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お金がない

「近い近い!角が近い!」


 信長という言葉に全力で反応する太田。

 ツムジに猛接近した結果、危うく角で刺しそうになるという惨事を起こすところだった。


「アタシは直接関わってないの。お母さんが信長様に仕えたの」


「へぇ、お母さんが信長に仕えたのか。お母さんがどんな事してたか聞いてる?」


「特には聞いてないけど、信長様を乗せてよく空を飛んでたとは聞いたかな。鷹狩りより面白いって言って、空の散歩を楽しんでたみたい」


 空の散歩とか憧れるな!

 しかもグリフォンに乗って空を飛ぶとか、なんというファンタジー。


「僕も乗せて飛んでくれる?」


「まっかせなさい!魔王様くらいなら大丈夫。他の人はアタシの身体だと、大きくなってからじゃないとまだ無理かな」


 ヒト族組はちょっと残念そう。

 でも魔族組は分かれたね。

 ハクトは空なんか飛びたくないって感じだけど、蘭丸は乗りたかったみたい。

 太田は空の事より、信長の話をメモってる。

 じゃあ早速跨って、空を飛んでみよう!


「いくよー!」


 その翼の羽ばたきが、大きな風を起こす。

 ツムジって名前は、彼女にピッタリだと思った。


「お、おぉ!パラグライダーとかやってたら分からないけど、初めての体験だなぁ」


【俺も!俺も代わって!】




「すっげー!なんだこれ!ジェットコースターなんかとは全然違うわ!サイコーだな!」


「えへへ。そこまで喜ばれると恥ずかしいなぁ」


「ツムジ、本当にサイコーだった!契約してくれてありがとな!」


「改まって言われると照れるね。でもアタシもマオ様が、王の器に相応しいと思ったから。これからよろしく」


 空の散歩から降りると、シーファクが感想を聞いてきた。

 サイコーだった話をすると、羨ましそうにツムジを見ている。

 でもシーファクなら、もう少しツムジが大きくなったら乗れる気もするけどね。

 ラコーンと太田は諦めてくれ。


「ところでツムジ、召喚獣って呼べば来るの?まねき猫は勝手に出てくるから、分からないんだけど」


「アタシは幻獣だから精霊界に戻るよ。呼ばれればすぐ来るし、このまま一緒に行く事も出来るし。でもこっちに居る間は、魔王様の魔力を使ってるからね。本来なら長時間こっちの世界には居られないはずなんだけどね」


「本来ならって、俺達は大丈夫なのか?」


「うーん、喋っていいのかな?」


「何を?」


 顔を近づけて、小声で話しかけてくる。


「魔王様って魂が二つじゃない?それ、皆知ってるの?」


 あぁ、それか。

 別に隠してないんだけど、どうしようかね。


(別にいいんじゃない?ここに居る連中だけなら。その辺の町の人に話すなら考えるけど、蘭丸やハクトは当たり前だし、太田も伝記を書くならいつまでも隠せない。ズンタッタ達には、内密だって言っておけば大丈夫でしょ)


「分かった!じゃあ説明するね。魔王様は魂が二つあるから魔力量が異常なんだよね。魔王ってだけでも普通じゃないのに更にそんな訳だから、魔力量だけなら多分歴代の魔王の中でもダントツでだと思うよ?」


