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健康志向

 化け物はどんなに傷付けても死ななかった。

 爪や牙がある事から何かしらの魔物なのは分かるが、肉片がウネウネ動きながら戻っているだけで、元々の姿が分からない。


 初めに遭遇した又左は、虎だと勘違いしたらしい。

 追い返すつもりが襲ってきたので、渋々攻撃すると今のように回復をする始末。

 手に負えない彼等は、僕へ救援を頼んだという事だった。


 そんな中、ハクトが森の中に何か居ると言い出した。

 蘭丸に森の中へ弓で攻撃させると、彼等は声を上げた。

 やはり誰か居るらしい。

 彼等を森の中から出す為に、光魔法と弓矢で攻撃。

 すると矢は当たったものの、こっちにも被害が出てしまった。

 見るなと言ったのにガン見した前田兄弟は、目をやられてしまった。


 ようやく森から出てきた男は、鎧兜に身を包まれていた。

 その男は話の中から、ローマンだと発覚。

 彼はエーレンフリートの前で恥をかいた事から逆恨みして、僕等にあの化け物を襲わせたという事だった。

 話をしていると、前田兄弟の代わりに化け物の相手をしていた蘭丸が、慌てて戻ってきた。

 彼が言いたかった事、それは魔物が僕等の魂の欠片を取り込んでいるのではという話だった。





 自分でもなんとなく感じる程度の、本当に微弱な魔力だった。

 蘭丸も修行の成果か、魔力感知が敏感になっているようだ。



【俺には全く分からん。というか、もし欠片だったとして、俺とお前。どっちの欠片なんだろうな?】


 それは確かに気になるところだけど、それにはこの死なない回復能力が関係してるんじゃないかな。

 でも、そう考えると僕はあんまり思い当たらないんだけど。



【回復能力かぁ。多分、俺だな。というか、確実に自分だと思う】


 分かるの?



【俺さ、高校の時に結構大きな怪我をしたじゃない?そのせいでドラフトからも外れたんだけど、あの時に思ったんだ。怪我をしない身体作りをしようって】



 僕もリハビリ大変そうだったのは覚えてる。

 あの頃は大学側も推薦で取るのは渋ってた学校が多かったみたいだし、怪我のせいで少し荒れてたんだよね。

 手助けしようにも、生活の中で軽い事しか出来なくて、少し歯痒かったな。

 本人には言わないけど、アレを乗り越えて更に上の段階へ行った兄は、本当に凄いと思った。



【俺はアレから毎日続けていた。カルシウム不足しないように牛乳に青汁を入れて飲み、マズイ!という日々。食べ物も肉の脂は極力避けたなぁ。今は反動でガッツリ食べてるけど】


 青汁はリハビリに関係無くない?



【馬鹿だなぁ。飲んでると分かるんだよ。俺、血がサラサラになってるって。多分だけど】


 多分なんだ・・・。



【そう考えると、あの超回復は俺の欠片だな。健康志向を魔物に持たせると、あんな風になるって事だ】


 健康に気を使う魔物なんて、聞いた事無いけどね。

 でも、対策は分かった。



「聞け!あの魔物の中に、僕等の欠片が入ってる。それを取り出せば、あの超回復は無くなるはずだ」


「なるほど。魔物だからと思っていたが、人外過ぎるその力は魔王の力って事ね」


「魔王様!何処にその欠片はありますか?」


「太田よ、よく聞いてくれた。サッパリ分からないから手探りだ」



 微弱過ぎる魔力は、奴のどの辺りから発せられているかは分からない。

 しかも気付いたのは蘭丸だけだ。

 そんな蘭丸でも、動く奴の何処にあるかまでは分からなかった。



「阿久野くん。俺達もしかして、あの肉片の中に手を突っ込んで探せと?」


「佐藤さん、鋭いですね。頑張って下さい!」


「それは無理!俺、ホラーとかグロ画像だって元々苦手なのに、そこまでは出来ないよ!」


 佐藤さんはお手上げとばかりに、必死に無理無理と言ってきた。

 というか、流石にこの肉片の中に手を突っ込むのは、誰もが嫌みたいだな。

 全員が目を逸らしている。



「仕方ない。ここは本人に取り戻してもらいましょう」


「本人?」


「自分の欠片なんだ。そこは自分でね」


【お、お前ぇぇぇ!!】



 だってしょうがないじゃないか。

 誰もやりたがらないんだ。

 あの太田ですら、目を逸らすんだよ?

