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荒れる連合

 佐藤さんでも一発も決められない相手。

 牽制として雉井のナイフを暗闇の中に放り込んだが、それすら正確に叩き落としている。

 いよいよ出てきたと思ったら、暗視ゴーグル持ちだったので、少しガッカリしてしまった。

 しかし驚いたのは、出てきたのは護衛試験の時に色々と教えてくれたおっさんだったからだ。


 おっさんは実は、帝国の査察部の男だった。

 犬山達を監視していたようだが、僕は別の事に疑問を抱いた。

 この人、いつから連合に潜入していたのかと。

 佐藤さん達の試験の相手。

 言っちゃあ悪いが、あまり強くなかった。

 しかしそれすらも熟知していたのを考えると、随分前から居たように感じた。

 しかも査察部は、並みの召喚者より強いという。

 あの佐藤さんすらも、翻弄されるくらいだった。


 彼は分が悪いと言って、部下を待つと言った。

 だが話を聞くと、奴は試験時の能力しか分かっていないようだった。

 そこで僕達は不意打ちに魔法をお見舞いのだが、それも大して効いていなかった。


 奴の部下と戦った蘭丸が戻ってきたが、情報漏洩を危険視していた査察部は、ローザンネを始末したらしい。

 蘭丸が来たのを見た彼は、嘉川と名乗って、逃げていった。

 その後を追った佐藤さんだったが、後ろから見ていた蘭丸は奇妙な場面に遭遇したという。

 それは佐藤さんが手を振って見送っていた姿だった。





「えーと、聞き間違いじゃないよね?」


「俺も混乱してるけど、間違いない」


 蘭丸も自分で言っていて、信じられないといった顔をしている。



 佐藤さんが裏切りっている?

 いやいや!

 こんな分かりやすい裏切り、ありえないでしょ。



「ごめん。見失った」


「佐藤さん、手を振っていたとの事ですけど」


「うん。俺も振ってたの覚えてる」


「何故手を振ってたかは、分からないと?」


 頷く佐藤さん。

 見ていた蘭丸同様、何をしていたのかよく分からない様子だ。



「嘉川の能力」


「それくらいしか、僕も思いつかないな」


 去り際に、戦闘向きの能力じゃないって言ってたし。

 幻術?

 誤認識?

