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真犯人

 コラーゲンとは何ぞや?

 パウエルの執拗な質問に困る兄。

 予想だけど、パウエルは金の匂いを感じ取ったんじゃないかと僕は思う。


 犯人がニックを狙う理由。

 それは会社の買収が目的ではないかと、パウエル達は言った。

 ニックを始末した後、会社のゴタゴタを狙って安く買い叩く。

 それを聞いたニックは激怒。

 ニックとしても関わった事が無いと言っていたので、見知らぬ人から命を狙われているようなものだ。

 これには僕も怒ると思う。


 しかし問題は、ローザンネが糸を引いているという証拠が無い事だ。

 そこで官兵衛は、兄が苦労していた三人組を捕らえる事を提案。

 兄は捕まえられると言い切った官兵衛の言葉に、ちょっとショックを受けていた。


 ニックを囮としたこの作戦に、まんまと現れる三人組。

 官兵衛の罠により、長谷部と太田によって二人の捕縛に成功するも、一人は逃亡された。

 捕らえた二人の顔を見ると、相手がキツネの獣人だという事を初めて知る事になる。

 そして逃亡した最後の一人を外で待つ兄と佐藤さんが奴を追い詰めるが、佐藤さんは全く役に立たなかった。


 ハクトの音魔法から逃れた男は、幻術で兄を追い詰める。

 再び兄の目が見えるようになった頃、そこに居たのは倒れた男の姿だった。

 その背後には月の光を導かれた蘭丸が、セーラー服を着て弓矢を放った立っていたのだった。





「う・・・」


 倒れたとはいえ、心臓には当たったわけではない。

 男は死んではいないようだ。



「どうする?このまま死ぬか?俺達に捕まって全てを白状するなら、命は助けてやるぞ」


 口から血を吐きながら、奴は一言だけ尋ねてきた。



「な、仲間は?」


「気絶して縄で縛られただけだ。殺しはしてない。お前の返答次第で、それも分からないがな」


 本当は殺す予定は無いけど。

 そう言っておいた方が、なんとなく話してくれそうな気がした。

 というより、コイツが死んだら残った二人に聞くしかないのだ。

 だから命の危険を及ぼすわけにはいかないのだが、瀕死だからかそこまで頭は回ってないみたいだ。



「と、投降する・・・」


 そう言い切った男は、再び血を吐いて気を失った。

 結構ヤバいので、後は弟の回復魔法に任せるとしよう。





 三人組をフロート商事へと運び込むと、待っていたパウエルとヤコーブスに迎えられる。



「コイツ等がニックの命を狙っていた犯人か!」


 パウエルの怒りの鉄拳が瀕死の男に炸裂しそうになったが、冗談ではなく死んでしまうので、全力で拒否させてもらう。

 後からニック本人に、アホか!と怒鳴られているのが聞こえた。



 若狭の薬と回復魔法で、命を長らえたキツネの獣人を見て、最初に捕まった二人も彼を助けた事を知り、態度が軟化。

 やはり瀕死の男がリーダーらしく、彼しか知らない情報もあるという。



「リーダーの命を助けてもらった事には感謝する。しかし我々が知っている情報は少ないぞ」


「手っ取り早く聞こう。まず依頼者は誰だ?」


「俺達は知らない。基本的に依頼者とはリーダーしか会わない」


