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新たな旅立ち

「あぁ、説明してないですね。卒業試験というのは、ミノタウロスの太田が受けている、オーガの特訓です」


 太田は今、オーガ達の特訓を受けている。

 勿論ボディビルの方ではない。

 ちゃんとした戦闘訓練の事だ。

 彼がオーガとの戦闘での課題をクリア出来れば、晴れて卒業という事になる。

 そう、僕等は太田の卒業待ちと言っても過言ではない状況なのだ。


「その太田殿?はいつ頃卒業予定なのでしょう?」


 そうだよね。

 気になるよね。

 僕も気になってはいるんだけど、全然分からない。

 見に行くと負けているから・・・。


「正直な話、未定ですね。特訓を始めてまだ1ヶ月とちょっとですし。まだ先だと思うので、部下の件よろしくお願いします」


「承知致しました。我々も足手まといにならぬよう、戦闘訓練も開始します」




 と、あの話し合いをしてから数ヶ月。

 久しぶりに訪れたのだが、食料を調達しに行ってて留守だった。

 待っていても良いのだが、特に急ぎでもないのでまた後日にしようと思う。

 なんて言ってると、帰ってくるんだよね。


「魔王様、お久しぶりでございます。こちらに来たという事は、太田殿の卒業試験が終わったという事でしょうか?」


「流石に話が早いですね。その通りです。三日後に出発を予定しているので、その準備をお願いします」


「三日後ですね。かしこまりました。部下は四人に絞らせていただきました。太田殿と比べると戦闘力は落ちますが、連携面では負けないと自負しております。では、三日後によろしくお願い致します」


 隊長は背中に鹿を背負って、去っていった。

 町長との話し合いの末、彼等の待遇はかなり良くなった。

 しかし食糧事情に関しては、どうしても自給自足になってしまうのだ。

 半分は帝国は向かったが、残りの半分でさえ約四十人は滞在している。

 捕虜として町の食糧を分け与えていくと、町が破綻してしまう。

 だから食糧だけは、自分達でどうにかしてもらうしかないのだ。

 今では畑や田んぼもある。

 最近の発展ぶりを見ると、このままこの村に住む勢いだと思う。


 そして太田はというと、オーガ複数人を相手に立ち回っていた。

 卒業試験が終わってからは、蘭丸とハクトとの連携訓練に入っている。

 蘭丸が槍を使い、ハクトは弓と魔法で援護という形だった。

 太田は基本的に盾役をこなし、戦斧を振り回して敵の陣形を崩す役割だ。


「良いですね。役割分担がハッキリとしているので、連携が取りやすいのかと思います。上手く立ち回れば、格上にも対処出来るでしょう」


 という、ゴリアテ達のお墨付きももらった。

 彼等はわただのボディビル馬鹿ではなかったらしい。

 この町の中でも有数の強者だった。


「太田さん、腹筋板チョコになってきましたね!なかなかですよ!その首から肩の富士山も見事です」


 やはりこの辺は治ってないらしい。

 この世界、富士山あるのかよ!?

