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キルシェへのお願い

 独占契約。

 ニックがそれにこだわるのは、理由があった。

 その大きな理由とは、今の連合を壊したいという仰天するような話だった。


 連合は昔、組合からスタートしたらしい。

 十数人の代表が指揮を取っていたのだが、気付くと三人に減っていたという。

 それは汚いやり方でライバルを潰すという、なかなか悪どい方法で手に入れた地位だった。

 そんな彼等を潰したい。

 それがニックの望みらしい。


 キルシェはそんな彼の会社との独占契約を渋っていた。

 王国に利益をもたらすなら、競合させた方が手っ取り早いからだ。

 しかし僕は、それは違うのではと反論。

 悪評高い相手と取引などしたら、せっかく生まれ変わると宣言した王国の印象も悪くなるからだ。

 彼女はそれを理解して、ニックとの契約を決定。


 そしていよいよ、僕にも契約を迫ってきた。

 ニックの狙いは、ラーメンを連合で扱うという事だった。

 しかしラーメン屋は魔族領限定である。

 よって却下したのだが、官兵衛がある提案をした。

 家で簡単に作れる、簡易版ラーメンはどうかと。

 試作してもいないのに、既に話は進んでいる。

 ニックは発売前に宣伝をするから、商品名を教えてほしいと言ってきた。

 僕がそれを答える前に、キルシェは高らかに言った。

 カップラーメンだと。





 何でコイツがこんなに乗り気なんだよ。

 ニックよりもテンション高くない?



「カップラーメンですか!戻ったら早速、発売予定と大々的に宣伝させてもらいます!」


「魔王様!是非とも王国にも!」


「陛下!それはあきまへん。ワタシの会社が独占契約するんです。そやから、ワタシの会社から買って下さい!」


「なんやのん。いけずやな」


 キルシェの関西弁?

 京都弁か?

 危うく可愛いと思ったけど、騙されてはいかん。

 中身はおっさん中身はおっさん。



「とにかく!まだ完成もしてないのにそんな話をするのは、取らぬ狸の皮算用って言うんだよ」


「そうでした。でも、契約を先に済ませるのはどないです?」


 魚と同じパターンか。

 長可さんと官兵衛を見たが、異論は無いらしい。



「私は魔王様が良いと思えば、悪くないと思いますよ」


「オイラも同意見です。フォルトハイム連合から世界へ。魔族が作った食べ物として発信するのは、良い事だと思ってます」


 二人の同意に、ニックはニコニコである。

 後は僕がOKを出したら、契約出来ると思っているようだ。



「魔族領以外では、ニックに任せようと思う。ただし、王国の王家だけはこっちから送るよ。フォルトハイム連合から送るより、安土から送った方が近いでしょ」


「ちょっと待って下さいよぉ!」


 なかなかの巻き舌。

 何かあるのかな?



