お見合い準備
やっぱり分かってなかったよね。
そりゃ敵として戦ってた連中から、急に好きです!って言われたら、そういう反応になるわ。
「えーと、もう一回言うね。オーグさん、めっちゃオーガ達から好意を寄せられてるから」
「え!?何で!?アタイこんな女だよ!?身体も大きいし筋肉質だし。自分で言うのも何だけど、女扱いされてたのは、子供の頃だけだよ?」
それについては、俺から、いや俺等からは何も言えない。
だって、男だと思ってたんだから・・・。
「でも彼等は貴方の事を美しいって言ってたよ。牢屋に居た時沢山のオーガが来たでしょ?あれね、貴方にカッコいいところを見てもらいたかったんだって」
「あぁ、あの時の!何かしてはしょぼくれた感じで帰っていくから、何をしているのかと思ってた!」
「皆、貴方に好かれたいんだよ。どう?オーガ達と話してみる気ある?」
「アタイなんかが・・・」
顔を真っ赤にして俯くオーグ。
頭から湯気でも出そうだね。
女扱いされた事無い人が、突如アイドル的な存在になるんだから。
世の中というか、異世界分かんねぇもんだなぁ。
「どうする?オーガとはやっぱりそういう感じにはなれない?」
「見た目とかはほとんどヒトと変わらないし、そういうのは無いんだけど。アタイ、男性と二人でデートみたいなそういう経験無いから・・・。それにどういう人達なのかも分からないし」
嫌ではないけど恥ずかしい。
そんなとこかな?
相手の事を知らないのも、痛いところだ。
「じゃあ、一人ずつ会ってみる?軽く十人以上は、立候補者が出ると思うけど。多分、毎日アプローチされるよ?」
「それは困ります!捕虜になってた人間が言う事じゃないけど、独りの時間が欲しい時もあるし」
うーん、困ったな。
牢屋まで来てアピールしてるくらいだ。
誰も引かないだろうし、どうしたものか。
(だったらお見合いにしちゃえばいいんじゃない?)
お見合いか。
でも一人ずつやっていくと時間掛かるぞ?
(テレビで見たバラエティー番組みたいにすればいいでしょ。多数対多数のお見合い番組をお笑い芸人司会でやってたのを、子供の頃に見た事ある)
あぁ、なんかそんなのやってたな。
でも詳しく覚えてないぞ?
(そこはアレだよ。神から預かった神器で、調べればいいんだよ)
スマホか!アレでネット検索すれば、分かるかもな!
ナイスだ!
まだ箱から出してないんだっけ。
とりあえずお見合いの方向で、話を進めよう。
「お見合いはどうかな?例えばオーガの中から、オーグさんに合う人を先に選んでおいてもらうとか。どういう人が好みか先に伝えて、その中で選ばれた人だけがお見合いの資格を持つってやり方なら、かなり人数は絞れると思うけど」
「それは助かりますね!それなら一回で済みそうだし、大人数に囲まれるような事も無さそうです」
案に賛成してくれて何より。
それなら後日やるという事で、まずやるべきは候補者選びだな。
「じゃあ候補者を先に選ぶから、好みの男性のタイプを聞いてもいい?」
「あ、はい・・・」
顔がまた真っ赤になってしまった。
余程こういう事に対しての耐性が無いんだろう。
ハンターなら男とも共同作業するだろうに。
そういう目で見られた事無いから、逆に付き合いやすかったのかな?
「恥ずかしいなら、何かに書いてもらえると助かるよ。俺も準備するから、今日はもう戻る。明日また取りに来るから、それまでに書いておいて」
「分かりました。では明日までに書いておきます」
自分の好みを知らない人に話すのって、よくよく考えたら微妙だな。
俺が逆の立場でも、ちょっと恥ずかしいかもしれない。
俺も戻って、スマホで調べるとしよう。
さて、小包から中身を取り出してみると、見知ったスマホが中には入っていた。
(これ、僕のスマホだね。スマホカバーだけじゃなくて、落とした時に出来た傷まで一緒だ)
まんま本人の使用していた物なのか。
それとも全く同じように再現した別物なのか。
それに関しては謎だが、元々持っていた物って考えると、使い勝手では困らないから楽かもしれない。
ん?箱の中に紙も入ってる。
通信料に関してのお知らせ?
『スマホを使用するにあたり、パケット通信料が発生します。パケット通信料は、現地通貨でのお支払いとなります。神への信奉者や信仰心が高くなると、神ポイントが獲得されます。現金の代わりにポイントでのお支払いにも可能となります。神ポイントは神メニューから確認をする事が出来ます。なお神フォンには、パケホーダイプランはございません。ご利用料金を二ヶ月滞納されると、ご利用を停止されますのでご注意ください』
随分と手の凝った作りだな・・・。
しかもパケホーダイ無いのかよ!
