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新たな技術その2

 マッツンは少しだけ強くなっていた。

 とは言え、後頭部を踏まれて気絶するレベルだが。

 身体を張った芸を見た僕達は、マッツンと別れてそれぞれ帰途に着いた。


 早朝の散歩に出掛けると、昌幸に会った。

 彼はコバとの共同開発した品を、昼には見せてくれる約束をしてくれた。

 新たなSクラスの男にも会い、日に日に帝国が強くなってきていると感じている今、頼もしい言葉だ。


 二度寝をした僕は、今度は寝坊をしてしまった。

 急ぎ工房へ行くと、既に呼ばれていた人達は集まっていたらしい。

 そしていよいよ昌幸が発表を始める。

 彼が開発した物。

 それは盗難防止策を施した武器だった。

 小さなクリスタルと刻印を組み合わせたという代物だ。

 もし武器を奪われたとしても、持ち主の元へと戻ってくる仕様になっていた。

 共同開発者であるコバは、その武器の改善点を求めていた。

 僕としては特に思い当たらなかったのだが、兄が何かに気付いたらしい。

 兄が気になった点、それはこの小さなクリスタルが目立つという事だった。





「これ、そんな簡単に壊せる物なんですか?」


 横で見ていただけの慶次が、槍に付いたクリスタルを爪で弄り始めた。

 すると、クリスタルの隙間が大きくなり、グラグラと外れかけている。



「外れそうなんですけど」


「・・・外れそうというか、外そうとしたからでは?」


「使えない槍でござるな」


「そんな簡単に外れそうなら、改良の余地アリであるな」



 昌幸は又左と慶次を半目で見ているが、コバはそれを見て何かをメモし始めた。

 確かに慶次が余計な事をしたのかもしれない。

 でも俺は、戦闘中に外れる可能性がある事が分かっただけ、今やって良かったんじゃないかなと思っている。



「改良案としては、クリスタルを見えない柄の中に入れるのが良さそうですな」


「ちょい質問」


 佐藤さんが手を挙げて、コバ達に尋ねた。



「俺のグローブの場合はどうするんだ?」


「要検討します」


「要検討って?」


「要検討です」


「つまり決まってないという事だろ」


「・・・」


 昌幸が黙ると、コバが面倒そうにグローブを持ち上げた。

 グローブを見回した後、彼はどうでも良さげな態度でこう言った。



「テープと一緒にクリスタルを巻けば良かろう」


「それ、俺がいつもテープ巻く時に持ってろって事?」


「そう言ってるのが聞こえなかったか?」


 あ、少し険悪な雰囲気になってきたぞ。

 いや、そもそも微妙な疑問がある。



「あのさ、身体強化を使うと刻印が発動するんでしょ?ヒト族の場合はどうするのさ?」


「よくぞ聞いてくれました!」


 昌幸もこの空気を壊したいのか、机をバンと叩き、大きな声で説明を始める。



「実はですね、コバ殿の助手の方々に協力していただき、ある事が分かったのです」


「ある事?」


「ヒト族でも能力を発揮する際、微量の魔力が検出されたのです。この事から、召喚者の方々も戦う際、知らぬ間に魔力を使っていたという事になります」


「それって戦ってるだけで、刻印が発動するって事?」


