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誘拐

 太田の変身した姿は巨乳だった。

 これぞまさにホルスタイン。

 この姿にはヨランダの驚きと、佐藤さんの黒歴史を作る事となった。

 いつかこの動画を見たら、彼はどんな顔をするのだろうか?

 今から楽しみで仕方ない。


 ヨランダは三人を引き連れてスカウトへ行くと、やはりこの姿でも目立つという事が分かった。

 ほとんどの人が振り返るその美貌。

 彼等はそれを駆使して、上手く交渉しているようだ。


 そして本来の仕事であるニックの護衛をする為に、僕達はパウエルの会社へと戻った。

 手渡された黒い衣装は、何処で手に入れたのか分からない忍者服だった。


 ニックは蘭丸達の交渉に、巻き込まれたらしい。

 交渉をしている間は、隣の部屋で待機しているニック。

 護衛対象を放置して良いのだろうか?

 話が終わり、声を掛けた連中が帰っていく。


 その後はヨランダがニックを連れて、蘭丸達と食事という事になっていた。

 店から出てきた彼等を待ち受けていたのは、狙い澄ましたように建物の陰に隠れるチンピラ達。

 彼等は相手がヨランダだと分かると、謝罪して逃げていった。

 だが僕は見た。

 地面に見える月明かりに、不穏な影が動いた事を。

 兄が上がった屋根には、僕等と同じような服装の連中が数人居たのだった。





 これが本命だろう。

 明らかに下に居たチンピラとは格が違う。



「お前達は何者だ?」


「・・・」


 話す気は無いらしい。

 完全なる沈黙の後、しばらくして奴等は動いた。



 一人が俺の背後に回ると、三角形に周囲を囲んでいる。

 死角を無くすように配置されたその陣形で、三人は同時に苦無のような物を中心に居る俺に向かって投げてきた。



「馬鹿にしてるのか?」


 二本を同時に掴み一本を軽く避けると、三人はすぐに囲む陣形を解いた。

 この三人は、身体能力にバラつきがあるように思える。

 ナナメ前から投げてきた二人の飛び道具は速かったが、後ろの一人は二人に比べると遅い。

 本気で投げてなかったのかもしれないが、それでも二人よりは劣っているように感じた。



「もう一度聞くけど、お前等は誰の指示で誰を狙っていたんだ?」


 答える気の無い連中に、俺は少し不満が顔に出たらしい。

 初めて口を開いた言葉が、更に苛立ちを感じさせるものだった。



「ガキが。邪魔するな」


「ダサっ!そんなガキに避けられたお前等は、ガキ以下のザコだよーん」


 ムカつくから挑発し返したけど、やっぱりプロっぽい。

 それに乗ってくる事も無く、また無言になった。

 いや、実際は無言じゃないな。

 一人だけ下がって、何かをブツブツと呟いている。

 耳を澄ませて聞いてみても、よく分からない言葉を並べているだけのような感じで、聞いても無駄だと思った。



「そっちから来ないなら、とっ捕まえるぞ。裏に居る奴の名前、吐かせるからな」


 俺は屋根の上を走り、一軒隣の家の屋根へと飛んだ。

 奴等は俺が追い掛けると、同じように他の屋根へと飛び移り、一定の距離を保って逃げている。


 ニックから離れていくのは好都合かと思ったが、よくよく考えれば他の場所に仲間が居ないとも限らない。

 太田達が対処出来ないとは思わないが、それでも追跡を続けるのは失敗だと思った。

 逃げるなら追う必要は無い。

 このままニックの護衛に戻れば良い。

 しかし判断が遅かったらしい。



「怨!」


 さっきブツブツ言っていた男が大きな声を出すと、俺の身体が急に鈍くなったように感じた。

 身体に鉛を巻き付けられたような感覚に襲われ、俺は屋根から足を踏み外す。



「なあぁぁ!!」


 落ちた俺に大したダメージは無い。

 だが奴等を見逃した焦りはあった。

 再びニックの方へと向かうのかもしれない。

 俺は急いで屋根へと戻ったが、既に奴等の姿は見当たらなかった。


 その後、ニックが会社に戻ると思った俺は先回りして戻ると、太田達に守られたニックが帰ってきたのを確認。

 どうやらあの後に、襲われるような事は無かったみたいだ。



 とにかく、今日はやらかした感がある。

 運良く逃げてもらえたが、あのまま終われていたら護衛は失敗していたかもしれない。

 建物の陰に隠れていたチンピラも、あの様子だと確実にニック狙いなのは間違いない。

 それに加えて、あの変な術を使う集団。

 これは意外と厄介な案件だな。





 深夜に戻った俺は、遅い朝に起きる事になった。

 パウエルが用意してくれた部屋は、なかなかに広い。

 後から聞いたが、ニックが皆に用意した部屋より上等で、皆と違い俺はそれを一人で使っていた感じだった。

 流石は三大商人だね。



「おはよう。昨日はどうだったかな?」


 起きた事を教えると、早速パウエルが現れる。

 やはりニックが気になるという事か。



「ちょっと聞きたいんだけど」


 ニックが二つのグループに狙われていた事。

 そして俺が相手をした連中が、プロの連中っぽい事を話すと、パウエルは頭を悩ませ始めた。



「俺は付き合いが浅いから知らないけど、ニックは恨みを買うタイプ?」


「先代みたいに豪放磊落で客と喧嘩していたら、少しは恨みを買ったかもしれない。だけどニックはその真逆で、慎重だと俺は思っている。恨みを買うような奴には思えないんだが」


