表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/1299

リザードマンの町

 ラーメンを売る。

 それは当初は計画していたけど、実現には向かないと思っていた。

 しかし、もし可能なら?

 それはこの世界に、新しい美食の風を吹かせる事になるだろう。

 これはハクトに見張りを頼んでいる場合ではない!

 ここからは、人目につかないように行動をしなくてはならない。

 身体強化で、一気にハクトを呼びに行こう。

 というわけで交代ね。



 地下室の扉を開ける為、梯子を上り外の様子を伺った。

 よし、この周囲に人の気配は無い。

 急いでハクトの近くに行くぞ。


 数人の傭兵とフードを被った連中が7人。

 全体を見回しても、誰かの視線は感じない。

 なるべく気付かれないように、木の上から近付こう。


「ハクト、俺だ。ちょっと急ぎの用が出来た。ここは他の連中に任せて、こっちを手伝ってくれ」


「え!?外出てきたの?大丈夫?」


「問題無い。とりあえず俺は先に地下室に戻るから。俺達のスマホは、キミの腕に掛かっている」


 返事も聞かずに地下室に戻った俺は、内部の改装をする為に再び交代した。



 まずはキッチンだ。

 最初は湯気や煙をどうにかする為、内部を横に広くして煙突を作った。

 これをどうにかしないと、僕等が一酸化炭素中毒で死ぬだろう。

 換気扇も作り、この辺は万全である。

 後は排水。

 これは下の方に流れる穴を掘り、水を地面に染み込ませられるように工夫した。

 臭いはまだ分からないけど、余程臭くない限りは換気で何とかなると思う。

 ここまで作るのに約15分。

 ハクトが丁度やって来た。


「待っていたよ。ハクト、キミには今からラーメンの完成を急いでもらう。足りない材料があれば、その都度上の連中に頼んでくれ」


「ちょっと待って!何で此処に来てラーメン?今すぐ必要なの?」


 その疑問はごもっとも。

 だがこれは今すぐ必要なのだ。

 何故ならスマホが使えなくなると、調べる事が不便になり戦力低下に繋がる。

 戦闘以外にも使える事は多々あり、正直色々な面でキツイ。

 とりあえず言っておくが、スマホ依存症ではないからね?


「これは神器であるスマホの使用に関わる重大な事だから。あの時、スマホとラーメン一緒に来たでしょ?だから必要な事なんだよ」


「そっか。確かにあの時、神器と一緒にラーメン食べたんだもんね。僕があのラーメンを再現出来るか分からないけど、神器に負けない物を作ってみせる!」


 その素直さに罪悪感を感じるが、これはもう仕方ない。

 大した料理も作れない僕等が頑張っても、ラーメンと言ったらカップラーメンにお湯注ぐのが限度なのである。

 むしろ神様にカップラーメンを大量に頼んで、高値で売り捌いた方が早くね?などと思ってしまっている。

 ただ、スマホの使用料金を取る神様だ。

 絶対にタダではくれないはず。

 だからラーメンの再現に力を入れて、それを売り捌くのが現実的だろう。


「味見は僕とハクトが、率直な意見を太田に聞こう。後は休憩に戻った連中に、食べてもらったりね」


 ハクトは頷くなり、ラーメン作りを開始した。

 前回作ったラーメンでも、既にインスタントラーメンよりかは美味かった。

 しかしあの時食べたのは、そのような即席ラーメンではない。

 ラーメン屋のラーメンなのだ。

 試行錯誤を繰り返して作り出す味を、いきなり真似しろなどと言っても難しい。

 難しいけど、やるしかないんだ。


 そして1日経った今、一杯目のラーメンが完成した。

 やはりスープ作りが、どうしても時間が掛かる。

 これは手を抜けないので、仕方がない事だろう。


「前回と少し変えたけど、味はどう?」


 美味い。

 だが、まだお店というよりかは、近所の中華料理屋のラーメンって感じ。

 町中華が駄目というわけではないが、やはりちょっと味が違う。


「ちょっとまだ違うかな。もっとスープに深みがあると思う」


「これは美味い!こんな物食べた事無いですよ!?」


 太田は初めてだったな。

 でもまだまだなんだよ。


「太田は何か感想はあるか?」


「そうですね。率直に言えば太りそうです。なのでワタクシ、この一杯で止めておきますね」


 オイィィィ!!