「流石は佐藤殿。理解が早い。なのでバンテージでしたか?それを巻く時に身に付けていれば、刻印が発動するでしょう」


 煽てられた佐藤さんは、満更でもない顔をしている。

 でも俺は気付いていた。

 根本的な解決策は、何も言ってない事を。



「さて、次行きましょう!」


 突っ込まれる前に話題を変えたな・・・。

 昌幸はそそくさとグローブをどかして、違う物を取り出した。



「次の武器はこちら!」


 なんか通販番組をテレビじゃなくて、目の前で見てる気分になってくる。

 横のコバが良い感じの芸能人枠だ。



「弓だな」


「これ、この前コバ殿が言っていた弓か?」


「その通りである」


 蘭丸の問いにコバが答えると、彼は机の前へと近付いていった。

 そしてハクトも同様に、前へと出てきている。



「二張ありますけど」


「その通り。しかし、中身が違うのである」


「こちらがハクト殿に合わせた一張。こっちが蘭丸殿に合わせています」


「専用!?」


 まさか別々の弓を用意されるとは思わなかった。

 一張は、小さなクリスタルが等間隔に付いている。

 もう一張はクリスタル自体は二つしか付いていないが、二回りくらい大きい。



「小さな弓がハクトで、大きな弓が蘭丸?」


「うむ」


 頷くコバに、昌幸が追加で説明を始めた。



「まず、こちらも盗難防止刻印が付いています」


 弓なら直接叩き合うわけじゃないし、別に外側で見えていても問題無さそうかな。

 それに何個か付いているから、外すとどの魔法の効力が無くなるか分からない。

 もし奪われても、下手に壊そうとはしないと思う。



「では、まずは小さなこちらから」


 ハクトの目が輝いている。

 女の子が見たら、喜んで叫ぶんだろうな。

 ここには野郎しか居ないから良いけど。



「見て分かる通り、クリスタルは全部で五つ付いています。一つは盗難防止ですが、残りの四つは何だと思いますか?」


「普通に考えたら、四属性の魔法ですかね」


「はいその通り!では、試しに使ってみましょう」


 俺達は試射をするべく、外へと向かった。





 どうやら外では昌幸の部下達が、的を用意していたらしい。

 離れた所で待機しているドワーフ達が見えた。



「先に四属性の魔法、全てクリスタルに入れてしまいましょうか」


「分かりました」


 無詠唱でクリスタルに魔法を入れていくハクト。

 その大きさから、すぐに魔法は入れ終わった。



「では、矢を構えて。使い方は簡単。射る時にこう言うのです」


 ハクトは的へ向かって構えると、教わった言葉を叫んで矢を放った。



「ファイアシュート!」


 弓から放たれた矢は、途中で燃え始めた。

 的に当たると火は燃え移り、的は炎で崩れ落ちてしまった。



「おぉ!カッコ良い!」


「す、凄い!」


 俺達が後ろでカッコ良いを連発していると、ハクトも自分でやっておいて、その威力に呆然としていた。



「火属性はファイア。水はアクア。風はブリーズ。土はロックである」


「それにシュートを付ければ、四属性の魔法が使えるんですね?」


 ハクトは他のクリスタルも、順次試し撃ちしてみた。

 色々な魔法が見れて、なかなか面白い。

 攻撃以外にも使い勝手がありそうだ。



(汎用性高いし、武器として以外にも使えそうな弓だね。一つだけ微妙なのは、威力が低い)


