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勘違いしないでよね

 彼女の掌の上で踊っていたみたいだ。

 官兵衛は気付いていたようだが、何も言わなかった事から、想定内の範囲だったのだろう。

 結局は僕達が、貴族を倒す事になってしまった。


 ただし問題もある。

 このメンツでは暴れる事は出来ても、隠密行動は得意な者は居なかった。

 太田に忍べと言っても無理がある。

 かろうじて慶次が長浜でやっていたが、変な言葉遣いだったし、暴れるのは目に見えている。


 そんな中、官兵衛が進水式前日より前に分かれば、動きようはあると言った。

 彼女もそれを承諾して、その方法を教える。

 目には目を、歯には歯を。

 暗殺者には暗殺者を。


 僕達が最上階に戻り向かったのは、又左達が捕らえた睡蓮の刺繍が入った者達の場所だった。

 彼等は金で動く連中だと聞いている。

 千枚の金貨を見せると、彼等は快諾してくれた。


 どうやら彼等と薔薇の連中は、ライバルだという。

 大半の仕事は薔薇に取られているらしく、睡蓮は今、色々な仕事をこなしているみたいだった。

 そのうちの一つが、今回の嫌がらせのようだった。

 彼等は金貨千枚という破格の金額に失敗は出来ないと、万全の状態で臨むと約束してくれた。

 その為に一族の長に話をしてもらう為、彼等を解き放つ事にしたのだった。





「我々も魔王、貴方の期待に応えよう。テア」


 どうやら子供の名前はテアというらしい。

 自分達が裏切らないように、この子を置いていくと自ら申し出た。



「分かった。俺、待ってるよ」


「あ、そうそう。隣の部屋、そっと覗いてみて」


 彼等はテアを置いて立ち去ろうとしたので、その前に隣の部屋に監禁している薔薇の連中を見せた。

 もし、その中に薔薇の強い奴が居たら、彼等の勝利は濃厚になると思ったからだ。



「薔薇!?」


「さっきも言ったけど、彼等に狙われたんだ。奴等は何も喋らないから理由は分からないが、この四人が僕達を襲ってきた時と同じタイミングで襲撃をしてきた。しかも僕に狙いを定めてね」


「素人に動きを合わせたのでしょうな。どうやったかは分からないが、他の連中に狙いを逸らしたのでしょう」


「この中に強そうな奴、居る?」


 リーダーが覗き込み、彼等の顔を見ている。

 どうやらビンゴだったらしい。



「まさか、灰色のブルン!?」


「誰それ?」


 リーダーの声に、後ろの連中も騒ついている。

 相当有名らしい。



「薔薇の中で知られている強者です。おそらく、薔薇の中で三本の指に入るかと」


 マジかー。

 兄曰く、全自動スタンガンこと僕の電撃で、簡単に麻痺してもらったのだが。

 そんな有名人だったのか。



「そうなると、強いのは二人だけだね。有利になった?」


「かなり優勢に立てます」


 自信ありげに答えるリーダー。

 これなら失敗の確率は低そうだ。



「では、我々は長へと話をつけてきます」


「よろしくねー」





 行ったな。

 さてと、僕もお仕事をしなくては。



「テア、何か食べるか?」


「えっ!?良いの?」


「良いの良いの。ほら、美味し〜いお菓子が沢山あるぞ」


「わぁ!ありがとう!」


 このお菓子は官兵衛用なのだが、ストックならいくらでもある。

 この子に食べさせたところで、痛くも痒くも無いのだ。



「美味いだろ?」


「美味しい!初めて食べるお菓子もある。少し持って帰っても良い?」


「良いぞ」


「やった!」


 お菓子でこんなに喜ぶとは、やっぱり子供だな。

 両手に持ったお菓子を懐に入れるのを見ると、昔ポケットに入れたままにして、よく粉々にした事を思い出した。



「魔王様?」


「長可さん、何かありました?」


「いえ、見張りの交代で休憩です」


 薔薇の連中の部屋から出てきた彼女は、僕を見て何か驚いている。

 何かしたかな?



