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仮採用の官兵衛

 黒田官兵衛。

 秀吉に仕えた軍師である。

 本人は秀吉の事をあまり慕っている様子は無いが、僕にとってはそれがありがたい。


 これから官兵衛として生きると言った彼を、いよいよ迎え入れる時が来た。

 のだが、官兵衛が安土に来たという知らせが入ってこない。

 ようやく来たのは、何処ぞのおっさんがハッスルし過ぎて腰痛になったという話だった。

 ロックをぶん殴ると決めた時、とうとうアデルモ達からの報告という形で官兵衛の話がやって来た。

 しかし官兵衛は不審者扱いされ、安土に入れずにいるらしい。


 仕事熱心なゴリアテに話を聞きに行くと、ヒト族への警戒心がそうさせていた。

 そんなゴリアテを説得して、ようやく対面を果たした僕と官兵衛。

 雇ってもらいたいという彼に対して、ゴリアテを筆頭に全員が警戒していた。

 戦う力は無い。

 私の力はこれだと頭を叩く官兵衛だったが、それを聞いた皆はやはり半兵衛との比較に入った。

 しかし官兵衛は、自らを貶めて彼等に喧嘩を売った。

 半兵衛は、帝国に殺された無能だと。






 はわわわわ。

 この人、何言ってくれちゃってんの!

 比較的温厚な性格の佐藤さんですら、目がお怒りになられてますよ。



「おい、お前殺すぞ!」


「我等が軍師であった半兵衛殿に対する侮辱、万死に値するぞ!」


「阿久野くん。彼は召喚者ではないんだよね?」


「え?は、はい!アデルモ達、シュバルツ家の遠縁という事なので、違いますよ」


 いきなり話を振るのはやめてほしい。

 佐藤さんは固まった笑顔で僕に尋ねてきたが、召喚者ならいきなりぶん殴ってたんじゃないか?



「何故そんなに怒る?本当の事だからか?」


 やめて。

 それ以上煽らないで。



「貴様!」


「半兵衛殿が無能でないなら、何故ここに居ない!では、半兵衛殿が無能でないという仮定で話をしよう」


「仮定ではない」


「人の話を聞け!」



 随分と性格が違うな。

 丁寧な口調で穏やかに話すのが半兵衛だったが、官兵衛は結構苛烈な性格だ。

 怒るところは怒るタイプみたいだな。



「静かになったな。では半兵衛殿が有能だとしたら、彼は何故死んだのだ?彼を何故、守りきれなかったのだ?」


「っ!?」


「もし彼が有能であるなら、彼を守りきれなかった者達はどうなのかね?」


「そ、それは・・・」



 ・・・厳しいな。

 半兵衛が無能でないなら、守りきれなかった周りの人間が無能だと言っている。

 それを認めてしまえば、自分達の評価を落とす事にも繋がる。

 彼等は全員、返事に詰まった。



「お分かりいただけたようだ。オイラは、ここに居る人達が強い事は知っている。それは遠く離れた帝国の片田舎でも、噂は聞くからだ」


「我々の噂?」


「槍を持つと豹変するという前田兄弟。魔王の傍らで身体を張る太田殿。拳二つで離れた相手をも倒すという佐藤殿。類稀な才能で、様々な武器を使う仮面な男。いずれも危険人物として聞いている」


「危険人物!?」


「アナタ達からしたら、褒め言葉ではないのかな?」


 敵から危険だと思われているというのは、それだけの実力が認められている証でもある。

 確かに褒め言葉だと思う。



「良いかね?帝国に聞こえるアナタ達の活躍に比べて、半兵衛殿はそうでもない。彼が死んだのは、アナタ方と違って力が無かったからだ!」


「それは、彼が力ではなく頭脳を使うからだ」


「それはオイラも同じだ。では、何故自分の周りに護衛を置かなかった?自分は殺されない。狙われるはずがないとでも思ったのか?」


 言われてみれば確かに。

 誰か一人くらいは、護衛に居てもおかしくない状況だったような?



