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ニックとの商談

 エーレンフリートはムカつく性格だった。

 安土が燃やされた事を引き合いに出し、それをネタに王族批判をする。

 彼は侯爵という立場ながら、その上の公爵家をも取り巻きに組み入れていた。

 キルシェを排除した後は、無能な公爵を担ぎ上げるつもりらしい。

 色々とガキ扱いまでしてくれて本当にムカついたが、舌戦はイーブンで終わった。


 進水式が始まった。

 マオーエリザベス号という、物凄いダサい名前の船が発進すると、街を出てすぐに船は止まった。

 キルシェの案内で先代九鬼嘉隆である爺さんと、久しぶりの対面を果たした僕。

 彼はヒト族の船員達からヨッシーという愛称で呼ばれ、親しまれていた。


 キルシェの計らいで、帰る前に街の散策をする事になった。

 運良く船に乗れなかった皆とも合流する事が出来て、全員で回る事が出来そうだ。

 そんな中、知らない男に声を掛けられたキルシェ。

 流石に陛下という呼び方で、ナンパは無いだろう。

 警戒しながら振り返ると、彼は自己紹介を始めた。

 彼はフォルトハイム連合からやって来た、ニックという男だという。





「フォルトハイム連合?」


 名前だけ聞いた事のある国だ。

 しかも関西弁ちっくな喋り方で、少し面白いぞ。



「ニックとやら。陛下であると分かっていて、よく声を掛けられるな。何用だ」


 ドルヒの威圧的な質問を、彼はいとも簡単に受け流す。



「嫌やなぁ、そんな怖い顔せんといて下さい。美人が台無しでっせ。ただちょっと、商売の話をしたいだけですやん」


「び、美人!?揶揄うんじゃない!」


 簡単に籠絡させられたドルヒだったが、僕はそれよりも気になる言葉を聞いた。



「商売の?」


「うん?キミはテープカットの時に居た、ちっさい子やんか。何であんな所に居たのか不思議だったけど、なるほどなるほど。周りの人達を見ると、只者とはちゃいますな」


 太田や又左、長可さん達を見て、様々な種族を率いる僕が普通ではないと判断したらしい。

 ただのお調子者ではないのかもしれない。



「申し訳ありませんが、お帰り下さい。私は今、大事なお客様との時間を過ごしておりますので」


 うーん、普段のキルシェより少しトゲがあるような気がする。

 軟派な男は嫌いかな?