 考えても情報が少な過ぎる。

 今は諦めるしかないかな。



 それに空も白んできた。

 空気砲での爆発音も派手に聞こえているし、野次馬も集まってくる可能性がある。

 こんな時間までニックとヤコーブスも付き合わせてしまったし、休んだ方が良いだろう。



「一晩で色々あり過ぎた。帰って休もう」





 僕はパウエルの会社へ、犬山達と一緒に戻った。

 アレだけ大きな会社なら人の出入りも多いし、三人くらい増えても問題無いだろう。

 ゴリ川だけはちょっと身体が大きいけど、それでも太田みたいな規格外ではない。



「お話は社長から聞いております」


 パウエルは他の護衛に、話を通していたらしい。

 すぐに休めるように、ベッドのある部屋に通された。



「今日、というより昨日からか。とにかく疲れた。ゴリ川はもう寝てるけど、二人も休んだら?」


「お、俺達をそんな簡単に信用して良いのか?」


「そんな簡単に信用しちゃうんですよ」


 だって疲れたもの。

 裏切るとも思えないのでね。

 それに部屋を出るには、パウエルの護衛達が居る。

 僕を殺しても、犯人としてすぐにバレるだろうし。

 そしたら太田と又左が、地獄の果てまでも探しに行ってくれるさ。



「キミ達も色々あったんだから、寝なさい。それじゃ、おやすみ」


 僕はベッドに入ると、すぐに目を閉じた。



「良いのかな?」


「良いの。僕も寝る・・・」


「じゃ、じゃあ俺も寝ます」


 そんな声が聞こえてしばらく、僕は夢の中へと落ちていった。





 既に夕方である。

 おはようとは言いづらい時間だが、犬山達はまだ寝ていた。

 ゴリ川以外は、精神的に疲れているんだろう。

 このまま寝かせておこうと思った矢先、犬山は起きたようだ。



「夢じゃなかった」


「おはよう。疲れは取れたかな?」


「えっと、ハイ。取れました」


 犬山と夕方の挨拶をしていると、雉井も起きてきた。

 よくよく考えると、女性と一緒の部屋で寝たんだった。

 全然ドキドキしないのは、疲れていたからだろう。

 決して雉井をディスっているわけじゃない。



「ゴリ川はどうする?」


「起こす。えい」


「・・・ぶはぁ!だ、誰だ!鼻を摘んだ奴は!?」


 この子、なんて酷い起こし方をするんだ。

 起こすというより、嫌がらせじゃないか。



「なっ!何で一緒に!?」


 ゴリ川は僕の顔を見て、地面から飛び上がるように起きた。

 というか、彼は何も掛けられずに地面に寝かされていた。

 少し扱いが雑だと思う。



「良いんだ。俺達は負けた。それと俺は、帝国を離れる事にした。五里川はどうする?」


「え!?」


「それと、もう無理をする必要も無いよ。楽に話すと良い」


「そ、そうですか。それではお言葉に甘えて」


 犬山の話を聞いたら、ゴリ川の口調は大きく変わった。

 というより、表情自体が柔らかくなった。

 本当に無理してたんだな。



「犬山さんはどうするんですか?」


「俺は・・・役に立てるように頑張るよ」


 誰のとは言わないのか。

 それでも雉井とゴリ川は、二人とも分かったみたいだね。

 ゴリ川は悩む間も無く、即答している。



「一緒に行きますよ。俺も役に立ちたいし」


「僕も行く」


「そうか。じゃあ、またよろしく頼む」


 犬山について行く。

 二人にとって犬山は、それだけ信用出来る人物なんだろう。

 性格も性別も違うのに、面白い三人だな。

 ただ、三人にも安土で楽しく過ごせるようになってほしいと、僕は思った。





「とりあえず、パウエルに会いに行こうか」


 部屋を出ると、僕達が思って以上に色々あったらしい。

 護衛の人達ですら、忙しそうにしている。



「何があったんです?」


「お、おぉ!起きたかい?昨日、ローザンネさんが強盗殺人に遭ったみたいでね。残りの代表であるパウエルさんとヤコーブスさんが、大変な事になってるんだ」


 そういえば彼女も代表だったんだっけ。

 一国の代表であるローザンネが殺されたんだ。

 そりゃ国として荒れるのは仕方ない。



「それで、パウエルさんは今は何処に?」


「朝からヤコーブスさんと緊急会議に入っている。それを聞いた大手の社長も、近くに集まってるみたいだよ」


「朝から!?」


 まさか、あのまま寝ないで会議に入ったのか?

 パウエルさんはともかく、ヤコーブスの爺さんはパワフルだなぁ。



「ところで、大手の社長が集まってる理由は?」


「簡単だよ。新しい代表に選出される為さ。代表になれば、それだけ甘い汁が吸えると思ってるんだ。パウエルさんを見ると、とてもそうは思えないけどね」


 この人はパウエルさんの護衛としては古参らしく、彼の事をよく知っているらしい。

 ヨランダさんの次くらいには知ってるのかな?