 やはり意識を取り戻すまでは、分からないという事か。

 死ななくて本当に良かった。



「依頼内容くらいは知っているだろう」


 パウエルの質問に二人は即答する。

 その答えは、パウエルの怒りをむし返すものだった。



「そこのニックという男を、始末してほしいという話だ」


「やっぱり狙われとったんかい!清廉潔白、身も心も清らかなワタシが、何で暗殺者に狙われなあかんねん」


「それを知るのは、この男の意識が戻るまでは無理だな」



 そんな事を言っていると、彼は目を覚ました。

 血を多く流して倦怠感はあるようだが、既に命に別状は無さそうだ。



「何で命狙われたん?」


「誰がニックを狙った!?」


「私も次に殺すつもりだったのか?」


 ニックにパウエル、ヤコーブスは矢継ぎ早に質問をしようとする。

 それを聞いた男は、気分が悪そうに目を閉じてしまった。



「オウオウ!答えんかいワレェ!」


 暗殺者が動けないと分かっているからか、とても強気なニック。

 しかし動きには敏感で、少し足を動かすだけで、ハクトの後ろに隠れていた。

 俺が見た中でもトップクラスのダサい男だ。



「皆さん、落ち着いて!オイラが代表して、質問をしますから」


「彼は信用出来るのかね?」


 官兵衛は元々、護衛登録もしていない一般人扱い。

 ヤコーブスやパウエルは、官兵衛の頭脳を知らない。

 その為、口を挟んできた事に不信感があるらしい。



「官兵衛殿は、魔王様が信頼を置く軍師です。その頭脳は権謀術数だけでなく、様々な事に長けていますので」


 太田の説明を聞くと、ヤコーブスとパウエルだけでなく、ヨランダも大きく驚いていた。

 ヨランダはトロスト商会では、あまり官兵衛と絡んでいない為、本当にただの一般人だと思っていたらしい。



「魔王の片腕!?」


「まさか、そんな人が・・・。だからあんな作戦を立てられたのか!」


「片腕はワタクシなので。その辺はお間違えなく」


 驚く二人に、どうでも良い事を訂正する太田。

 しかし二人はそんな事を聞いていない。

 既に官兵衛の頭脳に期待していた。



「そ、そうか。お前の罠か」


「すいません。それでも命まで奪うつもりは無かったですよ」


「全てはお前の掌の上。我々も依頼者に忠誠を誓っているわけではない。命を救ってもらった礼に、全てを答えよう」






 ベッドの上で寝ていた身体を少し起こすと、官兵衛は寝ながらで良いと少し微笑んだ。



「まず、依頼者はローザンネという女で間違いないですか?」


「その通りだ。やはり気付いていたか」


「ホンマにあの女やったんか!」


 ニックは自分の命を狙う相手がハッキリと分かり、声を上げる。

 自分の怒りをぶつける相手がやっと分かったのだから、こうなるのは分かる。



「理由は聞いていますか?」


「理由までは知らない。だがその男を殺して、仕事を奪うのが目的だったようだ」


「それは会社を買収するという事ですか?」


「そこまでは分からない。魚を大量に必要としているくらいしか、聞いていないのでな」


 スラスラと答える男に、嘘をついている様子は無い。

 買収じゃなく、仕入れ先を狙っていたのか?