「黒田殿、お主は何が言いたい?」


「彼は慢心していたのだよ。アナタ方の知名度と違い、自分は表に出てこない。だから自分の存在を知る人なんか、居ないだろう。たとえ外に出ていても、戦闘力の無い自分が狙われる事はないだろう。その慢心が彼を殺した」


「貴様に何が分かる!」


「同じだからだ!半兵衛殿と同じく、そのような考えを持った結果が、この身体である」


 杖を持って歩く官兵衛を見て、誰も何も言わなくなった。



「彼が有能なら、運も味方につけたはず。オイラはその点だけは、彼よりも上だと言い切れるだろう。何故なら、マトモに歩けなくとも、生きているからな」


「確かに」


「魔王様!?」


 僕が賛同した事に、皆は驚いている。



 しかし、運というのは大きな要素だと僕は思う。

 実力が上でも、運が良ければ勝つ人も存在する。

 その点を考慮すれば、死ぬ間際で僕が間に合った彼は、強運の持ち主だと言える。



「半兵衛は無能だとは言わない。だけど彼には劣るだろうな。強運の持ち主という点ではね」


「運だけは勝っているとでも?」


「まだ実力を見せてもらっていないからね。だからこそ、黒田官兵衛。貴方の凄さを見せてもらってから、半兵衛との違いが分かるというものだ」


「それでは、オイラを招き入れてもらえると?」


「僕は賛成だ」


 そう言えば、彼等も賛同してくれるはず。

 という考えは甘かったらしい。



「私は反対ですな。あまりに得体が知れない。せめてその顔を見せろと言いたい」


「申し訳ない。顔に大きな傷があって、皆に見せられる顔じゃないのでな」


 又左はどうやら、存在自体が気に入らないという感じがする。

 顔を見せても、結局は反対するんだろう。



「ワタクシも反対ですかね」


「何故?」


「単純に、故人を貶める言動が気に食わないのです」


 太田はもっと分かりやすい。

 言動が気に入らないから反対か。

 実力があっても認めないのは、あまりいただけない。



「性格だけで決めるのは良くないと、僕は思うよ。二人は?」


「俺は保留かな」


「同じく」


「なんと!佐藤殿!?」


 まさかの召喚者組は、保留という態度だった。

 それは迎え入れても問題無いという態度なのか。

 それとも見極める為の保留なのか。



「俺は彼の言っている事が、あながち外れているとも思えない。外れているのは、俺が無能だったと分からなかった点だ」


「佐藤殿は無能ではありませんぞ!」


「太田さん達はそう言うけどね。安土から敵が減っていたのは分かっていたんだ。でも、フランジヴァルドに行こうという気が起きなかった。あの時行っていれば、少しは運命が変わったんじゃないかと、俺は思っている」


 佐藤さんはあの時、安土の街を奔走していたのは聞いている。

 でも半兵衛を助けられなかった事に関して、かなり悔いている様子だった。

 彼が居たから、安土の死人が少なかったとも言えるのだが、本人はそうは思っていないみたいだな。



「イッシーは何故保留?」


「真イッシーな。俺も彼の言う事には、賛同出来るからかな。運が重要って点では特に。俺はある人に見つけられて、運が良かったと思っている。下手したら、ただの軽犯罪者だったからな」


 それは暗に僕等の事だろう。

 確かに僕達が見つけなければ、彼は他の人に捕まって首を刎ねられていたかもしれないし、もしくは逃げおおせても隠れる生活だっただろう。

 運が良いという点では、イッシーは大きく体感していると思う。



「反対二人に保留が二人。ゴリアテは?」


「魔王様と同じ気持ちですので」


 要は人任せという事な。



「僕と同じという事は、彼を雇い入れるという判断だが。それでも良いんだな?」


 頷くゴリアテに、他の人からも更なる意見は無い。



「全てが割れた。賛成反対保留、全てが二人ずつ。とりあえず、試験運用という形で働いてもらおう。そして、保留の人達の意見や反対の二人の意見も、後日また確認する。というわけで、こんな感じで良いかな?」


