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依頼者探し

 僕の素晴らしい機転により、アッサリと八人を拘束した。

 太田によると、そこそこの強さはあるという話だった。

 人形姿の僕に気付かなかった時点で、それ程強くないのかなと思っていたので、少し驚いた。


 他の部屋へ行くと、官兵衛の指示通りに動いていたのは、蘭丸達だけだった。

 他の連中は全員、殺したもしくは逃したと言っていいのかな?

 最上階の窓から落とされているので、逃したとは言えないかもしれない。


 唯一、官兵衛の指示通りに拘束に成功した蘭丸達。

 彼等は寝たフリをして寝込みを襲わせ、ハクトの音魔法で簡単に拘束したとの事だった。


 僕達の部屋と他の部屋を襲った連中の服装が、地味に違う。

 集めて分かった事だったが、彼等は口を割らなかった。

 こういう時の為に残しておいた、太田の靴下という劇薬。

 それを顔面に押し当てると、刺客は白目を剥いて気絶する。

 次の刺客も耐えるのかと思われたが、簡単に陥落。


 とは言っても何も知らず、聞いても知らないというばかり。

 唯一分かったのは、大半が初対面の連中で、自分達が誰を襲ったのか分かっていなかったという点だった。





 という事は、騙されて襲った?

 でもちょっと、おかしな点がある。

 それは僕達を襲った連中は、他の部屋は四人の刺客だと知っていた点だ。



 彼等がもし同じ人からの依頼を受けているなら、多少は顔も合わせているはず。

 なのに知らないと言った。


 僕達の部屋と他の部屋を襲った連中が、別の依頼を受けていたなら。

 何故他の部屋を襲う人数が、四人だと知っていたのかという点が気になる。



「うーん、決め手に欠けるな」


「一つだけ手立てがあるとすれば、魔王様の部屋を襲った連中が、他の部屋を襲った連中に依頼した。という可能性はあります」


「なるほど。依頼する時に顔を隠していれば、誰だか分からないか」


「ただし、声はそうはいかないはずです」


 官兵衛の言葉から、口を割っている刺客Aを再び皆の所へ連れて行った。





「そっちの黒薔薇刺繍組。一人ずつ喋らせて」


 ダンマリを決め込む連中。

 靴下を再び取り出すと、一言ずつ声を出せと命じた。

 最初は命令を拒否するかと思ったのだが、どうやらそれくらいはと応じてきた。



「どうだ?居るか?」


「うーん、どれも違うような?もっと声が高かった気がする。というか、女が無理矢理声を低くした感じ?」


「そこまで分かってるなら、最初に言えよ!」


 長谷部からゲンコツを食らった刺客は、涙目で謝っている。

 しかしそうなると、官兵衛の予想は外れか。



「決まりですね。我々を狙った相手は二組居ます」


「二組!?」


 予想外の言葉に、皆も驚いている。

 僕達の部屋を襲った連中と、他の部屋を襲った連中。

 彼等は手を結んでいるわけでもないようだ。



「じゃあ、何故コイツ等は他の部屋が四人だと知っていたんだ?」


「彼等は素人同然のようですし、多分最初から気付いていたんではないでしょうか?」


「なるほど。コイツ等を利用して自分達も行動したってワケか」



 悪くはない手だと思うけど、残念なのは彼等が襲った後にすれば良かったんじゃないかと、僕は思う。

 理由とすれば、素人連中を退けて油断したところを、彼等が襲った方が成功する確率が高かったんではないかという予想だ。

 あくまでも予想だし、太田が気を抜くとは思えないけどね。



「明日、女王陛下に黒薔薇で思い当たる方が居ないか、聞いてみましょう」


「分かった。こっちは?」


「利用します」


 悪い顔をする官兵衛。

 どうやら、逆に罠にハメて誘き出す算段らしい。

 蘭丸達の部屋を襲った四人だけを呼び出し、長谷部以外に太田を呼んだ。





「彼等には、成功した事になってもらいます」


「成功って言っても、どうやって?」


「お前等、怪我をさせた程度の嫌がらせだと言ってたな?」


「ヒッ!ハイ!嫌がらせをしろという命令でした!」


 嫌がらせの為に、外からホテルの最上階まで来るのも凄いと思う。

 だけど、それだけ報酬が良いと考えれば、嫌がらせ程度なら割に合うのかな?



