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マッツンの正体

 安土の外から来た奴は、オーガの警備隊に追われて姿を消した。

 ゴブリンと合流されるのは困ると思い、僕達は元に戻ってから街へと向かった。


 さっき居たと思われる場所へ行くと、僕達は遠巻きに見られている事に気付いた。

 玉潰しの魔王として、恐れられているらしい。

 わざとではない!

 いつか弁明したいと思う。

 そこで出会った男にさっき居た獣人の行った先を聞くと、どうやら舞台の方へと向かったと言われる。


 舞台に戻ると、奴は神輿に担がれてサンバを踊ったゴブリンを引き連れてやって来た。

 万里小路一夜。

 奴はそう名乗り、帝国に負けた負け犬だと言い、又左と慶次の怒りを買った。


 ここへやって来た目的、それは僕等に代わって魔王になる事らしい。

 奴は僕等に勝負を挑んできたが、兄はコイツが弱いと言い、こちらからは手を出さないつもりだという。

 その結果、パンイチの男が腹を叩きながら踊り出すと、僕達の身体は自然に同じように踊り始めた。

 マッツン曰く、踊り疲れて平伏させるのが目的らしい。





「お、おぉ!?勝手に動くぞ!?」


「ダーハッハッハ!お前はもう、俺様が腹を叩き続ける限り、踊り狂うしかないのだぁ!疲れても踊り続ける。それが嫌なら、俺様にひれ伏すんだなぁ?」


 腹を叩きながら偉そうに言ってくるマッツン。

 周りのゴブリン達も踊ってるが、これは俺みたいに強制なのか?