エロ動画も見れないじゃん!
(多分だけど、十八歳以上じゃないと見れないヤツは駄目なんじゃないかな?子供の姿だし・・・)
あぁ、あの神様の事だ。
無駄にそういう事やってそう。
しかし現地通貨でのお支払いって、俺達金なんかほとんど持ってないぞ!?
(魔王様、バイトするしかないと思われます)
バイトかよぉぉ!!!
つーか俺、バイトした事無いぞ?
基本的に野球漬けの毎日だったからな。
(んー、僕も無いな。バイトと言えるのか分からないけど、代返やノートの写し。あとはレポートの手伝いでお金もらってたけど)
俺達それ考えると、社会に出た経験が無いんだな。
ある意味、世間知らずなのかもしれない。
アルバイトに関しては後で考えよう。
それと神ポイント、これはこの前冗談っぽく言ってた話のヤツだよな。
(まさか本当に導入されるとはね。信仰心とか、どうやって算出するんだろう?神様のさじ加減なのか?)
でも、これは今回貯まったんじゃないか?
あのトラックのおかげで、敵も味方も神の存在を知ったし。
上手くいけば相当のポイントがあるはず。
神メニューだっけか。
えーと、神ポイントが今、380ポイント。
なるほど。
多いのか少ないのか、どっちなんだよ!
(所詮はポイントだよ。数ヶ月は貯めないと使えないって)
ちくしょう、これだけで支払いが出来るかなと思ってたのに。
世の中そんなに甘くなかったか。
(じゃあ早速調べてみよう。あまり変な事ばかり調べると、パケット量が増えるから気を付けてね)
分かってる。
お見合い、番組で検索と。
小さい頃に見てた番組はこれか。
ん?これもそういう番組かな?
動画も上がってるし、ちょっと見てみよう。
(ちょっ!動画はパケット量多いでしょ!)
もう押しちゃったよ。
古い動画だなぁ。
俺等が生まれる前の番組だ。
でも番組名は聞いた事ある気がする。
・・・なるほど。
これは良いな。
これを参考にして、お見合いを成功させようじゃないか!
スマホで動画も見終わり、お見合いの予習はなんとなく終わった。
時間も空いた事だし、太田の様子でも見に行こう。
「太田、身体はどうだ?」
「これは魔王様!情けない姿で申し訳ありません」
筋肉痛で身体中が痛いのだろう。
ベッドに寝たきり状態だった。
湿布代わりの薬草なのか。
身体の所々に野草が貼られている。
うん、臭い。
「お前は今回よくやったと思う。だが、あの力は駄目だな。周りが見えなくなるあの力に頼れば、いつか味方も傷つける」
「おっしゃる通りです・・・」
「だから身体が治ったら、他のミノタウロス達と一緒にオーガに鍛えてもらえ」
その言葉を聞き、落ち込む太田。
よくやったと褒めたつもりだったんだけど、何故落ち込むのだろうか。
「やはりワタクシは、魔王様のお供としては失格でしょうか?」
あぁ、なるほど。
そういう事か。
「そうだな。今のままだと失格だな」
やっぱりといった様子の太田。
まだ話は終わりじゃないがね。
「だから鍛えてもらうんだ。まだ腹も出ているしな。お前がオーガから認めてもらうまで、俺達も此処で一休みとなる」
「・・・え?」
「俺もまだこの町でやる事もあるけど、そこまで長くは掛からないはずだから。それまでにしっかりやれよ!」
顔色が急に良くなる太田。
筋肉痛も気にせず、ベッドの上で腹筋をし始めた。
「不肖、ワタクシ太田!何が何でもオーガの方々に認めてもらいますぞ!」
やる気を出してもらえてよかった。
真面目な話、太田を置いていくつもりはない。
俺達3人しか居ない中で、新しく加わる貴重な前衛だしね。
ハクトは基本的に回復や弓。
蘭丸も槍を扱えるが、どちらかというと中衛といった感じだろう。
俺だけだと、どちらかの守りが手薄になる心配があったからな。
コイツのタフさは、此処での戦闘でお墨付き。
「ただもう一度言っておくが、暴走だけには気を付けろ。俺はお前を抑えられるが、蘭丸達には酷だろう。だから暴走をしないで済むように、しっかりと鍛錬に励んでくれ」
俺は最後に念を押して、太田の部屋から出ていった。
翌日、オーグの部屋に再び訪れた。
しかし昨日言ったはずなのに、部屋の近くでは若いオーガ達がうろついている。
そんな事をしても、嫌われるだけだというのに。
「オーグさん、入っていい?」
「はい、どうぞ」
シャツと七分丈ほどのパンツ姿の彼女は、やはり筋肉質だった。
というか、もしかしたら七分丈ではなく普通のパンツなのかもしれない。
そんな事は口が裂けたって言えないけどね。
俺だってそれくらいの事は、分別付きますよ。
「昨日頼んでおいた、好みの男性のタイプは書いたかな?」
無言でテーブルの上の紙を指差す。
やっぱりちょっと顔が赤い。
「じゃあ候補者選びをするけど、何人くらいまで絞ればいい?あまり多くても少なくても、オーガ達からは文句言われそうだし」
「じゃあ三人、いや四人まででお願いします。それ以上だと目が回っちゃいそうです」
というわけで四人まで、候補者を選ぶ事にした。
町長の家を訪ね、若いオーガを呼び出してもらった。
「若いオーガくん、朗報だ」
期待に目を輝かせているが、まだキミが選ばれたわけじゃないよ?
