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マッツンのマブダチ

 マッツンは腹を叩くと、聞いている相手を踊らせる能力があるらしい。

 彼の目的は僕等を強制的に踊らせて、やめてくれと頭を下げさせる事だった。

 しかし兄は余裕がある。

 逆に奴が疲れるまで、付き合ってやろうと言いながら踊っていた。


 空が明るくなってきた。

 他の連中の意見を聞き入れ、兄はハクトに音魔法の使用を頼んだ。

 地面へとへばりつくマッツンは、兄に対して罵詈雑言を浴びせる。

 しかし奴は、言ってはいけない言葉を放った。

 モテなくて何故悪いか!


 マッツンは神様の話によると、自分が寄越した転生者だという。

 僕等を手伝わせる為に、カリスマという能力を分け与え、ゴブリンを率いる王になったとの事だった。


 そして奴が魔王になりたかった理由。

 モテたかったから。

 彼はゴブリンのような幼児体型の女子よりも、美人な人がタイプとの事。

 だから安土に居る多種族が、羨ましく思えたのかもしれない。

 そんな万里小路一夜を仲間にしようと兄は声を掛けると、神様は爆弾発言を落とした。

 彼の名前は松平家康だと。





「自分の名前が嫌いねぇ。じゃあ、万里小路ってのは、一体何処から出てきたの?」


「うーん、なんとなく?うちのナンバーワンだった人がなんとか小路って付いてて、カッコ良かったから」


「ナンバーワンとは?」


「俺、死ぬ前はホストだったんだよね。全く売れなかったけど」


 売れなかった事を笑いながら説明するマッツン。

 話を聞く限り、マッツンは死んだ事を悲観するよりも、今を楽しむ方を優先しているっぽい。



(ん?もしかしてマッツンって、万里小路の略じゃなくて松平の略か?)


 言われてみると、そっちの方がしっくり来る。



「マッツンはもしかして、松平からか?」


「そうなのよ。俺の名前は万里小路って説明してもゴブリンには言いづらいみたいで。松平って言ったら、マッツンって呼ばれるようになっちゃった。マッツンやめろって何度も言ってるんだけど」


「良いじゃんマッツン。呼びやすくて分かりやすいし」


「松平家康だぜ?売れないホストが天下人と名前が同じって、完全に名前負けもいいところだよ」



 偉大過ぎる名前に、マッツンはあまり良い思い出が無さそうだ。

 まあ俺としても、転生したなら新しい名前で新しい人生をやって行きたいと思う。

 現に俺達も、マオって名前があるし。



『彼の件は任せてもよろしいかな?』


「そうですね。本人も神様が口を挟んできた事で、魔王になるって希望は失せたみたいだし。俺達で話し合ってみます」


「この万里小路一夜。神様からの頼みはちゃんと聞くぜぃ!」


『そうですか。それじゃマッツン、後は頼みましたよ?それではまた』


「マッツン言うな!」


 既に切られた電話に対し、マッツンはキレている。



「魔王様。ここはひとまず、お休みになりませんか?」


 官兵衛の一言で、皆が朝になった事に気付く。

 昨晩からずっと踊っていたのだ。

 又左と慶次は俺達と戦って、更にサンバだからな。

 相当疲れていると思う。



「俺達は一旦寝るわ。昼過ぎにまた会おう」


「分かった。こっちもメシ食わせないと、機嫌悪くなるから。後でな」






 城に戻った後、俺達はすぐに布団に入った。

 昼過ぎというより、もう少しで夕方に差し掛かる時間になった頃、俺は蘭丸の声で起こされた。



「おい、お前以外集まってるぞ」


「あ?あぁ、忘れてた」


 一通りの準備を済ませた後、城の大きな会議室へ向かう俺。

 寝起きで頭が回らないのもあるが、話し合いは俺の専門分野じゃないからな。

 そろそろ交代しようと思う。



(それ、ただ惰眠を貪りたいだけだよね。まあ、今後の事でかなり重要な話になるし。僕がやるよ)





「遅くなってごめんね」


「うぇーい!遅いぜ魔王様よぉ!」


 酒でも飲んでるのか?

