復興祭り
バスティの登場は、領主達を固まらせた。
まさか敵の大将が現れると思っていなかったからだ。
しかしバスティの現状を知ると、彼等は何も言わなかった。
そんな中で話題となったのが、この帝国との戦いの落とし所だ。
軽微な被害しか受けていないベティと一益。
それに対して若狭と長浜は、死傷者も出ているという。
被害の大きい二人は、王子に対する死罪を求めた。
そしてその決断は、一番被害が大きな都市の領主であり、魔王でもある僕に委ねられたのだった。
チトリとスロウスの仇を考えれば、殺したいという気持ちはあった。
だが親であるバスティの事を考えると、そう口に出す事が出来なかったのだ。
僕の曖昧な考えに対して、兄は違った。
兄は僕と強引に代わり、自分の意見をバスティに伝えた。
死ぬ程の目に遭ってもらうと。
そして、半兵衛に手を掛けた男だけは殺すと宣言するも、その為のレベルアップが必要だと言った。
するとベティと長秀から、自分達のレベルアップの為にも、又左達を派遣してほしいとの提案を受ける。
兄はそれを聞くと、安土に居る間に手合わせをしてみれば良いと話した。
それを聞いたベティは、鼻息の荒くハクトとヤらせてほしいと口にしたのだった。
コイツは危ない。
俺は鉄球を作り出し、ベティの顔目掛けて投げた。
「危ないわね!当たったらどうするのよ」
首を傾げて簡単に避けるベティ。
後ろの壁を貫通して突き抜けたが、俺の勘違いじゃなければ奴はそれを確認しながら避けていた。
「お前みたいな危険人物を、ハクトなんかと戦わせるわけが無いだろ!お前は太田が相手をする」
「何ですって!?でも、マッチョも嫌いじゃないわ。タップリとネットリと、楽しみましょう」
ネットリって何だ?
気になるが、聞いたら危険だと思った俺は、他の領主達を見る。
「他の連中はどうするんだ?一益とか、誰かと戦うか?」
「・・・そうですな。上野国もいつ襲われるか分からない。だったら我も強くなるべきだろう」
「誰と戦いたい?」
「ならば前田殿と」
どっちの前田だろう?
そんな事を考えていると、部屋の外から参戦したいと言いながら入ってくる男が居た。
「滝川様。お相手になるか分かりませんが、私と戦っていただけませんか?」
「其方は、魔王様の友人だったような」
「森家の長男、成利と申します」
一益がこっちを見て、どうすれば良いか迷っている。
強いのか弱いのかすら分からない、魔王の友人の一人と考えているのだろう。
「一益。蘭丸は仙人の修行を受けて、強くなった。お前一人だと、苦戦するかもしれないよ?」
「なるほどの。我に対してそう言える相手ならば、手加減無用。成利、いや蘭丸とやら。我が力を見定めてやろう」
「ありがとうございます!」
蘭丸は一益にお礼を言った後、こっちに向かって小さくガッツポーズをしていた。
俺からしたら、二人にとっても良い人選な気がする。
「テンジとかは?」
「私はどちらかというと、文官に近いと思っているんですがね」
「うーん、だったら自衛出来るくらいの力で良いのかな?」
「そうですね。どちらかと言えば」
「分かった。じゃあこっちはおっさんを出そう」
「おっさん?」
テンジの相手はロックだな。
ロックも自衛くらいしか出来ないし、丁度良い相手になるだろ。
「そういえば長秀って戦えるの?」
俺の言葉が癪に触ったのか、眉がピクッと上がった後にわざとらしい咳が聞こえた。
「ウォッホン!私が阿形と吽形に稽古を付けていたんですがね」
「そうなの?あの二人より強いのか?」
「本気を出せば、負けないと思いますけど」
どうやら俺の軽い態度が、彼にはお気に召さなかったようだ。
負けないという言葉が、かなり強かった。
しかしそうなると、帝国でも有名なアングリーフェアリーと、同等の力を持っている事になる。
それなりの人選を選ばないと、相手にならないかもしれない。