「社長に用があるなら、頼みがあるんだけど。この書類を届けてもらえるかな?」


「良いですよ」


 護衛なのに事務仕事まで出来るのか。

 なんて有能な人だ。

 もしかして、そういう理由もあって重用されているのかもしれない。



「あのデカイ建物ですよね?」


「あ、違うんだ。今回はヤコーブスさんの会社、ネイホフで話し合っている」


「ネイホフコーポレーションなら分かります。それじゃ、行ってきます」





 寝起き四人組でネイホフに向かうと、街中は既に大騒ぎだった。

 早朝の爆発騒ぎから始まり、ローザンネの屋敷の火事。

 そしてローザンネの死という順番で発表されたようだ。



 ローザンネの会社、アールァ・カッキーと取引していた人達は、顔面蒼白に。

 大手の社長連中は、ローザンネを女狐呼ばわりして、次の代表に滑り込もうと躍起になっているらしい。



「俺達もヤコーブスの会社に入って良いのか?」


「良いんじゃない?というか、僕が居れば入れてくれるよ」


 僕、マスターだから。

 認めてないけどマスターだから。



「止まれ。ここには何の用があって来たんだ?」


 パウエルの護衛と違って、無骨な感じだな。

 パウエルの護衛よりは強そうな気はするけど、礼儀がなってない。

 まあそんな事を口にしたら、喧嘩になるから言わないけど。



「パウエルさんへの書類を届けに来たんですけど」


「パウエル氏への書類を?確認を取るから、名前を言え」


「コウジ、じゃなかった。ケンイチです」


 油断すると間違えそうになるな。

 ケンイチって名乗るのも、違和感あるし。

 もっと完全な偽名にしてくれれば良かったのに。


 おっと、そんな事を言っている間に、戻ってきた。

 って、あら?



「お前!誰を待たせているんだ!」


「えっ!社長!?」


 ヤコーブスが直々に迎えに来てしまったらしい。

 流石に想定外だったのか、声が裏返る護衛さん。



「早く入れて差し上げろ!」


「は、ハイィィ!!」


 鶴の一声って、コレだなと思わせる一言だ。

 ヤコーブスさんの一言で、護衛全員が道を開けてくれた。



「表向きは代表なんだから、あまりそういう態度は良くないんじゃない?」


「客人なのは変わりないですから。実はニック達にも、ここへ来てもらってます」


 どうやら僕達が、一番の寝坊組だったようだ。

 ニック達も昼過ぎに起きると、街が混乱している事に気付いたらしい。

 そこにヤコーブスさんが昨日の話を聞く為に、ニック達をここへ呼び出したという話だった。

 そして大きな部屋へ案内されると、そこには官兵衛や長谷部の姿もあった。



「大筋の話は、オイラも一緒に聞きました。まさかSクラスとは」


「僕も驚いてるよ。嘉川に関しては、今後要注意だな」


 査察部という事なので、帝国内での仕事がメインだと思うが、あの力は侮り難い。

 もしあの力がこっちに向いてきたらと考えると、正直相手に出来る人が限られるだろう。



「マスター、一つご相談が」


 案内をしてくれたヤコーブスさんは、何故かまだこの部屋に居た。

 パウエルさんと代表の仕事で、忙しいんじゃないのか?



「何か?」


「出来ればパウエルとの話し合いに、数人参加していただけませんか?」


「僕達が!?流石に一国の国政に関わる話なんかに、僕達みたいな魔族が参加するのはおかしくない?」


「魔族だからというのではありません。公平な考えを述べてほしいのです」


 彼の話では、二人しか代表が居ない事がマズイらしい。

 今までは三人という奇数から、必ず多数決で決める事が出来た。

 しかし今は、ローザンネが欠けてしまっているわけで、どうしても決められない話がいくつかあるという。



「普通はそういうのって、この街の人かフォルトハイムの偉い人が決めるべきじゃないの?」


「ケンイチくん、商業国家をナメたらあかんで。国政よりも自分の利益や」


「この二人も?」


「・・・」


「な?あかんやろ」


 まさかの無言。

 ヤコーブスさんは腹黒そうだから分かるが、まさかパウエルさんも自分の利益を取るとは。

 商人って怖いわぁ。



「そんなんでよくこの国潰れないな」


「商人は逞しいんやで。国が滅んだところで、自分の店が潰れたわけやないし。そもそも国とか、どうでもええんちゃうって人の方が多いと思う」


「逞しいの一言で済ませて良いのやら・・・。じゃあ、パウエルさんも連れてきてよ」


「承知しました」


 出向くのが普通なのだが、安土と同じ感じで言ってしまった。

 それに承知するヤコーブスさんもどうかと思うけど、パウエルさんもそれに来ちゃうのはどうなんだろ?



「こんな大勢居るのか。まあ、ニックも居るし問題無いな」


 ニックが居たら良いという基準が分からん。

 どっちにしろこの二人、少しおかしなところがあるのは分かっているし。



「それで、どんな事で揉めてるんです?」





「代表を減らすか増やすかで揉めている。私は減らして一人にするべきだと思っている。ヤコーブス氏は増やすべきだと主張している。どちらの言い分も聞く相手が居ない為、話が進まないのだ。キミ達はどう思う?」

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