「あのアマ!魚欲しいんなら、ウチから買わんかい!魚が大量に欲しいから、命を狙う?頭おかしいんとちゃうか!?」


「ニックの言う通りだ。あの女、私の塩も高品質な物ばかり襲って奪ったのは、それが目当てか。商人なら買って手に入れろ!」


 ヤコーブスの思わぬ援護に、ニックの怒りはヒートアップ。

 だがうるさ過ぎてヨランダから叱られて、一気に冷めていった。



「犯人が分かっただけで、オイラ達は十分です」


「我々はこれからどうなる?」


「どうとでもして下さい。この街で仕事を暗殺を続けるも良し。廃業して別の仕事に就くも良し。身体が動くなら、何でも出来ますよ」


 官兵衛が自分の不自由な足を軽くポンと叩くと、男は黙りこくってしまった。

 そこに口を挟んできたのは、残りの二人。

 今は縄で縛られているが、彼が話す姿を見て抵抗する気は無いように見える。



「そういえば、俺達以外に雇っている奴が居るって言ってなかった?」


「そ、そうだ!肝心な事を忘れていた」


 彼は自分が思い出した事が重要だったと、身体を無理して起き上がらせた。

 その反動からか、痛みがぶり返して今は苦しそうな表情をしている。

 官兵衛は彼に水を渡し、落ち着くのを待ってからゆっくりと聞いた。



「すまない。これは俺も衝撃的で、未だに信じられないのだが」


「何があったんです?」


「ローザンネは我々以外に、雇っている者が居る。帝国兵だ」





 彼の言葉に、部屋の中は静まり返った。

 そしてやはり一番に口を開いたのはこの男だった。



「ちょいとお前さん。帝国兵やって?アンタ等、獣人やんか。揉めなかったんかい?」


「それが、普通の帝国兵とは違うらしい。奴等、別に魔族を嫌っている感じはしなかった」


 その話を聞くと、帝国にも魔族と敵対していない奴も存在するのだと、俺は思った。

 しかし官兵衛の考えは違った。



「召喚者、ですね」


「召喚者?」


「異世界から呼び出したヒト族です。特別な力を持っていて、魔族よりも強い人が多く居るそうです」


「なるほど。それなら合点がいく。奴等、俺達を見ても嫌悪感を出さなかった。それどころか、物珍しく観察してきたような視線を感じたんでな」


 二人の会話から、俺の考えが甘かったとすぐに認識した。



 そういえば佐藤さんも海津町を襲った時、別に魔族を嫌っている感じはしなかった。

 安土に居る三馬鹿を含めて、召喚者の考えは分かれると思う。


 無理して襲っている連中。

 仕事と割り切って襲う連中。

 そして嬉々として襲う連中。


 中にはコバのように魔族が好きという奴や、自分の夢を叶える為というロックみたいなタイプも居るが、これは異端なので数に入れてはいけない。



「俺達が外での仕事を任されているとしたら、奴等は内側の仕事。おそらくは護衛をしているんだと思う」


「会った時、彼等の実力は分かりましたか?」


「分からない。だが、奴等も三人だった。俺達の方が、外での仕事に向いてると思ったのだろう。奴等は守る事の方が得意なんだと思う」


「そうですか。貴重なお話、ありがとうございました。後は回復に努めて下さい」


 話が終わるとやはり無理をしていたのか、すぐに横になり寝てしまった。





「理由は分かりませんが、やはり命を狙っていた事は、間違いありませんね」


「あのアマ、しばいたる!」


「お前じゃ出来ないだろ」


「皆でしばいたる!」


「俺は女に手を上げるような事は、したくないんだけど」


「・・・召喚者しばいたる!」


 とにかくニックは、誰かしばきたいとしか言わない。



「今回、パウエルは留守番ね」


「何故だ!ニックの為にも俺は行くぞ」


「代表が代表を非難する話が街に知れ渡ったら、どうなると思ってるの?」


 パウエルはヨランダにそう言われ、考えを改めた。

 しかしヤコーブスは違う。

 彼は被害を受けている。

 それを暗殺者の口から聞いたので、事実なのだ。



「ニックとは私が行こう。ニックなら会えなくても、私が居れば軽い扱いは受けないはず。アポ無しでも会えるかもしれない」


「ヤコーブスさん。おおきに!」


「お前も私も、あの女にはやられているのだ。礼は要らんよ」



 そんな二人の会話にパウエルは、つまらなさそうな顔をしている。

 何の被害も受けていない彼が行けば、問題になりかねない。

 代表同士で争うにしても、やはり中立の立場の男が必要だと官兵衛は言った。

 とは言っても、パウエルは表向き中立で裏ではこっち側に繋がっている事を知らない。

 どちらにしろ、彼女は孤立無縁になってもらう予定らしい。



「権謀術数が得意とは、こういう事か。流石は魔王の片腕。敵に回したくないものだが、我々も帝国と繋がっているからな」


「その事も今後お話ししたかったんですが、ヤコーブス殿。どうです?ここは敢えて敵対ではなく、中立の立場になってみては?」


「それは帝国を裏切れという話ではないのか?」


「あくまでも中立です。それはまた今度、お話ししましょう。今は時間が無いので」


「時間が無い?」


 皆がその言葉に不思議そうにしていると、官兵衛はその言葉の続きを話し始めた。





「暗殺者が戻ってこなければ、ローザンネは怪しむはず。間違いなく、何かしらの行動を起こします。何処かに身を隠すか、最悪の場合は逃亡するでしょう。だからこそ、夜が明ける前に彼女の下へ向かいます」

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