 彼の横を、見向きもせずに通り過ぎるキルシェ。

 どうやら関わりたくないらしい。



「ちょっと待って下さいよぉ!」


 その巻き舌は、昔アニメでよく聞いた事がある。

 モノマネされまくっているが、僕もたまに風呂とかで真似したものだ。



「ちょっとくらいは、聞いてやっても良いんじゃない?」


 小声でキルシェに話し掛けると、彼女も同じく小声で返してきた。



「お前は馬鹿か?フォルトハイム連合は、ドルトクーゼン帝国の筆頭支援国だぞ。要はお前達の敵を味方する国の人間だ」


 なるほど。

 そういう理由なんだ。

 キルシェは僕達への筋を通す意味も込めて、彼を遠ざけてくれているっぽい。

 なんだかんだで良い奴だな。

 ただ予想外だったのは、そんな彼の頭が結構回るという事だった。



「陛下は連合が、魔族と敵対する帝国を支援してるのが気に入らないんちゃいます?さっき彼等を、大事なお客言うてましたし」


「そこまで分かっているのなら、お引き取りを願えませんか?」


「先に言うておきますけど、ワタシの会社、帝国とは一切取引しとりません!帝国とは関係無いんですわ。どうです?少しくらい話を聞いてもらえませんか?」



 必死に食い下がる彼は、自分は魔族と敵対していないと言い張る。

 キルシェも半ば諦めた顔をしている。

 ぶっちゃけドルヒに一言言えば、彼は斬り殺されてもおかしくない立場だ。

 それでもここまで粘るのは、本当に帝国とは関係無いのかもしれない。



「僕等の事を気にしているなら、別に構わないよ。キルシェも国の利益を考えて、美味い話なら乗った方が良い」


「ちっさい坊ちゃん、良い事言いますなぁ!」


 僕がそう言った事で、キルシェの態度は軟化する。

 しかし、逆に僕の周りが騒がしくなってきた。



「おい貴様。さっきから小さいとか、馬鹿にしているのか?」


「いけませんな又左殿。さっさと潰して挽肉にしませんと」


「私は太田殿と違って、潰すのは苦手ですから。だから細切れにするところまでやるので、挽肉はお願いします」


 本気の目をした二人に、ニックの顔は顔面蒼白になっていく。

 ドルヒに対してと違い、明らかに自分の身に危険が迫っていると分かったようだ。



「やめなさい。ちっさい子供みたいに小便ちびっちゃうよ」


「魔王様がそう仰るなら」


「魔王!?このちっさいのが!?あ、いや、この品のある御坊ちゃまが?」


 言い直すニックが余計にムカつく。

 だが彼は、又左と太田の威圧からは逃れられず、今は固まったまま動けていない。



「坊ちゃんじゃねぇから。それとアンタ。僕等はキルシェ達との時間を大切にしたい。だからその話は、後日にしてくれない?キルシェもそれなら良いよね?」


「そうですわね。魔王様がそれでよろしければ」


「ホテルはあの一番高いヤツだから。また今度アポ取って来てよ。じゃあね」


 僕は言うだけ言って立ち去ろうとすると、彼はまたしても声を掛けてくる。



「ちょい待って下さいな!」


「しつこいな!今度は何よ?」


「ま、魔王様ともお話したいんですけど。その時はお二人にアポ取った方がよろしいでっか?」


「ハァ?」


 まさかの言葉に、僕も変な声を出してしまった。

 コイツ、厚かましいというか、商魂たくましいというか。

 まあそこまで嫌いなタイプではないので、別に良いかな。



「明日まであのホテルに居るから。キルシェがOKなら、僕も会ってあげる」


「おおきに!明日必ず伺います!」


 彼はOKした途端に、何度も頭を下げてから立ち去った。



「なんか疲れたなぁ・・・」


「私も。あそこまでしつこい男性は、今まで居ませんでしたから」


 二人の感想が同じだと分かると、疲れには甘い物を食べようとなり、僕達はスイーツ巡りへと予定を変更したのだった。





 翌日、ニックは朝からアポを取りにホテルのフロントへやって来たらしい。

 キルシェの返答は昼過ぎに会うという事だったので、そこに僕達は同席する事になった。



「先に言っておくぞ。奴等に気を許すな」


 二人きりの時のキルシェの口調は荒い。

 しかし話を聞いてもいないのに気を許すなとは、なかなか厳しい意見だな。



「奴等は自分達の利益重視で動く。王国も一度、痛い目に遭っているからな」


「痛い目?」


 どうやら経験談として言ってくれているらしい。

 連合と関わりが無い僕達にとって、彼等がどんな相手か知らない。

 彼女は遠回しに、気を付けろと言ってくれていた。



「ニック殿が到着されました」




「お待たせしました」


「待ってないです。おおきによろしゅう!」


 彼が待っている部屋へ入ると、早々に関西弁で捲し立てられた。

 僕もキルシェも関西出身ではないが、テレビやラジオなどでそれくらいは聞いている。

 対してこっちの世界の人間は、関西弁が別の国の言葉に聞こえたりしているみたいだ。



「とりあえず自己紹介をしよう」


