ようこそ異世界へ
「・・・神様って本当にそんな事言ったんですか?」
「だとしたら、神様ってひとでなしじゃないか!」
コイツ等信じてないな。
ジャイアニズムというモノを教えなくてはならないようだ。
「いいか。この言葉はGを冠する神が発した、とても意味のある言葉だ。彼は普段、ジャイという邪神に近い存在である。ある時は他の神を泣かし、ある時はまた違う神を殴る。とても怖い神なのだ」
神が神を殴る。
彼等にはとても恐ろしい事なのか、顔が青褪めている。
無口なスロウスも、神様怖いとずっと言ってるし。
「しかし、彼は時に力のある慈悲深い神に代わる時がある。そう映画の時だ!」
「えいが?大陸の危機とかの事でしょうか?」
「うむ、あながち間違っていない。そして映画の時、彼はジャイからゴーダに変わるのだ!ジャイの時はさっきの言葉が実行される。しかし彼がひとたびゴーダに変わる時、周りの神々は彼のこの言葉に期待するだろう。おぉ!心の友よ!」
「おぉ!心の友よ!なんという素晴らしい言葉。神は二面性を持つ事で、試練を与えているのですね」
試練って何だ?
ただテレビと映画で、性格変わるよねってだけなんだが。
まあこれで信じてもらえただろう。
「お前の物は俺の物、俺の物は俺の物。神の使徒たる僕が使っても、問題は無い!」
キリッ!と言ったものの、ただの傲慢野郎である。
細かい事は気にしたら負け。
僕が頂くと言ったら頂くのだ。
「ハハァ!流石は神の使徒であるマオ様。敵対する者にはジャイの心。同じヒト族であっても、私達にはゴーダの心で接していただいているのですね!このズンタッタ、敬服いたしましたぞ!」
うん?
何か物凄く勘違いされた気もするが、良い方向に勘違いしてもらえたようだ。
訂正はしないという事で!
「分かってもらえたようで何より。では、そろそろ作戦を考えよう」
傭兵の数は二十人~三十人。
傭兵の装備は雑多な既製品で粗悪っぽい。
魔物の数も約二十体前後。
いつ魔物を引き取りに来るか分からない。
という事は、もしかしたら敵の援軍が来るかもしれない。
それに魔物をこちらに向けられることも考えないといけない。
勝つだけなら勝てるけど、魔物は皆殺しにしないと無理だろう。
以上の事から、真っ向から行くのは得策ではないと思う。
「あの魔物を頂くには、真正面から行っても駄目だね。生かしたままもらわないと意味が無いし」
「傭兵だけを行動不能にするなんて、出来るんでしょうか?」
出来るんです。
僕が覚えたあの魔法、あまり役に立たないと思っていたが、こんな使い方があるとはね。
「大丈夫だ。ただこの魔法、近付かないと使えない。だからまずは、僕一人で傭兵の所に行くとするよ。様子を見て異変に気付いたら、僕の所に来てほしい」
「一人で大丈夫なんでしょうか?って、魔王さまなら心配いらないですね。では、見つからないよう隠れています」
そういうわけで、作戦開始だ。
「あれれ~?ここは何処だろう?」
「何だ!?ダークエルフのガキだと?こんな所で何してやがる」
フッフッフ。
久しぶりの身体は子供、頭脳は大人作戦で行かせてもらう!
どうせだから、色々と盛ってやろう。
「おじさん達、誰~?こんな所で何してるの?」
「おじさん達は仕事してるんだよ~。坊主は何でこんな所に居るのかな?」
油断させるつもりなのか。
子供をあやすような言い方をしてくる。
むさいおっさんが言ってくると、正直キモいな。
「僕ね~、お姉ちゃんとはぐれちゃったんだ。らんま・・・蘭お姉ちゃん何処行っちゃったんだろう」
「へぇ、お姉ちゃんも来てるんだ。お姉ちゃんはどんな人?」
「お姉ちゃんはイケメ・・・じゃなくてすっごい美人なんだ~。色んな人からキャーキャー言われてるよ」
予想通りだな。
コイツ等、ゲスい笑顔が隠しきれてない。
大方、僕をエサにしてその姉ちゃんを犯そうとか考えてるんだろうな。
蘭丸よ、彼等の脳内で酷い目に遭ってるぞ?