 何故コイツ等、こんなにハイテンションなのか分からない。



「んん!少し静かにしてもらえるかな?」


「何よこのおっさん。俺がうるさいっての?」


「誰がおっさんか!」


 長秀とテンジは、マッツンが関わると不機嫌になる。

 無理矢理踊らされたのもあるだろうが、性格が合わないんだろう。



「さて、とりあえず自己紹介くらいはしておこうか」


 まずは領主達四人と秀吉を紹介。

 さっきも言ったが、長秀とテンジはかなりぶっきらぼうに対応している。

 それに対して一益とベティは、逆に好印象っぽい。

 一益は面白いという事で気に入っており、ベティはマッツンとノリが近い。



「それと安土の方の紹介を」


「はじめまして!万里小路一夜と申します」


 紹介を始めようとする前に、マッツンは素早く動く。

 長可さんの前に高速で向かうと、その手を取って自己紹介を始めた。



「今分かった。俺がこの世界に来たのは、貴方という存在に出会う為なのだと!」


「そうですか。それはどうも」


 塩対応という言葉が、これほど似合う人は居ない。

 かなり冷たい対応をしたにも関わらず、マッツンはまだ長可さんの手を離さない。

 しかし、そこで横槍が入る。

 彼の手を無理矢理引き剥がしたのは、蘭丸だった。



「む!俺の愛の手を邪魔するのは誰だ!」


「いつまでも握ってるんじゃない」


「くっ!イケメンオーラが眩しい!俺もこんな顔に生まれたかった!」


 心の声がダダ漏れのマッツン。

 兄の言う通り、ストレート過ぎて面白い男だ。



「こら、蘭丸。それなりに失礼のないようにね」


「分かりました」


「し、下の名前で呼ばれるだと!?き、貴様!長可さんとはどういう関係だ!」


「どういうって、親子だけど」


「・・・は?」


 マッツンの動きが止まった。

 どうやら長可さんと蘭丸の関係が、理解出来ていないらしい。

 蘭丸がもう一度詳しく説明すると、ようやくタヌキの頭でも分かったようだ。



「美魔女!長可さん恐るべし!」


「美魔女って何だよ」


「蘭丸くん!お義父さんって呼んでも良いのよ?」


「呼ぶか!」



 コントのやりとりは置いといて。

 そろそろ他の連中の紹介もしなければならない。



「マッツン、それ以上騒ぐと又左と慶次が・・・」


 彼は二人の名前を聞くと、素早く自分の席に座った。

 背筋はピンと伸び、面接会場で待っている人のように静かになった。



「長可さんが外交担当だとしたら、こっちのゴリアテが防衛担当だ。お前が逃げていたオーガ達のトップだな」


「ゴリアテさんね。大きいけど、うちのカッちゃん程じゃないな」


「聞き捨てなりませんな。この私の筋肉より!美しい筋肉が!あると言うのですか!」


 ポージングを決めながら言うのはやめてほしい。

 ちなみにゴリアテ曰く、太田には負けても良いと考えているらしい。



「カッちゃん呼ぶ?外で待ってるけど」


「うーん、僕は必要無いと思ってるけど」


 今は関係無い人は、呼ばなくても良いかなと思ってるんだけど。

 ゴリアテがどうしても会いたいというので、カッちゃんとやらを呼んでもらう事にした。



「どうせだから、俺が仲良い連中呼ぶわ」





 彼が連れてきたのは三人。

 凄く大きい男と小柄のイケメン。

 そして中肉中背の普通っぽい男だ。



「左からカッちゃん、ナオちゃん、ハンちゃんね」


「それじゃ分からないよ」


「えっ?えーと、名前なんだっけ?」


 おいおい。

 紹介するって言っておいて、名前覚えてないのかよ。

 すると三人は、自己紹介を始めた。

 ただし、ノリがおかしいが・・・。



「YO!YO!ヘイYO!俺の名前は本多忠勝。ゴブリンきっての力持ち。今はマッツンの片腕やってます!」


「チェ!チェ!チェケラ!私はマッツンのマブダチ直政。姓は井伊です。名が直政。マッツンが困ったら俺にお任せ」


「YOセイ!YOセイ!俺の名前は服部半蔵。マッツンのダチンコやってます。カッちゃんナオちゃん半蔵の三人で、マッツン飲み友やってます。YO!」


「オーイェー!三人ともセンキュー!」



 盛り上がるマッツン達を横目に、僕達は誰もが無言になった。

 しかしこの三人、普通のゴブリンとは違うらしい。



「これが俺のマブ、カッちゃんね」


「よろしくぅ〜!」


「デカイな。確かに良い身体してるわ」


 ゴリアテと並んでみても、負けていない。

 むしろゴブリンなのに、オーガと同等に見える時点で凄いと思う。



 それよりも気になるのは、名前だ。



「本多さんと井伊さんと服部さんね」


「ノンノン!アイアムカッちゃん」


「俺ナオちゃんで、彼はハンちゃん。オーケー?」


「お、おーけーおーけー」


 何故彼等はカタコトじゃないんだろう。

 しかも英語で聞いてくるのも意味が分からない。



「カッちゃん達はその名前は最初から持ってたの?信長と関わりはある?」


「信長?初代魔王様の事は知らないよ。名前も代々伝えられたモノだよ」


「ミートゥー」


「私も」


 なるほど。

 特にマッツンとは関係無く、たまたま名前がそうだったと。



 って、信じられるか!

