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さらば半兵衛

 又左が責任を感じているのは分かるが、それを言ったら僕達を筆頭に、皆が反省しなければならない。

 口には出さなかったが、やっぱり僕の責任は大きかったと思っている。

 集団行動がそこまで得意じゃない僕は、こういう時に駄目だなと強く実感した。


 そんな彼等に半兵衛の死を告げると、皆黙ってしまう。

 半兵衛の存在は、やはり大きかったようだ。

 死んだ人達の為にも、この反省を生かそう。

 泣いていたラコーンが言うからこそ、説得力もあった言葉だった。


 そして本題である長谷部の件だが、やはりズンタッタとビビディによって阻まれてしまう。

 長谷部の存在は、彼等の中でも重要なポジションになっていたようだ。

 蘭丸や他の者を推したものの、話は難航。

 するとバスティがとんでもない事を言い始めた。

 長谷部より強い人材が残っていると。

 長谷部も最初、その言葉には納得をしていなかったが、それが僕達だと分かると、苦笑いをするしかなくなっていた。

 長谷部の為、半兵衛の為と考えたら、断る事は出来ない。

 僕が長谷部の代わりに護衛するという案を、受け入れたのだった。


 後日、街が落ち着きを取り戻した頃、安土の広場に大勢の人が集まった。

 黒服に身を包んだ僕達は、合同葬を開始する。





 開始すると言っても、僕自身は特に何もしないのだが。

 宣言と次にやる言葉を言ったら、お役御免である。



「黙祷」


 おそらく一万は超える人数が目の前に居る。

 しかし誰一人言葉を発さない。

 陽の光に照らされる中、静寂が皆を包み込んでいる。



「やめ」



 黙祷が終わると、各所からすすり泣く声が少し聞こえた。

 大事な人を亡くした人達だろう。


 そして高台から降りようとすると、声はしないが涙がダダ漏れのラコーンが立っていた。

 やはりチトリとスロウスの死を、未だに引きずっているみたいだ。


 片腕を失った彼は、今は出向扱いでコバの下に居る。

 彼専用の義手を作るという事になったのだが、コバの科学力と昌幸の魔法技術を組み合わせた、ハイブリッドな物を作ろうという話らしい。

 まだ開発段階でどのような物が出来るのかは、全くの白紙らしいけどね。



 そして僕が降りた高台には、長可さんが上がっている。

 この後の予定は僕は知らない。



「それでは魔王様から皆様へ、激励の言葉があります」


「へ?激励?」


 ちょっと待て。

 そんな話は聞いていない。

 そもそも僕は、合同葬を開始する宣言役しかやらないと断ったはずだ。



「では、魔王様。壇上へお願いします」


 前からも横からも視線を感じる。

 逃げ場が無い。



【仕方ない。俺が言ってやろう】


 何っ!?

 任せて大丈夫なのか?



【そんなに長くないから。それに言わないと、話が進まないだろう?】


 それはそうだけども。

 じゃあ、任せるよ。





 これが壇上の景色か。

 高校の頃に登ったけど、集まっていたのは流石に万の人数ではなかった。

 圧巻だな。



「あー、オホン。諸君、我々は皆、大事な人を失った。それは何故だ!?」


「坊やだか、痛っ!」


 高野が何かを言おうとしたので、小石を投げておいた。

 そのセリフは言わせはせん!

 言わせはせんぞ!



「ハッキリと言っておく。俺達が悪い。帝国の戦力なんか大した事ない。次来ても勝てる。そんな慢心があったんだよ」


「魔王様!それは違います!」


「違わない!」


 又左が何かを言いかけたが、それをマイクを使った圧倒的な声量で制した。



「安土は難攻不落だと思っていた。ゴリアテの防衛策は万全で、コバの監視を掻い潜るなんて考えもしなかった。そう、考えなかったんだよ。人間は考える葦であるという言葉がある」



(えっ!!何故そんな難しい言葉を知ってるんだ!?コバもあまりに予想外の言葉に、二度見してきたぞ)


 うるさいな。

 知ってるものは知ってるんだよ。



「魔王様。それ、どういう意味でござるか?」


「よく聞いてくれた。葦という植物は弱い。人間も葦という植物と同じく、弱い生き物なんだよ。でも植物である葦と違って、人間は考える事が出来る」


「弱者の知恵というヤツですね」


 流石は太田。

 字ばっかり書いてただけじゃなく、博学だな。



「太田の言う通りだ。俺達は今回、帝国の召喚者に武器を奪われ、街は燃やされ、そして大事な人を殺された。俺達が慢心して考えるのをやめた頃、向こうは必死に考えたんだろうな」


