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暴露と刺客

 兄は必死に謝っていた。

 女の子に男と間違ったって言ったりしたら、そりゃ怒られるわな。

 許してもらえただけ、ありがたいと思った方が良い。


 彼女の名前は雉井だという。

 リーダーらしき男が犬山で、佐藤さんと戦ったのが猿ではなくゴリ川だった。

 彼女と共に犬山と太田の居る場所へ向かうと、彼は雉井と一緒に行動している僕達を見て驚いていた。


 彼の中では、魔族を殺した事で罪悪感に苛まれているようだ。

 いつかは自分もやり返される。

 そう考えていたんじゃないかな。

 そんな彼に対して兄は投降を持ちかけたが、太田が人質だと言って、未だに抵抗を続けていた。


 太田は兄の言葉で、本気を出すと言った。

 身体が大きくなり、色も変化していく。

 佐藤さんは慌てていたが、兄は太田は自分の右腕。

 信じろと言っていた。

 ちなみに兄の思惑で、僕の右腕は又左という事に決まった。

 別にどっちでも良いけど。


 太田は暴走する事無く、パワーアップする事に成功した。

 センカクとの特訓が生きているらしい。

 犬山の能力すら凌駕するその力で、太田は普通に歩いて彼の目の前までやって来た。

 投降するか自分で決めろ。

 犬山は兄の問い掛けに応じ、ようやく投降したのだった。





 俺、信用無いのかな?

 さっきから命は保障するって言ってるのに。

 人の話はちゃんと聞いてくれよな。



「まずは太田の足を元に戻してくれ」


「分かった」


 犬山がリリースと言うと、太田はもも上げを何度か繰り返した。



「太田はその身体、すぐに戻れるのか?」


「戻せますが、戻ったらすぐにまた同じ姿にはなれません」


「身体から湯気が立ち上がるくらいだし、冷却時間が必要って事か?」


「そうですね。それとこの姿で長時間居るのも、センカク殿からは禁止されています」


 やっぱり最後の必殺技みたいな感じなんだな。



 しかし俺が太田に嫉妬する時が来るとは。

 ヒーローの二段階変身みたいで、なかなかカッコ良い。

 俺も変身出来るけど、これまたセンカクから止められているしなぁ。

 やっぱり羨ましい。



「俺の能力がこんな形で破られるとは。やっぱり魔族は凄いな」


「見てたこっちも驚きだけどな。まさか力ずくで歩くなんて、誰も想像してなかったよ」


「ハハッ!部下がコレなんだから、魔王に挑もうなんて無謀過ぎたようだ」


 諦めというか投げやりというか。

 自分が負けたと認めてからは、妙に話し掛けてくるようになった。



「犬山。魔王はそんなに悪い奴じゃない。僕達は誰も死なないと思う。ただスケベなだけ」


「スケベじゃねー!」


 この野郎、じゃなかった。

 この女、いつまで引っ張るつもりだ。



「お前がそう言うなら、そうなんだろう。でも、俺は俺自身が罰せられないといけないと思っている」


「それを言ったら、三人で受けないとダメ」


「うーむ、そんなに自分が許せないのか。理由を教えてくれない?」


「阿久野くんさ、その前にゴリ川の方に行かない?馬もまだ興奮してるし。アイツ、一人で路上で倒れてるから」


 意外に佐藤さんは優しかった。

 アレだけボコってきた相手を気遣うとは。

 やり返したから、もう恨みっこ無しみたいな感じなのか?



