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キルシェとの再会

 暴走する太田と又左は、僕の命令にはちゃんと従う。

 太田は止まると戻ってきたが、又左はやはりおかしかった。

 槍を地面に突き刺して止まると、王国の兵達は又左のトライクを危険な馬と勘違いしていた。


 相談役が誰かを言い当てて、ようやく魔王一行だと認められた僕達は、彼等の案内で会場へと向かった。

 道中、官兵衛は不思議な事を話し始めた。

 貴族の中には、まだ魔族嫌いな連中が残っている。

 彼等の話を聞いた僕達は、何も無いとは思いつつ、警戒する事にした。


 会場に着くと、僕達は驚いた。

 秘密基地でやるとは聞いていたが、今や秘密基地があった場所は、大きな街になっていたからだ。

 宿に案内されると、皆の前で官兵衛が、さっきの質問の真意を話し始めた。


 僕達は貴族に狙われる可能性がある。

 キルシェが王国のトップに立ち、今王国は魔族と手を結ぼうという流れになっている。

 それを断ち切る為に、今回の訪問は絶好の機会だという。

 僕達は単独行動を避けるよう、全員に注意した。

 そんな中、大浴場に行きたいという長可さんの一言。

 佐藤さんとイッシーが一緒に入ると、取っ組み合いの喧嘩になっていた。

 仕方ない。

 ここは心を鬼にして僕が行こう。

 子供の姿だからね!

 全く問題無いはずだ。





 僕はこの世界に来て、一番冷静に言えたと思う。

 芝居が下手くそだと散々言われたが、今回は違う。

 それに見よ!

 この澄んだ目。

 まさに純真な心を持った子供そのものではないか!



「フゴッ!」


 僕は後頭部に、今まで感じた事の無い痛みが走った。

 勢いよくベッドに顔を打ちつけたが、なかなか良いベッドらしい。

 柔らかくて顔には痛みは無かった。



「な、何をするんだ!」


「何をするんだはこっちのセリフだ!お前こそ、何を考えているんだ!」


「何も考えてなんかいないさ。長可さんに危険が及ばないように、一緒に風呂に入るだけだよ」


「だからそれがおかしいだろ。お前、俺達とタメなんだぞ」


「大丈夫だ。問題無い。見た目は子供だから」


 頭脳は大人だけど。

 やましい事など全く考えていない。

 たまにチラ見するかもしれないくらいだから。

 多分、チラ見で済むと思う。



「魔王様と言えど、流石にそれは通用しませんて」


「拙者、少し幻滅したでござる」


「魔王様!ワタクシと入りましょう!お背中お流ししますよ」


 馬鹿か!

 太田と入ったって、何が楽しいというのだ!

 しかも背中流すだと?

 僕の背中を潰す気か!?



「そうねぇ、誰かと入るのもやぶさかではないのですが」


 な、なんだってえぇぇ!?