「ところでテア、食べながらで良いから、ちょっと聞いても良いか?」


「うん、知ってる事なら」


「お前達が依頼された時の金額って、いくらだったの?」


「金貨四枚だって聞いた。貴族なのにケチだよね」


 四枚かぁ。

 相場を知らないから、ケチなのかすらも分からん。

 でも、金額などどうでも良い。

 本題はコッチ。



「四枚しか払えないって事は、あんまり大した貴族じゃないんじゃないか?」


「どうなんだろう?貴族って金持ちのイメージあるけど」


「そりゃピンキリだろう。贅を尽くす大貴族から、切り詰めて生活する貴族だって居ると思うよ。依頼した貴族って、そっちに近い貴族だったんじゃないか?」


「そうなんだ」


「きっとそうだよ。ほら、お菓子もう少し食べて良いぞ」


 僕が優しい声で話していると、テアは喜んでお菓子を取った。

 その様子を見た長可さんは、少し怪訝な顔をしている。

 何故だろう?



「テアはさ、その貴族を見た?」


「うん。会ったよ。背が高くて痩せてて、ガリガリって感じ」


「そっか。その人は貴族でも有名?」


「どうだろ?」


「僕も知ってるかな?」


「ローマン・ゼ・ノイコムって貴族だけど、知ってる?」


「うーん、やっぱり知らないな。チョコもあるけど、夜はホテルのご飯があるからな。どうする?」


「やめとく!」


「腹も膨れただろうし、向こうでハクト達と少し遊んでな」


 テアをハクトに押し付けた僕は、官兵衛の方を見た。

 彼も頷いている。

 さて、キルシェの所に行く準備をしよう。





 流石は僕だ。

 テアにお菓子を与えて、嫌がらせを指示した依頼者を割り出したぞ。

 フハハハハ!

 子供を手玉に取るなんて簡単なのだよ。



「魔王様、少し良いですか?」


「はい?」


「少し聞きづらいんですが、あの子の事が好きなんですか?」


「はい!?」


 長可さんが意味不明な事を口にし出した。

 まさかお菓子を与えていたからか?



「どうしてです?」


「妙に優しかったので、好みのタイプなのかと」


「どうして僕が、男の子を好きにならないといけないんですか!」


「えっ!?」


「えっ!?」


「え?」


 あら?

 コレはやらかした雰囲気だぞ。

 もしかして・・・。



「まさか、あの子が女の子だと気付いてなかった?」


「魔王様・・・」


 ヤバイ!

 長可さんだけじゃなく、官兵衛まで生温かい目になっている。

 これは痛い子を見る目だ。



「ちょ、ちょっと、用を足しに行かせて下さい」


 僕は席を立つと、すぐにハクトの居る部屋へ向かった。



「テア、テア!」


「どうしたの、魔王様」


「テアって女の子?」


「そうだよ。俺、女だよ」


 マジかよ!

 本当に女の子だったよ。



「何で?」


「いや、女の子には優しくっていうのが、魔王の流儀だからね。確認したかったのさ。それじゃ!」


 すぐに部屋を出ると、再び僕は官兵衛達が居る場所に戻った。



 ところで兄さんは、あの子が女の子だって気付いてた?


【な、何だ!?急に。も、勿論気付いてたぞ】


 そっか。

 僕だけが気付いてなかったか。

 反省しよう。



【あっぶねー。俺も全く分からなかったわ】


 おい、聞こえてるぞ。



【あっ!心の中の声まで聞いたら駄目だろ】


 ダダ漏れなのが悪い。

 でも、気付かなかったのが僕だけじゃなかったと分かったので、それはそれで良いです。



【俺達ももう少し、女を見る目を養おうな】


 女を見る目って、こういう使い方で合ってるのかな?