「ワタシ、安土に支店作りますわ」


「えっ!?」


「土地建物買いますよって。安土でヒト族が店開いたら、あきまへんか?」


「いや、全然問題無いです」


「陛下には安土支店から送りますんで。よろしゅう頼んます」


 この人、マジで凄いな。

 話がポンポン進んでいく。

 上昇志向が強いからかクセも強いけど。



「それじゃ、魔王様も契約書を」


「そういう仕事は長可さんが担当なので。よろしゅう」


「べっぴんさんと一緒に仕事出来るのは、最高ですなぁ」


 キルシェと長可さんを交互に見て、彼はご満悦である。



 そんなニックだが、二件も契約を取ったのもあるのだろう。

 彼は必要な物があったら、必ず揃えると約束してくれた。

 だったら欲しい物を売っているか、聞いてみよう。



「ミスリルより凄い金属が欲しい。オリハルコンとか何かそんな感じの」


「オリハルコン!?そんなの伝説の金属ですよ!そんなの持ってたら、命がナンボあっても足りませんわ」


「命が狙われるくらいの品?」


 ニックが頷くと、キルシェも同意した。

 王国の書物にもミスリル以上の金属は見つかっていないと記されていて、未だに見た事は無いと言った。



「見つけたら買うよ」


「そんな無茶振りな!」


「カップラーメン作ってあげるんだから、頑張ってよ」


「割に合いませんて!」


 無理難題を言ってるのは分かってるので、見つけたらよろしく程度に考えといてくれと言っておいた。



「ところで魔王様。ワタシも安土行きたいんですけど」


「は?明日にはこの街を発つ予定だけど。準備出来てるの?」


「この街では、ワタシの仕事は既に終わってるんですわ」


 キルシェは耳元で、仕事が僕達との契約じゃないかと言ってきた。

 言われてみればそうかもしれない。

 後は部下にでも任せて、自分は支店作りに安土へって感じかな。



「馬車で来るの?それじゃ遅いから、置いていく事になると思うよ」


「魔王様は何で来たんです?」


「トライク」


 トライク?と首を傾げる彼に現物を見せると、これも売ってほしいと頼まれた。

 しかし魔力が無いと動かせないので、売れないのではと言うと、問題無いと彼は言った。

 悩んだ結果、トライクは少し保留にしておいた。



「これがあれば、馬も必要無くなると思ったんですけどね」


「普段のメンテナンスも必要だし、壊れても直す人が近くに居なければ手間だと思うよ。逆に馬を飼うより、高くつくんじゃないかな?」


「メンテナンスですか。なるほど。でもホンマ欲しいですわ」


 このままだとニックと、ずっと商談になってしまう。

 今日はこれで終わりにして、明日帰る準備をする事になった。





「いよいよお別れですか」


「キルシェも王都に戻るんだろう?」


「それなんですけどね」


 キルシェは大胆な事を考えていた。

 新しい王都として、このツヴァイトフルスに遷都をしようかと計画しているらしい。

 新たな王国には、新たな城を。


 ついでにマオーエリザベスの発着を考えると、すぐに情報が入ってくるこの街に移すのがベストだと言っていた。



「凄い事を考えるな」


「まだ計画段階です。貴族の反発もあるでしょうしね」


 遷都したら、王都に新しい屋敷を持たなくてはならない。

 その金を捻出するのが、中下級の貴族には難しいからだろう。

 金を使わせて、彼等の力を削ぐという意味合いもあるみたいだ。

 参勤交代みたいな考え方だな。



「というわけで、僕等は帰るけど」


「気を付けてお帰り下さい」





 その前に、いよいよあの話を切り出す時が来た。

 官兵衛を見ると、このタイミングがベストらしい。

 どういう顔をするかな。



「あ、そういえば!キルシェ、僕の願いを聞いてくれるって言ってたよね?」


「言いましたわ」


「思いついたんだけど、頼んで良い?」


「出来る事ならば」


 へーい、言質取ったぜぃ。

 耳元で僕はニック達にも聞こえないように、その願いを言った。



「船作ってほしいんだけど」


「・・・あぁん!?」


「キルシェさん!言葉遣い言葉遣い!」


「・・・どういう意味です?」


 あまりにドスの聞いた声に、周りの皆が振り返ってしまった。

 街の住民や知らない人達も、誰の声だと周りを見回しているくらいだ。



「実は東側の魔族領に行きたい。そこはクリスタルの産地として有名なんだけど、陸路で行くとどうしても帝国が邪魔になるんだ」


「なるほど。帝国を避けて行く為に、船が必要だと?貴方のグリフォンで、飛んで行けばよろしいのではなくて?」


「そうなると、僕一人しか行けない。クリスタルを持ち帰るにしても、ツムジだと少量しか持ち帰れないからね」


「・・・数年掛かりますわよ」


「あんなに大きくなくていいんだ。アレの半分くらいでも大丈夫かな?その代わり、武器を沢山搭載してほしい」


