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マルサ

 犬山は降参すると、途端に喋るようになった。

 妙に協力的な態度になったが、それは贖罪の意味もあるのかもしれない。

 一人倒れているゴリ川を迎えに行くついでに、僕達は犬山の話を聞く事にした。


 彼等は魔族を殺した事を悔やんでいた。

 殺されるなら魔族の手で。

 死ぬ事で罪を償おうとした犬山だったが、自分が死ぬ代わりに二人を助けてほしいと考えていたようだ。

 しかし兄は佐藤さんの例を出して、違う道もあるのだと諭した。

 佐藤さんは照れながらも自分の考えを話すと、犬山は涙を隠しながら感謝の言葉を述べていた。

 兄もそれに気付いていたけど、そういうのを茶化すような馬鹿ではなかったみたいで良かったと思う。


 ゴリ川の下へと着くと、彼は誰かに狙われていた。

 佐藤さんが慌てて誰かに攻撃を仕掛けたが、狭い道で剣を扱えるのを見て、奴が強い事は分かった。

 僕は光魔法を使って、奴の動きを鈍らせる事に成功。

 太田と雉井にも協力してもらい、ゴリ川を救出したのだった。





 なんか、むさ苦しいおっさんが見えた気がする。

 一瞬だけの光だったので、そこまでハッキリとは見ていないが、なんとなくそんな気がした。



「ゴリ川!ゴリ川!?」


「うん・・・」


 寝ているだけのようだ。

 アレだけガッツリ斬られた傷があるのにおきないとは。

 鈍感キングとしか言いようがない。



「ゴリ川の筋肉は、その辺の奴じゃ傷つけられない。アイツ、強い・・・」


「俺のパンチを暗い中で避けるような奴だしな。マジで悔しい」


 佐藤さん的には一発もパンチが入らなかったのが、ムカつくらしい。

 向こうは防戦一方だったみたいだが、それでも暗い中で繰り出せば、一発は当たるだろうと思っていたようだ。



「ちなみにあの狭い道の先は?」


「確か行き止まりだと思ったが」


「という事は袋小路か。だったら逃げられないはずだから、そのうち出てくるな」


 これだけのメンツが、一つしかない出入り口の前に立っているのだ。

 どう考えても逃げられない。

 わざわざ危険を冒してまで、暗く狭い道に入る必要は無いな。



「奴が出てくるまで待機」


「御意」


 一応念の為に、太田がゴリ川を抱える犬山の前に立っている。

 しかし奴は、中から出てこようとはしない。



「雉井、ナイフを」


「分かった」


 八本のナイフを取り出すと、狭い道の暗闇の中に向かって投げていく。

 やはりナイフを叩き落としたのか、何かがぶつかる金属音がした。



「暗闇の中で、正確に八本のナイフを叩き落とす。手練れですね」


「いや、もしかしたら暗視ゴーグルとか持ってるかも?」


「暗視ゴーグル?」


 太田には理解出来ていなかったが、他の皆は分かっていた。

 もしかしたら、相手も召喚者かもしれないと。



「いい加減出てこいよ。じゃないと、避けられないサイズの魔法をぶち込むぞ!」


 弟が、という言葉は敢えて言わないけど。

 すると観念したのか。

 中から足音が聞こえた。

 出てきたのは、おっさんだった。

 やはり片手に何か持っている。

 漫画で同じような物を見た事がある。

 本当に暗視ゴーグルだとは思わなかった。



「お前が狙った張本人か!って、アレ?俺、アンタと会った事あるような・・・」


「キャプテン、知り合いですか?」


 誰だっけ?

 この街に来て話した事ある人なんか、そんなに居ないんだけど。

 うーん・・・。

 あっ!



「思い出した!解説のおっちゃんだ!」






「解説のおっちゃんとは?」


 そういえば佐藤さんは初対面か。



「護衛協会での試験で、対戦相手とかの事を詳しく説明してくれたんだよ。あの時は親切なおっちゃんだと思ってたのに」



 凄く詳しいから勝手に解説呼ばわりしていたけど、まさか召喚者だったとはね。



「犬山達は面識あるの?」


 って、あら?

 二人とも震えてるんだけど。

 もしかして、結構格上だったりして。



「ま、マルサだ・・・」


 マルサ?

 マルサって、昔そんな映画あったよね?