 などと思っていたけど、どうせ信長が大きい山に命名したとか言われるだけなので、もう聞かない事にした。



 ちなみに皆が連携訓練をしている中、僕は別の事を試していた。

 まずはミスリルを使った創造魔法。

 これは成分的な物を知ったら、意外と簡単だった。

 要はどのような物質なのかという事だ。

 エルフの図書室にある本に載っていたので、これはほとんど問題なく扱えそうだ。

 他にもオリハルコンやアダマント辺りも、文献のおかげで何とかなると思う。

 まあこの辺の鉱石は、まだ見た事も無いけどね。

 ちなみに近くにあった鉱山から、勝手にアルミニウムとクロム辺りは発掘している。

 アルミやクロムはこの世界では重用されておらず、ほぼ屑鉄扱いと変わらないらしい。

 クロムと鉄を使ってステンレス加工も、創造魔法で可能だった。

 この魔法、僕の中では工業製品を精製する工場のような扱いになっている。

 もしかしたら原油等見つけたら、プラスチックやカーボンファイバーも作れると思われる。

 今後の旅の楽しみが増えてしまったようだ。


 そしてもう一点、これがなかなか上手くいっていない。

 それがラーメン作りだ。

 どうせだからスマホで調べて作ってみたのだが、全然美味くなかった・・・。

 僕等は食に関しては素人なので、頑張ったけど美味く作れなかったみたい。

 そこで活躍しているのがハクト。

 あの時に食べた物を作ろうとしていると伝えたら、物凄い勢いで手伝いを申し出てくれた。

 僕は同じレシピでハクトに作ってもらったのだが、全然美味かった。

 僕等が作ったラーメンとは違い、醤油ラーメンだなぁと思える食べ物だった。


「違う!あの時の味じゃない!あの時はもっと味わい深くて、旨みがあった!こんなのラーメンじゃない!」


 キミ、あの一口でよくそこまで分かるね。

 ラーメンじゃない!って、一回しか食べてないじゃん。

 とは、口が裂けても言えないのである。

 ラーメンの事になると、ハクトはめちゃめちゃ怖くなる。


「これでも食べれるよ?全然良いんじゃない」


 って軽く言ったら、


「あぁ!?何が良いって?」


 と睨まれてしまった。

 すいませんでした。

 もう二度と言いません。


 というわけで、ラーメン作りは僕等がやっているわけではないので、上手くいっていないというよりは丸投げである。

 僕等が作っているのは屋台の方だ。

 今では木と鉄以外にアルミやステンレス、豪華にミスリルも使えるので、かなり作りの良い屋台が出来上がっている。

 ステンレスと木を使って、湯切りのザルを。

 更には製麺する機械も作ってみた。

 もう屋台の域を超えている気もするけど、どうせなら美味いラーメンを作ろう。

 そしてそれを販売して、スマホの使用料金代を稼ごうという魂胆があるのだ。

 今は馬に牽いてもらえるように、ちょっとした改造中だった。

 まあ屋台は完成間近だけど、肝心のラーメンが職人ハクトさんからすると、まだあの味には程遠いとの事。

 旅を続けながら、ラーメンの完成を目指すとしよう。



 出発当日、太田を含めた僕等四人は町の入り口に集まっていた。

 町の外から歩いてくる人が五人見える。

 ズンタッタ隊長だろう。

 アレから数ヶ月、僕等はズンタッタに慣れた。

 フルネームで言われると、ちょっと堪えられないかもしれないが。

 部下四人を連れて、こちらと合流する。


「魔王様、お待たせしました。こちらが私の部下となります」


 一人ずつ自自己紹介をしてもらった。

 ヒト族にしては大柄な男、ラコーン。

 身体は小柄だが素早そうな、チトリ。

 この中では一番の剣の使い、スロウス。

 四人のまとめ役をしている唯一の女性、シーファク。

 四人とも帝国の平民の出だが、強さでズンタッタから認められた凄腕らしい。

 以上がズンタッタ率いる王派閥救出隊になる。


「この度は、まことにご迷惑をおかけしました。そして私達の命を救っていただき、ありがとうございます!」


 四人とも声を揃え、僕に礼を述べた。

 しかしあの殲滅の後だが、彼等は僕や太田が怖くないのだろうか?

 気になってズンタッタに確認してみたが、やっぱりちょっと怖いらしい。

 絶対に逆らわないようにしよう。

 これが彼等のスローガンになっていた。

 別に意見があるのであれば、受け入れるつもりなんだけど。

 まだ旅にも出ていないわけだし、今後ゆっくりとひととなりを知っていってもらおう。

 それにこちらも、彼等の事を知らなくてはならないしね。


「では、そろそろ出発しよう。次の目的地は東にあるリザードマンの町だ」


 僕はこの辺りで帝国が向かった場所を、事前にズンタッタに確認をしてもらっていた。

 本来は北が目的地に近いのだが、話し合った結果は東に進路を取るという事だった。


「太田さん、この町を離れても鍛練を怠らないでください。今の太田さん、最高に仕上がってますから!このままいけば、腹斜筋で大根をすりおろすのも夢じゃありませんよ!」


 ゴリアテよ、彼を違う道に誘うのはやめてくれ。


「ゴリアテさん、本当にお世話になりました。しかしワタクシの夢は、魔王様の伝記を書く事。鍛練は忘れませんが、オーガの皆さんのような身体にはなれないでしょう。だから筋肉本舗はゴリアテさんのモノです。ナイスバルク!」


 ガッチリと抱き合う二人。

 初めに会った頃には考えられない光景だ。

 そしてムサイ。


「魔王様、僕にオーグさんという素敵な方を紹介していただき、本当に感謝しています」


 ダビデがオーグと一緒にやって来た。

 彼はオーグと違い、田畑での仕事をしているらしい。

 将来は一緒になるのだろう。


「いつかまた来た時は、ハーフオーガの子供でも見せてください。期待してますよ」


「魔王様、そういえばお名前はどうなりましたか?神からの許可は得られたのでしょうか?」


 おぉ、せっかく考えたのに忘れてた!