 キルシェは考え込んでいたが、僕がドワーフの援軍を寄越すと言ったら、OKしてくれる事になった。



 これは帝国に対抗する為に必要な案件だった。

 大きなクリスタルは又左達の武器に使用していたが、全て奪われてしまった。

 残った小さなクリスタルも大半は奪われ、残った物は少ない。

 それを凝縮して一つにするような技術は、コバでも難しかった。

 いつ牙を剥いてくるか分からない帝国に対して、戦力上昇は必須なのだ。


 そうなると考えられるのは、新しいクリスタルを手に入れる事。

 クリスタルの産地と言われる東の領地は、誰が行っても開く事は無いという話だ。

 しかし、僕は魔王。

 いかに彼等が誰とも会わないと言っても、流石に僕なら無視はしないだろうという考えがあるのだった。



「割に合っていませんわ!」


「船が出来る頃には、カップラーメン沢山送るから」


「しょう油味を多めにお願いしますわ」


 ちゃっかり希望も出してきたが、それくらいは許容範囲だろう。

 帰ったら、すぐにカップラーメン作りに励もうじゃないか。



「じゃ、今度こそ」


「船が戻ったら、すぐに連絡しますわ。マグロや鯛、期待していて下さい」


 トライクに乗り込んだ僕達は、彼女等との別れを惜しみつつ、ツヴァイトフルスの街を後にした。





「こ、こんなに速いんでっか!?」


「これでも控えめだよ。又左なんかフルスロットルに加えてノーブレーキだからね。キミ等を後ろには乗せられないレベルだ」


 ニックとその部下三人を含め、僕達は安土へと戻っている途中だ。

 彼等に合わせて往路より少し遅いペースで走っているが、それでもまだ速いらしい。

 スピードに慣れないのか、単に乗り物酔いなのか。

 部下は三人とも顔が真っ青になって、荷台から顔を出して吐いている。



「マオ、彼等このままだと死んじゃうんじゃないか?」


「そうだよ。急いで帰る必要も無いし、少しは休憩しようよ」


 蘭丸とハクトの言葉に、皆もそうするべきだと賛同する。

 軟弱だなぁと思いつつ、初めての乗り物じゃ仕方ないか。

 それにここで優しくしておくのも、魔族は良い人だと印象付けられるかもしれないし。

 皆の衆、感謝するが良い。



「今日はここで一泊かな。皆、胃の中の物全部吐き出したみたいだし」


「め、面目無い・・・」


 ニックが代表して謝罪してきたが、そんな彼もやっぱり吐いている。

 買わなくて良かったんじゃない?



 そんな彼等だが、やはり僕の魔法には驚いていた。

 まさか何も無い場所に、いきなり小屋が建つとは思わなかったらしい。



「魔王様が居れば、野宿要らずやないですか!こんなん使えたら、何でも揃うわ」


「人をコンビニみたいに言わないで」


「コンビニ?」


「あぁ、知らないか。そんなに安くないけど、多種多様な物が取り揃えられてるお店の事ね。場所によっては年中無休でやってるから」


「何やて!?そんな考えがあるなんて・・・。魔族領恐るべし!」


 魔族領には無いです。

 まあ、新しい営業スタイルがなんとかってブツブツ言ってるから、それなりに刺激になったんだろう。



「それよりも聞きたいんだけど。ニックの会社って、魚介類以外に何扱ってるの?」


「最近は運送業が主ですわ。下手に何かを売ろうとしても、何処ぞの会社が邪魔して来はるんで。今は我慢の時だと思うてます」


「大変なのね」


 軽い気持ちで聞いたのだが、なかなかにヘビーだった。

 こういう話を聞くと、少しは応援しないとって気持ちにはなる。



「マオくん大変だよ!」


「そうだな。大変だ」


「気付いてたの!?」


「あぁ、少しは手助けしようって気にはなってきたよ」


「本当!?又左さん達が相手をしてるんだけど、手を貸してくれる?」


 何の話?

 話が食い違ってるっぽいな。


 しかし、又左達が大変っていうのも違和感がある。



「何が大変なんだ?」


「さっき気付いてるって言ってなかった!?」


「なんかごめん」


「まあ良いや。魔物が襲ってきたんだけど、倒せないんだ」


 倒せない?

 いやいや、魔物ならこの戦力じゃオーバーキルするレベルだと思うんだけど。



「とりあえず来てよ!」



 僕はハクトの案内で、又左や慶次達が戦っているところへ向かった。

 そこで見たのは、かなりグロテスクなシーンだった。



「魔王様!気を付けて下さい!」


「強くはないが、油断していたらやられるぞ!」


 太田とイッシーが、必死に相手の気を引いている。

 確かに強そうではない。

 だけど、異常だ。





「見間違いかな?頭が吹き飛んでも、動いているんだが。この魔物、不死身なの?」

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