集結
兄は化け物や幽霊扱いされながらも、安土の街中を暴走していた。
しかも自称右腕の又左にも気付かれず、壁を破壊して外へと出て行ってしまう。
一時間近くの暴走後、森の中で彷徨う僕達。
帰り方が分からないのでツムジを呼び出すと、そこはゴブリンの縄張りだと教えられる。
会話が通じないと言われたので、会うのは次の機会で良いだろう。
安土に戻った僕達は、早々に地下の工房へと向かう。
文句を言いながら扉を開くと、そこにはコバと昌幸の二人が居た。
危険な物を履かせた。
兄は謝罪を要求すると、コバから反論に言い負かされてしまう。
長押しした兄がそもそもの元凶なのだ。
素直に謝った兄は、コバに改善を提案。
四足歩行の神輿を作って、それに官兵衛を乗せるのはどうだと言った。
兄の提案は僕にとって、物凄く魅力的な案だった。
量産の暁には、僕にも一台欲しい!
そう願う僕に昌幸は、何か言いたげな雰囲気を感じた。
領主として皆の意見は聞くべきだろう。
昌幸に何か言いたい事があるなら聞くぞ?
そう尋ねると、彼は何故僕の後ろ半分は丸出しなのかと、問うのだった。
「えっ!?」
慌てて振り返ってみると、確かに尻が丸出しだった。
これは恥ずかしい!
まさか、街中で皆に見られていたのはこれのせい!?
「どうされました?」
「ん?あぁ、これね。ちょっと化け物に会った時に背後からやられてね」
「化け物!?」
「ちょっと前に街中で騒ぎになったんだけど、知らない?」
「そんな事があったんですか!?」
あったような、無かったような。
コバは分かっているみたいだが、敢えて何も言わない。
名誉の為か、面白がっているからなのか。
昌幸経由で街の人にも伝わるよう、話しておこう。
僕は断じて露出狂の変態ではないと。
「それよりも、刻印付きの武器。アレは本当に素晴らしいよ。量産の方、よろしくね」
「ありがとうございます。ワシもコバ殿との共同作業には、新たな発見が多く、楽しみしかありません」
「コバはたまにタガが外れるから、その辺を抑えるのも頼むよ」
苦笑いの昌幸を見ると、既に経験があるっぽい。
何かやらかしてるんだろう。
「魔王、そろそろ吾輩達は仕事に入る。さっさと出て行け」
「言い方!」
犬を追い払うように、手を振るコバ。
昌幸が代わりに謝ってきているが、困った奴だな。
ま、それよりも困った事があるんだけど。
「背中を隠せるくらいの布くれない?」
足だけオバケの騒動も忘れ去られた頃、僕の露出魔疑惑も無くなっていた。
やはり昌幸経由で、街の人々にはオバケを取り押さえようとした結果だという事になっている。
そして魔王ですら捕まえられなかったオバケは、非常にヤバイという話が、後日出回っていたらしい。
「さて、今日は忙しいんだよな」
「あぁ。各領主が安土に、一斉に集まる日だからな」
蘭丸がスケジュール帳みたいな物を見て、時間を確認している。
今では蘭丸は、ほぼ秘書のような立場になっていた。
母親である長可さんとの連絡がスムーズに出来るのと、ゴリアテや他の人達とのコミュニケーションも取れるからという理由もあった。
「来るのは基本、領主のみとなっている」
「という事は、阿吽の二人とかは留守番かな?」
「各地でも、安土同様に襲撃に遭ったという話だからな。防衛任務があるから、今回は見送ったんだと思う」
「なるほどね」
とは言っても、ベティのような自ら先頭に立って率いる領主も居るけど。
「ちなみにもう集まってるの?」
「丹羽殿とベティ殿は来ている。それとテンジ殿は滝川殿は一緒に来るって話だ」
「そうか。でも、他の領主にも声掛けたんだろ?」
「あの閉ざされた東の領な。手紙は送ったけど、返事なんか来やしない。お前の事、ナメてるんじゃないのか?」
ナメられてるのかは分からないが、おそらくは興味も持ってないんだろう。
少しでも興味があるなら、何かしらのアクションを起こしても良いはずだからな。
又左や太田達の武器を全て奪われた今、クリスタルの調達は必須。
そのクリスタルの産地である東の領には、近々行く必要があると考えている。
「とりあえずお前は、四人の領主が揃ったら行ってくれ」