「あ、あぁ・・・。マオくん、とても恐ろしい事言ってるよ。こんなの他の人には言えない!」
「どうした!?何を言ってるんだ!?もしかして危険なのか?」
「危険なのは蘭丸くんだよ!口に出すのも恐ろしい・・・」
「おい!俺が何だ!俺に何があるんだ!?言ってくれ!」
しかし口には出さないハクト。
身体を揺す振りながら聞き出そうとするが、目を反らして断固言わない構えだった。
「後で本人に聞いた方が良いよ・・・」
なんて、遠く離れた所で話題になっているなんて、全く知らなかった。
「そうか。じゃあお姉ちゃんが来るまで、俺達と一緒に居るか!」
「良いの~?アリガト~!」
ニヤニヤした顔を隠しきれてないが、ここは見て見ぬフリをしてやろう。
だって僕は大人だからな!
「ところで坊主の名前は何て言うんだ?」
「僕?僕はあく・・・じゃなくてマオだよ!おじさん達よろしくね!」
ちょっと名前を言うのに戸惑ってしまった。
変に勘繰られなければいいけど。
「マオか!じゃあその蘭って姉ちゃんの事、詳しく聞かせてくれよ!」
「えっ!?」
「だって、どんな人だか分からないと、来た時に見間違えるかもしれないだろ?」
予想外の展開だ。
このまま放置されている間に、詠唱しちゃおうと思ったのに!
余程、美人でキャーキャー言われてる蘭丸くんに興味があるようだ。
盛りに盛って、その性欲をムラムラとさせてあげよう。
ハッハッハ!
楽しくなってきた!
「な、なんだ!?なんか今、まとわりつく視線のような気配が!?」
「それも後で聞いた方がいいよ。もう僕は笑いが・・・じゃなくて、恐ろしくて言えないから」
「笑い?恐ろしいのか面白いのか、どっちなんだ!?」
「・・・どっちだろうね」
「目を見て言ってくれ!おい!おーい!」
「お姉ちゃんはね~、とても女らしくて頭も良いんだよ。それに皆のまとめ役とかもやってて、ホントに凄いんだ~」
「へ、へぇ。それは会ったら期待しちゃうなぁ。背とか胸とかも大きいのか?」
お前、それは聞いちゃダメだろ。
狙ってると自分で言ってるようなもんだぞ。
しかし僕は空気が読める男。
答えてあげるが世の情けですよ!
「背は普通かな?胸はね、おっきいよ!エルフの中でもかなり大きい方じゃないかな~?」
「そうか!いや~良い事聞いた!ありがとな!」
周りの傭兵も、めっちゃ鼻の下が伸びてる。
聞き耳立ててたな?
その脳内彼女に、股間の槍でも突っつきたいんだろうけど。
代わりに本物の槍で突っつかれると良い。
「おじちゃん!じゃあ森の中を見てた方が良いんじゃない?お姉ちゃんが来るかもしれないよ?」
「そうだな!早く来ると良いな!よし、おじさん頑張っちゃうぞ!」
そうそう。
そうやって周りを見渡していたまえ。
その間に僕は詠唱でもしておくから。
頑張って脳内彼女を探してよ。
あくどい顔をしながら、僕はニヤリと笑った。
「何だ?指先がピリピリしてきたな。俺、疲れてるのかな?」
「お前もか?俺もさっきから足が痺れてきたんだよな」
だんだんと気付き始めてくる傭兵達。
でも、時間差でゆっくりと効いてくるはず。
僕も初めて使うからね。
時間はどれくらいかかるか、よく分からないんだよね。
「おい!身体がおかしい!剣も持ってられない!」
「あ・・・俺もう駄目だ」
ガシャン!という音を立てて剣を落とす傭兵。
輪っかを取り付けようとして、そのまま魔物に顔を埋めたように倒れる奴も居た。
よしよし、全員倒れたな?
魔物にも効いているらしく、横たわったまま動かない。
どうやら初めての割には、完璧に成功したようだ。
「あれれ~?おかしいな~?皆眠くなっちゃったのかな~?」
と、顔はゲスい笑顔で傭兵達に向かって言ってみた。
異変に気付いた蘭丸達も、全員こちらに向かってきている。
「お、お前!何しやがった!?」
「何しやがったって?別に魔法唱えただけだよ?」
今度はゲスバージョンではなく、子供っぽいバージョンで言ってみる。
ハハハハ!その悔しそうな顔。
めっちゃ気持ちいい!