 長可さんの一言は、部屋の中をどよめかせた。

 佐藤さんとイッシーも手を止め、続きを聞こうとしている。

 しかし慌てる男が一人。



「母上、冗談はやめて下さい」


「あら、じゃあ蘭丸が入る?子供の頃を思い出して、二人で入りましょうか?」


「入りませんよ!」


 蘭丸は即答で断った。



「じゃあ俺が」


「いやいや俺が」


「そこは僕でしょう」


「・・・やっぱり入る」


 立候補している三人を見て、考えが変わったらしい。

 蘭丸が一緒に入ると言って、この騒動は結末を迎える事となった。





 男の大浴場から出た僕達は、かなり満足していた。

 かなり広くて、太田やゴリアテ達が十人以上入っても、まだ入れる大きさだ。



「安土にもこれくらいの大浴場があると良いですね」


「考えておこう。僕も入りたいし」


 銭湯が好きだった僕は、大浴場でご機嫌になっている又左の意見を聞き入れた。

 復興作業がある程度終わったら、昌幸やノーム達と相談したいと思う。



「蘭丸が帰ってきたぞ」


 冷やかしたい佐藤さんとイッシーは、颯爽と蘭丸の横へ移動する。

 しかし二人は、蘭丸の様子を見て、すぐに理解した。



「蘭丸お前、風呂の前で待ってただけだろ」


「そりゃそうですよ!この歳になって、母親と風呂に入りますか!?」


「俺がお前なら入る」


「同じく」


 自信満々に答える二人に、蘭丸は頭を抱えた。

 こんなのが居るから、風呂に入れなかったのかと。



「風呂広いぞ。今でも入れるから、行ってこいよ」


「そうする。俺が風呂に入ってる間は、ハクトと太田殿に任せたい」


「分かった」


「任されました」


 ハクト達が快く返事をしたところで、蘭丸は一人風呂に入っていった。



 蘭丸は先に入っていた又左と慶次の二人と、一緒に出てきた。

 これは官兵衛が言った通り、蘭丸が一人にならないようにという理由があったらしい。

 少しのぼせた二人は、ガッツリと酒を堪能している。



「ところで官兵衛殿」


「何でしょう?」


「拙者達が狙われるという話をした時、一つ目と言っていたと思うのだが。二つ目は何でござるか?」


 顔を赤くした慶次の言葉に、皆はそういえばと思い出す。

 内容が内容だっただけに、二つ目を忘れていたのだ。



「それは本人が来てから、聞いてみましょう。数日後にお話しします」


「本人?」


 慶次は分かっていないらしく聞き返していたが、どうでも良くなったのか飲みに集中し始めていた。

 どうせ質問した事も、明日には忘れていそうな勢いだな。



 だけど僕はすぐに分かった。

 本人が来てからというのだ。

 ここに後から来るのが分かっているのは、キルシェくらいしか居ない。

 彼女に関わる話だという事だろう。



 どんな話かは分からないが、すぐに来るんだ。

 僕も今は、このビジネスホテルもどきを楽しむとしよう。






 三日後、大勢の兵を引き連れたキルシェが到着した。


 赤を基調とした馬車を牽いている馬も、かなり大きい。

 近衛兵というよりは、彼女の親衛隊か?

 これもまた赤い鎧兜に包まれた凄い目立つ騎士達が、馬車の前後を護衛している。



「目立つなぁ」


「あの騎士達は、強いのでござるか?」


「王国の兵って、弱いイメージがあるけどな」


 ハクトがホテル内から見下ろすように、彼等の様子を見ている。

 慶次は色よりも、強いのか弱いのかしか興味が無いようだ。

 僕は自分が思った事を口にすると、慶次の興味はすぐに失せた。



「魔王様、我々は出迎えなくて良いんですか?」


 太田は下に行かない僕を心配しているが、全く問題無い。


 何故なら、僕達は彼女の部下ではない。

 むしろ招かれた来賓なのだ。

 その来賓がわざわざ下まで迎えに行ってしまったら、おかしな話なのだ。



「というわけだ。むしろ彼女が、僕達の居るこの部屋に訪ねてくるはず」


「なるほど。理解しました」


「ずっとこんな所に閉じこもっているのも疲れるだろうが、キルシェの話が終わったら、街へ遊びに行っても良いと思うよ」



 流石にキルシェが居ないのに、僕達が問題を起こすのは嫌だった。

 だから彼女が来るまで、僕達はホテル内から一歩も出なかったのだ。




「ほら来た」


 数時間後、誰かが僕の部屋をノックしてきた。

 太田が部屋を開けると、予想通りにキルシェが部屋へやって来たのだった。





「久しぶりだな」


「お久しぶりです。魔王様」


 うーん、気持ち悪い!

 丁寧な挨拶に綺麗な笑顔。

 大抵の人ならば、この笑顔を向けられたら顔を赤くするだろう。

 大抵の人なら。



「気持ち悪いから、普通に話してくれない?」


「何の事でしょう?」



 明らかに外面スタイルのキルシェ。

 もしやと思い部屋の外を見ると、彼女の護衛だと思われる赤い服を着た連中が立っていた。



「なるほど。では王女・・・ではないか。女王陛下で良いのかな?どうぞこちらへ」




 キルシェを迎え入れると、何も言わずに彼女の護衛も入ってくる。

 太田は少しムッとしていたが、僕が軽く手を振るのを見て、そのまま何事も無く迎え入れた。



「本日はお招き、ありがとうございます」


「こちらこそ。遠路はるばるライプスブルグまで、ようこそおいで下さいました」


 定型文を読んでいるかのような言葉で、彼女は僕に話し掛けてくる。

 しかしながら目は違った。

 彼女の護衛には見えないからか、目でさっさとこの護衛を外に出せと訴えてくる。



「太田、ちょっと外に出てくれるか?ついでに官兵衛を呼んできてくれ」


「貴方達も同じく外で待機を」


 太田は言われた通りにすぐに退出したが、護衛達はそうはならなかった。



「お待ち下さい!魔王と二人きりなどと。未婚の女性がはしたないですよ」


「だから二人きりにならないように、官兵衛を呼んでいるんだけど」


「信用出来ません」


 えっと、これは喧嘩を売られてるのかな?