(アレって、国税局だった気がするけど。何でマルサなんだろう?)


 流石にそれとは関係無い気がするなぁ。



「マルサって何?」


「帝国軍の査察部だ。クソッ!俺達は最初から、国から睨まれていたって事かよ!」


「お、落ち着けよ。査察部くらい何とかなるだろ」


 佐藤さんは楽観的だが、俺もそう思う。

 コイツ等の能力の方が、厄介な気がするし。



「駄目だ。帝国軍の査察部というのは、召喚者も対象となっている。その召喚者を罰するのに、召喚者より弱いはずがない!」


 ごもっとも!

 言われてみれば、その通りだわ。

 犬山はギリギリ平静を保っているが、雉井はもう震えるだけで何も出来そうもない。

 ここはバッチリ俺達で、何とかしてやるしかないな。



「いけねぇなぁ。お前さん等のそれは、帝国を裏切る行為だ。俺達は最初に聞いたよな?帝国を出るのは自由だ。しかし軍に所属するなら、それ相応の覚悟が必要だと」


「ちょっと待て!帝国を抜けるのは自由なんだろ?だったら、昨日付けで抜けた事にしてよ」


「オイオイ、ケンイチくんよ。それは無理ってもんだろう。お前さん、退職する時に今日で辞めますって言われて納得するのかい?」


 むむ!

 そりゃ無理だ。

 普通は一ヶ月以上前に、事前に言うのがマナーだろう。

 って、軍も変わらないって事か。



「ならば休職からの、退職という事にすれば良い。有給があれば、それを使い切ってから退職出来るはずだ」


「おぉ!佐藤さんが社会人っぽい。カッコ良く見えるよ」


「阿久野くん。キミ、馬鹿にしてる?」


 そんなつもりは毛頭無い。

 だから首を横に振ったが、彼は微妙な顔をしていた。



「別に辞める事に関しては、文句は言わないさ。だがね、帝国の情報を持ったまま出るのが駄目なんだよ!」


 おっちゃんが肩に刺さっていたナイフを抜き取ると、雉井目掛けて投げてきた。

 太田はそれを難なく落とすと、おっちゃんを睨みつけている。



「おっちゃん、ちょっと聞いて良い?」


「何だね?」


 思ったより話が通じる。

 情報に関して厳しいなら、断られると思ったのに。

 予想外だな。



「帝国も以前はそこまで厳しくなかったと思うんだけど。何故急に厳しくなったの?」


「おっちゃんからも聞いて良いかい?キミが何故、帝国の情報を知っているのかな?」


 しまった!

 藪蛇だ!

 魔族の俺が帝国の事を知ってるなんて、あり得ない話だ。



 ヤバイ。

 おっちゃんの目は笑ってない。

 完全に俺を危険人物として見ているな。



「て、帝国を出た召喚者に聞いたんだよね!その人達は、別に魔族を危険視してなかったから」


「それはおかしいよ。嘘をつくなんて、おっちゃん悲しいなぁ」


「ななな何で嘘って決めつけるのさ!」


「・・・だって帝国を出た召喚者は、もれなく死んでもらってるからね」


 雰囲気が変わった!?

 コイツはかなりヤバイ奴だ!



「太田、三人を守れ!佐藤さんは」


「テメェ!」


 殺したと言ったおっちゃんに対する条件反射なのか。

 佐藤さんは既に、おっちゃんへと突っ込んでいる。



「キミはボクサーだよね。かなり強いよね。何故、帝国を抜けたのかな?」


「話す理由なんざねぇよ!」


「じゃあそこで這いずっていたまえ」


 佐藤さんは咄嗟に距離を取った。

 しかし、その動きを見切っていたかのように、おっちゃんは同じ距離を詰めていた。



「アウトボクサーのステップは軽やかだよね。だから俺も使うんだよ」


「ば、馬鹿な!?痛っ!」


 太ももを剣で斬られ、バランスを崩す佐藤。

 このままだとやられると察したのか、彼はそのままゴロゴロと地面を転がった。



「ボクシングじゃないからよ。ダウンしても問題無いんだわ」


「うん。キミもこの世界に染まってるねぇ」


 佐藤さんが肩で息をしている。

 これは相当珍しい事だ。

 長時間戦うにしてもインターバルを挟めば、彼がここまで疲れる事は無い。

 という事は、プレッシャーが凄いのか!?