「それじゃ、ゴリ川が倒れている所まで歩きながら、説明してくれよ」






 ふむふむ。

 要約するとこういう事か。

 戦いたくないのに無理矢理戦わされて、挙句には殺し合いをさせられた。

 それによって自分の能力が開花したけど、彼等はそれを魔族との殺し合いに使いたくないから、連合への派遣を立候補したらしい。

 結局は俺達と戦う羽目になったが、殺されるなら魔族に殺されるのが筋だと考えていたとの事だった。



「お前、真面目だなぁ」


「茶化さないでくれ!」


「いやいや、本当にそう思ってるんだけど」


 犬山は思った以上に、思い詰めていたようだ。

 雉井もそれを気にしていたが、彼ほどではない。

 むしろ自暴自棄にならないように、彼と行動を共にしようと考えていたと、本人が居ないところで教えてもらった。



「ゴリ川も普段は、あんな感じじゃない。無理して横暴な感じを装っていた」


「戦った感じからすると、ゴリ川は格闘家向けの性格じゃないよな」


 佐藤さんの話では、彼は筋トレしかしていないという。

 それで自分のパンチにアレだけ耐えるのだから、なかなか凄いと褒めていた。



「話を聞く限り、弟みたいな感じだな」


「弟?」


「一つの事にハマるというか。オタク気質なところがありそう」


「なるほど。筋トレ馬鹿って事ね」


 佐藤さんは俺の言葉に、簡単に納得していた。

 なんかギャーギャー頭の中で言ってるのが聞こえるけど、無視だ、無視。



「ところで教えてほしい。俺達を生かして、何のメリットがある?」


 下を向きながら歩く犬山が、突然俺に聞いてきた。

 メリット?

 そんなん知らんわ。



「お前、メリットとかデメリットを考えて、人付き合いしてる?そうじゃないだろ」


「でも俺達は、自分達の都合の為に人まで刺して逃げようとしたんだぞ!?」


「厩務員の事?血を流して倒れていたから焦ったけど、アレも急所は避けていたみたいだけど。死なないようにしてたんじゃないのか?」


「刺したのは僕だ。犬山が悩む事は無い」


 厩務員は雉井の仕業か。

 と言っても、厩務員二人の背中が斬られていたのもそこまで深い傷じゃなかった。

 あの二人は血を見て気絶しただけだと、俺は思っている。



「じゃあ俺が一つ、ある話をしてあげよう」


「ある話?」


「それはとある男の話だ」





 佐藤さんの先導で夜道を歩いている。

 彼は道を確認しながら歩いているから、俺の話を聞き流しで進んでいるんだと思う。



「俺が住んでた村って、凄い田舎だったんだわ。そこに帝国軍が攻めてきたんだよね」


「それは俺達も参加していたから、分かる・・・」


「その帝国軍の中に、ある召喚者も居たんだよ。その召喚者は村の村長とタイマンしてぶっ飛ばして、半殺し状態まで追い込んだんだ」


「・・・」


 二人の空気は少し重い。

 無言で俺の話を聞いている。



「でもね、その召喚者は今ではその村長と仲が良いんだよね」


「え?」


「俺がその召喚者をぶっ飛ばした後、色々あってこっちに来たんだけど。今はしょっちゅう模擬戦してるみたいよ。村長は負けたのが悔しくて、強くなる為に。召喚者の方も強い村長と戦ってるから、どんどん強くなってるみたい」


「そ、そんな話があるのか?」


「まあね。稀なパターンかもしれないけど、そういう人も居る」


 犬山にとって、それは信じられない話のようだ。

 雉井も聞いていたが、彼女はそこまで興味は無いらしい。



「自分を責めるなら、仲良くなって魔族に貢献するって道もあるんじゃないの?」


「そんな人、本当に居るの?」


「居るよ」


「オイィィィ!!俺の話を良い話風にしてんじゃねぇぇ!!」


 あ、聞いてたのね。

 顔を真っ赤にしながら振り返った佐藤さんは、慌てたように何か言い訳を始めている。

 まあそんな言葉、犬山には届いていないけどね。



「そうか。この人が・・・」


「三人の先輩として、何か言ってやって下さいよぉ」


「ぐっ!その言い方がムカつく」


 俺のふざけたイジリに、佐藤さんは照れながらも話してくれた。



「俺もあの時、戦いたくて戦ったんじゃないんだ。無理矢理戦わされたのも、アンタ等と一緒。阿久野くんに助けてもらってなかったら、犬山だっけ?アンタと同じように悩んでいたか、何も考えないようになって魔族を殺してたかもしれないな」


「そうか・・・」


「俺は運が良かった。アンタは阿久野くんに会わなかった時の俺かもしれない。でも、それだけ苦悩する事が出来るなら、まだやり直せるんじゃないか?」


「俺達でも・・・良いのか?」


「それは俺に聞かないでくれ」


 こっちを見てくる佐藤さんだが、俺は最初から言ってる。

 本当に面倒だなぁ。



「安土に来て、魔族の協力をしてくれ。別に戦わなくても、協力する方法は沢山あるからな。安土は万年人手不足だし、得意な事があるなら言ってくれると助かるぞ」


「だ、そうだ。そろそろゴリ川の倒れてる場所に着くぞ」


「感謝する・・・」


 犬山の目には、光るものがあった。





 さてと、そろそろ着くって言ってるけど。

 人が倒れていれば、すぐに分かると思うんだけどな。



「あの狭い道の中だ。ん?もう立ち上がったのか?」


 暗いので薄らとしか分からないが、確かに狭い道の奥には、人が立っている。

 だけどちょっと違う気がする。



「おかしい。五里川はあんなに小さくない。別人だ!」


「こんな深夜に助けも呼ばず、倒れてる人の近くに居るっておかしいぞ」


 犬山の言葉に、佐藤さんも正論を言っている。

 じゃあ、何をしているんだ?

