表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
301/1299

長谷部の代役

 兄は半兵衛の死に対して、僕の言動に頭がきていたらしい。

 歩いているだけで殴られて、頭にきたのはこっちも同じ。

 お互いに本気になってしまった。

 久しぶりの兄弟喧嘩を繰り広げていると、ツムジが現れて仲裁を買って出た。

 ようやく半兵衛の詳細を伝える事が出来て、僕達の喧嘩は終わった。


 兄を半兵衛の所に案内すると、僕達はお互いに謝罪をした。

 兄弟であっても、言葉にしないと伝わらない事もある。

 僕は、色々な面で考えが甘かったと実感した。


 半兵衛を魔王人形の姿に変えて穴から出ると、僕は長谷部を連れてバスティの居るシェルターへ向かった。

 長谷部を護衛から外す為だ。

 そこには又左とラコーン、蘭丸とイッシーも合流していた。

 ラコーンはチトリとスロウスの死を知り、人目を憚らずに泣いている。

 そんなラコーンも片腕を失う大怪我をしていたのだが、又左がそれを助けたという話だった。

 しかし又左はその時、奪われた武器を持つ海藤を追っている最中だったと言う。

 取り返せなかった事を僕達に謝罪してくる又左に、僕の口が馬鹿野郎!と、勝手に言葉を発したのだった。






 オイィィィ!!

 勝手に喋り出すなよ!