 取り返すなら、自分の手で。

 頑張って!



【お前が代わりにやれば良いじゃないか!】


 僕の身体能力じゃ、暴れられたら対処出来ないから。

 仕方ない。

 どうにかしてあげたかったなぁ。



【ち、ちくしょうがぁぁぁ!!】





「あの野郎。有無を言わさずに代わりやがった!」


(僕の心のHPはもう、瀕死だったんだ。アレを見るのはもう辛い)


 生で見ると、本当にキツいものがあるな。

 こ、これに手を突っ込むのかぁ・・・。



「ヌハハハ!嫌がっているぞ。化け物よ、やってしまえ!」


 ローマンの野郎、偉そうにしてる割にめちゃくちゃ後ろだな。

 この状況をアイツが作ったと思うと、段々腹立たしくなってきた。

 どうにかして嫌がらせをしてやりたい。



(それなら良い手がある)


 お、流石は悪巧み担当。

 言ってみたまえ。



(誰が悪巧み担当だ!まあ良い。僕が考えたのは、あの化け物を向こうに向かわせるという事だ)


 ほほぅ?

 面白そうではないですか。



(まず、又左と慶次を叩き起こして、森の反対側へ向かわせるんだ。そして、向こう側から殺さないように攻撃させて、こっちへと追いやる)


 でも、上手く向こう側に行くか分からないだろ。



(だからそこは、土壁で僕達の前だけ区切るんだよ。壁の反対側にはローマン一行が現れる。自ずと化け物も向こう側に行くでしょ)


 なるほど。

 じゃあ、この二人を起こすとするか。



「おい、直視バカ二人。起きやがれ」


 俺が未だに目を閉じて転げ回る前田兄弟に、蹴りを入れた。



「痛っ!攻撃でござるか!?」


「バカチン!化け物に攻撃されてたら、こんな軽いはずないだろ」


「魔王様でござるか?」


 目をショボショボさせながら、ようやく目を開け始める二人。



「見えるか?」


「辛うじて」


「ゆっくりで良い。目が回復したらあの連中の裏に回って、こっちに追い立てるんだ」


「あの連中?」


 そういえばこの二人、ローマン達が出てくる前に目がやられたんだったな。

 又左がローマン達を確認すると、何故そんな事を?と聞いてきたので、説明をしておいた。



「あの連中が化け物を・・・。分かりました。殺さないように気を付けます」


「面倒でござるな」


「面倒とか言うな!」


「痛っ!兄上、冗談でござる」


 頭を叩かれた慶次は、早速森の中へ入っていった。

 又左も違う方向へ向かって入っていく。

 どうやら逃げられないように、二手から追い立てる作戦らしい。



「さて、俺も集中して自分の魔力を探さないとな」


「あの、魔王様?」


「ん?ニックだっけ?何だ?」


「あ〜いや、なんちゅうか・・・雰囲気変わられましたね」


「あ、そう?俺の方が頭良さげに見える?」


「今の方がその姿に合うてますね」


「・・・ん?それは俺が、ガキっぽいって事じゃねーか!」


 このおっさん、ムカつくわぁ。

 アイツも俺も、大して変わらないだろ。



(ごめんねぇ。大人の雰囲気醸し出しちゃって)


 お前は背伸びしたガキに見えてるんだろうよ。

 要はマセガキに思われてるんだ。



(負け惜しみ乙!)


 クソー!

 ニックがあんな事言わなけりゃ!



(それよりも、欠片の在処は分かったの?)


 難しいな。

 本当に小さくしか感じないんだよ。



「蘭丸!お前、何処か分かるか?」


「すまない!俺も詳しい場所までは分からない。ただ、下の方から感じるんだが。お前はどうだ?」


 下?

 下半身って事か?

 うーん、言われてみると確かに感じるかな?