 確かにな。

 パウエルを含めた三人に目を付けられたくないから、目立たないようにと言ってきたくらいだ。

 どちらかと言えば、揉め事を起こさないように慎重に立ち回るタイプだろう。

 まあ親父譲りの豪胆さが、一人で王国に来て王族のキルシェと交渉に出るみたいな所に現れているけど。



「それとチンピラの方も気になる」


「俺が見た時は、建物の陰からぶつかるのを見計らっていたみたいだし。アレもニック狙いだと思うんだよね」


「となると、ニックは二組から狙われているのか」


 顎に手を当てて考え込むパウエル。

 眉間に皺を寄せて、厳しい顔をしている。

 やっぱり二組は予想外だったかな。



「一応チンピラの方は、ヨランダさん見て逃げたくらいの連中だけど。ヨランダさんが居なかったら、どうなってたかな」


「そっちはこの街の人間に間違いないね。ヨランダの実力を知っていて、敵わないと分かっているから引いたんだから」


「俺の相手した方が問題か」


「キミが居なかったら危なかったね」


 とにかく、今後は俺はあの暗殺集団っぽいのが主な相手になる。

 強そうには感じないのだが、あの変な術だけは厄介だ。



「出来る事なら、彼を狙う奴の首謀者を突き止めてほしい。もしそこまで分かれば、特別報酬も約束しよう」


「俺もやられっ放しは趣味じゃないからね。やっつけて誰の命令か聞き出してやりますよ」


「これは頼もしい。お世辞抜きで本当に期待している。頼んだよ」





「良い!良いよぉ!こっちを向いて」


 トロスト商会に着いた俺は、まず見せられたのは撮影会だった。

 コバが一晩で作り上げた一眼レフカメラ。

 それを手にした佐藤は、ローアングルからの撮影に力を入れていた。



「ムッハー!やっぱりハクトくんにはブレザーが似合うと思ったんですよ!」


「ヨランダさん、アンタ流石だよ」


 ヨランダはビデオカメラを片手に動き回っている。

 この二人、完全に趣味に走っていた。



「俺達、毎日この格好するのか?」


「まあまあ良いではありませんか」


「そりゃ太田さんは良いですよ。結局はその姿に落ち着いたんですから」


 蘭丸とハクトは女装をしているが、太田は今日から子供の姿に変わっていた。

 太田曰く、胸の重い女性より、子供の方が動きやすいらしい。


 ヨランダは三人を連れて、早く街へ行きたいらしい。

 佐藤も撮影を終えて、見送っていた。



「それじゃ、今日も街へと繰り出しましょう」





 アレから一週間。

 特にニックの周りには、特に何も起きていない。

 チンピラがたまに絡んできていたが、やっぱりヨランダが抑止力になっているっぽい。

 それに対して俺が相手した集団に関しては、一切尻尾を掴ませてくれなかった。


 そしてニックが狙われるより問題になっていた事。

 それは、蘭丸とハクトだった。



「お友達からお願いします!」


 毎日違う姿で出歩く二人は、見知らぬ人から告白と手紙をもらうようになっていた。

 蘭丸は顔を引き攣らせながらガン無視していたらしいが、押しに弱いハクトは手紙を何通か受け取っているという。

 罪深い男だ。


 そしてもっと罪深いのは、その姿を映像に収めるヨランダなのだが。



「グフ、グフフ。良いわ。コレが何度も見返せるなんて。コバさんにも感謝しないと」


 既に毒されているヨランダは、コバからモニターをプレゼントされる事が約束されているらしい。

 コバもニヤニヤしながらモニターをあげると言っていたので、確信犯だと思う。



 昼間は街へスカウトへ。

 夜になったらスカウトした人達への交渉。