 めちゃくちゃ楽しそうだから、そんな感じはしないんだが。



「魔王様!?」


「アタシも踊ってるぅぅ!!」


 ちょっと予想外だったのは、観覧席の方に居た連中も全員踊ってる事だ。

 ベティやバスティは、あまり嫌そうな感じはしない。

 むしろ楽しんでいる感がある。


 逆に困惑しているのは、テンジと長秀達だ。

 比較的マジメな部類の二人は、無理矢理踊らされているとはいえ、顔が真っ赤である。

 相当恥ずかしいみたいだな。



「魔王様!止められませんか?」


「長秀は嫌なの?」


「嫌というか、何というか・・・」


「私は嫌です!だから早く!」


 テンジはハッキリと嫌だと答える。

 官兵衛はテンジと踊れてちょっと楽しそうだから、このままでも良いかなと思ってるんだけど。



「ちょっと!あの綺麗な人は何なのよ!?」


「あん?誰?」


「アタシの事でしょ!」


 マッツンが観覧席の方を見て、興奮している。

 ベティがその言葉に反応したが、間違いなくお前じゃない。



「うるせーオカマ!お前じゃねーよ!」


「酷いわ。オカマだって、綺麗な人は居るのに」


「俺が気になってるのは、オカマの影に隠れてる人だ」


「あぁ、長可さんか」


「長可さんか。綺麗だぁ・・・」


 マッツン、長可さんに惚れたらしい。

 しかし当の本人は、聞こえないフリをしている。

 このクソタヌキと関わりたくないんだろう。



「魔王になったら、俺の側近になってもらおう」


「夢の中でなら叶うんじゃないか?」


「抜かせ!お前はこのまま踊り疲れて、俺様に頭を下げるしかないのだ」


 俺が頭を下げると、凄い自信満々に言ってくるマッツン。

 だが、俺には気になる点があった。



「なあ、お前が先に疲れるって事はないの?」


「ん?どういう意味だ?」


「俺の体力が尽きるより、お前の腕の方がパンパンになって叩けなくなるんじゃないのかって事」


「ワハハ!馬鹿め。俺はどんなに疲れても、一日中叩いていられるぞ」


「そりゃ俺だって、それくらいは踊っていられるけど。三日とか四日経ったら、ちょっとキツイかな」


「み、三日!?」


 目を白黒させて驚くマッツン。

 どうやらそこまで粘るとは、考えていないらしい。

 おそらくはゴブリン基準で、俺達が折れる事を予想していたんだろう。


 だけど俺、足に魔力を集中させれば、三日は踊っていられる自信はある。

 疲れるから嫌だけど。



「魔王様。我々はそこまで踊っていられないですよ」


「そうです。私もそろそろ旅を再開したいですし。長引きそうなら、先に抜けても良いですか?」


「お前の部下達からは、泣きが入っているぞ?」


 長秀と秀吉の言葉に満足そうなマッツンは、俺を挑発してくる。



「領主たる者、これくらいでは泣き言なんか言わないさ。フッフー!」


「何クソ!」


 マッツンは俺が乗り始めると、ちょっとイラッとしている。

 どうやら自分主体でやらないと、嫌なんだと思われる。



「ま、お前が疲れるまでは付き合ってやるよ」





 数時間経った。

 一日中叩けると豪語したマッツンの顔は、汗だくである。

 ゴブリン達も疲れが見えているが、どうやら彼等の方がまだ元気だと思われる。

 だって笑顔なんだもの。



「おーい、大丈夫か?」


「ぬあ?お、俺様が疲れてるとでも思ってるのか?お前はどうなんだよ」


「余裕ですけど」


「よ、余裕!?クッソー!」


 もうマッツンに、最初の頃のような余裕は無い。

 逆に俺はまだまだ元気だ。

 領主達の方を見ると、バスティもそろそろ疲れていると思われる。

 テンジも座りたそうな顔をしているな。



「魔王様。お願いがあります。そろそろ夜明けも近いので、終わらせませんか?」


 又左の言葉を聞いて空を見ると、確かに少し明るくなってきている。

 街の方も模擬戦直後のどんちゃん騒ぎは無い。



「そうだな。明日も仕事ある人も居るし、終わらせよう」


「どうした!とうとう諦めたのか?」


 嬉しそうなマッツンだが、別に頭を下げる気は無い。

 むしろ頭を下げるのは、そっちだ。



「ハクト!頼んだぞ」


「分かった。腹を叩かず跪け!」


「へ?うおぁ!」


 ハクトの音魔法で、マッツンは地面へと平伏した。

 何故こんな事になったのか、マッツンは理解していない。



「あれあれぇ?おかしいなぁ。ひれ伏すのだぁとか言ってた人が、逆にひれ伏してるよ」


「卑怯だぞ!」


「卑怯?何処が?」


「手は出さないって言っただろうが!」


「手は出してません〜。口ですぅ〜」


 地面にへばりつくマッツンは、顔を真っ赤にして怒っている。

 でも俺は、本当に手は出していない。



「それに部下にやらせてるじゃないか!この嘘つき!」


「部下じゃないです。友達ですぅ〜」


「バーカ!バーカ!」


 ワハハ!

 とうとう言う事が無くなって、悪口になったな。



「ま、なんとでも言えば良い」


「バーカ!チービ!非モテ男!」


 ピクッ。


「アホー!童貞!」


 ピクピクッ。



「又左、慶次」


「何でしょう?」


「武器は無しな。平手打ちなら、やっても良いぞ」


「承知しました」


 俺の言葉に、尖った歯を見せて笑う又左。

 慶次も手をバンバン叩いて、やる気十分のようだ。



「お、おい!手は出さないんじゃないのか!?」


「俺は!出さないよ。俺じゃない人は知らないけど」


「ちょっ!待って!」


「待たない。テメーは俺を怒らせた」


 この野郎、誰が非モテで童貞だ!






「ずびばぜんでじだ・・・」


 マッツンは顔を腫らして謝ってきた。

 分かれば良いのだよ。


 少し気が晴れた時、ハクトが俺を呼んできた。



「なんか、コレが震えながら鳴ってるんだけど」


「スマホ!?」


 という事は、神様だな。

 俺はスマホを受け取って、着信に応答した。



『いや〜、ごめんね』


 ごめんね?

 何か謝られる事あったかな?



「何がです?」


「そこの彼の事なんですけど」


「マッツン?」


 まさかマッツン、神様からの使いなのか?

 マッツンは軽く泣きながら、今は正座している。

 又左と慶次に見られて、完全に萎縮モードだ。



『そこの彼、阿久野くん達の手助けをさせようと、私が寄越した転生者なんですよ』


「て、転生者!?」


 という事は、キルシェと同じ?

 転生者なのにタヌキって・・・。



「お前、転生者なの?」


「えぇ、ハイ」


 今では彼は、又左と慶次のおかげでとても丁寧な口調になっている。

 ちょっとでも又左が動くとビクッとするので、少し可哀想になってきた。



『キミ達が帝国に酷い目に遭わされたのは、私も見ていました。だからキミ達に足りないモノを用意しようと、私が彼を派遣したのです』


「そうなのか?」


「ハイ」


 素直に頷くマッツンだが、そうなると腑に落ちない点がある。



「じゃあ自分が魔王になるって言ってたのは?」


「すいません。調子乗ってました」


「・・・」


『彼、ちょっと頭がアレなんですよ』


 神様から頭が悪いって言われるって、相当じゃないか?

