四軍の内訳
まさか南から同じような人が来るとは。
ゴルゴンに続いて来たのは、ラミアという下半身が蛇の女性だった。
そして彼女の願いもゾーラさんと同じように、村を襲ってくるヒト族を襲ってほしいという話だった。
官兵衛は両者の共通点を見出そうと質問を開始するが、どうにもそれっぽい物が見つからない。
僕は冗談で、あくまでも冗談で蛇じゃないかな〜って言ったけどね。
いやぁ、空気が変わったよ。
アレは困った。
しかしそれが良かった。
彼女達から、村の近くに洞窟があると言うじゃないか。
僕の冗談のおかげだね。
ただし問題は、二人とも洞窟には何も無いという。
だがそれでも、官兵衛はその話から何かに気付いたようだ。
官兵衛はゴリアテと長可さんに、ゴブリンの力を借りるという話を始める。
そんな中、猫田さんがバスティ達と部屋へやって来た。
急に入ってきたのは、僕等の話に関係あるからだという。
バスティの言い出した一言は、僕達も驚く話だった。
バスティの息子である王子が王を名乗り、バスティは死んだ事にされてしまったのだ。
そんな彼が言うには、その洞窟には何か秘密があるという事だった。
「ちょっと待て!死んだ事にされたって分かって、何故そんなに冷静でいられるんだ」
「冷静か・・・。そう見えるなら、私もまだまだ現役だ」
何が現役なんだろう。
やっぱり腹の中は煮え繰り返ってるのかな。
冷静に見せて、本当は怒ってるのかもしれない。
「今回の件で、ヨアヒムが私を排除してまで、魔族と戦争をするのが本気だという事が分かった。そして洞窟の件だが」
「何があるのですか?」
「申し訳ない。何があるかまでは、私にも分からないんだ」
分からない?
なのに秘密がある事は知っているって、おかしくないか?
「キミはもう少し腹芸を覚えよう。顔に出てるよ。魔王の疑問、それは秘密を知っていて何故、何があるのか知らないのかという事だろう?」
「分かってるなら説明してよ」
「うむ。それはだね、私も先代の王である父から聞いただけなんだが。何故知っているかというと、我々の祖先がそれを信長様へ奉納したという記録があるからだ」
「なっ!信長に!?」
久しぶりに出てきましたよ、第六天魔王様。
信長が欲しがる物か。
茶器とかかな?
「何があるかは分からないのは、何故なんですか?」
「そう!それ気になるね。だって、バスティファーザーは知ってたんじゃないの?」
「いや、父も知らなかった。理由は、百年周期でしか見つからない、貴重な物らしい。父の代では、まだ時期ではなかったはずだし、私もまだだと思っていた。それにあの辺りは、既に魔族の領地になっていたしね」
魔族の領地にわざわざ兵を派遣するほどじゃなかったのだろう。
当時、魔王とそこまで険悪じゃなかったにしろ、刺激するのは愚策と考えたのかもしれない。
「いつからか、この辺りの洞窟に奉納した何かがあるとしか伝承されていない。だから王族である私ですら、洞窟で何が取れるのか知らないんだよ」
という事は、幻のキノコとかかもしれないし、百年生きた魔物の肉とかかもしれない。
結局、行ってみないと分からないという事か。
「でもね、私はこう思うんだ。それって、かなり重要な物なんじゃないかって。じゃないとヨアヒムが、兵を偽装してまで洞窟へ向かわせた理由が無いからね」
「オイラもそう思います。彼はおそらく、洞窟にある物が何か知っている。だから村を襲ってまで、洞窟へと向かっているんじゃないでしょうか?」
なるほど。
官兵衛の言う通りだな。
「四方向の理由は分かった。確かに洞窟を放置するのは危険な気がする。緊急対策会議を始めよう」
四方向同時進軍という、初めての試みだ。
そういえば信長も、死ぬ直前は色々な方向に進軍させてたなぁ。
それで秀吉が、中国大返しとかやったんだっけ。
ん?
これ、僕死んじゃうんじゃないの?