 いきなり過ぎて、僕もビックリしたじゃないか。



【すまん。つい口に出してしまった】


 いや、良いよ。

 同じ気持ちだったし、むしろ言いたい事を言ってくれて助かった。



「でもあの武器は、貴重な大きなクリスタルが使用されていて。そんな貴重な武器を託された私達が、奪われたとなると・・・」


 口籠る又左。

 周囲に対する体裁でも気にしているみたいだな。



「今回は僕達も反省している。安土はそう簡単に攻め落とせない。前回の襲撃を簡単に防いだ事で、慢心していたのも事実だ」


「そんな事はありません!」


「いや、あるんだよ。本来ならゴリアテと話をしてから修行に行くべきだったし、いつも通りだと思い込んで任せてしまった」


「それは私達が信用されているからだと、自負しております。それなのにこの体たらく」


 又左の言葉で、そこに居たほとんどの人間が俯いてしまう。

 皆にも同じような気持ちがあったようだ。



「でもね、僕達が領主なんだわ。部下の失敗は上司の失敗。武器の盗難を考えていなかった僕が悪い。だから反省しよう。何が悪かったかを」


「・・・そうですね。死んでいった者達の為にも、この反省を生かさなくてはいけない!」


 ラコーンが立ち上がり、賛同する。

 皆もようやく前を向いた。



 だけどここで、また皆を叩き落とす事を言わないといけない。

 しかも嘘だけど、本当っぽく言わなくては。

 ツムジの話だと、僕達は芝居が下手だからな。

 こういう時、ラビが居ればと思ってしまう。



「前向きになったところで申し訳ないが、もう一つ訃報がある」


「えっ!?」


 訃報と言っただけで、皆がこっちを一斉に向いた。

 物凄く気まずい。



「半兵衛が帝国の召喚者の手によって、亡くなった。アデルモとロゼ、そしてここに居る長谷部が頑張ってくれたのだが、相手が強かった」


「半兵衛殿が!?私達をシェルターに案内してくれた時、そのまま一緒に来ていれば!」


 予想外に取り乱したのは、バスティだった。

 又左やイッシー、ズンタッタにビビディも涙を堪えている。

 蘭丸は口を開けたまま呆然としていて、多分何も聞こえていない。



「彼の遺体は僕達が丁重に埋葬したよ。アデルモとロゼは大きく気を落としているから、今は城で休んでもらう事になっている」


「そうですね。彼等は婚約したと発表したばかりでしたから」


「復興が進んだら、合同葬を行う予定だから。亡くなった者達の確認もよろしく頼む」



 ある程度まとめたところで、ここからが本題だ。





「バスティ、相談があるんだけど」


「こんな時にしてくるくらいだ。余程大事な相談なんだろうね」


「そうだな。かなり大事な話になる」


 ズンタッタとビビディは当然のように同席する事になったが、僕が長谷部を連れ立っている事に少し疑問を感じているようだ。


 ちなみにラコーンは心身共に衰弱しているので、ここには居ない。

 シーファクは無傷だが、長可さんの補佐として女性陣のケアに奔走している。



「チトリとスロウスは残念だったな」


「そっちだって半兵衛殿がね。それで相談とは?」


「長谷部の事なんだけど」


 僕はバスティ達に、安土周辺の警備と称して、計画している事を話した。

 勿論、本当は半兵衛の所在隠しもあるのだが。



「結論から言えば、長谷部を護衛から外してほしいという話だよね」


「そうなる」


「魔王様。誠に申し訳ないとは思いますが、それは勘弁願いたい」


「ズンタッタの言う通りです。ラコーンは片腕を失い、シーファクも別の仕事で離れている。こう言うと情けない話ですが、私達二人だけでは陛下をお守りするのに自信が無い」


「左様。今の長谷部は、陛下の身を任せたいと思えるくらいに成長しています。そこで長谷部に護衛を抜けられるのは、これ以上無い痛手です」


 やはりこうなったか。

 今の安土の状況を考えると、こう言われるのは分かっていた。

 又左達ですら手玉に取られたのだ。

 彼等の中で一番戦力がある長谷部を残しておきたいのは、自明の理。


 しかし当の長谷部は、ズンタッタ達からここまで認められていたとは、思いもよらなかったようだ。



「お、俺は・・・」


「皆まで言うな。今のお前は私達にとって、最高のボディーガードなのだ」


「う、うぅ・・・」


 後ろを振り向いた彼は、空を見上げている。

 涙が溢れないようにしているのは分かっていたが、誰もそれを口にする者は居ない。

 それに、この三人に納得してもらわないと、僕達の計画は破綻してしまう。

 何としてでも説得する!



「長谷部が必要なのは、僕達だって分かっている。だけど彼くらいしか、又左達に次ぐ力を持つ者は残っていないんだ」


「だから尚更、彼を護衛から外したくないと言っているのです!」


「それに長谷部が強いと言っても、やはり又左殿達にはまだ及ばない。そんな大役を押しつけられても、困るのだが」


 お互いに譲れないといった形で、話は平行線を辿る。



「長谷部が又左達に及ばないというのであれば、補佐にハクトを就けよう。今のハクトはセンカクの修行によって、音魔法を上手く使える。長谷部の戦力を底上げするには、持ってこいの人材だ」


 それに口に出しては言わないけど、半兵衛の怪我を回復魔法で癒す事も考慮している。

 ハクトが居れば、食事面のサポートもバッチリだ。



「では、もしハクト殿に補佐をしてもらえるとして考えよう。長谷部が抜けた後の護衛はどうなるのです?」


「長谷部に近い武力の持ち主でなければ、私どもは到底納得出来ませんぞ」


 とうとう言われてしまった。

 長谷部並みの強さを持つ人物を寄越せ。

 これを言われるのが一番辛い!

 だってそんなの居たら、最初から苦労はしてないから。



「蘭丸は?ハクトと同様、センカクの修行で大幅に戦力アップしてるけど」


「駄目だ!俺はお前の近衛だからな。半兵衛が死んだとなれば、尚更俺の命に代えても守護すると決めたんだ」


 おおぅ・・・。

 まさかこっちからノーと言われるとは、思わなんだ。


 半兵衛の死を聞いてから、蘭丸の中でも何かが大きく変わったのかもしれない。

 自分から僕の近衛だなんて、そんな事言い出す奴ではなかったのに。



「本人が強く否定していますが」


「彼以外にはいらっしゃるのですか?」


 うーむ、残るは防衛責任者のゴリアテくらいか。

 しかし彼は、流石に外す事は出来ない。

 誰か居ないかな?



「居るじゃない」


「え?」


 目の前に座るバスティが、何故か居ると言ってきた。

 僕でも思いつかないのに、誰だ?