あ、そういえば、丁度同じように力を試したい奴が居たわ。
「長谷部とやってみようか。発展途上だけど、伸び代はかなりあるよ」
「さてと、これで・・・ん?」
今までほとんど口を開かなかったから、忘れていた。
というより、コイツ絶対に気付かれないようにしていたな。
「秀吉!お前も戦えよ。魔法凄いんだろ」
「ギクッ!私はまだ、魔力が完全に回復しておりませんので。いやぁ、戦いたかったんですけどね」
「手抜きはいけませんな。秀吉様、覚悟を決めましょう」
テンジにも言われ、万事休すの秀吉。
渋々頷くと、参戦が決定した。
「それで、私の相手は誰です?」
「あー、ちょっと待って」
相手を考えていなかったな。
魔法を使うなら、遠距離から攻撃する感じだしなぁ。
動きが遅いと一方的になりそうだし。
「佐藤さんで行ってみよう。足が速いから、魔法でも捉えきれないかもしれないし」
そしてベティと長秀発案の模擬戦は、一週間後に行われる事になった。
昨日の今日なのに、もう街中に知れ渡っている。
かなりの人達が、今回の模擬戦に興味を持っていた。
「マオっち!これ、イベント化出来ますぜ!」
街のベンチで座っていると、参加者の一人であるロックがグフフと笑いを堪えながら言ってくる。
でも俺的には、周りに被害を出したくないので、観客とかを周りに置きたくない。
「時代はネット配信でさぁ!とは言っても、ここにはインターネットなんて物は無い。だからさ、複数のカメラマンと固定カメラで撮影。街中に大型ビジョンをいくつか設置して、見たい人のモニターの前に行けば観れるってのはどうかな?」
むむむ!
なかなか考えている。
というより、よくそう簡単に次の案が出てくるものだな。
(それ、僕としてもアリだと思うよ。復興ばっかりで娯楽も無いんだし、少しは皆に安土は楽しいって事を思い出してもらいたいしね)
そうだな。
誰かが怪我したり死んだりって話ばっかりだったし、久しぶりに安土は、美味い物もある楽しい場所って思い出してもらいたいな。
「よし!お前の案、採用だ!ついでだから、戦闘の勝敗予想もやって良いぞ」
「な、なんだってえぇぇぇ!!それは領主相手に不敬だと、絶対に怒られると思ってたから口にしなかったんだけど。出来るならやりたかったんだよね」
「オゥ!久しぶりの祭りだ。どんどんやれやれ!」
俺が調子良く言っていると、ロックの目つきが変わった。
「マオっち。いや、マオっち社長。これは俺っちがプロデュースしても良いと?」
「社長!?プロデュースって何をするんだ?」
「それは色々だよぉ。お店も焼かれちゃったし、屋台形式になるけど、ラーメン屋とか食事処を色々と配置したり。模擬戦の合間にライブを入れて、休憩させたりかな」
「メシ?ライブ?」
なんか凄い大事になってきた気がしないでもない。
でも、ベティ達にとってもそれなりに有意義な戦いでもある。
これくらいは許してもらいたい。
「分かった。全て任せる」
「やった!フフフ、これを機に新たなファン層を開拓出来る・・・」
「ちょっと待ったぁ!」
「ぬおっ!あれ?カズっち?」
ベンチの後ろから大声で声を掛けられ、前に倒れそうになってしまった。
ガハハと笑いながら登場したのは、滝川一益だった。
「その話、我にも一枚噛ませよ」
「えぇ・・・。カズっち、何を企んでいるのかな?」
「引き連れた部下の中に、二組ほどバンドをやっている奴等が来ている。この二組を参加させい!」
「上野国って、そんなにバンド流行ってんの?」
「魔王様よ。上野国は今や楽器が弾けないと、ダサいと言われるのだ。我のドラムより上手い連中など、ザラになってしまったわ!」
マジかよ・・・。
バンド天国じゃねーか。
町興しじゃないけど、そのうち上野国でロックフェスとかやりそう。
「それで、カズっちはそのバンドには参加するのかな?」
