表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
376/1299

ローザンネ捜索

 蘭丸の矢で瀕死になった男は、投降をした。

 仲間達もリーダーである彼を助けたと知ると、僕等に協力的になってくれた。


 彼等の話から分かった事。

 それはまず、ニックを殺せと命令されていたという事だ。

 そして目を覚ましたリーダーからは、その命令を下したのはローザンネだと発覚する。

 彼女の目的は大量の魚だという。

 ニックは購入せずに命を狙うというやり方に激怒し、ヤコーブスも自分の塩を奪ったローザンネに怒っていた。


 彼等の命を保障すると約束すると、最後に思い出したかのように重要な事実が発覚する。

 それは彼女が、帝国からも支援を受けているという内容だった。


 官兵衛の予想では、ローザンネの護衛には召喚者が居ると思われている。

 幻術が使える彼等より、護衛に適した能力を持った男が三人。

 代表であるローザンネに会うには、それなりの相手でなくてはならない。

 それを考慮してか、ヤコーブスが共に行くと名乗りを挙げた。

 夜も遅く既に寝ていると思われるローザンネ。

 しかし官兵衛の考えは違った。

 彼女は暗殺者達が戻らなければ、逃げるという可能性を示唆する。

 その為にこのままローザンネの下へ向かうという、電撃作戦を発案した。





 夜が明ける前に行く。

 しかし問題が一つある。

 彼女が何処に住んでいるか分からないという事だ。

 官兵衛は寝ているリーダーを起こさず、今は縄を解かれ看病をしている二人に聞いた。



「リーダーである彼は、何処でローザンネと会っていたか知っていますか?」


「会社じゃないか?」


「高級住宅街には向かっていなかったし、俺もそう思う」


 二人の話は確実ではないものの、官兵衛も会社だと予測。

 代表である彼女ほどの人物の会社なら、誰でも分かるだろう。



「では、彼女のカッキーに向かうとしよう」


「カッキーって何?」


「彼女の会社名だ。正式名はアールァ・カッキーだがな」


 呼びづらい名前だなぁ。

 そりゃ略して呼ばれるわ。



「パウエル殿とヨランダ殿は、オイラと長谷部くんと待機しましょう。ヤコーブス殿、面会までよろしくお願いします」


「任せてくれたまえ」


 ヤコーブスが大きく胸を張って答えると、外へ向かって行く。





 いざ、扉を開けてカッキーへ。

 と思った矢先、ヤコーブスは何故かハクトをチラ見する。



「出来れば先に、ご褒美を頂きたいのですが・・・」


 彼は自分の尻をハクトへ向けてきた。

 このドM、自分のマゾっ気を知っている者だけになった途端に、本性を出してきやがった。



「僕はそういうのはちょっと・・・」


「是非に!」


「盛ってんじゃねぇ!」


 嫌がるハクトの横から尻にボールをぶつけると、ヤコーブスはその場で転げ回る。



「んん!この痛み、まさしく愛!」


 愛なんか無い。

 あるのは諦めだ。



「もう気持ち良くなったなら良いだろ」


「オホン!そろそろ行きましょう」


 一分前とは全く違う態度に、誰もが苦笑いをしていた。





「ここがカッキーです」


 歩いて数分の距離だった。

 彼女の会社アールァ・カッキーは、全面真っ白の建物だった。

 横に大きく三階建てで、おそらくは地下にも部屋があるんじゃないかと思われる。

 外から見えるだけで、建物の前には噴水がある。

 クリスタルでも使っているのか、噴水はある一定の時間の間隔で、光を放つという話だ。

 そんなカッキーの門の前には、警備兵らしき男達が複数人立っていた。



「失礼。我が社にどのようなご用件で。って、ヤコーブス様!?」


「私を知っているなら早い。中に入れたまえ」


 凄いな。

 自分の会社じゃないのに、中に入れろと命令している。



「それはローザンネ様に確認をしなければ、返答しかねます」


