王の器
一体何の用だろう。
今回は思い当たる節が無い。
「どうもー、阿久野さんお久しぶりっすー!」
この白タイツ、更にチャラくなったな。
「あ、どうも。今回も僕なんですよね?何も知らされてないんですけど」
「こちらが神様からの頼まれてる物です。サインお願いします」
何やら封筒みたいな紙を渡された。
あまり良い物じゃない気がするのは気のせいかな?
「サイン頂きました。いや~、今回も聞いてた住所と違うし、大変でした。ちゃんと住所教えといて下さいよ~」
そんなの知らんわ!
だって今回、何も知らされてないんだから。
勝手に送られてきたんだから、神様に文句言えよ!
「あ、スマホ持ってんじゃないっすか!もしかして前回の小包の中身、これだったんですか?だったらGPSオンにしてくださいよ~!俺が配達する時に楽なんで」
「え?嫌ですけど。何で知らない人に、居場所を特定されなきゃいけないんですか」
「か~、辛辣っすね~。まあそう思うのも仕方ないですね。いつかオンにしてくれたら、嬉しいっす」
あんまりへこたれてないらしい。
なんて強精神。
「な、なぁ。さっき神様とか言ってなかったか?」
「気のせいだろ。だってあの恰好怪し過ぎだろ」
「見た事無いから信憑性があるんじゃないのか!?」
おぉ、傭兵達が白タイツくんのおかげで、神様の使徒という言葉に疑いを持ち始めたぞ?
「なんか小汚ねぇ連中っすね。しかもケツに棒刺して面白い事してるし」
「刺してみます?別に構わないですけど」
「俺にそんな趣味無いっす。こっちの二本持ちの女の子が相手なら、嬉しいんですけどね」
無難な答えだな。
さりげなくシーファクにアピールしてるし。
「そろそろ行くっす。またのご利用、お願いしゃーず!」
トラックに乗り込み、また空を走っていく。
途中で見えなくなるように消えていった。
「・・・何だアレ?」
「やべぇぇぇ!!アレ何だよ!」
「あんな魔獣、見た事無いぞ!アレが神の使い魔か!?」
傭兵が消えたトラックを見て騒ぎ立てる。
どうやら神の使い効果は、結構あったようだ。
「聞けい!見たであろう!あの我等の知らない魔獣を!空に消えた、奇怪な魔法を!お前達が見たモノ、それこそが神の使いの一人だ!」
畳みかけるように、ズンタッタが声を荒げる。
まあ間違ってはいない。
だけど、そこまで騒ぐような神聖なチャラ男ではない。
あと、ケツに鉄の棒が刺さったまま、やべぇぇぇ!!言われても。
お前の見た目の方がヤバイ。
「さてと。ご覧の通り、神からの使いが私に指令を与えに来たようだ。それを信じないキミ達は、神敵となる準備は出来ているだろうか?まあそれはそれで構わないけどね」
血の気が引いていく音が聞こえる。
ケツの棒も何のその。
姿勢を正し、こちらへひれ伏す。
「滅相も無い!私達が間違っていました!何卒、神罰はご勘弁ください!」
「ほう、分かったのなら自分達の行いを悔い改めると申すか?ならば今までの行い、今度は善行で返したまえ」
なんか太田とズンタッタが、ドンドン話を進めていく。
何だろう、この黄門感。
「分かったのならよろしい。お前等が知っている事を全て話すが良い」
でも末端の傭兵。
さっきの話以上に何も知らなかった。
まあそれでも、取りに来るのが魔族というのを知る事が出来ただけ、大きな収穫だったと思うけど。
「その魔物を取りに来る魔族なんだけど、何で魔族って分かったの?」
「あぁ、手が毛深かったから?ヒトの手とは違うかなと」
随分といい加減な判断だな。
本当に魔族か分からんって事だな。
「何とも適当な判断だな。でも怪しいなら確認した方がいいだろう。魔物の輪っかを調べながら、ソイツが来るのを待つとしよう」
「ですな。後々に大事になるかもしれませんし。怪しい芽は詰んでおく方がよろしいかと」
しばらくはここで過ごす事になりそうだな。
さて、魔物に着けている輪っか。
実際に調べてみたけど、予想通りの物だった。
輪っかの中心にクリスタルが嵌め込まれ、その中に精神魔法が封入されている。
魔法自体は洗脳だったので、おそらくは定期的に交換か魔法を再度入れ直す仕組みのようだ。
契約とかだったらもっと面倒だったけど、これなら普通に解除出来る。
というよりは、上書きだな。
洗脳の相手を僕にすればいいだけ。
魔力もほとんど使わずに、魔物軍団を手に入れられるとは。
何ともおいしいですなぁ。
「マオ様、ちょっとよろしいですか?」
「ん?何かあった?」
ズンタッタと太田が二人でこちらに来た。
「それが、ちょっと毛色の違う魔物がおりまして。私自身見た事が無いので、おそらくとしか言いようがないのですが、魔物ではないかもしれません」
魔物じゃない?
