているので、官兵衛にもゴエモンにも良い仕事だったのだろう。

 そして意外にも、カッちゃんナオちゃんの二人にとっても、これが望みだったようだ。



「カンちゃん、ありがとね」


「私達としても、あんまりマッツンを戦場に連れて行きたくないんだわ」


 意外にも二人は、官兵衛に協力的だった。

 僕はてっきり、一緒に行きたいって言ってくるものだと思ってたんだけど。



「どうして連れて行きたくないの?」


「だってマッツン、戦闘には向かないでしょ」


「俺達が必ず勝てるってわけじゃないからな」


「そうそう。私達、所詮はゴブリンだし。ヒト族だって脅威だから」


「俺達、自分の事を弁えてるからさ。マッツンに迷惑掛けたくねーんだわ」


 何この二人。

 あまり謙虚な姿勢で、見た目とノリの違って良い人過ぎて泣きそう。



 ただ、官兵衛も苦笑いの事実がある。

 又左達をも驚かせるその実力。

 安土でも五指に入る強者連中が認めているのに、何故そんなに自己評価が低いのだろう?



「キミ等、そんな事言っておいて相当強いって聞いてるよ?」


「ホントに?アレって、手を抜いてくれてるからでしょ」


「じゃないと俺達が、あの人達と同等に戦えないって」


「あの人達に勝てそうなのは、そうだなぁ・・・。酒の量か?」


「ナッハッハ!ナオちゃん、それは俺も勝てそうだわ!」


 何か勘違いしているようだけど、自分等で言った事にツボに入って笑ってるから良いや。



「ゴブリンはゴブリンらしく、数で勝負だぜぃ!」


「ま、あの人等みたいな活躍は出来ないけど、俺等は俺等で頑張るわ」


「だから魔王様。マッツンの事は頼んだよ!」


「お、おぉ。任せといて」


 頼まれたけど、特には何もするつもりは無い。

 構うと逆にうるさそうだからね。



「そんじゃ、行ってきますわ!」


 いよいよ残りのゴブリン達も少ない。

 二人ともウェーイ!と言った後、お互いに背を向けて列へと入っていく。



「行っちゃったな」


「えぇ」


 自分よりもマッツン重視。

 その姿勢を貫く二人は、一体何処まで出来るんだろうか?

 僕も気になるところである。

 それともう一つの気になる点なんだけど。



「あの二人、身体の大きさも頭の回転も全くゴブリンとは違う気がするんだけど。実際のところ、どうなの?」


「それが、オイラもそこまで詳しくは知らないので。なんとも・・・」


 やっぱり分からないか。

 そこに後ろから入ってきたのは、片手にアイスを持ったセンカクだった。



「珍しいの。さっきの二人、ゴブリンジェネラルじゃぞ。普通はジェネラルからキングへ進化を考える為、あんなに仲良くなる事など無いのだが。既にキングが存在しておるのか?」


 それを聞いた僕と官兵衛の考えは合致した。





「マッツンが、ゴブリンジェネラルを従えてる!?キングなのは態度だけじゃなかったのか!」

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