「丹羽さんとベティが居るんだろ?行っちゃ駄目なの?」
「そりゃ駄目だろ。まだ到着していない二人が魔王を待たせたとなれば、外聞が悪いからな。別に遅れているわけじゃないのに、滝川殿達の立場が悪くなるだろ」
うーん、面倒だなぁ。
ただちょっと、ベティに武器の話とか聞きたかっただけなのに。
「それじゃ、修行でもしながら待ってるか」
安土城のとある一室。
そこには丹羽長秀が、困惑した顔で座っていた。
「ベティよおぉぉぉん!」
「は、はぁ・・・」
「丹羽ちゃあぁん、もっとお話ししましょうよぉ」
「だが断る」
「あらぁ、アタシの誘いを断るなんて。でも悪くないわぁ」
長秀の席の周りを、グルグルと回りながら喋るベティ。
妖精族の護衛達は、額に冷や汗を流しながら立っているだけだった。
そして同じく冷や汗を流す連中が、その妖精族達にひたすら頭を下げている。
「誠に、本当にすまない。私達の領主が、丹羽様にウザ絡みしてしまって・・・」
「い、いや、貴殿等の苦労も分かります。大変ですね」
「悪い人ではないのです。ただちょっと、おかしいだけなのです。危害を与えるような方ではないので、それだけはご安心を」
「佐々様も領主であられる方です。魔王様がお呼びしたのなら、私達が心配する事ではないのですが・・・」
鳥人族の護衛が妖精族の護衛に謝ると、お互いに気まずい雰囲気が流れていた。
魔王が呼ぶくらいの人なのだから、信用は出来るはず。
だが、それでもベティの行動はウザかった。
「さて、上野と長浜の領主もまだ来ない事だし、ちょっとだけ真面目な話をしましょうか」
今までのウザイ雰囲気から一転。
急に領主モードに切り替えたベティ。
それを見た長秀も、一瞬の戸惑いを見せたものの、すぐに対応してみせた。
「お主、なかなか食えない輩だな」
「あら、アタシはいつでも本音しか言わないわよ」
「そういう事にしておこう。それで、話とは何かな?」
「アナタの所のお二人さん。ちょっと預かれないかしら?」
ベティも知ってる若狭の二人。
長秀はすぐに誰の事を指しているのか分かったが、顔には出さない。
理由と条件次第では応じるつもりだが、それを先に提示するのは愚策だと考えたからだ。
「阿形と吽形は若狭の防衛の要。それは領主であるお主なら、どれだけ貴重な人材か分かっていると思うが」
「そうね。でも、今のままではただの強者で終わるわ」
「・・・聞き捨てならんな」
「ごめんなさいね。さっきも言ったけど、アタシは本当の事しか言わないの」
ベティの一言が、部屋の中を緊迫感で埋め尽くしている。
さっきまで違う意味で冷や汗を流していた二組の護衛達も、一触即発になるのではと焦りを感じていた。
「二人が負けるとでも言いたいのか?」
「・・・丹羽殿は魔王様から連絡を頂いた時、何て言われたのかしら?」
「安土を襲撃され、武器を奪われた。そして半兵衛殿を含め、多くの仲間を失ったと聞いている」
「そう。アタシ達も同じような話だった。それを聞いて、アナタは何も気付かなかったかしら。安土には有名な槍使いの前田殿や、その弟の利益殿。怪力を誇る太田殿も居れば、ヒト族の強者である佐藤殿もいらっしゃるわ」
「そうだ。それは分かる」
長秀も、安土には強者が多いと認めている。
だが阿吽の二人が、今並べた者達に劣るとは思えない。
だからこそ、ただの強者と言われた事に怒りを感じたのだ。
「ハッキリ言うわよ。アタシの越中国が同じだけの戦力で襲われていたら、壊滅していたわ」
「若狭国も似たようなものだろう。だが、阿吽の二人が被害を最小限に防ぐ。それは変わらぬ」
「じゃあアナタは、あの二人に匹敵する敵が現れたらどうするのかしら?」
「何?」
「アタシも最初は、安土の連中は武器を奪われたから負けたのだと思っていたわ。でも、だからといって魔王様がそう簡単に負けるかしら?アタシは、敵も魔王様が苦戦するくらいの強さだったと考えているの」
「召喚者にそれほどの強者が居ると?」
長秀は目を閉じ、頭の中を整理し始める。
もし阿吽の二人に近い、もしくはそれ以上の者達が現れたのなら。
早急に戦力を増やす必要がある。
だが、何故二人を呼び出すのか?