「魔王様がそう仰るのであれば」


「ワタクシも同じく」


 反対の二人がそうなら、問題は無い。



「では、黒田官兵衛。これから貴方を仮の軍師として安土で働いてもらう事にする」


「お任せを!」





 ゴリアテ達と別れ、僕は安土を案内するという名目で、官兵衛を連れ出した。

 四人は再び外へ警備に戻っている。

 そして僕の近衛だと言って離れない蘭丸には、長谷部とハクトを呼び出しに言ってもらった。



「お前、ちょっとハードル上げ過ぎ」


「申し訳ありません。でも、それくらい言わないと、半兵衛にこだわってしまうのではと思いまして」


「確かにな」


 又左達の様子を見る限り、半兵衛の事を引きずっているのがすぐに分かった。

 相当頼りにしてたんだろうな。



「それでも、やっぱり嬉しかったですよ」


「そりゃあ、あんな風に怒ってもらえたらな。羨ましい」


「魔王様だって、同じような事があれば・・・って、遭ったら駄目ですね」


「それこそ軍師が無能だと言われるだろうな」


 僕が襲われて死んだら・・・。

 身体を取り戻すどころの騒ぎじゃなくなるな。



「おっと、失礼。ん?魔王かい」


「おぉ、バスティか。新しい護衛はどう?」


「いやぁ、凄いし可愛いし。良いよ」



 バスティの新しい護衛。

 それは予想外の人物だった。



「五右衛門、このおっさんに変な事されたら、アニキ達に言うんだぞ」


「魔王様、五右衛門に変な事吹き込まないで下さいよ」


 五右衛門の兄であるイチエモンが、嗜めてくる。

 どうやら

 五右衛門以外は交代制みたいだな。



「まさか五右衛門が、あんなに活躍してたとは思わなかったよ」


「へへっ!凄いだろ?」



 五右衛門達はあの襲撃で、実は又左や太田達をも上回る帝国兵を倒していた。

 武器を奪われた彼等はほぼ防戦だったのに対し、五右衛門は逆に武器を奪っていたのだ。

 彼の目を見て眠った帝国兵達は、そのまま首を刎ねられて死んでいったと聞く。

 そして全ての武器と防具を剥ぎ取り、兄弟や近くに居た街の人に渡していたという。

 流石は元山賊だ。



「五右衛門の能力なら逃げる時間も稼げるし、護衛としては最適だと思うよ」


「あとは兄弟達で、入れ替わり剣の稽古をしています。小さい弟達は無理ですけど、教えていただけるなんて、感謝しかないです」


「ラコーンが彼等に剣を教えているんだ。少しは元気を取り戻したみたいで、逆にこっちとしてもありがたい事だよ」


 一番落ち込んでいたラコーンも、石川一家のおかげで元気になったみたいだ。

 こういう話を聞くと、少しずつ復興しているって実感する。



「ところで、横の彼は何者だい?」


「自己紹介が遅くなり申し訳ない。オイラは黒田官兵衛。シュバルツ家の遠縁で、安土に来た者だ」


「シュバルツ家の?」


 あ、マズイかも。

 帝国の国王に対して、シュバルツ家の遠縁なんて言ったら、バレるかもしれない。



「そ、そうそう。街がやられてこっちに逃げてきたんだって。だから足をやられててね」


 そう言って後ろから足を指差す。

 これは尻尾なんか無いよと、遠回しに言ってみせたわけだ。



「そうなんだ、大変だったねぇ。ところで何故、シュバルツの家名じゃなく黒田なんだい?」


「ふぁ?そそそそれはだね・・・。彼、魔族とハーフなのよ!それで、彼の魔族側の親が、信長に名前をもらっててね。代々受け継いでいるみたいよ?」


 出来る!

 僕のすんなりと出たこの言葉、マジで自画自賛出来るレベルなんだけど。

 勝手に信長を使ったけど、関係無い。

 死人に口無しとは、こういう事を言うのだ!



「彼、今後は安土で働いてもらうから。顔・・・は見えないけど、覚えておいてよ」


「以後お見知りおきを」


 頭を下げる官兵衛に、バスティは顎に手を当て何やら思案している。

 それを見た僕は、話を逸らそうと別の話を切り出した。



「ところで長谷部の事なんだけどさ」


「長谷部くんか。そろそろ戻ってくる?・・・いや、イチエモンくん達の護衛があるから、彼は外してもいいかも」


「えっ!?長谷部要らないの!?」


「要らないわけじゃないんだけどさ」


 その言葉を言い終えたバスティは、僕の耳に手を当てて小さな声で話してきた。

 それは魅力的だけど、衝撃的な一言を。





「半兵衛くん、じゃなくて官兵衛くんになったんだっけ?彼の護衛に、長谷部くんが就いた方が良いんじゃない?」

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