 一週間も続けば慣れてきたのだろう。

 だが、とうとうその行動に問題が発生したのだった。



「おぉ!本当に美人ではないか!」


 夜の食堂でバッタリ会ったのは、三人の商人の一人ヤコーブスだった。

 彼は街で噂になっている二人を、探していたらしい。



「これはこれは、ヤコーブス様。私の友人に何か用ですか?」


「・・・ヨランダか。パウエルの女がこの連中と友人?」


 ヤコーブスとパウエルの仲が良くない事は、ヨランダも聞いていた。

 だからこそ二人に手を出されないように、自分の友人だと言い切ったのだった。

 しかしそれは逆効果だったらしい。



「お前達、こんな野蛮な女より私と飲んだ方が楽しいぞ?」


「私達は彼女と仕事の話がありますので」


「そんな仕事、私が肩代わりしてやるから。こっちに来い!」


 無理矢理に蘭丸達を引き連れて行こうとする、ヤコーブスの護衛。



「蘭ちゃん!白子ちゃん!」


 知らない間に彼等の女装時の名前は、蘭と白子になっていた。

 だが、そこにはもう一人の護衛が居る。



「ワタクシの連れなので、手を離してもらえますか?」


「イダダダダ!!何だこの馬鹿力は!?」


 子供姿の太田に手を掴まれた護衛は、メキメキという自分の骨が軋む音を聞いて、顔が青褪めた。



「お引き取りを」


「フン!後でどうなっても知らんぞ!」


 太田とヨランダのおかげで、ヤコーブス達は引いていった。



「同じ店に居るから、まだ気を付けないとね」


「ヨランダさん、パウエルさんに迷惑掛からないんですか?」


「問題無いと思うわよ」



 ヤコーブスを退け、交渉を終えた一行。

 ニックを巻き込んで食事を取りながら、ヤコーブスの話をしていた。



「ニックさんはヤコーブスと、仲が悪いんですか?」


「悪い・・・のか?でもワタシやなく、オトンとヤコーブスさんはめっちゃ喧嘩しとったな」


「おとん?」


「お父さんや。オトンとヤコーブスさんは、性格が全く合わんかった。オトンは相手にもしとらんかったけど、ヤコーブスさんはそんなオトンが気に食わんかったんちゃうかな」


「へぇ・・・。案外そのお父さんの恨み、ニックさんに続いてたりしてね」


「怖い事言わんといてや!オトンはオトン。ワタシはワタシ。そんなんで邪魔されてたら、ホンマ凹むで」


 ニックは冗談っぽく言って、皆を笑わせていた。



 そんな楽しい食事も、長くは続かなかったらしい。



「何か、おかしいな」


「眠うなってきた・・・」


「ま、マズイ。薬を盛られた・・・」


 蘭丸とニックが最初に異変に気付くと、太田は既に寝ていた。

 ヨランダだけが最後まで眠らないようにしていたが、抗いきれずに目を閉じてしまった。





 今日も一日、何も起きない。

 屋根の上でボケーっと食堂を見ているが、何も起きる気配は・・・あった。

 食堂の裏口から、誰かが人を担いで出てきたのだ。



「誰だアレ?」


 ジーッと凝視していると、馬車がグッタリとした人を乗せて走り去っていく。



(明らかに酔っ払いを乗せて帰るタクシーじゃないよね)


 それなら裏方から、コソコソ運ぶ理由は無い。

 何だったんだ?



(追った方が良くない?)



 ちょっと待った!

 この気配・・・

 居た。

 この前の連中だ。



「ガキ、どうやら死なないと分からないらしいな」





「お前達が誘拐したのか?という事は、さっきの人はニック!?さっさと追わないと!」

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