「勿論!と言いたいところだが、今回は我のメンバーは帯同していない。それに領主として、蘭丸と戦う事に集中したいからの」
「そっか。どれだけ上手くなったか聞きたかったけど。それは仕方ないね」
ロックは残念がったが、俺としてはかなり嬉しかった。
蘭丸と戦う事を第一に考えていて、しかもちゃんとした強敵と認めてくれている。
これは後で、本人にも伝えておこう。
「俺っちはコバに、カメラと大型ビジョンの話をしに行くから。社長、カズっち、またね!」
声を弾ませながら走っていくロック。
一益もそれを見て、部下達にバンドの話をしに行くと立ち去った。
俺達も舞台作りをそろそろしないとな。
当日、街の中は模擬戦祭り一色となった。
大型ビジョンが五つ設置され、各領主が戦う様を観る事が出来る。
安土は多種族が住まう街だが、他の領主など会う機会どころか見る機会も少ない。
その為、街の多くの人達は興味津々で集まっていた。
「なかなかの盛り上がりじゃない」
「マオっち社長。まだまだ甘いよ。戦いの前には、ハクトっちの初ソロという目玉も用意してある。これからもっとヒートアップするんだよぉぉぉぉ!!」
「お、おぅ・・・」
興奮するロックだったが、忙しかったのか?
ちょっと鼻毛が見えてるおっさんに、俺は少し気持ちが冷めた。
「それじゃ、そろそろバンドを先に紹介しようかね」
ロックは楽器を設置してある舞台へ向かい、そこで色々と指示を出している。
とりまラビが俺の代わりになるから、しばらくは人の居ない所に行くか。
花火が上がった後、大型スピーカーからロックの声が聞こえる。
その後にギターの音が聞こえ、上野国から来たドワーフ達によるバンド演奏が始まった。
それが終わると、今度は花鳥風月の連中の歌が聞こえ始めてくる。
数曲終えるとしばらく静かになり、今度はバラードのような曲が流れ始めた。
初めて聞く曲だな。
と思ったら、これがハクトのソロ曲らしい。
あー、やっぱり歌上手いなアイツ。
(なんかさ、こうやって誰も来ない場所で静かに寝転んでいるのって、久しぶりだね)
確かにな。
なんだかんだで、誰かが周りに居る事が多かったし。
遠くから音楽が聞こえるだけで、少し落ち着く。
「魔王様。終わりましたよ」
「官兵衛か。お前は祭りの方は良いのか?」
「オイラは今、あまり人目に触れない方が良いと思ってますから」
誰が敵か分からないってヤツだな。
確かにそうかもしれない。
今は長谷部も近くに居ないし、極力守れる俺が居た方が良いだろう。
「官兵衛も舞台の方に行こう。俺と近くに居た方が、安全だ」
「マオっち社長。とうとうメインイベントだよ。開会の言葉よろしくぅ!」
マイクを渡された俺は、舞台の中央に向かっていく。
よく見ると、カメラマンは田中だった。
三バカは、今は三バカメラマンとなっているみたいだ。
この舞台が田中なら、他の四つの舞台に高野達が居るとしても、二人足りない。
誰がやってるのか、ちょっと気になるところだな。
おっと、それよりもそろそろ始めないと。
「今から、各領主達と安土の男達による模擬戦を始める。これは安土復興の祭りでもある。だから誰が勝つか、ジャンジャン賭けやがれ!」
と言ったものの、あまり歓声は聞こえない。
それもそのはず。
舞台は全て安全を考慮して、街から遠く離れた森の中に作ったからだ。
観客も審判も居ない。
どちらが勝ったかは、戦った者同士で決めるのだ。
「というわけで、そろそろ始めよう。この舞台を担当する二人はコイツ等だ!」
左から舞台に上がってくるのは、槍を持ち鎧に身を包んだ蘭丸。
そして反対側から上がってくるのは、大槌を持った滝川一益だ。
「安土代表、俺の近衛である蘭丸。領主代表、上野国領主、ドワーフ滝川一益。他の舞台の連中にも、俺の声は聞こえてるんだよな?では一斉に、始め!」