「では、会議を始めたいと思います」
会議の進行役は、官兵衛が行っている。
今回の会議には、いつものメンツ以外にも多くの人達が集まっていた。
今回こういう話に初めて加わったのが、マッツンである。
「ハーハッハッハ!この万里小路様の力を借りたいという事だが、いよいよ俺様の力がどれほどのものか見たいようだな」
「そこのタヌキ、黙るのである。話が進まん」
「た、タヌ!?」
グフッ!
真顔のコバに突っ込まれて、マッツンは顔を真っ赤にしている。
危うく真面目な空気の中、笑いそうになってしまった。
「まずは安土の南北に位置する、ゴルゴンとラミアの村。こちらがヒト族の集団に襲われています。我々はこの二つの村の救援に向かいます」
「誰がどっちに行くんだ?」
「敵の数が分かりません。少人数ではなく、こちらも軍を率いて向かいたいと思います。そこでマッツン殿」
「へ?俺様か!俺様の出番なのか!?」
コバに突っ込まれてからやる気が無くなったのか、椅子をカタンカタンと傾けて座っていたマッツン。
急に名前を呼ばれて、椅子を倒しながら立ち上がった。
「ゴブリン達をお借りしたいのですが」
「なんだよ・・・。俺様じゃないじゃん」
「いえ、これはゴブリン達の王であるマッツン殿が重要なのです。我々はマッツン殿が頼りなのですから」
「ほ、ほぅ?俺様が頼りとな?」
「マッツン殿が居てくれないと、オイラもこの作戦が成功しないと思っています」
官兵衛がそこまで言うとは。
マッツンの顔が、みるみるうちに笑顔になってきたぞ。
もしかして、煽てに入ってるか?
それなら僕も、一つ良い情報をあげよう。
「ちなみにマッツンよ。ゴルゴンとラミアの村は、女性しか居ないらしいよ」
「な、なんだと!?」
「ケールさん美人だからね。でも、ゾーラさんも愛嬌のある優しい感じの人だったし。村に居る人も同じような人達だったりして」
マッツンが下を向いて黙ってしまった。
コイツ、どっちに行くか迷ってるのか?
「フハハハ!!この万里小路一夜!ゴブリンを率いて、助けに行ってしんぜよう。そしてあわよくばハーレム・・・間違えた。彼女達の安全を確保するまで、村に滞在するとしようじゃあないか!」
この野郎、ハーレムって言ったぞ。
そんな羨まけしからん事、僕が許さん!
「あ、マッツン殿は危険ですので、安土で待機です」
「ハアァァァ!?」
「王はドシッと構えててもらうという事ですね」
う、上手い・・・。
ゴブリンの戦力だけ使って、戦力外マッツンはお留守番とか。
確かにそれが良いかもしれない。
「ヤダヤダ!俺も行きたい!!」
「子供か!」
床をゴロゴロと転がりながら、駄々をこねるマッツン。
流石にこれは予想していなかったのか、官兵衛も頭を抱えている。
ちなみに長可さんが、物凄く冷たい目で見ているのを僕は見逃さなかった。
嫌われたな・・・。
「ど、どうしましょう?」
「後から考えよう。今は口だけ約束しておこうか」
小声で相談してくる官兵衛に、僕はそう言って答えた。
どちらにしろ、このタヌキをモテさせるわけにはいかんのだよ。
「では、マッツン殿も同行するという事で」
「良いの?やったぜこの野郎!俺様の勇姿を見せてやる!」
お前が見せるのは腹太鼓だけだろうが。
あとはリアクション芸な。
「と、というわけで、ゴブリンの方々と一緒に行ってもらうのが、又左殿と慶次殿。そして太田殿と佐藤殿になります」
なるほどね。
ゴブリン隊に加えて、二人ずつ強い連中を配置するわけか。
と、思ったらイッシーが何か意見があるらしい。
急に手を挙げてきたから、ビックリしてしまった。
「待ってくれ!俺達も参加させてくれないか?」
「イッシー隊ですか?しかしイッシー隊は、安土襲撃でかなり数を減らしたとお聞きしましたが」
そう。
イッシー隊は皆を守る為に奔走し、かなり犠牲者が出たのだ。
