表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
319/1299

新たな模擬戦

 長谷部はアデルモに教わった剣技を捨て、昔の喧嘩をしていた頃に戻っていた。

 長秀にとって、自分に喧嘩を吹っかけてくる連中など居なかっただろう。

 その攻撃は長秀にとって、戸惑うには充分だった。


 それを打開する為に長秀はとある行動を取る。

 それはお薬の力を借りる事。


 確かに長秀は、阿形達と同じような攻撃をしている。

 師匠というのは、あながち間違いでもないのかもしれない。

 あの二人とどちらが強いかと聞かれたら、少し疑問はあるけどね。


 そして長谷部の攻撃で圧力が掛かったまま、長秀は長谷部と覆い被さった。

 長秀の自爆技で長谷部も、大きなダメージを受けたのだ。

 意識朦朧としながらも、攻撃を続ける長谷部。

 血を吐きながら向かってくる長谷部を見て、長秀はこれ以上は危険だと判断して、自ら降参を願い出たのだった。


 残る試合は一つのみ。

 ハッキリ言おう。

 見なければ良かった。

 あれだけ盛り上がったのに、最後の最後で静寂に包まれてしまった。

 官兵衛は白目を剥いて意識を失うし、とんでもないモノを見せられてしまった気分だ。


 全ての試合が終わったが、ロックとテンジのせいで予定が大幅に狂ってしまう。

 しかし、僕等に文句を言ってくる人はいない。

 そう考えていたのだが、予想外の連中が直接文句を言いに僕達の目の前に現れたのだった。






「何だよ。何が不満なんだ?」


「何がって、そりゃ考えるまでもなく分かりますよね?」


「・・・分からん」


「拙者が何故こんな楽しそうな模擬戦に、呼ばれなかったのでござるか!?」


「コイツは良いとして、私が出られなかった理由は何ですか!?」



 そう。

 文句を言いに来たのは、又左と慶次の二人。

 どうやら俺を探し回って、色々な舞台を走り回っていたらしい。

 運が悪い事に、一番最後にここに辿り着いたみたいだけど。

 自分達が安土代表に選ばれなかった事が、不満のようだ。



「コイツ?兄上は別に良いとして、拙者が選ばれなかったのは何故でござるか?」


「慶次、お前は引っ込んでろ。私は魔王様の右腕ですよ。選ばれるに足りると思うのですが」


「右腕は右腕らしく、魔王様の脇に居ればよろしいのでは?」


「あ?」


「何でござるか?」


 睨み合う両者。

 目の前で兄弟喧嘩はやめてほしい。

 あ、喧嘩するなら丁度良いな。



「お前等二人で戦えよ」


 この俺の素晴らしい名案に、官兵衛は頷く。

 しかし当の本人達は違った。



「兄上とは普段から戦ってるので・・・」


「普段とせっかく違う相手と出来るなら、そっちを希望したいというか・・・」


「違う相手とやり合う事で、自分の実力を知る良い機会でござるよ!」


「そ、その通り!慶次、お前良い事言うな」


 さっきまでの喧嘩が嘘のようだ。

 二人ともお互いと戦うのは、遠慮したいという事らしい。



「しかし領主の方々は、先程の模擬戦で怪我を負っております。安土に居る間は、怪我を癒す事に専念していただかなければなりません」


「そんな!」


「いや、一人居ますよ!ほら、木下殿が無傷です」


 慶次が頭を抱えていると、又左は秀吉ならと提案する。



 確かに秀吉は大した怪我をしてなかった。

 佐藤さんだけがボロボロで、秀吉は無傷の印象がある。

 秀吉なら大丈夫かな?



「オイラは反対ですね。無傷と言えど、魔力の消費はしています。怪我をしてないとはいえ、疲労していないとは言えません」


「言われてみればそうだな。秀吉だって、疲れてないとは言い切れない。元々は領主代表に入ってなかったのに、頼んで出てもらったし」


「そんな!」


 やはり兄弟。

 慶次と同じ表情をしている。

 それでも食い下がる又左。



「木下殿に聞いてもらえませんかね?」


「駄目。お前のワガママで怪我をされたら、テンジ達にも悪いしな」


「せっかく戦えると思ったのに・・・」


 崩れ落ちる又左に、慶次は肩を叩く。

 二人とも物凄く落ち込んでいる。

 別に俺達が悪いわけではないのだが、二人を見ていると俺達が悪い気がしてきた。

 何か代案があれば良いんだけど。



(兄さんが戦えば良いじゃない)


 ・・・は?



