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難航、人材探し

 僕達はパウエルの用件を飲む事にした。

 官兵衛の案により、安土へ来てくれる人材探しの期間だけという条件付きだが。

 その条件で引き受ける事を伝えると、契約直前になってニックが現れた。

 やはりこの二人は、仲があまりよろしくない。

 しかし官兵衛の作戦もあるので、兄はパウエルに付いていった。


 パウエルとは契約は交わしたが、依頼内容が分からない。

 兄はそれを問うと、パウエルは人を遠ざけ兄だけに話をし始めた。

 パウエルが護衛をしてほしいと言った人物。

 それは、犬猿の仲だと思われていたニックだった。

 彼の命を狙われていると聞かされ、陰ながら守ってほしいというのが、今回の依頼だった。

 そして命を狙っている首謀者を、探し出してくれとの事だった。

 パウエルは今回の試験で全員がニックの知り合いだと分かると、今回の考えを実行に移す気持ちが固まったらしい。

 僕達にとってもこの依頼は、断る理由が無かった。


 快諾した兄にパウエルは、太田達に話して連携を取っても良いと言う。

 兄はそんなパウエルに、冷たいイメージが先行して勿体無いと言ったのだった。





(蘭丸達以外のイケメンを褒めるのは、珍しいね)


 そういえばそうだな。

 でもこの人、本当に良い人だと思うぞ。



(それは反対しない。ニックが一方的に嫌ってるのは分かったけど、今回の依頼で犯人を見つけ出せば、もしかしたら誤解も解ける気がする)


 その犯人が嫌がらせしている可能性もあるって事か。

 命を狙いながら、嫌がらせもする。

 ニックって、恨み買いやすいのか?



(・・・ちょっと先走る傾向にあるからね。嫌いな人は嫌いかもしれない)


 合う合わないで命を狙われてたら、たまったもんじゃないけどな。



(それよりも、パウエルに聞いてほしい事があるんだけど。何故僕等が安土から来たのか、それを確認してほしい)



「パウエルさん、話は変わるんだけど。何で俺達が安土から来たって知ってたの?」


「勘かな?というより、多種族で行動する魔族はそうは居ない。俺の知識では、魔王が率いる安土以外はね」


 消去法だったって事かな。

 間違ってても別に問題は無いわけだし、言ってみただけっぽい。



(そうだね。僕達が魔王だとは知らないみたいだし、この人が帝国に僕達を売るという可能性は少ないだろう)