「嫌がらせの成功した証に、又左殿と慶次殿に少し毛を頂きましょう」


「毛?」


「彼等の毛を刈り取って、人前に出づらくしたという嫌がらせをした事にします」


 イッシーが聞いたら、発狂しそうな嫌がらせだ。

 だからあの二人なのかもしれない。



「でも、何故二人だけ?」


「他の部屋の連中は、外に落とされました」


「外に落とされた!?」


 刺客達が騒ぎ出す。

 どうやら他の仲間達が居ないのは、違う部屋に監禁されていると思っていたらしい。

 しかしこれは好都合だ。

 言う事を聞かせるには、恐怖というのも有効なのである。



「お前達が襲った部屋以外の連中は、窓から下に叩き落とされたか、槍で串刺しにされて死んだ。お前等だけが、運良く生き残ったわけだ」


「う、嘘だ!」


 信用してもらう為に、又左達の部屋へ一人連れていく。

 そこには慶次が始末した男の死体が残っているからだ。

 部屋を出てすぐ、外から悲鳴が聞こえてきた。

 真っ青な顔で戻ってくる男。

 壊れたおもちゃのように、首を縦に振っていた。



「というように、キミ達は運が良かったのだよ」


「ハイ!運が良かったです!何なりと命令を!」


 余程怖かったのか、大声で答える男。

 官兵衛は従順になった彼等に、こう尋ねた。



「報酬は前払いでしたか?成功報酬の約束は?」


「明日、スラムの外れで残りの報酬をもらう予定でした」


「それは好都合。では、彼等の毛を持って、会って下さい。私達が隠れて追います」


「イエスマム!」


 コイツ、元軍人さん?