 違うだろ!

 求めているのは、そういう感想じゃないんだわ!

 太りそうって、ラーメンにダイエットなんか求めてねーんだわ!

 クソ!筋肉バカめ。

 オーガ達に毒され過ぎたか。


「うん、やっぱり違う。麺はまだ及第点だけど、スープがね・・・」


 やはり食に関しては厳しい。

 もう少し納得が出来るレベルにならないと、多分商品としては出せないだろう。

 次は上手くいくはずだ。



 そして3日が経った。

 約束の魔族は現れず、ラーメンも完成とはならなかった。


「クソッ!僕が求めている味とは違う!何でだ!」


 珍しく口が荒い。

 此処ではもう作る事は出来ないが、しかしまだタイムリミットではない。

 何故なら屋台があるからだ!


「ハクト、外に出よう。まだ完成ではないけど、屋台で作りながら移動は出来るから」


 外に出た3人を、蘭丸達が迎えてくれた。


「あんなに美味いのに、まだ完成じゃないのか。神の国の食べ物は、俺達じゃ想像もつかないな」


「私も食べたけど、あんなに美味しい物は初めてだった。でも太田さんから太るって言われたから、二杯しか食べなかったわ」


 皆には好評なんだよなぁ。

 でもハクトは本物を食べているから、これで満足出来ないというのは分かる。

 僕にも味が違うのは分かるけど、アドバイスが出来ない自分がもどかしいな。


「魔王様、やはり来ませんでしたな。傭兵達にも確認しましたが、もしかしたら魔物が居ないから帰ったのでは?という話でした」


「そうか。来なかったのは残念だけど、またいつか機会があると思う。今回は諦めて、先に進もう」



 傭兵達には以前と同じ装備を渡し、この場で別れた。

 人数が少ない分危険も多いかもしれないけど、それは帝国の作戦に加担したのが悪かったという事で。

 運が良ければ、何処かの町や村まで戻れるだろう。

 悪ければ、魔物の腹にでも収まりたまえ。


「うーん、あの臭みさえ無くなれば、変わる気がするんだけど。何が足りないんだろう?」


 最早、索敵もしていない。

 一人でブツブツと思案している。

 何も思いつかない僕等が話し掛けても、邪魔になるだけかな。

 お金の為もといスマホの為に、頑張ってくれ!