「まず彼女からの希望として、お見合い形式で選んでもらう事となった。そして彼女の好みの男性が、この紙に書いてある!」
「おぉ!!」
おい、何処からお前等湧いてきた。
扉の陰に、何人ものオーガが居るじゃないか。
コイツ等、盗み聞きしてやがったな。
「ついでだから、お前等も聞いておけ。彼女とお見合いを出来るオーガは、たったの四人。その為に候補者を選ぶ事とする。一時間後、この部屋に一人ずつ入ってもらい、面接をしていくから。彼女とお見合い希望の男性は、集まるように皆に伝えておいてくれ」
「四人だけ!?」
「俺はやる!やってやるぞ!」
「我が愛しの女神!」
なんかよく分からない事になっているけど、まあ頑張ってもらおう。
俺の判断だけだと偏りが出そうだから、他にも審査員を頼むとしよう。
一時間後、俺は長テーブルの真ん中に座っている。
左右にはイケメンとして有名な、蘭丸くんとハクトくんにお座りいただいている。
「なぁ、俺達何の為に呼ばれたんだ?」
「キミ達には、これから来る男性を評価してもらいたい。彼女の要望に合うか判断してもらい、四人まで絞ってほしい」
「事情は分かったけど、僕達がそんな大事な事を決めていいのかな?」
「いいの!いいの!そもそも俺も、どうやって決めていいか分かんないんだから」
ごめんよオーガ諸君!
こんな事やった経験無いからね。
モテる男の意見も、聞いてみようかなと思ったんだよね。
じゃあ始めちゃいましょう。
「一人目の方、どうぞ」
俺は眼鏡の縁を持ち、鋭く彼を観察した。
審査員をやると決まってから、俺は眼鏡を創造魔法で作っておいたのだ。
鉄のフレームで、ちょっと厳つい気もするけど、悪くはない。
勿論、伊達だけど。
何故かって?
カッコいいからだ!
「ねぇ、その顔に付けてるの、邪魔じゃないの?」
ハクトにはこの良さが分からないようだ。
眼鏡男子の良さが分からないとは。
このお子ちゃまが!
(僕も眼鏡の良さは分からないな。しかも伊達って。サングラスなら未だしも、伊達眼鏡って)
「・・・以上です。よろしくお願いします」
しまった!何も聞いてなかった!
「う、うむ。では後日、追って連絡する。それまでは彼女の迷惑にならないように!」
適当な事言って帰したけど、どうしよう。
チラッと両サイドを見ると、二人とも良とか可とか書いてるし。
・・・俺も同じで良いや。
昼からやったお見合いオーディションも、ようやく終わりを告げた。
既に辺りは暗くなってきている。
何人来たんだよ!
ってくらい、彼女モテてるね。
正直な話、驚きである。
俺等からすると、恋愛対象にはまず入らないだろう。
話した感じでは、彼女は魔物専門のハンターなんてやっている割に、ちょっと考えが乙女チックなところもある。
それに意外と家庭的っぽい。
結婚したら、良い嫁さんになるだろう。
「長い時間、二人ともありがとね。今日はもう遅いし、また明日集まって選考しよう」
「お前、こんな長くなるとは思わなかったぞ!?本当に疲れたわ・・・」
すまん蘭丸よ。
俺だって想定外の人数だ。
コーヒーでも奢れるなら奢ってたと思う。
また明日以降も、よろしく頼むよ。
ようやくと選考が終わり、お見合いをする四人が決まった。
今度はセット作りだな。
あの動画のように、テーブルと椅子を2組置いておこう。
こっちはツーショット用のテーブルで、こっちは男オンリー用。
フフフ、楽しくなってきた!
(あのさ、楽しんでるところ申し訳ないけど。テレビカメラ無いからお見合いの様子、僕等は何も聞こえないからね?)
あぁ!そういえばそうだった!