 横の連中は全員が俯いている。

 それは武器を奪われた連中に、我を失って暴走した者や防衛責任者なのに守りきれなかった者達だ。



「皆、俺達は弱いと受け入れよう。そして、考えるのをやめないようにしよう。負けっぱなしは性に合わないんだよ!次こそは勝つぞ!」


「拙者、一人でもそのつもりでござる!」


「馬鹿言うな!お前一人に任せるはずがないだろ」


「兄上!」


 又左と慶次の気合が伝播したのか、目の前から怒号のような掛け声が始まった。



「魔王様、このまま次の進行に移りたいと思います」


「次の進行?」


 長可さんが、皆のテンションが一気に上がったのを見て、話を進めると言い出した。

 しかし俺は次が何か知らない。



「ではこのまま参りましょう。マオーズwith花鳥風月のライヴです!」


「マオーズ?」


 気付くと壇上が広くなっている。

 オーガ達がブロック体になっている壇を更に組み合わせて、そのまま舞台に変更したらしい。


 そして知らぬ間に、上半身裸の蘭丸がギターを持ち、ハクトも隣に立っている。



「ちょっ!待っ!」






 ライヴが始まった。

 俺はどうして良いのか分からず、ど真ん中に突っ立っている。

 両サイドにはハクトと蘭丸。

 後ろには花鳥風月。

 前は観客と化した人達で一杯だ。



「こんなの聞いてない!」


「そうなのか?ま、なんとかなるだろ」


 蘭丸は気楽な返事をしてくるが、もう変な汗でびっしょりなんだが。



「レディースアーンドジェントルメン!俺っちプレゼンツ。マオーズwith花鳥風月のライヴが始まるよー!」


 ロックの声が聞こえてくる。

 何処かでマイクを使って喋っているみたいだな。



「それじゃ行くよ!ボンバー!」


 ドーン!という音と共に、赤青黄、その他色々なカラーをした煙が舞台前を立ち込める。



「マオっち!こっち!」


 どうやらロックは、この煙幕の中で交代しろと言っているらしい。

 俺が急ぎ後ろから降りると、入れ替わりにラビが上がっていった。



「こういう時はマジで説明してくれ。心臓に悪い」


「マオっちソーリー。沈んだ空気を暖めてくれたあのトークは、本当に素晴らしかったよ」


「お前に言われてもなぁ。でも、素直にありがとうと言っておくよ」


「後は俺っち達に任せて。見えない所で休んでてよ」


 俺はその言葉を聞き、長可さんにラビが居るから隠れてると伝えて、その場を離れた。






「相当大きな音ですね」


 俺達はラビと交代してから安土を離れ、今は長谷部の居る警備小屋に来ていた。

 そこには今、長谷部と半兵衛とロゼの四人が居る。



「いつまでもお通夜ムードじゃ気まずいからな。不謹慎かもしれないけど、お祭り騒ぎで皆が元気になってくれる事を期待したライヴだ」


「そうですね。それが良いと思います」


「それでだ。そろそろ半兵衛の怪我は、良くなったのか?」



 実は俺達、半兵衛と会うのは久しぶりだった。

 長谷部を外の警備に行かせた代わりに、バスティの護衛をやる事になった。

 護衛をしている最中に、長谷部の様子でも見に行く?なんて言えるわけがないわけで。

 気付けば、弟の魂の欠片を返してもらって以来の再会だった。



「実は色々と変わった面もありまして」


 頭の包帯を取ると、短髪といった感じだ。

 そして一番目に付いた箇所がある。



「耳はどうした?」


「それが、欠損した肉体は元には戻らないようです」


「という事は、耳は生えてこない?」


「そうなりますね」


 半兵衛の説明だと、ハクトは魔力を回復魔法に全力で使ったり、音魔法でどうにかならないか試したらしい。

 しかしセンカクに聞いても、無くなった肉体を元に戻すなんて物は無いという事だった。



「それに尻尾も無くなってしまったので、バランス感覚がおかしくなってしまいました。おかげでしばらくは立つのも難しかったです」


 笑いながら言う半兵衛だが、ロゼはその言葉に少し涙を浮かべている。

 当初はショックだったのだろう。



「でもハクトさんのおかげで、足はくっついたんだぜ!凄いよな」


 千切れかけていた足は、ちゃんと治ったらしい。

 そう考えると、耳も残っていればくっついたのかな?



