不審者官兵衛
合同葬は予定外の事が多かった。
最初の宣言と黙祷の一言だけという話が、何故か激励の言葉を言う事になっていた。
僕には無理だと思っていると、兄が代わりに話すと言い出す。
兄は何気に難しい言葉を知っていた。
何故あんな言葉を知っていたのかは分からないが、予想外の言葉に僕やコバは驚きを隠せなかった。
どうせ召喚者が来ても負けない。
そんな考えが今回の敗北をもたらしたと、兄は言う。
だが、負けっぱなしは性に合わない。
兄の檄に、安土の人達は大きく沸く。
何故か知らないが、そのままライヴが始まるというので、僕達はラビと入れ替わり、そのまま安土を離れた。
安土を離れたその足で、久しぶりに半兵衛に会いに行った。
身体の調子は悪くないが、耳や尻尾などは回復しなかったらしい。
そろそろ彼にも、安土に戻ってもらいたい。
その為の話し合いが始まった。
半兵衛はとりあえず、サングラスと頭を隠す程度の物で充分だと言う。
そしてシュバルツ家の遠縁の者として、この街に来たという設定になった。
最後に残った問題は、僕達が苦手な名前。
半兵衛とは公には呼べない為、新たな名前が必要になる。
しかしロゼの希望を聞いた僕は、今回だけは何故かピンと閃いた。
彼は今後、黒田官兵衛として生きていく事になったのだ。
「黒田官兵衛、ですか?」
「シュバルツ入ってない!シュバルツが入ってませんよ!」
半兵衛、じゃないな。
官兵衛の反応はまだ薄い。
それよりもうるさいのは、ロゼの方だった。
「ロゼ、ちょっと説明するから聞きなさい。シュバルツとは黒という意味がある。そしてこの黒田官兵衛、信長が居た世界の半兵衛と並ぶ、天才なのだ!」
「そうなんですか!?」
「そう。天才です」
天才という言葉を聞いたロゼは、とてもご機嫌になり、何も言わなくなった。
官兵衛の方も、照れ臭そうな顔をしているが、嬉しそうではある。
「魔王様。私は今から、黒田官兵衛として生きていきたいと思います」
「うん。でも平和な世界に戻ったら、半兵衛に戻るのもアリじゃないかな?半兵衛の命が狙われない、そんな頃になったらね」
「先の話は、その時に考えましょう」
「それは任せるよ」
半兵衛に戻る時。
それは簡単に言えば、帝国の王子を失脚させてバスティに戻ってもらった時だろう。
まだまだ先の話かもしれないな。
「それとロゼ。お前は官兵衛に、半兵衛の時のような接し方は駄目だからな」
「何故です!」
コイツ、やっぱり分かってなかったっぽい。
先に釘を刺しておいて、正解だったみたいだ。
「彼はこれから半兵衛じゃない。官兵衛だ。他の人からしたら別人なんだ」
「それは分かってます!」
「い〜や、分かってない!お前が別人である官兵衛とイチャイチャしてたりしたら、周りの人はどう思う?」
「そうっすね。簡単に言えば、婚約者が死んで早々、違う男に乗り換えた尻軽女ってところじゃないっすか?」
「長谷部くん、大正解!」
正解した長谷部はガッツポーズ。
そう思われていると分かったロゼは、ガックリ肩を落としている。
「別に仲良くするなとは言ってない。遠縁とはいえ親族なんだ。仲の良い親戚のお兄さんくらいに考えれば、問題は無いと思うけど」
「下手に距離を取られても、シュバルツ家との関係が怪しまれるかもしれないですね。ロゼさん、仲良くして下さい」
「本人もそう言っているんだ。よろしく頼んだぞ」
ロゼは官兵衛の言葉に戸惑いながらも、手を差し出されるとギュッと握っている。
まあ今日くらいは、仲良くても問題無いとは思う。
周りには僕等以外に誰も居ないし。
僕が言える事はただ一つ。
「クッソー!羨ましいぃぃぃ!!!」
心の奥底からの声に、長谷部は優しく肩を叩いてくれた。
コイツ、仲良くなるとめっちゃ良い奴だなぁ。
翌日、長谷部が警備中に傷付いた官兵衛を発見したという体にして、彼を安土へと迎え入れる計画だった。
だったのだが、全然僕の下に報告が来ない。
「オホン。蘭丸、何か変わった事は?」
「特には無いな」
即答する蘭丸に、僕は違和感を覚える。
長谷部は上手くやっているはずなのに。
「蘭丸殿」
おっ!