 そうだな。

 クリスタルのサイズの問題かもしれないけど、流石に又左達が使う、バーニングやフリージングとかと比べると、大きく威力が違う。



 と思った矢先、俺達の心を見透かしたかのように、昌幸が更に説明を続けた。



「四つの属性が使えるのは、なかなか便利でしょう。でも、物足りないと思ったんじゃないですか?」


「えっ!い、いやぁ・・・」


 言葉を濁している時点で、ハクトもそう思ったんだろう。

 だって俺でもそう思ってるんだから、本人ならもっと実感しているはずだ。



「フフフ。吾輩の考えた武器は、この程度では終わらんのである!」





 どうやら昌幸とコバはバトンタッチするらしい。



「オヌシ、もう一度クリスタルに魔法を込めるのである」


 コバの指示通り、魔法を込めるハクト。

 するとコバは、さっきの四つ以外の言葉を口にした。

 ハクトは言葉の意味も分からずに、再び矢を放つ。



「ブラストシュート!」


 クリスタルが二つ、小さく光を放つ。

 飛んでいった矢が的に刺さった。



「えっ!」


 誰もが声を上げて驚いた。



「的が爆散したぞ!」


「爆発?破裂?」


「これは凄いでござる!」


 これには弓に興味を示さなかった慶次すら、驚いていた。

 刺さった場所から的は四散したのだった。



「ハーハッハッハ!!吾輩が考えた新たな武器。マルチクリスタルシステムである!」



 マルチクリスタルシステム。

 要は複数のクリスタルを、組み合わせて使うという事らしい。

 今までは大きなクリスタルに大容量の魔法を封じて、それを一気に炸裂させるという方法が主だった。

 しかし、クリスタルのサイズが小さな物しか手元に残っていない今、それを上手くやりくりする必要がある。

 その方法が、今回のマルチクリスタルシステムだった。



「今のは火属性と風属性の組み合わせである」


「二つ同時で爆散したのか。他の組み合わせもあるんだよな?」


「勿論である。と言っても、説明したところで理解なんか出来ないであろう。こんな事が出来るとだけ覚えておくが良いのである」


 ハクトのマルチクリスタルシステムは、新しい武器の試作型になるかもしれない。



 だが、これだけ凄い武器だ。

 やはり問題点もあった。



「欠点は、クリスタルが小さいのである。矢を放つ度にクリスタルに魔法を入れないといけないのであるな」


「という事は、一度放ったらチャージタイムが必要みたいな感じ?」


「そうであるな。だから矢を放つと同時に魔法を封じるという手順を、身体に叩き込む必要がある」


 放った瞬間にすぐに魔法を入れていけば、それなりに時間短縮にはなるという事か。

 それでも連射は出来無さそうだけど。



「分かりました。今のうちに慣れておきます」


「一射絶命。二射目があると思わず、一撃で仕留めるつもりで放つのである」


 ハクトは大きく頷くと、弓を持つ手に力が入っていた。

 これでハクトも支援だけでなく、攻撃にも参加出来るだろう。

 今後が楽しみだ。





「それで俺の弓はどうなんです?」


 長く待たされた蘭丸は、少し不機嫌だった。

 しかもマルチクリスタルシステムなんて凄い物を見せられて、自分の弓には付いていない。

 そうなるのも仕方ないと俺は思った。



「こちらは使えるクリスタルは一つですが、単純明快な仕組みです」


 蘭丸の弓のクリスタルは、ハクトの弓のクリスタルと比べると大きかった。

 入道達から購入した物と比べれば小さいが、それでも安土に残されたクリスタルの中では大きな物を使ったと思われる。



「俺は何を封じれば良いんですか?」


「風属性一択ですね」


「風。入れましたよ」


「かなり大きめの弓だが、引けるのであるか?」


「馬鹿にしないでくれるか?」


 コバの言葉にムッとする蘭丸だが、今まで使っていた物よりも更に大きな弓だ。

 引いている時、蘭丸の顔が変わった。

 相当な負荷が掛かっているのが分かる。



「俺はシュートとか言わなくていいのか?」


「特には無い。言いたければ言っても良いが」


 少し不満そうな蘭丸。

 しかしずっと引いている余裕も無いのであろう。

 少し汗をかいてきた。



「的は準備出来ています。どうぞ!」


「行くぞ!」


 蘭丸が矢を放った。





「うわっ!」


 弓から放たれた瞬間、風が後ろに居た俺達の方にまで吹いてきた。

 風を切り裂く轟音と共に、矢は的に向かっていく。



「す、すげぇ・・・」


「マジかよ。銃なんか目じゃない威力だぞ」


 佐藤さんも驚愕の威力だった。

 この場には居ないイッシーも見ていたら、同じ事を言うだろう。

 なにせ的を十枚並べても貫通した挙句、後ろの壁も破壊したのだから。

 銃より凄い弓矢なんか、聞いた事無いからな。



「ど、どうであるか?」


 コバも少し声がうわずっている。

 もしかして本人も予想以上の威力だったか?



「あぁ、こりゃ凄いな。気に入った!」


「こ、こんな強いとは思わなかったですね。これなら鉄製の鎧くらい、軽々と貫通しそうです」


 昌幸の言葉に、誰もが頷いた。

 もしかしたらミスリルだって、ぶち抜くんじゃないか?



「しかし欠点は同じく、連射は出来ない事である。蘭丸を甘く見るつもりは無いが、やはり放つには相応の力が必要なのである」


「あぁ、俺も実感した。ハクトと一緒に鍛錬を積むさ」


 二人は弓を片手に、満足そうに笑っている。



 なんというか、羨ましいんですけど。



「あのさ、俺には新しい武器とか無いの?」


 昌幸とコバは顔を合わせて、思い出したかのように言った。





「忘れていたのである。というか、魔王は武器要らないであろう?どうせ金属バットで殴ったりするだけなんだから。その辺の不良と変わらんのである」

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