長秀はベティの考えが理解出来なかった。
「佐々殿。お主は何を考えているのだ?」
「あら、簡単よ。アタシの越中では、最強なのはア・タ・シ。魔王様が苦戦するような相手なら、アタシ自身も強化が必要なのよ。その為には、アタシと同じくらいの強さを持つ人が必要でしょ?」
「それがうちの二人というわけか。確かにお主の考えている事が本当なら、阿形達も強くなってもらわなくてはならない」
「本当は滝川ちゃん達もお願いしたいんだけど。あの人も領主でしょ。領主を長期間呼び出すのは、流石に無理だもの」
「なるほど。阿形達しか居ないというわけか」
ベティは違うと、横に首を振った。
何やら考えがあるらしい。
「魔王様に頼んで、ここからも派遣してもらうわ。アタシ達は魔王様を頂にした、連合なんだもの。相互協力は必須。阿形ちゃん達も、長期間は離れられないのは分かってるつもりだわ。だから安土から持ち回りで、他の領に強い人を派遣してもらいましょうよ」
「ほぅ!各領地で安土の強者に、鍛えてもらうという事か!?面白い案だな」
「でしょ?それでアナタにも、魔王様にこの案を話す時、賛成してもらいたいのよ」
「そういう話なら、乗らないわけにはいかないな。佐々殿、お主の考えに賛同すると約束しよう」
「ベティで良いわ。親しい人、魔王様もアタシをそう呼ぶのだから」
二人が握手を交わすと、丁度そこに滝川一益とテンジの両人が到着したと報告が入ったのだった。
「全員揃ったって?」
「あぁ。しかももう一人追加だ」
「追加?」
「会えば分かる」
誰だろう?
そんな事を考えながら四人、じゃなくて追加で五人になったんだっけか。
彼等が待つ部屋の扉を開けた。
「お久しぶりです皆さん」
「魔王様、この度は助力出来ずに申し訳ありませんでした」
いきなり頭を下げてきたのは、丹羽長秀だった。
それに倣い、他の四人も頭を下げる。
そして追加で一人増えた男が顔を上げた。
「秀吉!?」
「すいません。また戻ってきました」
苦笑いをしている彼だったが、意外と大変だったらしい。
安土を離れ旅を続けた彼は、若狭国を目指した。
しかし若狭国を目前に迫った所で、帝国兵が若狭国を囲んでいるのを目撃。
このままでは入れないと感じた彼は、その場を離れようとしたが、見つかり散々追いかけ回されたという事だった。
「しかし、一人でよく無事だったなぁ」
「魔力が枯渇した時は、流石に死を覚悟しましたが。隠れながらやり過ごす事に成功して、生き延びました。その後、若狭から遠く離れた道を歩いていると、滝川殿とテンジの部隊が私を見つけてくれまして、今に至ります」
「ボロボロの秀吉様を見つけた時は、私も心臓が止まるかと思いましたよ」
「テンジ殿が慌てて馬車を降りて駆け寄るから、誰だと思ったわい。我も秀吉殿を見て、驚いたがな」
涙を浮かべ安堵するテンジと、笑いながら話す一益。
かなり温度差がある。
「それで、我々が集められたのには、何かお話しがあるんですよね?」
「そうだな。まず確認だけど、安土が襲撃された頃、同様に他の領地も襲われたんだよね?」
全員が頷いた。
「だとすると、帝国はほぼ全ての領地に敵対すると宣告したわけだな」
「魔族以外にはどうなんでしょう?王国や連合、騎士王国等のヒト族の国は攻撃されたんでしょうか?」
「それはまだ確認中。王国には連絡したから、そのうち返事が来ると思うよ。それよりも、帝国への対応を決めないといけない。やられっぱなしなのは性に合わないのだが、その前に彼の話を聞いてほしい」
僕が彼と言うと、扉が開き、一人の男を先頭に三人が部屋に入ってくる。
「紹介しよう。彼はドルトクーゼン帝国の国王、バスティアン・・・何だっけ?長くて忘れた。とりあえず帝国の国王、バスティだ」