 ゴリ川から金目の物でも取ろうとしてるのか?



「アレは!?剣を持ってる!」


「雉井!」


 佐藤さんが手に長い物を持っている事を確認すると、すぐに細い道へと走り出した。

 犬山もすぐに雉井へ声を掛け、それに反応した彼女はナイフを細い道へ投げる。

 そして暗い細道の先から、金属音が鳴り響いた。



「防がれた!」


「暗い中、不規則な軌道で飛んでくるナイフを叩き落とす。タダ者じゃないぞ!」


「ゴリ川!」





 佐藤さんがその道に入っていくと、中から剣を防ぐような金属音が聞こえる。

 暗過ぎて、何が起こっているのか分からない。



「狭い道で剣を振り回せるのか。なかなかの腕前だぞ」


「いや、それだけじゃないな。武器を持っていない佐藤さんの方が、狭い道では有利なはずだ。それなのに互角にやり合ってる時点で、相当な強さだと思う」


 俺の率直な感想を述べると、犬山は雉井へと指示を出した。



「雉井、剣の男を狙えるか?」


「暗過ぎて難しい。間違えてあの人に刺さるかもしれない」


 雉井の悔しそうな顔に、犬山も歯痒さを隠さない。



「佐藤さん!ゴリ川助けられますか!?」


「無理だ!コイツ、強いぞ!?」


 うーむ、どうするべきか。



(一旦代わろう。光魔法で奴の目を潰す)


 佐藤さんもやられるんじゃない?



(背を向けている時を狙うんだ。佐藤さんにゴリ川から奴を引き離させて、その間に太田にゴリ川を引っ張り出させる)


 なるほど。

 良い案だ。

 すぐに取り掛かるとしよう。





「太田。僕が一瞬だけ光魔法で、あの細道を照らす。その隙にゴリ川を引っ張り出せ」


「魔王様ですか?承知しました!」


 流石は太田。

 僕に代わった事を瞬時に悟ったか。



「今からゴリ川を助け出すから。雉井は明るければ、狙いを定められるんだよね?」


「大丈夫。どうするの?」


「魔法であの道を照らすから、目に気を付けて」


「魔法?魔法も使えるの?」


「僕は魔王だよ。任せなさいって」


 とは言っても、問題もあるんだけどね。

 ここからだと佐藤さんが背を向けた瞬間とか、僕には判断出来ない。



「犬山さん。太田がゴリ川を投げるから、上手くキャッチして下さい」


「あ、ああ。分かった」


 なんか戸惑ってる感じがするけど、僕と入れ替わった事に気付いたかな?



「太田、細道の方へ近付こう」


「御意」


 太田と雉井の三人で細道の陰に隠れた僕達だが、やはり暗くて見づらい。

 しかし人影くらいは判断出来る。

 武器を持っていない方が佐藤さんだ。



「太田も雉井も準備は良いね?・・・今だ!」


 細道に向けておもいきり光を照らすと、太田は迷いも無く走り出した。

 光の先では、やはり剣を持った男は目が眩んだようだ。

 顔を手で隠して、剣をその場で振っている。



「ビックリした!」


「佐藤殿!吹き飛ばして下さい!」


 太田が佐藤に指示を出すと、佐藤さんは大振りのストレートを男へと叩き込んだ。

 そこへ雉井のナイフが、男へと飛んでいく。


「ぐあっ!」


「行きます!」


 男の身体にナイフが突き刺さった。

 その間に太田がゴリ川を掴むと、すぐに細道から放り投げた。

 身体が大きいから少し壁にぶつかっていたけど、それくらいは我慢してもらいたい。

 犬山は身体でゴリ川を受け止めると、彼の安否を確認していた。



「ゴリ川生きてます?」





「息はある。しかし斬られた傷が目立つ。あの男、倒れた五里川に攻撃をしていたようだ。許せない!」

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