 背筋を伸ばしてハッキリと答えた彼に、官兵衛は見逃す事を約束した。





「毛だと!?」


 ワナワナと震えるイッシー。

 やはり聞かせるべきじゃなかった。



「いえ、二人だけで大丈夫なので。イッシー殿は気にしないで下さい」


 又左と慶次は何でもないかのように、小刀で髪を軽く切った。

 毛の色が違うので、二人分だと分かる。


 それを見たイッシーは官兵衛の方を向き、ズカズカと歩いていく。



「真イッシーな!俺の魂も持っていけ!」


 彼はそう言ってイッシーは、震える手で髪を切った。

 仮面の奥で泣いてるのだろう。

 涙声で惜しそうに、官兵衛に毛を渡している。

 二センチくらい切った髪を数本だけ。



「あ、ありがとうございます。大切に使わせていただきます」


 困惑する官兵衛の横で、僕はたまたまくしゃみをしてしまった。

 決してわざとではない。



「あぁ!俺の魂が!」


 くしゃみの風圧で落ちるイッシーの髪の毛。

 床に落ちた髪を慌てて拾おうとする官兵衛だったが、短過ぎて苦労している。

 ようやく拾い上げた官兵衛は、飛ばないように布に包んだ。



「遺髪ですか?」


「死んでねーよ!」



 思わずに口に出た言葉に、イッシーは間髪入れずに突っ込んでくる。

 このアホなやり取りを見ていた刺客達は、官兵衛から絶対に髪を落とさないように注意されていた。

 じゃないと石仮面の男が夜な夜な現れ、命を狙いに来るぞと・・・。



「というわけで明日、貴方達へ依頼した者を捕まえます」



 翌日、僕達は分かれる事にした。

 又左と慶次、そしてハクトという、元能登村出身という面々が、外へ依頼者を捕まえに。

 そしてキルシェに黒薔薇組の確認をするのは、僕と官兵衛と長谷部。

 長可さんの護衛は、残った者が交代でやる事になった。






 又左達は、刺客達が事前に言っていた合流場所で待機していた。

 四人が集まり移動を始めた。

 後ろからバレないように尾行を開始すると、ハクトが面白い事を言い出す。



「二人ってやっぱり似てますね。後ろから見ると、尻尾の動きとかほとんど一緒ですよ」


「そ、そうでござるか?」


「何というか、合流するまで本当に来るのか。緊張してるっぽくて二人とも尻尾が下を向いてたり、一人目が来た瞬間の尻尾の跳ね上がり方とか、ほぼ同じでした」


「ゴホン!ハクトよ。余計な物は見なくて良い。奴等を見張るんだ」


「あ、そうですね。ごめんなさい」


 嬉しいそうな慶次に比べて、又左は照れ臭いのか。

 顔を逸らしながらハクトに注意した。

 ちなみにこの時の尻尾も、何気に同じ動きだったのは、言うまでもない。



 そんな話をしていると、辺りは街の喧騒から外れていく。

 気付くと、裏路地とも言うべき場所になっていた。

 流石はチンピラといった感じで、彼等は少し薄暗い道でも、迷う事無く依頼者と会う場所まで向かっていた。


 四人が立ち止まり、周りをキョロキョロ見回し始める。

 又左達も止まり、見つからないように隠れた。



「誰か来た!」


 四人が依頼者が来ないと愚痴を言っていたところへ、頭までスッポリ覆ったオーバーコートを着た怪しい者が近付いていく。

 彼等はそれに気付き、声を掛けた。

 依頼者のようだ。



「まずは油断させる為に、彼等に残りの報酬を受け取ってもらう。その後、彼等からの合図で私と慶次が飛び出して、奴を捕まえるぞ」


「承知しました」


「僕はどうしましょう?」


「私達が逃げられそうになった時の保険だな。その時は大声で頼む!」


 保険とは、おそらく音魔法の事だろう。

 全員まとめてでも良いから、大声で逃がさないようにという話だ。



「金を受け取ったらしい。行くぞ!」



 又左達は彼等を屋根の上から見ていた。

 合図とは、一人の男がノビをする動作だった。

 一番後ろで待機していた男が身体を伸ばすと、又左と慶次は囲むように飛び降りる。



「な、何ですか!貴方達は!」


「慶次!」


 慶次の方へ金をばら撒き逃げようとすると、彼はすぐに鳩尾に拳を放り込む。



「ん?子供?」


 頭を覆ったオーバーコートをめくり上げると、そこには幼さが残った男の子が腹を押さえて蹲っていた。



「お前、誰の差し金で動いている?」


「・・・」


「兄上が聞いている。早くしろ」


 再び拳を振り上げようとする慶次。

 チンピラ達は子供に、さっさと言わないと殺されるぞ。

 早くしないと毒が待ってるぞと、助言なのか愚痴なのか分からない事を言っている。

 しかし、話はそれだけで終わらなかった。



「跪け!」


 屋根の上からの大きな声で、又左慶次を巻き込んで全員がその場で跪いた。

 二人は一瞬何が起きたか分からなかったが、振り返ると複数の同じような格好をした者達が居た事に気付く。



「馬鹿な!拙者達が気付かないとは!」


「ハクトのお手柄だ」


 ハクトは飛び降り、耳元で喋って音魔法を解除する。

 元刺客四人はその声に、ゾクゾクしながら立ち上がった。



「ハクトさんの声、良い・・・」


 コワモテのチンピラから、赤い顔で言われるハクト。

 引き気味お礼を言った後、又左達と一緒にコートを剥がした。



「なるほど。こっちが本命か。子供は同じ仲間かもしれんが、小間使いだったのだろう」


 チンピラへの指示役は子供が、それを遠巻きに見ていた者達が、本当の依頼者という仕組みっぽい。

 そして慶次も、多分と付け加え言った。



「コイツ等、お前達の事を殺すつもりだったと思うのでござる」


「こ、殺す!?何故?」


「口封じ、もしくは金の回収が目的か?いや、両方かもしれないでござるな」


 それを聞いた四人は、又左と慶次の後ろにピタッと付いて、離れなくなる。



「お前達の依頼者、聞かせてもらおうか?」


「いや、兄上。必要無さそうでござるよ」


 慶次は彼等のコートの奥から、ある物が見えると言った。





「何かの花ですね。僕は花に詳しくないけど、宿に残っている連中と、何かしらの関わりがある事は間違いなさそうです」

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