どうやら動きがあったようだ。
城で働く小人族が、蘭丸に何か耳打ちしている。
伝え終えた小人族が居なくなり、僕は報告を待った。
・・・待ってますよ。
僕、今の報告を待ってますよ。
おーい!
何で言ってこないのよ!
「今のは?」
「あぁ、大した事じゃない」
大した事でしょうよ!
傷付いた旅人が来たら、大した事でしょう?
「どんな事?」
「お前に知らせる程の事じゃないから。気にするな」
気になるぅ。
僕、とっても気になるぅ。
「何かあったんだろ?教えてくれよ」
「だから、大した事じゃないって」
「何でそんなに頑なに言わないのさ!」
「別に頑なってわけじゃないが・・・。大した事無い話を、毎回魔王であるお前に知らせるのも、どうかなって思っただけだぞ」
大した話かどうか決めるのは、僕じゃないの?
何でもかんでも話を振ってくるのは困りものだけど、今回の件は教えてくれても良いはずなんだけどなぁ。
「魔王として聞いておくから、教えてくれ」
「あ、そう?」
蘭丸も渋々といった感じになった。
やっと折れたか。
官兵衛をこれで迎え入れる事が出来る。
「それで、誰が来たんだ?」
「誰が来た?別に来てないぞ」
「え?じゃあ報告って・・・」
「ロックが昨日頑張り過ぎて、腰痛になった。だから今日のダンス練習は無いって連絡」
なんだよ!
心底どうでも良いわ!
「失礼します」
「ホゥ、分かった。マオ、アデルモさんから連絡が来た」
やっと本番らしい。
ロックの腰痛とかどうでも良い話ではなく、とうとう官兵衛が来たという話だろう。
「アデルモさんは何と?」
「どうやら知り合いが怪我をして、安土へ逃げてきたらしい」
やはり官兵衛の事だな。
これで受け入れ体制は万全だし、問題無く官兵衛が活躍を・・・
「ただ、ゴリアテ殿が安土に入れるか迷っている」
「えっ!?何故?」
「彼はヒト族らしいのだが、素顔を見せない。アデルモ殿が遠縁の者だと言っているが、顔も見てないのに言い切れるのがおかしいと、ゴリアテ殿が不審がっているという事だ」
「ちょちょちょちょっと待って」
ゴリアテェェェ!
いやいや、彼は仕事をしているだけだ。
しかも言っている事は正論。
むしろ僕達の計画が甘々だったに過ぎない。
「で、でも!怪我をしているんだから、治療はしてあげないとね」
「長谷部殿の小屋で、ハクトが回復させたという話だ」
「あ、そう。仕事早いねぇ・・・」
事情を知ってるハクトも居た方が良いと、長谷部の所に行ってもらったのが失敗だったか?
いや、別人だったら実は怪我はしてないとバレていたし、これは間違ってないはず。
「それで、このままだとどうなるんだ?」
「回復したし、そのまま安土には入れないんじゃないか?アデルモ殿の遠縁と言っても、フランジヴァルドにもその通達が行くだろうし。要警戒人物として、様子見だろうな」
のおぉぉぉ!!
僕の計画がいきなり崩れた!