「では改めて、フォルトハイム連合でこういう会社やってます。ニックと申します」


 彼は名刺を持ち歩いていた。

 どうやら連合では、紙類の発達が著しいようだ。

 王国や安土などの魔族領と比べても、紙の品質ははるかに良い。



「ではこちらからも。僕は安土領の領主、阿久野マオ。魔王をやっている。魔族代表として同席しているのは、この二人だ」


 両隣に座っているのは、官兵衛と長可さん。

 そんな彼も男だ。



「エライべっぴんさんでんな!」


「子持ちだからな。惚れるなよ」


「ほえぇぇ。子持ちだろうがこんなべっぴんさんなら、全然OKちゃいますの?」


「息子はあのイケメンエルフだぞ」


「昨日見たイケメンでっか?はぁ、あんな大きいお子さんいらっしゃいますの。人は見掛けによりませんなぁ」


 長可さんも官兵衛も、彼が何を言っているのか分かっていない。

 ゲスい話なので、分からなくても良い気がするけど。



「ワタシが言うのもなんですが、ただ一つ。これは忠告として覚えといて下さい」



 急に真顔になったニックが、長可さん達に関しての話をしてくれた。

 フォルトハイム連合では、未だに人の売買もあるという。

 それは奴隷とほぼ同意で、その中にはエルフのような見た目が良い者や、武芸や頭の良い者など様々な人が売り買いされるらしい。

 能力が高ければそれだけ価値が上がり、自分で自分を買う事も出来るという話だった。



「そうなると、オイラ達も下手したら売買されるんですね」


「えっ!?意味分かったの?」


「慣れました」


 官兵衛の頭脳はやはり凄い。

 関西弁に首を傾げていたのに、もう理解出来るようになったという。

 恐るべき学習能力。



「そろそろ本題に入りましょう」


 キルシェの一言で空気がピリッとすると、ニックは真面目な顔になった。





「それで、商売の話とは?」


「それなんですけどね。昨日の船の事で、ワタシも噛ませていただけないかと思いまして」


「・・・何の事ですか?」


 マオーエリザベス号は表向き、外洋調査船になっている。

 今まで魔族でも避けていた海獣や、海の生物を調査するという名目で作ったとされている。

 なので、見た目は漁船とはかけ離れているのだ。



「ワタシ、フォルトハイム連合では魚介類を扱ってましてね。船の造りには、ちょい詳しいんですわ」


 彼はマオーエリザベス号が魚倉がかなりのスペースを占めていると分かったらしく、もしやと思ったという。



「あまり公に出来ないのは分かっとります。だからワタシの取り分は、少量で十分です」


「ちょっと僕から質問。この船でしか手に入らないと言われている海の生物を、ニックさんはいくらで買おうとしているのかな?」


 話が長いと面倒なので、直球で行かせてもらった。

 金の話はもう少し遠回しになると思っていたのか、ちょっと驚いている。

 苦笑いしつつも、彼は凄い事を言い出した。



「ワタシ、言い値で買いますよって」


「言い値!?それじゃ、例えば大きな魚としよう。十頭用意したとして一頭金貨五十枚だとしても、貴方は払うと?」


「買います。フォルトハイム連合は、世界の様々な国に配送してるんでね。冷凍技術はしっかりしてます。氷魔法が得意な魔族もワタシの会社に居ますし、問題無いです」


「魔族雇ってるの!?」


「変ですか?」


 マジか。

 奴隷とかではなく、雇ってるのか。

 うーん、ちょっと連合に対して偏見があったかも。



「でも、大半は奴隷契約です。ワタシの会社でも奴隷契約からスタートして、それから自分を買い直してもらって雇用契約って形が多いですね」


「ふーん」


 なんとなく話を聞く限り、奴隷契約とは借金を背負った人が契約社員として働いてる感じだなぁ。

 借金が終わり次第、正社員として雇用するか判断します。

 って言ってる気がする。



「それでは私からも失礼な質問をします。そんな大金、ちゃんと支払っていただけるんですか?もし用意したとしても払えないとなったら、我々も困るんですが」


「大丈夫です!ワタシを売ってでも、お支払いします!」


 なるほど。

 こういう事をするから、奴隷契約があるのか。

 フォルトハイム連合、ちょっと凄い。



「貴方の価値が私には分かりませんが、言い値でというなら善処しましょう」


 流石に言い値で売れるのはデカイ。

 どれだけ高く設定しても、買ってくれるというのだ。

 しかも自分を売ってまでと言われたら、必ず用意してくれるだろう。

 しかし、それにはやはり裏があったようだ。



「ただ、契約条件にお願いがあるんです」


「聞けるお願いであれば」





「ワタシの会社との独占契約でお願い出来ますか?言い値で買いますよって。ワタシ以外の会社には卸さないでほしいんですわ」

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