模擬戦その2
あけましておめでとうございます。
稚拙な文章ですが、今年もよろしくお願いします。
蘭丸はこの模擬戦に懸けているっぽい。
戦闘を始める前に、一益に頭を下げお礼を言っていた。
しかし一益は、まだ蘭丸を甘く見ていたようだ。
物々しい装備をしている蘭丸を、心配する余裕があった。
蘭丸の怒涛の攻撃から始まった模擬戦。
しかし一益も負けてはいない。
大槌で蘭丸の腹をぶっ叩くが、予想外に耐えてみせた。
兄と官兵衛は、ハイレベルな攻防にガッツリとハマっていた。
蘭丸の風魔法で、何でもない風に巻かれる一益。
官兵衛が見つけた火矢と聞いて、僕にはそれが何を狙っているのかすぐに分かった。
二人に頭を下げさせた直後、思った通りの爆発音。
一益は激怒した。
蘭丸が仕掛けた粉塵爆発により、髭が燃えた事が原因らしい。
本気を見せると言った一益は、彼は数本の釘を一度に全て打つという曲芸のような技を繰り出した。
追尾する釘に惑わされ、罠にハマる蘭丸。
起き上がらない蘭丸を見て、僕達は蘭丸の敗北かと思った。
しかしそれが、蘭丸の逆転の一手への布石だったとは。
目の前で光が弾ける矢を、一益は大きく直視。
目を潰された彼は背後を取られ、最後は自ら降参したのだった。
蘭丸が勝った!?
マジかよ!
安土の方からも、大きな歓声が聞こえる。
多分、試合結果が出たこの一戦を見ていた連中だろう。
たまに歓声が聞こえたのは、他の舞台の動きかな?
それでもここまで大きな歓声は、丁度降参を宣言したこの戦いのものだと思われる。
「ありがとうございました!」
「いや、我こそお礼が言いたい。ここまでの苦戦は、最近思い出す限りでも無かった。佐々殿の案に乗っただけだが、とても良い経験をさせてもらったぞ!」
まさかの大絶賛により、蘭丸の頬は緩んでいる。
本当はもっと喜びたいんだろう。
やったと叫びたいんだろう。
それをしないのは、相手を気遣う心があるからだと俺は思う。
「あの、髭は・・・」
「むぅ!それは言わないでくれ・・・」
やはり髭だけは、凹む対象らしい。
負けても凹まないのに、燃えた髭を指摘されて凹むとは。
ドワーフの価値観がよく分からんな。
しかし、勝った蘭丸もダメージは大きかったみたいだ。
緊張感が解けたのか、その痛みを実感し始めて腹を押さえている。
「大丈夫か?」
「痛みはしますが、動けないほどではないです」
「そうか。無茶はするなよ」
蘭丸はこのやり取りをしていて、少しだけ思った。
怪我の度合いは自分の方が酷い。
手を抜かれたとは思えないが、武器が模擬戦用じゃなかったら、負けてたのではないかと。
「蘭丸、なんか勝ったのに悔しそうな顔してるな」
「もっとやれると思ったんですかね?」
二人には蘭丸の本音が分からない為、ちょっと見当違いな考えをしていた。
「魔王様。オイラ達はこの後どうすれば?」
「モニター無いのかな?他の舞台の様子が知りたいんだけど」
「あるみたいですよ」
三バカメラマンこと田中が、他の会場の映っているモニターを貸してくれた。
ただしモニターは三台。
一つの会場は見る事が出来ない。
「何処を見るかね」
「気になるのは、丹羽様と長谷部さんの戦いですかね」
官兵衛としては、やはりこの戦いが気になるのは当たり前だな。
自分の護衛がどれだけ強くなっているのか。
彼も自分の目で確かめたいのだろう。
「他は?」
「そうですね。この模擬戦の発案者である、ベティ様と太田殿の戦いも面白そうです」
ハクトとヤりたいとか言いやがったからな。
問答無用で太田にしてやったのだが、官兵衛的には真逆の戦い方で面白そうという話だ。
「最後のモニターはどうするか」
とは言ったものの、ほぼ確定だろうな。
官兵衛が未だに嫌っているなら分からないが、どう見てもこっちの方が面白そうだし。
「佐藤殿がどうやって、魔法を掻い潜って戦うか。興味があります」
「じゃ、秀吉と佐藤さんの戦いだな。テンジじゃなくて、大丈夫か?」