土台からいきなり駄目じゃんか。
「ちなみにそのアデルモの知り合いとやらは、どうしたいと言っているんだ?」
「なんかお前と話がしたいって。いきなりお前と話がしたいって言うのも怪しいから、ゴリアテ殿が危険だって断ってるらしい」
「ゴ、ゴリアテはこの前の襲撃で反省してるみたいだね。良い事じゃない?」
これ、本当にマズイぞ。
受け入れる云々の前に、危険人物として扱われ始めてる。
このままだと僕の下に辿り着く前に、牢屋に辿り着きそうな予感。
その前に、こっちから動くべきだろう。
「ゴリアテの所に行こうか」
ゴリアテが働く防衛隊舎に着いた。
アイツ、何気に事務作業が得意なのね。
「これは魔王様!何故ここに?」
「なんとなく、なんとなくだよ?その危険人物とやらを見ておこうかなと思って」
「駄目です!ヒト族の中にも、この前のような強者が居ると分かりました。容易に魔王様を危険に晒すわけにはいきません」
言ってる事は正しい。
確かにその通りだと思う。
でも、このままだと話が進まないんだよね。
「アデルモとロゼは、シュバルツ家の関係者だと認めているんだろ?じゃあ良いんじゃない?」
「顔も見ないで何故分かるのです?」
「声で分かるとか」
「遠縁で久しく会ってないのに?」
むぅ、反論出来ん。
どうするか。
あ、そういえばハーフ設定だったな。
「何か特技があったりして、それで分かったとか」
「・・・変わった能力なら、あり得なくもないですね」
イエス!
ゴリアテ攻略したか!?
「とにかく、話くらいなら聞いても良いんじゃない?アデルモ達も同席してもらってさ。僕に何か危害を加えるなら、アデルモ達を罰すれば良いじゃん」
「うーむ、それなら確実な方法を取りましょう」
「初めまして。わた、俺が黒田官兵衛です、だ」
「ですだ?」
「いえ、何でも無いです、だよ?」
緊急事態発生!
官兵衛のキャラが定まっていないから、変な口調になっている。
こりゃ不審者に思われても仕方ない。
「ワタクシ、魔王様の右腕である太田」
「右腕!?右腕は私、前田又左衛門利家です」
「いやいや、右腕はワタクシ」
「いやいやいや、私だ」
右でも左でも良いじゃない。
むしろ右腕なのは、最初から一緒に居る蘭丸とハクトだと思っているんだけど。
「佐藤だ」
「真イッシー」
この二人は無難に対応している。
ちなみに慶次は、警備の仕事で来ていない。
というより、これだけの連中を抜けさせたので、結構大変だと思う。
「これだけ居れば、何か起きても問題無いでしょう」
「ハハ、そうね」
官兵衛の中身を知っている僕からしたら、明らかに戦力過多である。
戦いに向いていない彼を相手にするのにこのメンツは、オーバーキルも良いところだろう。
もはや乾いた笑いしか出ない。
「さてと、黒田官兵衛さん?僕に話があるとは、一体何かな?」
「わた、麿を雇いませ、雇わないか?」
麿!?
ちょっとこの一人称は酷い。
官兵衛は笑わせに来てるのか?
「いきなり雇えとは片腹痛い。実力も見ずに雇う馬鹿がどこに居る!」
又左が何やら怒っている。
とりあえず言いたい。
馬鹿はここに居ます。
実力も見ずに雇おうとしてました。
「そうだね。キミは何が得意なのかな?」
「ありません」
「・・・は?」
「わた、ミーにはここに居る屈強な戦士に匹敵する得意なものは、無いと言っている」
「ハッハッハ!馬鹿にしているのか!?」
そりゃそうだ。
特技も無しにさあ雇えって、そりゃ無理というものだ。
又左の顔がめちゃくちゃ怖い。
「わた、あーしは本当の事言ったまでだ。獣人や召喚者みたいな戦闘力は持っていない。ただし!」
ただし!
急にギャルみたいに、あーしとか言うのはやめてくれ。
「ただし?」
「わた、オイラにはコレがある」
こめかみをトントンと人差し指で叩く官兵衛。
うん、オイラが一番聞きやすい。
「頭か。しかし、ヒト族が半兵衛殿に匹敵する頭脳を持っているとは、到底思えないな」
「そうですね。ワタクシもそれは疑問に思います」
「俺も」
「同じく」
又左と太田がヒト族が、と言うのは分かる。
だが、同じヒト族の佐藤さんとイッシーも、同意するとは思わなかった。
二人とも官兵衛という名から、召喚者ではないとは分かっているだろう。
でも、黒田官兵衛という名から、多少は期待するとかそういう援護があっても良いと思っていた。
そして官兵衛は、自ら厳しい方に話を進めていく。
彼等を激怒させて・・・。
「半兵衛?あぁ、帝国に殺されたという無能ですね。死んだ者は美化されがちだから仕方ない。オイラなら、もっと上手くやれますよ」