「失礼ですが陛下。長谷部並みの戦力の持ち主ですよ?」


「何言ってるの。長谷部くんより全然上だよ」


「俺よりもっと強いだって!?陛下、それは聞き捨てならない言葉ですぜ」


 おいおい、挑発するなよ。

 長谷部もそんな言い方されたら、怒るに決まってるじゃないか。



「誰です?」


「ほら、目の前に居るじゃないの」


「え?」


 ズンタッタとビビディは見回したが、誰も居ない。

 しかし本当は分かっているのだろう。

 二人とも急に汗をかき始めた。



「安土最強の戦力でしょ?」


「陛下!?それって・・・」


 うわぁ、悪い顔してるよ。

 ズンタッタとビビディなんか、完全に顔が青ざめてるし。

 長谷部もこれには苦笑いだ。



「どう?引き受けない?」


「アンタのそういうトコ、本当に凄いと思うよ」


「褒め言葉として受け取っておこう」


 コイツ、絶対に僕が断らないと思って言ってやがる。



「分かった。防衛機能が戻るまでの間、僕達が引き受けよう」


「よろしく〜」






「ほら、行くよ〜」


「ハイハイ」



 僕達はバスティの護衛として、普段は安土とフランジヴァルドを行ったり来たりしている。

 特に何をするわけでもなく、慰問という形で皆に声を掛けるだけだ。

 しかしそれだけでも、皆の声が元気になった。


 元々帝国の民だったフランジヴァルドの人達は勿論、安土でも彼は人気がある。

 これをカリスマというのだろう。



 今日はそんな普段の日とは違い、僕もバスティも正装をしている。

 正装と言っても、僕の格好は黒い袴。

 見た目はちょっと遅めの七五三の気分である。



「しかし、こんな格好をするのは久しぶりだな」


「似合っているよ。悪くない」


 馬子にも衣装とでも言いたげな顔だが、素直に受け取っておこう。

 ちなみにバスティはオールバックにした髪型に、スーツがビシッと決まっている。

 ナイスミドルとはこういう男だと言わんばかりだ。



「あら、魔王様。そういう格好をして陛下と並ぶと、お孫さんみたいですね」


「長可殿。せめて孫ではなく、息子にしてもらえると嬉しいのだが。私はそこまで老け込んでいるかな?」


「うふふ、どうでしょう?」


 腹の中を見せないコンビの二人の会話は、胃に悪い。

 正直、嫌味なのか本音なのかもよく分からないし。



「太田とかゴリアテみたいな、大きな身体の連中はどういう格好してるの?」


「変わりませんよ。今回は魔族の風習と帝国の風習を、半々でやっております。どちらが良いかは本人次第なので、誰がどのような格好かは分かりませんが」


 という事は、太田がスーツでゴリアテが袴みたいな事もあり得るのか。

 想像すると、悪い成人式の見本にしか思えなかった。



「もうすぐ着きますよ」


「大勢居るね。当たり前か」


「そうですね。お隣のフランジヴァルドからも、ほとんど来てもらっていますから」


「魔王、皆もそれだけ今回の事を重要に思ってるんだよ」


 バスティの言葉は、僕も分かっている。

 それでも復興もまだなのに、これだけの人が集まるとは思わなかった。



「外の連中も来てるんだよね?」


「はい、又左殿達にも全員連絡しております。勿論、全員参加となっています」


「全員警備から外して、大丈夫かなぁ?」


「バスティには悪いけど、これで攻めてくるようなら帝国の民度が知れていると思う」


「そうだね。もし攻めてきたら、私も情けないと思うよ」



 今日は外で警備をしている又左や佐藤さん達も、全員が参加している。

 それだけ重要な事なのだ。


 ちなみに若狭や長浜等、他の領主達も携帯電話で連絡を貰っている。

 当日に来る事は出来ないが、代理や別の日に集まるという話にはなっていた。



「魔王様。そろそろ時間です」


 太陽の位置からして、丁度昼になったくらいだろう。

 僕は皆から見えるように高い台に乗った。

 マイクの前に立つと、奥まで続く黒い人に少し戸惑いを感じる。

 しかし、誰もが僕が喋るのを待っているのが分かり、ゆっくりと口を開く。





「只今より、合同葬を開始する」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