(又左と兄さんが戦えば良いんだよ。修行の成果も確認出来るし、丁度良いんじゃないの?)


 うーん、一理あるのか?

 まあ命懸けってわけじゃないし、別に良いか。





「オホン!俺と戦いたいか?」


「・・・ふぇ?」


「どういう意味でござるか?」


 どうやらショックが大きかったらしく、理解していない。

 そのまま言ってるつもりなんだが・・・。



「俺と模擬戦やるか?」


「魔王様と模擬戦ですと!?」


「ハイ!ハイ!立候補!立候補するでござる!」


「馬鹿野郎!お前はすっ込んでろ!私がそのお相手をさせていただきます」


 物凄い勢いで立ち上がる二人。

 官兵衛はその圧力に負けて、尻もちを突いた。



「え、ちょっと」


「拙者が戦うでござる!」


「未熟者は黙ってろ!」


「未熟だから稽古つけてもらうんですぅ!兄上は拙者より強いから、魔王様とやる必要無いのでは?」


「ぐぬっ!いや、ここは魔王様の右腕として、この実力を見ていただくべきだと思います。いやホントに」


「右腕とか関係無いではござる」


「うっさいボケ!私がやるんだ!」


「ボケェ!?ワガママ兄上!たまには弟に譲りなさいよ!」



 結局、取っ組み合いの喧嘩に発展した。

 二人して顔面を引っ張り合う。

 お互いの顔を歪めて、セルフにらめっこでもしてるみたいだ。



「別に二人とも相手にしても良いけど」


 俺の一言は、どうやら言ってはいけない言葉だったらしい。

 取っ組み合いが突然終わり、二人とも意気投合したかのように捲し立ててきた。



「魔王様。お言葉ですが、それは自信過剰ではないですか!?私は置いといて、慶次と二人で戦うのに、マトモに勝負出来るとお思いですか!?」


「二人まとめて戦うなんて。拙者はともかく、それは兄上を下に見過ぎではござらぬか?」


 何この兄弟。

 アレだけボロクソ言っておいて、結局はお互いの事認めてるじゃないか。

 模擬戦なんだから、二人まとめてでも良いと思ってるんだけどな。



「魔王様。これで負けたら恥ずかしいですよ」


 官兵衛がコソッと耳打ちしてきた。

 言われてみると、二人まとめて掛かってこいや!って言って負けたら、確かにカッコ悪い。

 下手したら、威厳が無くなりそう。

 元からあるか分からないけど。



(仕方ないな。僕も戦うよ)


 おっ?

 そういえばお前も、人形の姿でも普通に魔法使えるようになったんだっけか。



(そうだよ。以前はどちらかしか戦えなかったけど、今は違う。それに二人で同時に戦う時の、練習にもなるからね)


 そういう考えも出来るか。

 よし!

 頼んだぞ!