「やはりテンジ様ですから、それなりに気になりはします。しかし生死を懸けた戦いでもないですし、今は戦力分析の方が重要ですから」
意外にもドライな選択をしたようだ。
てっきり世話になったテンジの戦いを見たがると思っていたんだけど。
俺的には何も面白さが見出せないから、どうやって断ろうか考えていたのに。
すまないテンジ。
お前の勇姿は、誰かに聞きたいと思う。
誰か見ていたらだけど。
「早速、もう一つ終わりそうな所がありそうだ」
時は魔王の合図まで遡る。
太田はベティと対峙していた。
「ワタクシが魔王様直々に指名されたからには、領主といえども倒させていただきますよ」
「オッホッホッホ。アタシに勝つですって?冗談は顔だけにしときなさい」
真顔でベティに言われる太田は、売り言葉に買い言葉でベティにそれを返す。
「むしろ鳥人族の長がオカマの方が、笑えないですよ。それこそ、ご自分の顔を見ましたか?冗談みたいな顔してますよ」
「オホホホ。ぶっ殺すわ!」
ベティがブチ切れた。
開始の合図は出ているものの、両者はまずマイクパフォーマンスばりに言い合いをしていただけで、特に武器を構えていない。
油断していると思われた太田だったが、かなりの速さで迫るベティの攻撃を防いだ。
「あら?ゆっくりやり過ぎたかしら」
「いきなり攻撃するとは。なかなか酷いですね」
「開始の合図が出てるんだもの。それが避けられないなら、それはただの言い訳よ」
「ワタクシも同意ですよ!」
今度はお返しとばかりに、バルデッシュを投げる太田。
ベティからしたら、止まって見えるレベルなのだろう。
軽く避けたが、バルデッシュはブーメランのように戻ってきた。
太田はそれを知られないように、無表情を装う。
「ダメよ。ダメダメ。そんな攻撃ではアタシには通用しないわ」
後ろを振り返りもせずに、スッと二歩分横にズレると、さっきまで立っていた場所をバルデッシュが通過して、太田の手元に戻ってきたのだった。
「噂に違わぬ強さですね」
「アナタも凄い怪力よ。その筋肉、惚れ惚れしちゃうわ」
「ゴリアテ殿には会いましたかな?彼は私よりも凄いと思いますよ」
「あの人も確かに凄いわね。でも、実戦的な筋肉ではないわ。彼の筋肉は魅せる筋肉。アナタの筋肉は戦う筋肉。アタシは後者が好みなの」
実戦的な筋肉とは何ぞ?
太田は筋肉について、キャプテンやゴリアテから教わったが、実戦的な筋肉という言葉は初耳だった。
少し考えてみたが、直後に嫌な悪寒を感じてすぐにやめた。
「寒気がするが、佐々殿が魔法を使うなど聞いた事無いし・・・」
一人ボソッと喋ると、その原因が分かり太田は困惑した。
ベティが異様な眼差しで、太田を見ているのだ。
その目は上から下まで、舐めるように動く。
「ウフフ、良いわ、良いわよ。その筋肉、もっと見せなさい!」
腰に下げた双剣を取り出し、彼は空へ飛ぶ。
太田は身体の大半を鎧で包んでいたが、ベティは全くの正反対で、防具と呼ばれる物を装備していない。
バルデッシュというかなりの重量がある武器に対して、小さめの双剣という事もあり、二人の装いは真逆と言って良かった。
ちなみに太田はバルデッシュ以外に、片手斧を二つ腰に差している。
おそらく投げる為だと、誰もが思っている。
「フン!」
予想通りに斧を一つベティに向かって投げると、ベティの姿が消えた。
斧を投げて視線を空にやっていた太田だが、咄嗟に意図せず両手をクロスさせてガードの姿勢を取る。
その瞬間に、自分の腕に相当な衝撃を感じた。
「勘が良いわね」
耳元に聞こえるベティの声に、左手で裏拳を出す。
何の感触も感じない太田は、すぐさま反対へと右手を前に出したが、やはり当たらない。
「速いですね。全く当たる気がしない」
落ちてきた斧を拾い上げると、それを狙っていたベティが左肘辺りを斬りつけてきた。
痛みは感じなかったが、鎧に綺麗な傷跡が残る。
「その鎧、特注かしら?硬いわね」
「魔王様から賜った、貴重な鎧です」