「ではもう一度言おう。お前に被害を受けた者が、賠償請求をしにやって来た。今すぐローザンネに会わせるか、この中に入れたまえ」


「えっ?ちょっ!何してるんですか!?」


 太田が鋼鉄製の重そうな扉に手を掛けると、警備兵達は太田を囲んだ。

 引き離そうと太田の身体に手を掛けると、太田はすぐに答えた。



「ワタクシは少し疲れたから、寄りかかっただけですよ」


「彼に手を出したのはマズイのではないかね?やり返されても仕方無いのでは?」


「ワタクシ、そこまで野蛮ではないですよ。誠実な対応をしてもらえればね」


 地面にバルデッシュの柄を叩きつける太田。

 それを見た警備兵達の顔は、一気に真っ青に変わっていく。

 ヤコーブスと太田が仕掛けた脅迫である。

 日本なら捕まるのはこっちなんだろうなぁ。

 異世界で良かった。



「わ、分かりましたよ!中には入れますが、建物内では関係者以外立入禁止の場所には、行かないで下さい」


 諦めて入れるという彼の案内で、一階のロビーらしき場所で待機を命じられた。

 しかしそんな指示に従うわけもなく、皆は勝手に動き出す。



「なんや、変な臭いする場所やな」


「香水じゃないの?嗅いだ事の無い、不思議な臭いだけど」


 建物の中は化粧なのか香水なのか、よく分からない香りで充満していた。

 ハッキリ言うと、気持ち悪い。

 化粧が濃い人や香水がキツイ人とかって、俺は苦手なんだよね。



「やっぱり社長室って言ったら、最上階だろ」


「上に行くぞ」


「ちょっ!だから勝手に!うっ・・・」


 太田に峰打ちを食らった警備兵は、その場で倒れ込んだ。

 椅子に座らせてテーブルに伏せさせれば、サボって寝ているように見える。



「地下に向かう階段もある。二手に分かれよう」





 地下には蘭丸とハクトとニックが。

 三階には俺と太田とヤコーブスが向かう事にした。



「何かあったら連絡を」


 地下に行くと連絡が取れないかと思いきや、この電話は電波を使っているわけではない。

 魔力を使用しているからか、コンクリだろうが地下だろうが関係無く通話出来るのだ。

 便利ですなぁ。



「二階はすっ飛ばして良いよね?」


「マスター、社長室が二階というのも聞かないですよ」


 今は俺と太田しか居ない。

 ヤコーブスの俺に対する呼び方が、マスターに変わっている。



「流石に深夜です。人も居ないはずなので、音がしない二階は飛ばして良いかと」


「太田殿もそう言ってますし、三階へ向かいましょう」


 二人が更に上へ行くと、太田が反応を示した。

 照明が点いているというのだ。



「あの部屋だけ、明かりが漏れています。こんな時間に居るのは怪しいですよ」


「私が行きましょう」


 ヤコーブスが警戒もせずに廊下を突き進むと、太田が途中で彼を止めた。



「何かがあってからでは遅いです」


 太田は自分が先頭を歩くから、その後ろから付いてきてほしいと話している。

 ヤコーブスも護衛としてクラスの高い太田の指示に従い、後ろへと回った。



「あの部屋、中から何か聞こえますか?」


「私には分からん。マスターは?」


「俺は・・・誰か居るのは分かる」


 微かに、何かを口にしている音は聞こえる。

 それと男同士の話し声か?



「女の声はしないんだが。もしかしてあの部屋、社長室とは違うんじゃないかな」


「分かりました。ワタクシが目の前まで行って、確認してきます」


 照明も消えている薄暗い廊下では、目の前まで行かないと何の部屋かまでは判断出来なかった。

 太田は一人進むと、部屋の扉の上にある札を見ている。

 少しして戻ってくると、太田は首を捻っていた。



「おかしいですね。やっぱり社長室と書いてありました。でも目の前まで行って聞こえたのは、男性の声だけです」


「どうしますか?」


 太田とヤコーブスが、何故か俺に判断を委ねてくる。

 おかしくないか?