 1ヶ月足らずの旅路で、ようやくリザードマンの町が見えてきた。

 アレからハクトは何度も試行錯誤を繰り返し、醤油ラーメンに挑戦している。

 途中で見つけた香草やキノコ類を試しに入れたりしたが、どれも違ったらしい。

 試食をしまくった僕等は、スロウスのお腹がだいぶ出た。

 ニッコリ笑顔の太田さんが、それから毎日スロウスと筋トレをする日々を送っていた。


「・・・僕は腹回りだけで良いのに、何でこんなハードな筋トレしなくちゃならないの?」


「ハッハッハ!スロウス殿、その調子ですぞ!ラコーン殿の切れ具合を見てください。ワタクシ達も頑張りましょう!ナイスカット!」


 太田はラーメンを食べていないので、全然体重が変わっていない。

 他の人も太りはしたが、明らかに見た目に出たのはスロウス1人だけだった。


「豚骨ではなく鶏ガラにした方が・・・。いや、あの味は鶏ガラじゃないと思ったし」


 もう町は目の前だが、結局完成はしなかったか。

 残念だが、魔物の毛皮等を売って足しにするしかないな。



「マオ、ズンタッタさん達はどうするんだ?もしヒト族が襲撃しに来ていれば、間違いなく敵と見做されるぞ」


「そうだね。ズンタッタ達は一度離れた所で待っていてもらおう。安心して入れそうなら、太田を迎えにやればいいと思う」


「お前がそう言うなら、俺も賛同しよう。ハクトはもう聞いても返事してくれないし、太田殿はお前の言う事には反対しないからな」


「私達は森の中で待っています。もし町の中に入らないようでしたら、以前の地下室のように小屋を作って頂けると助かります」


 じゃあそういう事で。

 町に向かおう。



 町の入口に到着すると、リザードマンの衛兵が立っていた。

 ピリピリした様子を見ると、やっぱり帝国の襲撃に遭ったかな?


「おい、お前等。エルフにダークエルフ?獣人とミノタウロスか。随分と雑多な種族の集まりだが、この町に何の用でやってきた?」


「俺達は旅の途中だ。ドワーフの都市へ向かう途中だが、帝国に襲われた町や村の解放にも力を注いでいる。此処には帝国の襲撃は来ていないのか?」


 僕の代わりに蘭丸が全て話している。

 子供が前にしゃしゃり出ても、多分信用されないからね。

 太田でも良いんだけど、蘭丸の方が交渉には向いている。


「帝国の襲撃?そんなモノは無いな。しかし帝国が何故、襲ってくるというのだ?」


 テレビもラジオも無い世界。

 情報伝達は人伝しかないんだろう。

 王子の魔王宣言と魔族襲撃の話は、此処まで伝わっていないようだ。


「詳しい話は此処の町長にしたいのだが。案内してもらえないだろうか?」


「見知らぬ者に町長と会わせる訳にはいかぬ」


「どうすれば会えるのか、教えてほしい。これはこの町だけで済む話ではない。魔族全体の話だ!」


 強めの口調で言っているが、どうにもおかしい。

 襲撃は来ていないのに、何故こんなに厳戒態勢なのか。

 何か別の理由がある?


「蘭丸、ここは中に入るだけにしよう。まずは町の様子を見てから・・・」


「怪しい者達を見つけたぞー!」


 怪しい者って何?

 僕等じゃないよね。


「すまないが待っていてくれ。まずは怪しい連中の方が先だ」


 衛兵達は1人だけ残して、声のする方へ走っていった。

 すると、大勢のリザードマンが槍や剣を突きつけながら、複数の人を連れて歩いてきた。

 人が多過ぎて見えない。

 チビッコの背だと、中の様子が分からないな。


「太田、見えないか?」


「ワタクシもちょっと見えづらいですね。魔王様、私の肩の上に乗ってください」


 おぉ!肩車か!

 いや、立ち上がった方が見える。


 複数の人が文句を言いながら歩いてきている。

 ハクトなら聞き取れるんだろうけど、今は役に立たない。

 入口の方に来るまで、待っているしかないか。


「ん?あの鎧、もしかして」


「ええい!私達は何もしていない!何故こんな扱いを受けねばならんのだ!」


「ズンタッタ!」


 何故、森の中で待機していたズンタッタ達が連行されている?

 ヒト族だから?

 いや、まだ帝国の襲撃が遭ったわけではないのに、それだけで捕まるのはおかしい。


「ちょっと!その人達、何で捕まってるの!?」


「何だ?ダークエルフの子供!?こいつ等、森の中でずっと町の様子を伺っていたんだ。犯人かその一味に違いない」


 犯人?

 この町で何が起きてるんだ?


「いやいや!その人達は犯人じゃないよ。僕達と一緒に、さっき此処まで来たんだから。何の疑いで捕まったか知らないけど、僕達が保証するよ!」


「お前等も一味って事か!?じゃあ一緒に来てもらおう」


 え・・・。

 ちょっと待って!

 このままだと冤罪で捕まっちゃうんだけど。


「彼等も俺達も関係無い!何故そんな扱いを受けなくちゃならないんだ!お前等、これで何も無かったら、どう責任取るつもりだ?」


「どうも何も関係無いだろ」


「俺は南にあるエルフの町、海津町の町長森長可の息子、森成利。もし無罪だとしたら、エルフと事を構える覚悟はあるんだろうな?」


 いいぞ蘭丸!