 ニックの件でも、この人が今俺達を売るメリットは無いからな。

 心配事も無くなったし、そろそろ俺達も動きますか。



「パウエルさん、街に詳しい人を教えてもらえますか?」





 俺は今、ある女性と二人で歩いている。

 彼女の名はヨランダ。

 パウエルが信頼する護衛の一人だ。

 デートだったら嬉しいのだが、そうではない。



「ケンイチくん、あの建物がトロスト商会です」


「やっぱりフロート商事と比べると小さいね」


「アハハ・・・。アレでも昔は大きかったんですよ。先代のトロスト代表の手腕は、豪快でしたから」



 ニックの親父さんは、かなり豪快な人だったらしい。

 得意先の大店と喧嘩して大赤字を作れば、帝国に大量販売して、一週間で年間売上と同等の利益を上げたりするような人だったとの事。

 あまり商売に詳しくない俺だけど、ギャンブラー過ぎて経営者としては怖い気がする。



「ニックの代になってから、規模縮小したって事?」


「私みたいな者が話して良いか分かりませんが・・・」



 ニックの代になってからしばらくして、ニックの荷馬車が襲われる事件が頻発したらしい。

 客まで商品が届かない事で彼の店の評判は落ち、今のような状況になったとの事。

 評判が落ちた事でニックの会社であるトロスト商会は、代表の一員から外れたという話だった。



「先代が偉大だったのもありますが、ニックも手腕も悪くはないのです。そうでないと、今頃は会社が無い可能性だってありますから」


「ヨランダさんはニックも知り合いなのかな?」


「私はパウエルとニック、二人と子供の頃からの知り合いです」


 彼等の父親達は、ヨランダさんの父が護衛していたらしい。

 ヨランダパパは連合でも有名な護衛で、人気があったので代表の護衛を持ち回りで請け負っていたみたいだった。


 しかしこの人、ローザンネみたいに美人ではないのだが、かなり綺麗な人だ。

 歳はアラサーくらいかもしれないが、愛嬌のある笑顔で親しみやすい雰囲気がある。

 すれ違う人が振り返るのを見ると、モテるんだろうな。



「ヨランダさんはパウエルさんの彼女?」


「いや、まあハイ・・・そうですね」


「公私共に支えてるって事ね」


 イケメンな挙句に綺麗な彼女か。

 パウエルが羨ましい。



「ヨランダさんはニックから、避けられてはいない?ニックの会社に行っても平気なら、一緒に来てほしいんだけど」


「大丈夫ですよ。護衛は護衛。ニックは街で会っても、私の事は気にしていません」


「じゃあ一緒に行きますか。ニックと少しくらい、ゆっくり話してて下さい」





 ニックの会社に行くと、何故か入り口の横には足の裏を見せた糸目の銅像が置いてある。

 大阪で見た事あるヤツだ。

 名前なんだっけ?

 分かったところでフーンで終わるから、別に知らなくても良いんだけど。



「こんちわ。太田、じゃなくて軍曹に会いに来たんですけど」


 受付の人に話すと、太田達とすぐに面会が出来た。

 案内された部屋は、ちょっと大きな会議室のような場所。

 太田達は交代で、ニックの護衛をしているらしい。



「ヨランダやないか。何か用?」


「お前、女の人が訪ねてきてるんだから。もうちょい愛想良くしたら?」


「おおぅ!魔王様やないか!」


「魔王様?」


 ヨランダが不思議な顔をしている。

 マズイ。

 ケンイチで通しているのに、この馬鹿のせいでバレてしまうではないか!