 人形姿になった僕は、背負われているバッグの中から自分で飛び出した。



「二人同時だ。二人同時に掛かってこい。俺と」


「僕が、お前達と模擬戦をしてやる」


 まさかの僕の登場に、二人は唖然としている。

 しかし、少し間を置いて理解したのか、二人揃って頭を下げてきた。



「よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします!」


 声を揃えて言ってきたその言葉に、遠くから大きな歓声が聞こえた。

 ちょっと遠くを見てみると、カメラマンがこっちを撮影している事が分かった。

 あの小人族のカメラマン、なかなか仕事出来る人だなぁ。



「まさか、お前も戦う事になるとはな」


「ガッハッハ!魔王様と槍使いで有名な前田殿か!我も楽しみにさせてもらおう」


 蘭丸と一益も、横でその話を聞いていたらしい。

 二人は救護班に回復魔法を掛けてもらいながら、座っている。



「それでは、テンジ様とロック殿の戦いに代わり、魔王様と前田兄弟による模擬戦を新たな賭けの対象としましょう」


 官兵衛がそう宣言すると、カメラマンがそれを撮っていたからか、モニターで見ていると思われる連中の声が聞こえてくる。



「だったら対象が変わったから、新しく賭け直さないといけないな。どうせ残り一試合。今日中に終わらせよう」


「そうだね。それなら夜までに賭けてもらって、試合は夜にやろう。ちょっと実戦的にやる為に、夜間戦闘もアリだと思う」


 カメラに映らないと駄目だから、照明とかは設置しないといけない。

 その辺はコバとノームの連中に頼もう。

 突貫だけど、舞台はあるからそこまで苦労しないはずだ。



「二人とも、それで良いな?」


 兄の問いにお互いの顔を見合った二人は、異論は無いと頷く。

 これで二人から文句は無い。



「それじゃ、夜になったら長秀達が戦っていた舞台でやろう」


「移動するのですか?」


 又左がここでやらないのかと聞いてきたが、理由は簡単。

 長谷部と長秀以外が戦っていた舞台は、かなり破損しているからだ。



 ここも一益のハンマーなどで所々壊れているし、太田の所もも暴走して破壊したりしている。

 特に佐藤さんと秀吉の舞台は、秀吉の魔法で舞台の原形が残っていないレベルだ。

 必然的に、主に木刀やレイピアでお互いを攻撃していた長谷部達の舞台が、一番損傷が少ないのだ。



「という理由だ」


「なるほど。流石は魔王様」


「拙者も理解したでござる」


「夜までは自由だ。二人でどうやって戦うか、話し合ってくればいい」


「そういう事ならば。失礼します」



 兄が言うと、二人は仲良く話しながら立ち去っていく。

 二人の目を見る限り、本気でやって来るのは間違いない。


 僕達も初めて二人で戦うんだ。

 どういうスタイルでやっていくか、多少は話し合わないといけない。



「僕達も話し合おう」





「魔王は本当に面白い事をするのである」


 コバに照明設備の件を頼むと、返ってきた言葉がこれだった。

 ノーム達もそれを聞いて、笑いを堪えているのが分かる。



「あの二人を納得させるのに、仕方なかったんだ」


「俺の代わりにお前が戦うか?」


「冗談でもお断りである。それと魔王、頼まれていた物も作っておいたが、まだ試していないのである。どうする?」


「今回は見送るよ。爆発でもしたら、又左達が怒りそうだし」


「了解したのである」


 兄からは何を頼んだか聞かれたが、この身体の時に頼んだのだ。

 兄も話くらいは聞いているはずなのに、覚えてないとは。

 多分、興味が無いんだろう。



「ところで、うちの助手連中は役に立ったのであるか?」


「三人とも良い仕事してくれたよ。でも最後は、小人族のカメラマンに任せるつもりだし、お疲れって言って帰したけど」


「何?戻ってきていないぞ」


 コバの眉間に皺が寄る。

 街でサボっているのだろう。

 後で怒られるのが目に見える。



「じゃ、俺達は行くわ」


「街で三人を見掛けたら、コバが怒ってたって伝えておくよ」


「頼むのである。サボタージュしている分は、給料から引く事にしよう」


 最後に聞いちゃいけない事が聞こえたが、敢えて無視しておこうと思った。





 さて、二人で戦う時の問題点を話し合おうと思う。



「どうやって戦うか」


「俺がお前を守りながら、後方から魔法で援護してもらう。これが普通だよな」


「でもそれをすると、兄さんは防戦一方で前には出れないよね」


「それが問題なんだよなぁ」


 この人形の身体では、どうやってもあの二人の槍を避ける事は出来ない。

 おそらくは簡単に貫かれるだろう。

 かと言って、守ってもらわないと魔法も使えないし。



「足をタイヤにでも改造するか?」


「そんな事しても、慣れない身体でどっちにしろ動けないだろうね」


「じゃあ、犬とか猫みたいに四足歩行は?」


「タイヤと同じだよ。タイヤよりは動けるだろうけど、動きはぎこちないと思うよ」


 兄の提案を聞いても、無理なものばかりだった。

 そうなるとやはり、アレしかないと思われる。



「結局は二人で行動するハメになるか」


「それが一番無難だと思う。幸い、首は一回転出来るし、ついでに後ろの死角もカバー出来るからね」





「なんか、いつもと変わらない気がするけど。仕方ない、一緒に動くわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