 よっ!権力者の息子!

 カッコいい!


「更に言えば、ダークエルフの子供に見えるこの方だが、神の使徒であり魔王様だからな!」


「え?」


「え?」


 僕も衛兵も声が被る。


「コイツ、馬鹿なんじゃないか!?このガキが魔王だってよ!魔王ごっこでもして旅をしてるのか!?」


 笑いながら馬鹿にしてきやがった。

 この野郎、ちょっと子供だけど本物の魔王だからな!


「貴様等、その笑いをやめろ。ワタクシ、自分の事は我慢する。しかし魔王様を侮辱するとは、笑止千万。貴様等の行為、万死に値する」


 ミスリルで新調したバルディッシュを振り回して、ズンタッタ達を捕まえていた衛兵達を蹴散らした。


「貴様!やはりコイツ等が犯人に違いない。戦士団も呼べ!」


「魔王様、申し訳ありません。このズンタッタ、揉め事を起こさぬようにおとなしくしていたのですが、いきなり槍を突きつけられまして・・・」


「いや、ズンタッタ達は抵抗しないでくれたのは助かったよ。むしろ太田がキレちゃったからなぁ。でも僕の為だから、あんまり強く怒りたくないんだよね」


「太田殿!加勢するぞ!」


 ラコーンとチトリも剣を構える。

 スロウスとシーファクは、ハクトの援護に回った。


「控えい!控えおろう!」


 あ、これまたあのパターンだ。

 でも印籠は無いぞ。


「此方におわす方を何方と心得る!神の使徒であり真なる魔王たる、阿久野真王様であらせられるぞ!」


「助さん格さん、此処等でもう良いでしょう」


「すけさんかくさんって何ですか?」


 ごめんなさい。

 言いたかっただけです。


「だからこのガキが魔王の証拠なんて、何処にも無いだろうが!」


 リザードマンの1人が叫ぶ。

 というか、子供を魔王って言って暴れる連中の言う事を信用しないのは、衛兵として正しい気もする。

 じゃあどうやって証明すれば良いのかな?


「お前達、やめなさい!」


 ちょっと豪華な衣装を着たリザードマンが、複数のゴツい鎧を着たリザードマンを引き連れてやってきた。


「エルフの町の長の息子というのはキミか?」


「私は此処より南にある海津町の町長森長可の息子、森成利でございます」


 蘭丸が丁寧に挨拶したところで、ようやく皆静かになった。

 おそらく彼が町長か、それに近い役職のリザードマンだろう。


「私はこの街を治めているアウラールと申す。衛兵達の不適切な言動、誠に申し訳ない」


 馬上ながら、此方に向かって頭を下げる。

 この人は話が分かる人だろう。

 太田が暴れちゃったけど、水に流してくれるかな?


「こちらこそ短気を起こしてしまい、すいませんでした。ところで、先程から会話に出てくる言葉が気になっているんですが。犯人とは何の事ですか?」


「ダークエルフの子供?まあいい。此処で話す事ではないので、私の家まで来てもらいたい」


 どうやら歓迎・・・はされてはいない気もするけど、ちゃんと説明はしてくれるようだ。

 お茶くらいは出してくれるだろう。


「さて、さっきはすまなかった。こちらにも事情があるのは理解していただきたい」


「犯人とか一味とか言ってましたけど、一体何なんですか?」


 ズンタッタと蘭丸を差し置いて話す僕に、どうも違和感があるみたいだ。

 2人に目をやりながら、悪ふざけではない事を確認している。


「どうやら本当に、キミがこの中では代表らしいな。成利殿やヒト族の方を差し置いて話し始めたから、少し驚いてしまった」


 あぁ、どうも。

 本物の魔王です。


「さっきの質問なんですけど」


「あぁ、実はこの町で事件が頻発していてね」



「事件?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