「アイアムケンイチ。あーゆーおーけー?あんだすたーん?」


「おーけーおーけー。ゆーあーケンイチ。あーはん」


 お互いにウザい英語で会話したところで、ニックは俺がケンイチと名乗っている事を分かってくれたようだ。



「ヨランダさん、ニックとちょっと話でもしててもらって良いかな?俺は軍曹達と話があるから」


「残念やけど、ワタシこれから仕事なんや。ヨランダやったら別に居てくれて構へんので。ゆっくりしてってや」


 ニックはそう言うと、奥の部屋に行ってしまった。

 奥の部屋には官兵衛と長谷部が居る。

 だから今は、太田達は護衛をしなくても良いらしい。



「さてと、俺が向こうでした話を聞いてもらおうか」





「そんな事があったんだ」


「ニック殿にワタクシ達から話せば、分かってもらえるのでは?」


「意固地になるだけな気もする。だから俺は、パウエルに頼まれた事を実行するよ」


 さっきの話を、コバと佐藤さんを含めたメンツで聞いてもらった。

 この話を聞いた佐藤さんは、護衛関係無く協力をすると言ってくれている。



「佐藤さんは長谷部と一緒に、ニックの事を守ってほしいかな」


「他の三人は?」


「人材探しをしてもらうつもりなんだけど。佐藤さんがする?」


「俺はやめておこう。あまりそういうのは得意じゃないし」


「吾輩も交渉は門外漢である。大人しくここに居よう」


 コバには最初から期待していないが、佐藤さんもやはり交渉は苦手のようだ。

 というよりは皆、目を逸らしている。



「俺、交渉はてっきり官兵衛殿がやると思っていたんだけど」


「僕も」


「ワタクシもです」


「官兵衛はちょっと、別件で相談があるんだ。だから三人でお願いしたい」


 官兵衛にはニックが狙われている話をして、犯人探しの協力をお願いしたい。

 暗殺者を捕まえても、首謀者を必ず吐くとは限らない。

 だからこそ、官兵衛が必要なのだ。



「あの、ちょっとよろしいですか?」


 スミで話を聞いていたヨランダが、ちょこっと手を挙げてきた。

 交渉について、何やら質問があるようだ。

 連合の人間に話して良いものか少し迷ったが、護衛は護衛という言葉を思い出し、俺は素直に話す事にした。



「という事は、ケンイチくん達は安土に来てくれる人材を探しに連合に来たと?」


「ぶっちゃけるとそうね。そういう人、心当たりある?」


「うーん、居なくはないと思いますよ」



 彼女の話によると、そういう人達は結構多いとの事。

 連合の中でも一番大きなこの街には、独立したくても出来ない人が多いらしい。



 理由は簡単。

 人脈が無いから。

 腕はあっても仕事が無い。

 だからこの街を出て一念発起で起業する人も居るが、どちらにしろ新しい土地で人脈があるわけでもなく。

 大抵の人は失敗する。

 彼女は新しい街まで護衛を頼まれたものの、結局は新しい街でも仕事が無く、依頼金をもらえない事もしばしばあったという。



「ヨランダさんでしたね。素晴らしいです!」


 ハクトに満面の笑みで両手を握られた彼女は、顔が真っ赤になった。

 フハハ!

 安土が誇るイケメンを使えば、女性を落とすなど造作もない。



 しかし、問題もあった。



「要は引き抜きになるわけです。相手が誰だか分かると、それはそれで苦情が来るでしょう」


「でも、引き抜きをしてるのが俺達だって分かっても、関係無いよな?」


「いえ、駄目でしょう。皆さんはニックの護衛だと知られてますから。ニックに苦情が行くと思われます」


 それは駄目だ。

 ニックも安土と関係があると、バレてしまう。

 その場合、彼の会社に問題が起きる。



「そうなると、佐藤さんとかコバみたいな顔バレしてない連中がやるしかない?」


「俺は無理だって!」


「断るのである」


 二人とも全力で拒否してきた。

 アレ?

 これ詰んだか?



「・・・嫌じゃなければ、方法が無くもないです」





 ヨランダは三人を見て、多分大丈夫だと言った。

 少しだけ待っててほしいと言われた俺達は、官兵衛に話を聞きに行った。



「やはり試験で盛大に顔がバレてしまったのが、問題ですね」


 官兵衛も少し考えさせてほしいと言って、人材探しは暗礁に乗り上げる事になってしまった。

 もう頼れるのは、ヨランダしか居ない。

 そして待つ事一時間。



「戻りました!」


 彼女は少し大きめのバッグを持って、帰ってきた。

 何かを買ってきたようだ。



「何これ?」


「ローザンネさんの店で買ってきました」


 ローザンネの店って、何を扱ってるんだっけ?

 そう思いながらバッグの中を覗くと、見た事はあるが見慣れない物を多数発見した。



「これは何に使うんだ?」


「ワタクシも初めて見ました」


 蘭丸や太田達は、それを手に取ってはジロジロと見回している。

 使い方が分からない小さな物に、彼等は興味津々だった。

 そして、知っている者達も居た。



「ま、マジか」


「これは吾輩、絶対に拒否をさせてもらうのである。もし吾輩を巻き込むというのなら、吾輩は安土を離れるぞ」


 顔を引き攣らせて答える二人。

 自分達は留守番で良かった。

 心の底から二人は言った。



「阿久野、じゃなかった。ケンイチくんもするの?」


「俺!?俺は人材探ししないから!そこはほら、やっぱりね。美形がやってナンボでしょ?佐藤さんもそう思うでしょ?」


「うーん、確かにな。俺がやったら、肩周りとかヤバいもんなぁ。自分を想像するだけでキモいわ」


 よし。

 俺から意識を逸らす事は出来たぞ。



「三人は良いのか?」


「何が?」


「コレをやる事」


「僕達、何をするんです?」


 そうか。

 三人はヨランダが持ってきた物が何なのか、それ自体が分からないんだった。

 という事は、これから何をするかも分からないんだ。



「えっとね」


「私が言います」


 何故かここでヨランダが前に出てきた。

 蘭丸とハクトを見て、何かを確信したように頷いている。





「三人にはこれから、女性になっていただきます。女性の姿ならば、ニックの護衛だとは絶対に思われませんから」

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