 俺と太田は軍曹と伍長という関係で、太田の方が上だという設定になっていたはずだ。

 なのにヤコーブスは、違和感無く俺に聞いてくる。

 太田もその設定を忘れたか、普通に俺の指示待ちになっている。

 しかし、太田の判断でミスをするのも怖い。

 二人とも気付いてないようなので、このまま押し通す事にした。



「開けちゃおう。誰か居るのは確実。もし関係無い人なら、気絶してもらって逃げる」


「関係ある人だったら?」


「そりゃ・・・ソイツを使って呼び出せば良いだろ」


「それでは、マスターの指示に従います」





 ヤコーブスは扉をノックした。

 途端にピタリと止む会話。

 更にもう一度ノックをすると、中から声が返ってきた。



「こんな時間に社長室に何の用だ?」


「ローザンネに会いに来た。通してもらいたい」


「社長を呼び捨て?・・・誰ですか?」


 扉の先から聞こえるのは、威圧的な態度の返事だった。

 しかしヤコーブスが会いに来たというと、態度が一変。

 警戒をしているのは分かるが、失礼の無いような感じに変わっている。



「私の名はヤコーブス。私の仕事の件で緊急の話をしに来た。社長室に居るキミ達は何者だ?中にローザンネが居るのなら、すぐに会わせなさい」


「や、ヤコーブス!?し、失礼。ヤコーブスさんと言えば、ネイホフのヤコーブスさんですよね?」


「それ以外にこんな時間に来るヤコーブスが居るのか!いつまで私を、こんな寒い廊下に待たせるつもりだね」


 流石はヤコーブス。

 普通にしていれば、威厳のある大商人にしか見えない。

 その態度も代表に相応しく、怒らせると怖いよって雰囲気の声を出していた。



「す、すいません!しかし社長のローザンネは、既に帰宅しておりまして・・・」


「口では何とでも言える。まずは中へ通したまえ」


「いやいや!流石に社長不在の中、他人を入れる事は出来ません」


 確かにその通り。

 向こうが言ってる事は正しい。

 だが、こっちは天下のヤコーブスさんだぞ!

 そんな言い訳が通用すると思ってるのか?



「言い分は分かった。しかし私がこんな深夜に来るのは、異常だと思わないのかね?それだけ急を要する事案なのだ」


「それは重々承知しております。しかし申し訳ありませんが、お引き取りを」


「申し訳ないと思うのなら、まずは顔を見せて謝るのが筋ではないかね?」


「それを言ったら、こんな深夜にやって来る事自体が非常識なんじゃないですか?」



 ん?

 別人の声だな。

 話し相手の方か。

 どうやらこっちは短絡的な奴っぽい。

 中で揉めているのが分かる。



「キミはこのヤコーブスに、意見をするというのか?だったらまずは目を見て言いなさい!」


「上等だ!」


「馬鹿!やめろ!」


 扉の前で揉めているのが分かる。

 ヤコーブスもヒートアップしたのか、ドアノブをガチャガチャと捻っていた。

 だが、中から鍵をかけられているようで、開く気配は無い。



「この青二才が!口だけなら何とでも言える!」


 ヒートアップは演技だったらしい。

 扉が開かないと分かると顔はおとなしくなり、声だけが怒っているような具合だ。

 むしろ楽しんでいるのか、笑いながら怒っている。

 器用な爺さんだ。



「俺の何処が口だけか、直接会って分からせてやる。どけ!ドアを開けて、目を見て言ってやるんだ」


 向こうは扉の前で押さえているようだな。

 開けさせないように慌てている様子が、扉越しにも分かる。



「だったらこっちから開けてやろうか?」


「開けられるもんなら、開けてみやがれ!」


 ヤコーブスはニヤリとした。

 言質を取った。

 そういう悪い顔をしている。



「太田殿」


「承知!」


 ドアノブを無理矢理に引っ張る太田。

 力任せに引っ張ったせいでノブは外れ、向こう側が見えるようになった。



「なっ!?」


「太田、開けろ」


「御意」


 ノブがあった穴を使い、指で無理矢理扉を引くと、扉は半分に折れてしまった。



「失礼。私がヤコーブスだ」


「・・・アンタ、何してくれてんの!?」


 中に居た男は三人。

 二人は口が開いたまま動かない。

 そしてずっと対応をしていた男が、再生ボタンを押したかのように急に話し始めた。



「開けて良いというので、開けたのだが?どちらか知らんが、そう言ったのを聞いておるぞ」


「し、しかし!」


 慌てる男を見て、ようやく動き出す二人。

 まさか口だけで、行動に移すとは思ってなかったっぽい。


 そんな中、俺は三人の格好に目が行った。





「ミスリルの鎧に身を固めた三人組ねぇ。アンタ達、もしかして帝国から来た人だったりして。しかもかなりの高品質な鎧かぁ。噂に聞く召喚者って人達じゃない?ねぇ、どうなのよ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