「魂が二つ!?何の話だ?」


「隠す必要も無いから言っておくわ。俺、身体の中に弟も居るんだよね」


「はあぁぁぁ!?」


 軽く説明をしたけど、魔族組はなんとなく分かっていた。

 蘭丸ハクトとは長い付き合いだ。

 話し方とか態度で違いが分かるらしい。

 驚きなのは太田。

 キャプテンが俺だって、すぐに分かったとの事。

 だから魔王様とキャプテンを使い分ける事で、接し方も変えると言っている。

 ヒト族はポカーンとしている。


「・・・魔王なんだから何でもアリなんだよ」


 スロウスがそう言った事で、皆納得した。


「そうですな!魔王様なんだから、強いのは当たり前ですな!ちなみに普段話していたのは・・・」


「あぁ、弟の方ね。俺は難しい事は分からないから、今後の事とかは弟に任せてる」


「なるほど、承知しました。私達も今後は、魔王様とキャプテン様で使い分けたいと思います」


「キャプテン様じゃないから。キャプテンだから」


 そんな変な呼ばれ方、召喚者に聞かれたら笑われそうだし。


「ではキャプテンマオ様、今後ともよろしくお願いします」


「今後ともよろしく!」


 今更挨拶されると、ちょっと恥ずかしいな。

 でもこれで隠し事も無いし、気が楽になった。


「アタシは一度帰るね。また用があったら、念じるだけですぐに駆けつけるから」


「ちょっと!この魔物達はどうするのさ!?もうこの輪っか着いてないから、言う事利かないでしょ?」


「あ、忘れてた!でも魔物達を操ろうなんて考えは、アタシ嫌いだから。皆には帰ってもらうよ」


 一声鳴くと、魔物達も返事をしたかのように鳴き、四方に散っていった。

 魔物が消えてようやく安心したのか、傭兵連中は腰砕けに座っている。


「じゃ、アタシ帰るから。暇だったら勝手に来るし、またねー」


 ツムジはその場から、ワープホールのような穴に入って消えた。

 暇だと勝手に現れるとか、なんという自由気ままな召喚獣。


「まねき猫が出た時はどうしようかと怖かったけど、ツムジと会えて良かったなー」


「そうだな。あと、ちょっと確認していいか?」


「うん、何?」


「初めて会った時、俺をタコ殴りにしたのはお前の方だよな?」


 今更その話!?

 そんな昔の話を掘り返すなんて、心が小さい男だなぁ。


「おい、聞こえてるぞ」


 アレ?口に出してた?

 そんなにワナワナ震えなくたっていいじゃない。


「過ぎた事は忘れるべきだよ。親友よ」


 蘭丸に拳骨落とされた・・・。

 正直に言ったのに。

 魔王を殴るとか、無礼者だぞ?



「魔物は居なくなってしまったし、どうしようかね。魔族は来てくれるのかな?」


 未だに立てない傭兵の一人に確認をしてみる。


「ど、どうでしょうか?何も居ないなら、来ても声を掛けずに帰る可能性もありますし」


「皆はどうした方がいいと思う?」


 自分だけで決められない時は、やっぱり仲間に相談するべきだと俺は思う。

 特に俺が、考えるのが面倒とかではない。

 決して面倒とかではない。


「キャプテン、魔王様と交代してはいかがでしょう?」


「俺じゃ話にならないと?」


「滅相もない!ただ、決める時は弟様だと先程仰っていたので、話し合うならそちらの方がよろしいかと」


 慌てた様子で返事をしてくるけど、本音はそう思ってるんだろうなぁ。

 ちょっと傷ついた。


(別に傷ついてもいいから、代わろうよ。僕もズンタッタに賛成だし)




「なんか拗ねちゃったけど、まあ別にいいや。さて、どうしたものか」


「俺はこのまま待ってもいいと思う。ドワーフ以外にヒト族に力を貸している魔族を、この目で確認したい」


「ワタクシも同じ意見です。もしその魔族がリザードマンであったなら、ワタクシ達は敵地に踏み込む事になりますから」


 蘭丸と太田は待った方がいいという意見だが。


「私はすぐに出発するべきだと思っています。もしその魔族が現れなければ、ずっと此処で足踏みをしてしまいます。それならば先に進み、他の魔族の方や我々と同じ王派閥と合流した方が得策かと」


 ズンタッタは進む方だと言う。

 他の連中は僕に任せるという判断のようで、特に意見無し。

 これは迷うな。

 双方の言い分は、どちらも間違っていない。

 そうなると、互いの意見を合わせるしかないか。


「期限を設けよう。三日待っても来なければ、東のリザードマンの町へ向かう。それ以上はズンタッタの言う通り、待っていても時間が勿体ない。その間にリザードマンの町が壊滅する可能性もあるしね」


「三日か。短い気もするが、確かにその通りだとも思う」


「私もそれくらいの日数であれば、妥当だと判断します」


 よし、方針は決まった。

 三日は此処で過ごすのだから、それなりの準備をしよう。



「そういえば、傭兵達はどうするか?このまま此処に居ても、邪魔のような気もするが」


「・・・排除しますか?」


 おいおい、コイツたまにしか喋らないのに、急に怖い事を言い出すな。

 そんなに人を斬りたいのか?


「スロウス、やめんか。しかし、数人は残ってもらうしかないでしょう。その魔物受け取り係との橋渡し役をやってた者だけでも残らないと、私達では相手が誰か判断出来かねますからな。蘭丸殿やハクト殿、あとは我々はフードを被れば傭兵のフリは出来ると思います。しかし魔王様と太田殿は、何処かに隠れるなりして頂かなければ、魔物受け取り係に怪しまれるかもしれません」


 なるほどね。

 でも僕と太田は、何処に居ろというのだろう。

 穴でも掘って、隠れてろというのだろうか?


「そして魔王様には、可能であれば地下室など作っていただけると助かります。数人が入れる大きさであれば、交代で休む事も出来ますし」


 地下室って、どうやって作るんだろう?

 またスマホの出番か。

 しかし、今の使用量はどれくらいなんだ?