【お前、めっちゃゲスいぞ。見る人が見たら、完全に悪役だわ】
だって魔王だもーん。
悪役上等!
文句があるなら、立ち上がってみるがいい!
フハハハハ!!
「これ、どうやったんだ?」
「おう、蘭丸。初めてだったんだが、毒魔法の麻痺を使ってみた。傭兵連中だけじゃなくて、魔物まで効くとは思わなかったけどね」
蘭丸という声を聞いて、身体が痺れて動かないはずなのに、視線だけがこっちを向いてきた。
「めちゃくちゃ見られているんだが、俺が何かしたのか?」
「あ、蘭お姉ちゃん!待ってたよ~!」
「何だ!?気持ち悪い声出すんじゃねえよ!」
驚愕の顔をこちらに向ける傭兵。
騙しやがったな!とでも言わんばかりに、睨んできている。
「彼等はね~、僕がエルフのお姉ちゃんとはぐれて、此処に来たと思っているんだよ。美人で気立てが良くて、まとめ役もやっちゃう巨乳なお姉ちゃんをね」
「へぇ、そんな人待ってるんだ」
「そう、お姉ちゃんの名前はお蘭なんだよね~」
「お蘭ね・・・って俺の事か!?」
「アーハッハッハ!!気づいちゃった!?ちょっと面白かったから盛りに盛ってみました。森くんだけに」
ズンタッタ達にはシラーっとした空気が流れている。
だがここは、空気が読める僕には通用しない。
蘭丸は顔を青褪めさせているが、まあそれは置いておこう。
「キミ達が脳内で犯そうとしていたお姉ちゃんは、彼女・・・ではなく彼だ。股間の棒を彼に突きたかったんだろうけどさ、どうせだから彼に突いてもらいなよ?」
創造魔法で鉄棒を作り、蘭丸に渡す。
「蘭丸くん、さっき言ってた視線って、この人達の事だから・・・」
ボソッと耳元で教えるハクト。
それを聞いて、こめかみに血管が浮き出た。
「ほほう?キミ達は俺と何かをしたかったと?」
「何かではなく、ナニだと思います!」
敬礼ポーズで言ってやった。
「お前は黙っとれ!後で覚えとけよ?」
え?何で?
僕も怒られるの?
「マオ様、彼等をどうするおつもりですか?」
「どうもしないよ。蘭丸がやる事を見てるだけ。一緒にやっても良いよ?」
ラコーンが訊ねてきたけど、別にどうもしない。
動けない相手、ちょっと面白いから悪戯するだけだから。
しかし予想しなかった相手が棒を握った。
「ウフフ、やろうかな・・・」
スロウスはそう呟きながら、彼等に近付いていく。
「お、お前等やめろ!帝国に喧嘩売ったらどうなるか分かってるのか!?」
あれ?怒鳴れるくらいには麻痺が解けてきたかな?
首も動かしてるし、そんな長い時間は効かないのかもしれない。
「お前達の雇い主は王子であって、帝国ではない!」
ズンタッタが傭兵に怒鳴りつけた。
そしてズンタッタも棒を持つ。
「顔はやめときな。お尻にしな!お尻に」
「や、やめ・・・ああぁぁぁ!イッタ!凄い痛い!!」
ズンタッタと蘭丸は傭兵達のケツに、ひたすら棒を振り下ろした。
バチン!バチン!と音を立てて、凄い痛そうである。
しかし、一人だけ使い方が違う男が居た。
「あー!やめ!イタイタイタ!痛い!あ・・・」
傭兵が変な声を上げている。
スロウスが相手をしている傭兵だ。
彼の場合は棒を振り下ろさない。
突き刺すのだ。
そして出したり引いたり、たまに捻ったり。
それはもう、ゆっくりとやっていた。
「フフ、面白い反応・・・」
怖い!怖すぎる!
でも痛めつけるより、精神的に来るものがあるだろう。
蘭丸達もそれに気付いたのか、やり方を変えた。
いやらしい笑顔と共に・・・。
「や、やめ!まだ振り下ろされる方が!あー!」
「あっ!あぁ・・・。何だろう、この気持ち」
「俺、この棒無しじゃ生きられないんだ・・・」
傭兵達は様々な反応を見せる。
既に何人かは、僕も知らない世界へ旅立ったようだ。
ようこそ異世界へ!