「ふむ。ちょっと分が悪いね。部下を待つ事にしようかな?」





 部下を待つ。

 という事は、この街には更に帝国の召喚者が居るって事か。



「何で部下を一緒に連れてこなかったのかな?」


「部下は別の仕事を任せているんだ。こっちも情報が漏れそうだったからね。だから処分してもらいに行ってる」


 情報が漏れる?

 何処から漏れる心配があるんだろ。



「ろ、ローザンネさんか!?」


 犬山が叫ぶと、おっちゃんは軽く拍手をし始めた。

 どうやら正解したようだ。

 いや、正解とかどうでもいい。



「おっちゃんよ。部下はおっちゃん並みに強いのか?」


「ハッハッハ!まさか。私並みに強かったら、今頃彼も査察部でエースだよ」


「そっか。だったらその部下、死んでるかもな」


「・・・それはエルフのイケメンくんの事かい?弓しか使えない彼が、どうやって私の部下を倒すというのかね?」


 やっぱりな。

 コイツ、試験の時の強さしか知らないんだ。

 という事は、太田がバルディッシュ以外に斧を投げたりする事も知らないし、ハクトが無詠唱出来る事も知らない。

 そして、俺達が魔法を使える事もだ!





「吹き飛べ、この野郎!」


 僕の風魔法で圧縮した空気玉を、おっさんにぶつけてやった。

 派手に吹き飛んで、暗い細道へと逆戻りするおっさん。

 壁が崩れる音がしている。

 これは流石に、街の人も起きるレベルだ。



「どうだ?やったか!?」


 犬山さん、それはフラグ立つよ。



「まさか魔法まで使えるとは。これは恐れ入った」


 立った。

 フラグが立った。

 おっさんも立ち上がった。



「マジか。召喚者でもそれなりに、気を失うレベルだと思ったんだけどなぁ」


「そうだね。Aクラスでも負けてたかもしれない。でも私、これでもSクラスだから」


「Sクラス!?」


 あの忌々しい海藤と天堂とかいう二人と、同レベルかよ。

 こりゃ、手加減とか出来る相手じゃないぞ。



「おい!これはどうなってるんだ!?」


「蘭丸!無事だったか」


 良かった。

 負けるとは思ってなかったけど、無傷で済むとも思ってなかったから。

 だが、蘭丸の顔は険しい。



「悪い。ローザンネは殺されてた。俺が屋敷に行ったら変な男と出くわしたんだが、ソイツが殺した後に火を放ったみたいだ」


「その男はどうした?」


「襲ってきたから返り討ちにしたよ。強かったから手加減出来なかった」


 手加減出来なかったというのは、生かして捕らえられなかったという意味だろう。

 情報も得られずローザンネを殺されて、蘭丸の中では任務失敗したと思っているに違いない。



「まさか、私の部下が本当にやられるとはね。これは私も無事では済まない。仕事は半分失敗だが半分成功したので、これを良しとして帰るとしようかな」


「・・・それは連合と僕達の情報収集の事かな?」


「ご名答。流石はケンイチくん。私が目をつけていただけの事はある」


 僕はケンイチではないんだけどね。

 というか、帰る前に少しくらいはこっちも情報を得ないと。



「おっさん。こっちは情報を沢山あげたんだ。名前くらいは教えてよ」


「うーん、名前くらいは良いかな。私の名前は嘉川だよ。私は戦闘向きの能力じゃないからね。戦場でまみえる事は無いとは思うけど。覚えておいてくれ」


 おっさんはその場から立ち去ろうとしたが、佐藤さんがそれを許さなかった。



「逃すかよ!」


「しつこいねぇ」


 走り去る嘉川を追う佐藤さん。

 蘭丸がそれを追ったが、とある地点で蘭丸は引き返してきた。



「逃げられたのか?」


「いや、何というか・・・」


 歯切れの悪い蘭丸。

 佐藤さんがやられていれば、もっと違う反応だし。

 どうしたんだろう。



「何を見た?」


 自分でもよく分からないのか、蘭丸は首を傾げながら答えた。





「佐藤さんが途中まで追い掛けてたのは見たんだけど、途中で手を振って見送っていた。アレはどういう意味なんだ?」

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