 言いたい事は分かるけどね。

 こういうところが非モテ男なんだろう。

 お互いに気を付けようね。





「戻ったよ」


「魔王様。そのお姿なら似合わないとは言いませんが、流石に幼女に手を出すのはやめた方がよろしいと具申します」


 戻った早々、長可さんが真剣な目で言ってくる。

 冗談なら未だしも、この目は本気だ。



「ちょっと待って!貴族の名前を聞き出す為であって、本気じゃないから。勘違いしないでよね!」


「本当ですか?」


「さっきの男の子発言だって、冗談だよ。魔王ジョーク」


「本人がそう言うなら、そういう事にしておきましょう」


 なんだか納得いかないけど、分かってくれたから良いか。

 というか、官兵衛が居ないな。



「官兵衛殿なら、長谷部と共にキルシェ陛下に報告に行きましたよ」


「早いな」


 官兵衛が戻るまで、ちょっと休憩かな。




 しかしローマンとかいう貴族にも、手を打たないといけない。

 だけど流石に嫌がらせ行為の報復が暗殺では、ちょっと可哀想だ。

 何をするべきか、考えないといけないな。



「魔王様はいらっしゃいますか?」


「キルシェ?」


「話をするなら、魔王様を含めた方が早いという事なので、お連れしました」


 キルシェとドルヒが、さっきのローマンとかいう貴族について、話があるという。

 早速、どんな人物だか聞いてみた。



「ハッキリ申しまして、使えない男です」


 ドルヒが端的に言ったが、もうそれだけで良いと思った。



「ドルヒ、もう少し詳しくお話ししないと」


「はっ!申し訳ありません」



 詳しく聞くと、ローマンという男は、八方美人というタイプだった。

 最初はキーファーの腰巾着をやっており、その後はキルシェと有力貴族の間を行ったり来たり。

 どうやらキルシェが失脚した時の事を考えて、反魔族派の連中にも媚を売ってるという話だった。



「嫌がらせは媚を売る一環か」


「そう考えるのが自然ですわ。流石に暗殺までは、手が出せなかったんでしょう」


 小心者というのも付け加えておこう。



「王国は彼をどう対処するつもり?」


「対処といっても、証拠を見つけなければなりません。証拠があれば、どうとでも出来ますが」


 どうとでもというのは、そのままの通りらしい。

 大した力も無い貴族なので、友好関係を結ぼうとしている王家の邪魔をしたという罪で、身分を剥奪に領地没収も出来るという話だった。



「そこまでやる必要ある?」


「徹底的に叩いた方が良いですよ」


「官兵衛が言ったら駄目だろ」


「いえ、彼の言う通りですね。私のような人間でも、魔族の方々が悪い人とは思えません。せっかく友好関係を結ぼうというのに、そんな輩のせいで潰されるのは癪です」


 ドルヒは強い口調で、官兵衛に賛同した。

 昨日の態度が嘘のようだ。



「そうですわね。この際、徹底的にやりましょう。証拠を見つけて、身分を剥奪に領地没収。そして新たな親魔族派の者を、貴族に叙爵しましょうか」


「陛下、それは良い考えです!」


 ドルヒもキルシェに賛成らしい。

 という事は、証拠を見つけ次第、彼は貴族からサヨナラというワケだ。



「でも、どうやってその証拠を見つけるか」


「そもそも証拠はあるのかな?」


「あるよ」


 皆で考えていると、後ろからテアの声がした。

 皆が一斉にそっちを向くと、彼女はあるともう一度言う。



「契約書があるからね。俺達が依頼を完了しない限り、契約書は捨ててないはずだから」


「なるほど。そうなると、ローマンの屋敷に行けば、ある可能性は高いですね」


「それを屋敷から盗み出せば・・・」


 皆が一斉に頷く。

 テアは契約書の話をしたものの、どんな話かは理解していなかった。



「でも、僕達が動くのは難しいよなぁ。魔族だってバレると困るし」


「獣人は見た目ですぐに分かってしまいますから、無理ですね。エルフならと言いたいですが、長可殿は論外として、蘭丸殿も目立ちます」


「イケメンオーラが出てるってか?」


「そそそ、そんな事言ってません!」


 ドルヒが顔を赤くして否定しているが、間違いなくそう言いたいんだろう。



「魔王様なら?」


「肌の色でバレるのではないですか?」


「駄目ですか。やはりヒト族でないと、難しいですわね」


「それならば、魔王様の魔法でヒト族になるのは如何でしょう?」


 あ、変身魔法か。

 それなら大丈夫だな。



「それなら僕も行けるけど。でも、魔王が盗みに入るってどうなのよ?」


「頑張って下さいませ!」


 キルシェの激励が妙にムカつく。

 心の奥では、働けよとか思っていそうだ。



「俺も行ってもいいけど、せめてもう一人必要かな」


「テアが行くの?」


「むっ!俺、潜入には自信あるからな」


 ちょっとムッとした顔が可愛い。

 こうやって見ると女の子なんだな。



「しかし、佐藤殿は残しておきたいですね。長谷部くんもオイラの護衛ですし。王国から一人、人材をお借りするしか方法は無さそうです」


 官兵衛の案で、キルシェから一人借りる事になりそうだ。

 彼女も頭の中で、ピックアップしているっぽい。



「あの、そろそろ見張りの交代をお願いしたいんですけど」


 薔薇の連中を見張っていた佐藤さん達が、又左達と入れ替わりで出てきた。



「あっ!居た!いや違っ!なんていうか、とりあえずもう一人も大丈夫。テアと僕と、もう一人も確保出来た」


 佐藤さんと一緒に出てきた男を見て、僕は思い出した。

 そういえばそうだったと。



「何?俺、何かした?」





「そろそろ散髪して、綺麗に整えた方が良いんじゃないかなって思っただけだよ」

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