「何を言ってる!?最期の足掻きか?わーはっはっは!」


「うるさいぞ!取り巻き貴族が!エーレンフリートが居なきゃ、何も出来ないんだろ!」


「ぐぬっ!」


「エーレンフリートさまぁ助けて下さいぃぃ!って、泣きついてこいよ」


「このクソガキが!お前達、アイツを殺れ!」


 俺の挑発もイケるじゃないか。

 さっきは弟と言い合ったけど、アイツが特別なんだな。

 つーか、コイツが煽られ慣れてないだけか。

 これでも貴族だし、馬鹿にされる事の方が少ないんだろう。



「ローマン様!それよりも森の中から攻撃が!」


「ななな何だ!?」


 なるほど。

 殺さないようにという配慮なのか、石が森の中から飛んできている。

 ただし問題は、そのスピードだ。

 一般人からしたら相当速くて、肩に当たった奴は叫びながら後ろへ吹き飛んでいる。



「こっちも駄目だ!前へ逃げるぞ!」


 二方向からの投石に、段々と化け物の方に寄ってくるローマン一行。

 俺もムカつくから、ローマン目掛けて石を投げた。



「イテッ!このガキ!」


 手加減し過ぎたか?

 頭に当たっても全然元気である。



(よし!今だ!)


 今って、どうやって覆うのよ?



(どうやってって、魔法でも何でも良いじゃないの)


 ・・・そこだけ手伝って下せぇ。



(もう!一本道にするから、佐藤さん達を下げて)



「皆、一旦距離を取れ!」


 爪を弾いたイッシーとバルデッシュを叩きつけた太田以外は、普通に後ろへ下がってきた。

 二人も声を聞いて下がったが、一番攻撃をしている太田の方へと化け物は肉を垂らしながら走っている。



「そりゃ!完成じゃい!」





 太田と化け物の間に、土壁が高く上がる。

 化け物はビックリしたのか、壁にはぶつからずに止まった。



「皆、小休憩だ。後はローマン達に任せよう」


「疲れたぁ!」


 佐藤さんはドサっと、その場に座った。

 イッシーも大きな石に腰を掛けて休憩を。

 蘭丸だけはまだ元気だった。



「何をしはったんです?」


「ローマン達に化け物の目を向けた。壁で覆ったから、奴等しか中には居ない」


「それって、あの貴族様に押し付けたっちゅう事ですか?」


「押し付けたんじゃない。丁重にお返ししたのだ。ダーッハッハ!」


「え、エグいですわ・・・」


 ニックが顔を引き攣らせていると、中から声が聞こえてくる。



「魔王様、あんな感じで問題無かったですか?」


「又左も慶次もバッチリだよ!聞きたまえ、あの悲鳴を」





 多分、護衛の連中じゃないかな?

 必死に逃げてるんだろう。

 鎧がガチャガチャ言ってるのが聞こえる。



「馬鹿め!こっちには隷属の首輪があるのだ。主人である私には攻撃は出来ん!」


 おうおう、偉そうに護衛に説明をしているなぁ。

 隷属の首輪って、ツムジ達がされていたヤツだっけ?

 まあ闇市で出回るような魔物だし、そういう物がされていてもおかしくないか。



「この化け物が!止まらんか!」


「・・・ローマン様?」


「何故だ!何故止まらん!」



 どうやら魔物の時に着けた首輪は、効果が無かったようだ。

 焦る声と悲鳴が聞こえてくる。



「助け、助けて!」


「俺達は関係無いんです!だから!」



 外に向かって叫んでいるんだろう。

 でも、そういう仕事だって分かって受けたんでしょ?

 自業自得だ。

 剣の音も聞こえる事から、爪や牙を受けているのかもな。



「つーかさ、首輪がしてあるのに効かないのは何故なんだろう?」


「ワタクシ達が攻撃している時に、そんな感じの物を破壊したかもしれないですね」


「かもしれないって、分からないのか?」


 太田は見えなかったと言っているが、他の連中も分からなかったらしい。

 暗くて見えなかったのと、毛で隠れていたのかもしれない。



「誰か、攻撃した時にそんな物壊した気がする人。手を挙げて」


「めっちゃ空気ユルイですわぁ」


「はい、イッシーだけかな?」


「俺は剣で首を斬った時に、そんな物に引っ掛かった気がする」


「なるほど。じゃ、イッシーの勝ち〜」


「勝ち負けあるんかい!」


 ニックのツッコミに、イッシーと佐藤さんは拍手している。

 この二人はニックを、芸人とほぼ同じ感覚で見てるっぽい。



「魔王様、中が静かになりましたよ」


 官兵衛の一言で僕は壁へジャンプした。






「あぁ、こりゃニック達はキツイなぁ。全部バラバラになっちゃってる。もう誰が誰の手足だか、全然分からないぞ」

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