「さっきお話しした通り、尻尾が無くなり、歩くのも少し不便ですけどね。杖があれば問題無く歩けますので、ご安心を」


「そうか。それなら、そろそろ安土に戻すとしようか?」


「その前に、私だと分からないようにしなくてはなりません」



 うーん、それが問題か。

 手っ取り早いのは、やっぱり仮面だよな。

 イッシーみたいに石仮面?



(それは安直だし、イッシーが何故仮面を着けてるの?って話になっちゃう)


 そうなると、仮面って言ったら赤い人くらいしか思いつかないのだが。


(そうなんだよ。僕もそれしか思いつかない)


 耳が無くなったから、被りやすいかもしれないけど。

 本人的にはどうなんだ?



「どうやって半兵衛だと分からなくするか。何か案があれば聞くけど」


「ハイ!」


「はい、ロゼくん」


「化粧をしましょう。見た目を美しくすれば、分からないかと」


「却下。汗で化粧が落ちたら終わりです」


 不服そうなロゼだが、お前は婚約者がビジュアル系みたいに化粧していてほしいのか?

 おかしいだろ!

 という言葉を飲み込み、長谷部の案を聞く。



「俺はサングラスにマスクしか、思いつかないっすね」


「いつの不良だよ」


 その格好をしていたら、佐藤さんやロック辺りは気付きそうだ。

 佐藤さんは別としても、ロックの世代はそういう人達多そうだし。



「ここはやっぱりコバに頼んで特殊な仮面を」


「大丈夫ですよ」


「声とかでバレたりしそうだから、変声機付き仮面とかの方が良くない?」


「声は口調を変えれば大丈夫かと。仮面は必要かもしれませんが、下手に被るよりは耳の傷痕を隠す程度にした方が良いと思います」


 なるほど。

 ネズミ族ではなく、耳と尻尾が無いからヒト族を装った方が良いかもしれないな。



「簡単には外せないサングラスと、頭はタオルとかそんなので十分かもな」


「その通りです。あとは私の話し方次第で・・・。そう、俺の考えはそんな感じだ」


 おぉ!

 声色を少し変えて、口調が少し乱暴になっただけで、印象が随分と変わった。

 これで問題無い気がする。



「あと問題なのは、私の戸籍ですかね」


「戸籍謄本とかあるわけじゃないから、詳しくは調べられないだろうけど。何処の誰という設定だけはしておかないと駄目だよな。話が食い違ったら怪しいし」


 当初の予定では、シュバルツ家の人間って話になってたと思うけど。



「ロゼ殿が良ければ、シュバルツ家の遠縁という設定にします。そうですね。魔族とのハーフで、住んでいた場所も遠くにしましょう」


「魔族とのハーフなら、耳が上でも怪しまれないっすね」


「ハーフだから隠れ住んでた事にするか。それなら長可さんやゴリアテ達も知らなくても問題無いだろ」


「杖を使っているのも、帝国に襲われた時の後遺症という設定でどうでしょうか?」


「ロゼ。それ設定じゃなくて、まんまだぞ」


「あ・・・」


 ロゼの天然発言が飛び出したところで、設定はこの辺で良いだろう。



「よし、じゃあ行くか!」


「いやいやいや!一番の問題がありますって!」


 外に出ようとした矢先、長谷部が問題があると言ってきた。

 何かあったかな?



「おいおい魔王様よ。半兵衛さんの名前、そのままじゃあマズイだろ?」


「うわっ!そうだった!」


 一番苦手なコレが残ってたわぁ。

 もう自分で考えてたりは・・・



「では魔王様。私に新しい名前を付けてください」


 ですよねぇ!

 はぁ・・・。



(難しいなぁ。何かヒントでもあれば良いんだけど)


 じゃあ聞いてみるか?



「何かこういうのが良いとかある?」


「私は特には」


「ハイ!シュバルツ家の血筋なので、シュバルツを!」


「シュバルツねぇ・・・」


 シュバルツなんてカッコ良い名前、余計にハードル上がったような気がする。



(シュバルツか。・・・ん?いや、待てよ。シュバルツか。使えるぞ!)


 良い名前があるのか!?


(フッフッフ。僕が発表しようじゃあないか!)





「新しい名前、決めたぞ」


「楽しみですね」


「シュバルツですか!シュバルツ入ってますよね!?」


 別にシュバルツ要らんだろ。

 なんて言うと怒りそう。



「入ってると言えば入ってる」


「なんて名前ですか?」






「姓は黒田、名は孝高。通称黒田官兵衛。お前を今から、官兵衛と呼ぶ事にする」

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