 敵意というわけではないのだろうが、僕を見る目は不審な人物を見る目と変わらない気がするんだけど。

 この男、ちょっとムカつく。



「キミは僕が信用出来ないと言ったね?」


「はい、出来ません」


「ドルヒ!」


 即答かよ。

 流石に見かねたキルシェが怒っているが、全く意に介していない。

 キルシェの奴、全然制御出来てないじゃないか。

 こんな所を又左や太田に見られていたら、下手したらコイツ、死んでるぞ。



「私は陛下の剣であり盾です。離れたら盾になれません」


「彼は信用出来るのです。必要ありません」


「駄目です。私が信用出来ません」


 また言われた。

 やはりこの男、顔もカッコ良いしムカつくな。

 これは反論するしかない。



「僕が信用出来ないって言うけどさ、自分が何言ってるか分かってる?それって信用出来るって言ってるキルシェに、見る目が無いと言っているのと同意じゃないのかね?」


「っ!それは・・・」


「ドルヒって言ったっけ。アンタさ、僕の事を見た目だけで判断してるでしょ。どうせ子供のようにグズついて、キルシェを困らせるとか思ってたんじゃないの?」


「そんな事は!」


「見た目だけで判断するとか、甘いんじゃない?油断させといて相手の心理を見抜くってのもあるんだよ」


 僕は欠片を使って、大人の姿に変身した。

 その姿は、前魔王と瓜二つの姿で、少しだけスマートにした感じだ。



「別にこの姿でも構わないけどさ、こっちの姿の方がキルシェと三人になるの、危ないと思わない?」


「・・・申し訳ありませんでした」


 ヘイヘーイ!

 論破してやったぜ。

 スゴスゴ下がる奴を見て、僕は心の中で口笛を吹きながら煽りまくっておいた。

 心の中でだけね。

 本当にやったら怒られるから。





「さて、誰も居なくなったし」


「あー!マジでダルい。王様とか社長とかって、ホントなるもんじゃねーよ」


 部屋に二人になったのを確認したキルシェは、早々に足を投げ出した。



 何かを言えばかったるい。

 愚痴を溢せばマジダルい。

 相当にストレスを溜め込んでいるらしい。


 すると部屋をノックする音が聞こえた。

 鍵は掛けていないので、そのまま官兵衛が入ってきた。



「初めまして。キルシェブリューテ・ツー・ライプスブルグです」


 わざわざ丁寧に挨拶するキルシェ。

 だが、僕がキルシェの中身を教えてあると話すと、再び足を投げ出す。



「先に言って。俺、もうあの笑顔をするだけで、MP消費するから」


「おっさん、地を見せ過ぎだぞ。話をしてあると言っても、ここまで酷いとは言ってない」


 そのせいで官兵衛が、目を白黒させてしまっている。

 せっかく本題を話そうとしていたのに。



「コホン、申し遅れました。オイラの名は黒田官兵衛。魔王様の右腕だと、自負しております」


「黒田官兵衛?お前、竹中半兵衛はどうしたんだ?」


「半兵衛は・・・帝国に安土を襲われた時に、亡くなったんだ」


「ま、マジか!?あ、いや・・・悪い・・・」


 ここまで気まずくなるとは。

 騙している手前、気まずいのはこっちなのだが。

 早く違う話題にすり替えよう。



「と、とにかく!官兵衛が聞きたい事があるって話なんだ」


「ホイホイ。何でも聞いて」


 ようやく話が進み、官兵衛は大きく深呼吸すると、彼女に問い掛けた。





「間違っていたら申し訳ありません。キルシェ様はわざと、我々の情報を貴族に流しましたよね?おそらくは我々の事を襲わせる為に、この街へ魔王様を呼んだのではないですか?」

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