 偶然で家康の部下にこんな連中が集まるかっつーの!

 しかもマッツンは、全然関係無いような顔してるし。

 つーか、もしかしたら日本史知らないだけか?

 頭悪そうだからなぁ・・・。



「カッちゃん達もついでに居てくれ」


「オーケー。マッツンの頼みならオーライ」


「センキュー!心の友よ!」


 ノリについていけない。






 自己紹介を済ませた僕達は、いよいよ本題に入る。



「マッツン、神様からの頼みは分かってるよね?」


「魔王の助けになる事だろ?とは言ってもよ。俺が何をすれば良いんだ?ハッキリ言って、俺弱いぜ。マブ三人の方がはるかに強いから」


 強いと言われた三人は、揃って頭を掻きながら照れる。

 大中小と背が違うゴブリンの全く同じ動作に、僕は少し笑ってしまった。



「数は力。オイラ達ですら、今回のゴブリンの人数には脅威を感じました。だから間違いなく、帝国にも影響はあるはずです」


「でもこう言っちゃなんだけど、あんまりゴブリン達を戦闘に出さないでやってくれない?」


「何故です?」


「コイツ等って、食う寝るヤルの三つしか知らなかったのを、俺が他に面白い事があるって教えてやったんだよ。せっかく人生が面白いって分かったのに、戦争で死ぬのは可哀想だろ?」


 んー。

 これにはちょっとマッツンに感動してしまった。

 バカはバカなりに考えているんだなと。



 ツムジはゴブリンが嫌いだと言っていたが、言葉が通じるような知性があれば違ったと思う。

 マッツンは意図的ではないにしろ、彼等に知性を与えている気がする。

 さっきの三つしか考えてなければ、マッツンの言う事を聞くはずがない。

 今のゴブリンは、進化の途上にあるのかもしれない。



 そして官兵衛も、マッツンの頼みを汲んでくれたらしい。



「ゴブリンの皆さんは、バラバラになっても問題無いですか?」


「バラバラに?ここに来ている連中がか?」


「オイラの考えでは、ゴブリンに各領地に散ってもらいたいのです。主な仕事は防衛。ゴブリンの数であれば、帝国も簡単には手出し出来なくなりますから」


「それでゴブリンに分かれてもらいたいのか。じゃあ、ここに居る連中はこのままで良いんじゃね?」


「それはどういう意味ですか?」


「だって、ここに来てるゴブリンって、一部だし」


 簡単に言ってのけるマッツンだが、この言葉は他の領主達も看過出来なかった。



 安土を包囲している二十万を超えるゴブリンが一部だと言うなら、全ゴブリンであれば百万近く存在するという事。

 もしそのゴブリン達が本気で集まって攻め込んできたら、如何にゴブリンが弱いといっても勝てるかは分からない。



 彼等は全員思った。

 マッツンが馬鹿で良かったと。



「じゃ、じゃあですよ?他の領地にはどれくらいずつ派遣してもらえます?」


「二十万から三十万くらいじゃね?ナオちゃんそれくらいだよね?」


「んー、正確には二十四万ずつくらいかな。他にも居るけど、これはマッツンの手元に残しておきたいし」


「だってさ。って事で、そんな感じでヨロ!」


「わ、分かりました」


 官兵衛が慌てて計算に入る。

 その様子を伺う他の領主達も、各々でゴブリン達の世話をどうするか考え始めていた。


 そんな時、会議室の扉が開いて、また面倒な男が現れた。



「ヘーイ!マオっち!コバっちからの伝言を伝えに・・・」


 ロックは立ち止まった。

 初見のゴブリン達を見て、ゆっくりと近付く。

 そして彼は、マッツンと出会った。





「ヘイ!ヘイ!ヘイ!ウェーイ!ポポポポーン!何このお腹。マジで鬼ヤバ。俺っちの魂が叫んでる。コイツは大物だってね」

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