新たに入ったイッシー隊は、最初からフサフサの人達も居る。
彼等はあの襲撃でイッシー隊の活躍を見て、自ら志願した人達らしい。
その為、以前のような統率の取れた部隊ではなくなっていた。
そして、個々の戦力もかなり落ちていたはずだった。
「俺達がずっと安土に居たのは、戦力を元に戻す為。いや、更に強くする為だ。今なら以前の隊と変わらない動きが出来る」
「なるほど。では、太田殿とイッシー殿を交代しましょう。太田殿には、別の任務に就いてもらいます」
「真イッシーな!絶対に犠牲者を出さないと約束しよう」
襲われていると聞いて、イッシーの中では安土の事がフラッシュバックしているのかもしれない。
仮面の奥からやる気が漏れているのが分かる。
ちなみに最初は渋った太田だが、別任務があると知ると、すぐに納得した。
おそらくは洞窟探索の方に回るだけだろう。
「これが南北救援軍です。そして次に、ゴルゴン、ラミアの村近辺にある、洞窟探索部隊になります」
「部隊?こっちは軍ではないのでござるか?」
「洞窟探索は、ヒト族の集団に見つからないように行いたいと考えています。その為、少数精鋭で向かいます」
慶次は基本的に、軍を率いて戦うとか向かない。
少数精鋭と聞いて、こっちに参加したいと思ってるんだろう。
しかし洞窟の大きさが分からない今、槍が向かないかもしれない。
ここは悪いが、慶次には救援軍の方に入ってもらいたい。
「まず北の洞窟は、太田殿とオイラが」
官兵衛がそう言うと、後ろに居た長谷部も手を叩いた。
長谷部も何もしていない期間が長かった。
アデルモとの鍛錬の成果を、見せる時が来たんじゃないかな。
「そして南の洞窟には、蘭丸殿とハクト殿に向かってもらいます」
「お、俺達が!?」
今回、長可さんの後ろで座っていた蘭丸。
長可さんからは、会議の雰囲気を知るだけだと聞かされていたらしく、自分達の名前が呼ばれるとは露程も思っていなかったようだ。
そして長可さんの驚きようから、彼女もまた官兵衛から騙された一人っぽい。
「蘭丸殿とハクト殿は、仙人様の下で修行を重ねています。新しい武器を手に入れ、戦力として見るのが必然だと思いました」
「ま、マジか。頑張ります!」
ハクトはこの場に居ないので、後で聞いたら仰天するんだろうな。
蘭丸は凄く嬉しそうだが、ぶっちゃけ洞窟組は失敗が許されない。
この二人だけなのは、難しいと思うんだけど。
「南の洞窟には、二人だけ?」
「そのつもりです」
「え?」
アレ?
僕、呼ばれてないんですけど。
どういう事ですか?
「僕は?」
「留守番です」
「ハアァァァ!?」
「さっきも言いましたが、後ろで構えているのも王の務めです。皆の事を信用して、待っていてもらえませんか?」
は、謀られた!
まさかあの言葉、僕にも通用するとは。
マッツンの野郎、自分は行く気になってニヤニヤしてやがる。
絶対に行かせねぇ。
「以上が、作戦の内容となります。何かありますか?」
誰も異論は無いらしい。
個人的には官兵衛が待機して、僕が行くべきじゃないかと思っている。
だけど、王は後ろで堂々と構えていると言った後、皆が大きく頷いていたので、とても言える雰囲気じゃなかった。
「この間にも、村は襲われているかもしれません。準備が出来次第、順次進軍します!では、解散!」
皆が慌てて出ていく中、一人だけポツンと残る僕。
確かにゲームでも、魔王が先頭に立って突っ込んでいく話なんかそうそう聞かない。
でもさ、こう一人は寂しいわけですよ。
「暇だな・・・」
「よう!暇人魔王!」
何故か、慌てて出ていったはずのマッツンが戻ってきた。
かなり余裕がある。
「何しに来たんだ?」
「ゴブリン達には、官兵衛が話すっていうからさ。全て準備は済ませてくれるって。いやぁ俺様って、王だからよ!」
僕は思った。
内緒で話を通されて、後で置いていかれるパターンだと。