 オーグのその一言に、太田が急に振り返るし。

 蘭丸やハクトも、興味ありげな感じだ。


「あぁ、僕の名前はマオ。真の王と書いてマオだ。覚えておいてくれ」


「マオ様。いつか、いつか私達の子供が生まれたら、マオ様の事を話したいと思います。またいつか、お会い出来る日を、心待ちにしております」


 次来た時は、子供がいたら良いね。

 楽しみにしていよう。


「オグルさん、長い間お世話になりました。後の事はお願いします」


 後の事、それは捕虜となっている残った兵達の事だ。

 今はまだお互いに、完全には信用は出来ないだろう。

 最終的に捕虜の解放の判断は、オグルに一任してある。

 だけど、そう遠くないうちに彼等も兵達を受け入れてくれると思う。

 ズンタッタに会いに行った時の彼等には、オーガに忌避感など抱いている様子も無かったし。

 そうしたら次に来た時は、この町も発展してそうだな。

 捕虜となっている兵達も、このまま住み着きそうな気もするし。

 もしかしたら、ハーフオーガ増えてたりして。


 それと今後の自衛手段として、鹵獲したミスリルはオーガ用に創造魔法にて加工しておいた。

 鎧のサイズ変更はもちろんの事、デザインも変更。

 帝国の鎧はプレートアーマータイプであったが、オーガには不向きだった。

 なので胸当てを基本とした、軽装タイプにしてある。

 武器の方も棍棒をメインに剣や槍も作製。

 ついでに盾も少し作っておいた。


 そしてズンタッタにも内緒にしてある事があった。

 実は捕虜の人数分のミスリルの装備は、そのまま残してあった。

 もしもこのまま共同生活をするようならば、彼等の自衛手段も残しておきたかったのだ。

 帝国の襲撃だけじゃなく、他の国からの可能性もある。

 それに魔物の襲撃だって忘れてはならない。

 今はオグルが厳重に保管しているが、いつか返す日が来ると良いなと思っている。



「魔王様、私達は信長様に続き、貴方の御偉功を決して忘れないでしょう」


 オグルを筆頭に、全ての町民が跪く。


「真の魔王たるマオ様。我等一同、貴方様に忠誠を誓います。無事な旅路をお祈りしております」


 うむ、苦しゅうない。

 なんて言える度胸があればいいんだけど。


「ありがとう。じゃあ行ってきます!」


 こんな事しか言えない自分のボキャブラリーが情けない。

 皆に手を振られながら、僕等は東へと旅に出た。



「なんか、魔物も出てこないし暇だな」


 馬に乗り二時間ほど進んだが、順調としか言えないくらい何も起きなかった。


「蘭丸、めったな事言うんじゃないよ!そういうのをフラグが立つって言うんだ」


 僕は敢えてその言葉を口にした。

 そう敢えてだ。

 本当に、本当に暇だったんだ・・・。

 気まずいのか、ズンタッタの部下達は全然話しかけてこないし。

 とにかく空気が重い。

 だから魔物でも何でもいいから、この空気を変えてくれる出来事が欲しかった。


「フラグって何だよ?意味が分からん」


「フラグが立つというのは、何かの条件が揃って、特定の出来事が起こる事です」


 おぉ!

 初めて向こうから話し掛けてきてくれたぞ!

 シーファクだっけ?

 彼女は女性だし、イケメン蘭丸に声を掛けるチャンスを待っていたのかもしれないな。

 そう考えると、リア充死ねばいいとも思える。

 まあこの空気を破ってくれただけ良しとしよう。


「へぇ、フラグってそういう意味なんだ。シーファクさんだっけ?教えてくれて、ありがとうございます」


「いえ。でもフラグとか、帝国が使うような言葉だと思っていたんですが、魔王様もよくご存じで」


 あ、そうなの?

 魔族は使わないの?

 召喚された連中から、帝国は聞いてるのかな。

 まあよく分からないけど、そういう時はこれしかないだろう。


「僕いっぱい勉強したんだ~。だから知ってるの~」


「・・・・・・」


 アレ?

 子供名探偵風に言ったのに通じてないだと!?

 どういう事だ?


「な、なるほど。よく分かりました」


 引いてない?

 なんか言葉に引いてる感があるって思うの僕だけ?

 これ、あんまり使わない方がいいのかな?


【あんな虐殺的な殺し方しておいて、今更何を子供ぶってんだって事じゃないか?】


 そ、それだ!

 あ~、なるほどね。

 これは、大人な雰囲気を見せる前に使わないと効果が無いって事ね。

 覚えておこう。


「話は変わりますが、ちょっといいですか?」


 今度はチトリが声を掛けてきた。


「気のせいかもしれませんが、何かに見られているような気配がするんですが」


 そんな気配するかな?

 僕には分からない。


【変わってみるか?】


「僕の索敵魔法には、近くに怪しい気配を感じる事は無いんだけど」


「俺も分からないな。太田さんは分かるか?」


「ワタクシも感じませんね」


 魔族の連中は誰も気配を感じないか。


「私の勘違いですかね」


「いや、俺も視線のようなものを感じるんだよなぁ」


(え?視線なんか感じた?僕は全く分からなかったけど)


 あくまでも感じるだけなんだよ。

 勘違いかもしれないし。


「魔王様も感じるという事は、気のせいで済ませてはいけないかもしれませんね。警戒しながら進みましょう」



 ズンタッタはそう言ったものの、何も出てくる気配は無かった。


「やっぱ気のせいだったかなぁ。結構時間経ったけど、何も出てくる気配無いし」


「私も勘違いだったかもしれません」


 なんて言ったが、やっぱり見られている感じは残っている。

 俺は視線を感じる方に、馬から降りて走って近付いた。



「居た!コイツか!」

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