 まだ神ポイントだけで、支払えるんだろうか。

 えーと、地下室の作り方。

 案外と簡単だな。


「土魔法と併用すれば、簡単に作れそうだ。ハクトも手伝ってくれれば、早く完成すると思う」


「僕!?地下室作りに僕が役に立つの?」


「あぁ、大きめの穴を掘るだけだから。頼んだよ!」




 ほら、結構簡単に完成した。

 時間にして一時間足らずってトコか。

 大きめの穴に数本の木を投げ込んで、周りを補強。

 テーブルと椅子、ベッドを複数作ったら完成だ。

 扉には土を被せれば、近くに寄らない限りはカモフラージュ出来るだろう。


「これでどうかな?自分では自信あるけど」


「予想以上の作り具合ですな。もっと簡素な物を想像していたのですが・・・」


 本気を出し過ぎたかな?

 でも3日も居なければいけないし、特に太田と僕は外に出られないからね。

 居心地良くないと、ストレス溜まっちゃうよ。


「では傭兵を選別して、その魔族を待ちたいと思います。後は我々にお任せを」


 そう言って、皆離れていってしまった。

 太田と二人かぁ。

 目の前で筋トレばっかりやりそうだし、気が滅入るな。


「お前、これから三日間何するの?」


「そうですね。今まで貯めたメモを、軽くまとめていこうと思います。最近は身体ばかりで、書の方は鍛えてませんでしたし」


 そういえばコイツ、最近まで洞窟篭って書道しかしてなかったんだった。

 元の生活に戻るだけで、そこまで苦ではないんだろう。

 僕の方が、この生活駄目かもしれない。



【そういえばずっと忘れていたけど、神様から何が送られて来たんだ?】


 僕も忘れてた!

 あの封筒何だろ?

 あまり良い予感しないけど。


「・・・マジかぁ」


 いつか来るとは思ってはいたが、こんなに早く来るとはね。

 スマホの使用請求書!

 しかもあまり使ってないと思ったけど、ポイントだけでは足りなかった。

 パケホーダイみたいなプランじゃないから、使用料金なんて分からないよ・・・。


【どれだけ足らないんだ?】


 銀貨一枚と銅貨六枚。

 正直、今からどうやって稼げばいいか分からない。

 というか、どうやって支払うの!?

 誰か集金しに来るの?

 謎過ぎるでしょ!


【金を稼がないといけないとか、全然魔王らしくないな】


 借金なんかしてたら、もっとらしくないよ。

 最悪の場合、スマホを止められる魔王になるからね。

 カッコ悪過ぎる!

 これはどうすればいいか、神様に聞くしかないな。

 しかし近くには太田が居る。

 どうすればいいんだろ?

 悩んでいると、スマホにメールが・・・。


『そんな貴方に神アプリ!私と連絡が取れるのはコレだ!』


 首をブンブン振りながら、周りを見回した。

 この人ストーカーか!?

 地下室の動向、どうやって見てるんだよ!

 こえーよ!

 周りを見て誰の視線も感じないのを確認し、ちょっと怖いなと思いながらそのアプリをインストールした。


【KAMINEとか書いてあるけど、完全にパクリだな。都合悪くなったら既読スルーとかありそう】


 そしたらずっと電話掛けまくるから。

 3日間暇なんだから、電話しまくりだから。


「お疲れさまです。請求書見ました。お金って、どうやって払うんですか?」


『お疲れさまです。請求書届いたようで良かったです。お金は、請求書の入ってた封筒に入れてください。勝手に送金されます』


「ちなみに、肉とか現地調達の物と交換は駄目ですか?」


『そうですねぇ、今回は硬貨のみでお願いします。今後は等価交換出来るような仕組みを作ってみようと善処します』


 善処かよ!

 これはしてくれない可能性高いな。

 神様めぇ、手を抜くつもりだな。


「してくれないと、封筒に猪の牙とか入れます。それと、シーファクのパンツとか入れたらどうなりますか?」


『使用済みなら高く買い取ります。未使用は考えておきます』


 この変態が!

 神聖どころか真性の変態じゃねーか!


『本気にしないでください。冗談です。そういう物は買取不可とします。それと生きている魔物や動物も不可です。早めに作るつもりなので、もし分からなければKAMINEで質問してください』


 本当に作ってくれるかな。

 変態神だからちょっと怪しいけど、信用するしかない。


「等価交換の件、ぜひよろしくお願いします」



 さて、今回は硬貨のみとなってしまった。

 どうやって稼げばいいのだろうか。

 そもそも旅をしていて、売る相手すらあまり会わないというのに。

 これは本格的に、スマホがお客様のご都合によりって流れるパターンを考えなくてはならなくなってきた。


【じゃあさ、ラーメン売ろうぜ!ハクトに早く完成してもらって、リザードマンの町で売ればいいんじゃねーかな】




 そ、それだ!!!

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