何でそんな生き物がこんな所に居るの?
見た事が無いって、余程希少なのかな。
「こちらです。判断しかねますが、魔物というより精霊などの部類に入ると思われるのですが?」
「お前、こんなの何でここに居るんだよ!」
そこに居たのは、鷹の頭に獅子の身体。
ゲームでよく見るその幻獣。
グリフォンだった。
しかも小さい。
「これ、幻獣とかそういう類のものだぞ!?何で魔物の群れの中に紛れていたんだ?」
「それが傭兵達にも分かっていないようで。バジリスクを捕まえたら、その背中に乗っていたような事を言っています」
グリフォンって群れで行動しないのか?
1匹だけこんな所に居るのは何故なんだろう。
しかし幻獣のような存在に、これで洗脳するのはマズイ気もする。
「グリフォンは解放しよう。幻獣のような存在を洗脳するのは忍びない。攻撃されたら仕方ないが、何もしてこないならそのまま逃してしまってくれ」
「よろしいのですか?小さいながらも、強力な戦力になるかもしれませんが」
「子供を戦力にしようなんて考えなくていいだろ。って、僕も小さいんだった。まあ戦力とかに関しては、お前等に期待してるからいいよ」
太田は感激に打ち震えているが、そんな事はどうでもいい。
とりあえず輪っかを外そう。
「これでお前は自由だ。何でこんな所に居たか分からんが、あまり変な所に行くんじゃないぞ?」
攻撃されるかと警戒していたが、特に何も無かった。
ジーっとこちらを見てくるが、何かする様子も無い。
逃げもしないし、何を考えているんだろうか。
「腹でも減ってるのかな?全然動かないんだけど」
「干し肉ならまだありますよ。あげてみましょうか?」
猪の干し肉を、一切れ近付けてみた。
少し様子を見た後、口に入れるグリフォン。
満足したのか、一声鳴いた。
「おぉ、なんか可愛いぞ!?もっと怖いかと思ってたんだけどなぁ」
喉を鳴らして頭をスリスリしてくる。
まねき猫よりも人懐っこい。
ん?まねき猫!?
「もしかして、まねき猫が会わせたかったのはコイツなんじゃないか?」
「言われてみると、可能性はありますね。精霊に幻獣ですからね。助けたかったとか、そういう意味合いもあるかもしれません」
ズンタッタが賛同するなら、そういう考えもあるという事だろう。
しかし、それよりも驚いた出来事が起きてしまった。
「クァァ!」
小グリフォンが鳴いたと思ったら、勢いよく飛び出した。
周りの魔物の輪っかを全て外していったのだ。
「おい!クリスタルを外された魔物がこんなに居たら、俺達はともかく傭兵達はヤバいぞ!」
異変に気付いた蘭丸達も、こちらへやってきた。
傭兵達は魔物に囲まれながら、剣を持って構えている。
だがその数に怯えて、何もしていない。
何もしなかったのが正解だったのだが。
「アイツ、魔物を解放して何がしたいんだ?」
洗脳から解放された魔物は暴れ出すと思っていた。
しかし小グリフォンの鳴き声を聞くや、皆静かになったのだ。
「小さいけど、魔物達の王ってところかな?なんかマオくんに似てるね」
ハクトがそんな事を言っている。
太田とズンタッタ達は頷いているけど、一声で魔物を静かにさせるとか、これは僕より凄いだろ。
そして小グリフォンはバジリスクの背中に乗り、こちらを見ていた。
「おーい、気が済んだか?僕達を襲ったりしないなら、もういいんじゃないか?」
言葉が通じるとは思わない。
けど、なんとなく話しかけてみた。
すると、予想してなかった物がまた出てきた。
目の前にペラペラと落ちてくる紙。
そう、契約書だった。
「それ、もしかしてまた契約書ですか?」
「そうみたいだね。内容を確認してみよう」
グリフォン。
神に仕える幻獣。
神や女神が乗る車を牽き、多くの魔物を従える。
グリフォンは神や王にしか仕える事はない。
グリフォンに認められし者、新たな王となる。
「え・・・。なんか凄い事書いてある。これ、結構ヤバイな」
「何て書いてあるんですか?・・・王!新たな王!」
ズンタッタが目を剥いて文章を読んでいる。
太田は、やはり魔王様は凄いとかずっと言ってるし。
「流石にグリフォンは凄いな。お前が王になるって、改めて思い知らされたぜ!」
蘭丸までそんな事言ってる。
ハクトとシーファクは何も考えてないのか、グリフォンの頭を撫でていた。
それ、キミ達より強いけどね。
「じゃあグリフォン、このサインでいいかな?」
紙にサインをしたら、なんと予想外の出来事が。
「よろしく、アタシのご主人様!」
喋った!?