「それは羨ましいわね」
太田は貴重な鎧と言っている。
しかし後から話を聞くと、暴走させない為の物で、大した意味は無いというのが弟の本音だった。
よって、そこまで良い鎧でもないのが真実なのだ。
ただ、何故太田が装備すると硬くなるのかは、不明である。
「それだけ硬いなら、本気でやっても良いわよね?」
「本気で来て下さい。ワタクシも魔王様に、良いところを見せたいので」
「その意見は賛成よ!」
再び消えるベティ。
太田はバルデッシュを身体ごと回転しながら振り回すが、全く手応えは無い。
むしろ背中側から、斬りつけられている感覚だけがあった。
全方位に攻撃しても、遅い太田の攻撃は当たらない。
彼は考え抜いた末、ある行動に出た。
「フン!」
足をおもいきり踏みつける太田。
舞台の石板がめくり上がり、縦に起き上がる。
それを四方に同じ事をすると、四枚の石板で自分の身体を覆った。
「凄い事するわね・・・。でも!」
上が空いている事から、そこから斬り込めば良い。
ベティは見えない速度で急降下する。
無防備な頭に攻撃を仕掛ければ、彼はすぐに降参するはず。
そう考えたベティは、刃こぼれしている双剣で何度も頭を斬りつけた。
しかし、それが誘いだとはベティも予想だにしていなかった。
「捕まえましたぞ!」
「ウソッ!アナタの頭、何で出来てるのよ!」
太田の頭は傷だらけになりながらも、致命傷には見えない。
あまりの硬さに、ベティが驚きの声を上げるくらいだった。
斬り刻まれながらベティの腕を掴んだ太田は、身体ごと地面へと叩きつける。
「グハッ!」
「もう離しませんぞ」
その腕を掴んだまま、四方の石板にガンガン叩きつける。
グッタリしたベティだったが、まだ降参の声は出していない。
「どうされますか?まだやりますか?」
「・・・アナタねぇ、乙女の柔肌を何だと思ってるのよ。それとアナタ、絶対に離さないと言ったわね?じゃあ、こうしたらどうするの!?」
「ぬおっ!」
勢いよく空へ舞い上がるベティ。
太田は腕を離さずに、一緒に空へ上がっていった。
「カメラ性能悪いな。空の様子が全然分からねーじゃん」
「仕方ないですよ。鳥人族じゃないんですから、一緒に空を飛べませんし」
「田中、これは誰が撮ってるんだ?」
俺に急に声を掛けられた田中は、しどろもどろしながら答える。
「こ、こここれは、鈴木かなぁ?」
「ズーム機能無いのかよ?」
「急ピッチで作ったカメラですよ?そこまで求めないで下さいよぉ・・・」
ちょっとしたズームにはなるが、はるか上空まで行かれると、何をしているのか分からない。
なかなかの展開だったので、分からないのがもどかしい。
「動きました!え?」
官兵衛は唖然とした。
二人で急降下して、舞台に自ら突っ込んだのだ。
「自爆技か?」
「いや、佐々殿がそんな事するとは思えませんが」
ベティは綺麗とかスマートとかじゃないと、嫌がる傾向にある。
死なば諸共みたいな事は、あまり好きじゃないと思う。
「あ、起きてきた。おぉ!太田の手が離れてる!」
「太田殿の手を離す為に、あんな事をしたのでは?」
「どういう事?」
「太田殿の手を離さないと、佐々殿は一方的に攻撃をされます。だから空から急降下して、太田殿を舞台に叩きつけたのですよ。太田殿は手を離さないと、頭を守れませんからね」
官兵衛の説明を受けて、納得した。
砂埃が晴れたその先は、確かに太田が地面に叩きつけられていたのだ。
鎧は大きく凹み、頭から血を流しているのが分かる。
お互いに石板と舞台に叩きつけられ、二人の見た目は満身創痍。
これ以上は危険かと思った矢先、二人が笑い始めた。
「アッハッハ!ワタクシも集落の長をしておりましたが、やはり流石は領主殿です。敵以外に本気で勝ちたいと思ったのは、初めてですよ」
「フフ、フハハハ!やっぱり魔王様の部下だわ。アタシの考えに狂いはなかった。だからこそ、アタシの本気を見せてあげる。帝国から恐れられた力、アナタ一人にぶつけてあげる!」