 コイツも苦笑いしてるし。

 エヘヘで済ませるんじゃねーよ。



「それで、足りないモノって?」


『それは戦力です。魔族はヒト族と比べてもはるかに強いですが、問題はその数。圧倒的に魔族の数が少ないのです』


 それは分かる。

 この言葉はここに居る誰もが、たった今実感したしな。



「その数の埋め合わせがコイツですか?」


『そうです。彼の能力の一つ、カリスマ。この力でゴブリン達をまとめています』


 なるほど。

 だからタヌキの獣人なのに、ゴブリンの王になっているのか。



「お前、ゴブリンの王に祭り上げられて、調子乗って安土に攻めてきたって事?」


「そ、そうです。俺の能力なら、ゴブリン以外の種族にも効くんだと思ってたから」


「そういえば街に居たよな?どうだったんだ?」


「それが、全然効かなくて・・・。たまに小人族?みたいな小さな連中は俺を持ち上げてくれるんだけど、エルフとかオーガ、獣人は全くでしたね。何でだろ?」


 自分の能力も把握していないのかよ。

 おかげで助かったとも言える。



『説明したはずなんですけどね。彼の能力カリスマは、自分より劣る者にしか効きません。強くない今の彼なら、ゴブリンや小人族、ネズミ族の一部くらいにしか効かないでしょうね』


「だってよ。お前、話聞いてたの?」


「いやぁ、そうなんすね。アハハ」


 笑ってゴマかすマッツン。

 神様が出てきた事で、もう反抗する気も無いらしい。

 だから今は、ハクトの回復魔法と長秀の薬で、治療しながら話を聞いている。



(あのさ、さっきマッツンの能力の一つって言ってたと思うんだ。まだあるのかな?)


 そういえばそうだな。

 ちょっと待ってろ。



『ありますよ。彼には阿久野くんの手伝いをやらせる為に、もう一つ能力を渡しました。それがさっきの腹太鼓です』


「あぁ、アレか!というか、勝手に弟との会話を盗み聞きするのやめてくれません?」


『それは置いといて。まあ、元々は腹太鼓が彼の能力だったんですけど、転生するならどうしてもって言われて、カリスマの能力を授けたんですよね。その条件が阿久野くんの手伝いだったのに、恩をアダで返すような事をしてくれて』


 カリスマの能力の話を聞く限り、どうせロクな事に使うつもりはなかったんだろう。

 しかも俺を手伝うどころか、逆に魔王の座を狙ってくるくらいだ。

 コイツの能力、剥奪しても良いんじゃないか?



「ちょっと!俺、誰も傷つけてないっす!ただ、安土って場所を教えてもらって着いたは良いけど、スゲー良い街だったから・・・。すいません、調子に乗ったっす」


 安土が良い街という言葉に、なんだかんだこの場に居る全員が頷いている。

 ちょっとこそばゆい感じがするが、褒められて悪い気はしない。



「つーかさ、何で魔王になりたかったんだ?」


「いや、えーと・・・モテたくて?」


 目を逸らしながら言うマッツン。

 でもコイツ、ゴブリンからはモテモテなんじゃないのか?



「ゴブリンにモテてるのに、まだ足りないってのか」


「いやいや!ちょっと聞いて下さいよ!ゴブリンって、女の子は幼児体型なんすよ。しかも皆、食う寝るヤルの三つしか知らないような子達で、もっと楽しい事あるのにって思ったら、なんか可哀想な気がして」


「じゃあ、手を出したりしてないの?」


「モテるのは嬉しいけど、姪っ子に好かれてるって感覚っすね。それに俺、美人な人の方がタイプなんで!」


 長可さんを見ながらタイプだと言い張るマッツン。

 全く微動だにしない笑顔を見る限り、相手にしてないんだろうな。



「じゃあ、他の種族の女の子にモテたいから、魔王になりたかったと?」


「そ、そういう事になるのかぁ?」


 目がバタフライから平泳ぎまで、バッチリなくらい泳いでいる。

 個人的にはストレートで分かりやすくて、悪い奴じゃないなと思う。

 だから、仲間になってくれると助かるな。



「よし、万里小路一夜だっけ?」


『万里小路?誰ですそれ?』


「え?コイツ違うの?」


「ちょっ!待って!」


『彼の名前は松平家康ですよ』


「家康!?」


 俺でも知ってる徳川幕府。

 確か、昔は徳川じゃなくて松平だったんだよな?





「あぁ、だから本名言うの嫌だったのに・・・。親がね、親が付けたんです。でも、毎回名前負けしてるって揶揄われるから、好きじゃないんすよ・・・」

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