【異世界って、それ使い方違くない?】
知らない世界なんだから異世界なんだよ。
そして唯一近寄らないのは、シーファクである。
顔を赤くしながら、両手で顔を覆っている。
指の間から、目は見えているけど。
ハクトは一番酷い。
「エイッ!エイッ!どうだ!」
とにかく力一杯、尻を突いている。
これは予想を反して見ていられないレベルだ。
そっと、彼の手を止めてあげた。
「よーし!だいぶおもしろ・・・じゃなかった。彼等にも痛い目を遭わせられた事だし、満足したな」
今更ながら棒を持とうとしたシーファクは置いといて、僕は尋問に入る。
「お前等、本当にさっき言ってた事以外知らないんだな?」
「知らない!本当だ!いつ来るか知らない!」
「ん?いつ来るかは知らない。じゃあ誰が来るかは知ってそうだな」
しまったというような顔をしているが、そうかそうか。
まだお仕置きが足りないようだ。
「シーファクさん、まだやってなかったね?どうですか、彼はまだ突かれたりないようで」
ちょっと嬉しそうな顔をして彼に近付いていった。
「ちょっ!?待って!ま・・・あー!!」
ほう、彼女はやり方が違うようだ。
棒を入れたら、とにかく右に左に捻りまくる。
やりきったみたいな、めっちゃ笑顔やん!
「さて、彼女の次の獲物になりたくなかったら、誰かが早く言った方が良いんじゃないかな?どうせだから、二本持ちでやっても良いですよ」
もう一本渡し、次のお尻を狙う彼女。
狙いを定めたようで、尻の真上に棒を持ち上げる。
笑顔が怖いわぁ。
「待って!言います!今すぐ言います!」
残念そうな顔をしているが、片手は左右にグリグリしている。
片手じゃ足りないなんて、恐ろしい子!
「いつ来るかは本当に分からない。でも来るのは帝国の兵じゃない!魔族だ!」
えっ!魔族!?
これは一番に考えられるのはドワーフなんだけど、ドワーフに精神魔法の使い手が居るって事か?
でもそれなら、そのドワーフが来た方が早い気もするんだけど。
考えてても仕方ない。
続きを聞こう。
「魔族なのは分かった。それはドワーフか?それとも違う魔族か?」
「ドワーフではないと思う。フードを被ってて顔は見えないんだ。だけど、背の高さが違う。ドワーフならもっと小さいと思う!」
「そうか。違うのか」
ズンタッタにも目を向けたが顔を振っている。
どうやら知らない情報らしい。
「分かった。じゃあここでその魔族とやらを待ってみよう。じゃ、シーファクさん」
えっ!?という視線をこちらに向けてくる傭兵とシーファク。
でもね、そんな事は知らないの。
だって僕は悪の魔王なんだから。
「魔王様、これを使うわ」
「えぇ、よろしくてよ」
うわぁぁぁ!!と言わんばかりに、そのまま尻に棒を突き刺す彼女。
良い笑顔だね。
「ひでぇ、言ったのになんて奴だ!俺達の尻を何だと思っていやがる!」
「何って、そりゃ・・・穴かな?」
「この悪魔!魔王だってこんな酷い事しないだろ!」
いや、魔王だからするんです。
「控えおろう!控えおろう!」
太田が彼等の前にズズイっと出てくる。
僕、家紋は知らないし、紋所は作ってないからな。
「この御方を何方と心得る!こちらにおわす御方こそが真の魔王、阿久野真王様で在らせられるぞ!」
何でコイツ、こんなセリフ知ってるんだよ。
僕だって再放送しか見た事無いのに。
「ま、魔王!?帝国の王子様が魔王なんじゃないのか!?」
「魔王を僭称した偽物などと一緒にするでない!この御方こそ、神に選ばれた本物の魔王。神の使徒であるマオ様で在らせられる!」
なんかズンタッタもノリノリに見えるな。
やけに神の使徒を推すし。
「神の使徒だって!?でもそんな事、信じられると思うか?」
「そうだな!そんな事言われても、証拠が無いもんな!」
証拠なんか無いよ。
だってデマカセなんだから。
別に信用してくれなくてもいいんだけど。
って思ってたら、また例のアレが来た。
何故か今回は急ぎっぽい。
煙を巻き上げ、僕等の横にそれは止まる。
「ちわーっす!エンジェル急便でーす!」