声が聞こえるんだけど!
「お前達、今の聞こえた?」
「はい、女の子っぽい感じの声がハッキリと」
「本来は契約した主人とだけなんだけどね。お仲間さんにも聞こえた方が便利かと思って」
なんて賢い幻獣!
素晴らしいぞ!
「それは助かる。ありがとな」
「言っとくけど、アンタの為じゃないんだからね!アタシがそうした方が良いと思ったからなんだから」
ツンデレか?
コイツはツンデレなのか?
「ツンデレですな」
「あぁ、ツンデレだ」
ラコーンやチトリはツンデレ連呼している。
あまり言うと怒られるぞ。
ほら、火を吐いたし。
あまり怒らせない方がいいと思う。
「ところでキミの名前は何て言うんだ?小グリフォンだと呼びづらいんだけど」
「名前は特に決まってないわね。前のご主人様は、おチビとかチビっ子って呼んでたけど」
おチビとかチビっ子か。
自分が小さい手前、その呼び方はちょっとなぁ。
名前考えないといけないのか。
苦手なんだよな。
【グリ子でいいんじゃねーの?】
「ちょっと!グリ子は適当過ぎじゃない?」
「えっ!?」
「え?」
何で兄さんの声聞こえるの!?
凄い驚いたんだけど!
他の連中は、いきなり意味が分からない事を言われて驚いているけど。
「簡単だよ。契約したから、魂の声も聞こえるし」
なんと!?
そんな事書いてなかったから、全然知らなかった!
じゃあ3人で会話も出来るって事か。
なかなか便利だね。
【俺に対していきなりツッコミ入れられたから、流石にビックリしたわ!】
でもグリ子は無いよ。
せめてグリ美とかにしないと。
「ご主人様、それ似たり寄ったりだから」
え!?
全然マシだと思ったんだけど。
どうしよう、全然思いつかない。
「お前達も、何か良い名前ないかな?」
こうなったら全員に聞いてみる。
本人が気に入った名前を選んだ方が、気分良いと思うし。
「アタシの為に、じゃんじゃん出してよね!」
そんなパチンコ屋みたいな言い方はやめて。
プレッシャーだから。
「私は思いつかないから、そのままグリフォンですかね」
ハイ、ズンタッタ役に立たない!
ラコーンも同意してる時点で駄目!
スロウスは無言だから問題外。
残りは、蘭丸ハクトと太田。
そして女性目線が考えられるシーファクだ。
「じゃあグリ」
蘭丸さん、じゃあって・・・。
しかもグリフォンから前の二文字取っただけじゃん!
「蘭丸くん、グリは酷いよ。僕はフー子とかかな」
ハクトもあんまり僕と変わらなくない?
なんか僕達だけ怒られるの、あまり納得出来なくなってきた。
残りはシーファクか。
最後の希望だな。
「旋風と書いてツムジとかどうですか?」
ほう、なかなかよろしいのでは?
僕はカッコいいと思うのだが。
【俺のグリ子には負けるが、良いと思うぞ?】
「ツムジかぁ。アタシ気に入った!これからはツムジになる」
シーファクさん、グッジョブですよ!
気に入ってもらえて良かった。
「これからよろしくね!ツムジ」
「うん、名前がもらえて良かったよ。信長様の名前はちょっと酷かったからね」
「信長様!?信長様に会った事あるのですか!?」