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浮かれるオーガ

 飛び出したはいいものの、戻るタイミングを逸してしまった。

 町の様子でも見て回ろうかな。


「あ、魔王様だ!」

「魔王様ー!」

「すっごいカッコ良かったです!魔王様!」


 おうおう!案外僕も人気者じゃないか!

 ちびっこしか居ないけどな。

 女の子も居るのはちょっと嬉しい。

 あと十年したら、またお願いします。



 気分良くなって戻ると、町長と若いオーガだけが待っていた。

 蘭丸とハクトは太田の様子を見に行ったらしい。

 動けないほどのダメージではなく、ただの筋肉痛みたいなので、そんなに気にする事無いと思うんだけどな。


「魔王様、先程は失礼しました」


 いや、キミは何も悪くないでしょ。

 分からなかった僕が悪いんだから。


「気分転換に外に出てしまった。話を聞くと言ったのに悪いね。それでお願いとは何なのかな?」


「それでですね、あの方の事なんですが。捕虜という立場から解放していただけないかなと・・・」


「お前、魔王様に向かってそのような事を!失礼だぞ!?」


 んー、そんな事が言いづらかったのか。

 アレかな?

 一目惚れしちゃった系かな?

 町長は怒っているけど、何か理由でもあるのか。


「もしかしてアレかい?兜取って顔見たら、惚れちゃったみたいな感じかい?一目惚れしちゃいましたみたいな、そんな感じなのかね?」


 ちょっと意地悪そうな顔して言ってみたが。


「・・・・・・」


 え!?マジで?


 顔を真っ赤にしながら目を逸らされた。

 冗談のつもりだったが、本気だったとは。

 言いにくいのだが、見た目だけなら何処が良いのか分からない。

 話をしたりすれば、性格や内面も分かるだろう。

 そうすれば僕にも、優しかったり気配りが出来る女性かもしれないと、彼女の良さが分かるかもしれない。

 でも一目惚れとはね・・・。

 人の美醜に対する感性は分からないものだ。


「しかしその彼女を解放して、危険は無いのか?もし周りに被害が出るようなら看過出来ないぞ?それこそ死罪もあり得るが・・・」


「おそらくその点については大丈夫だと思います。他の帝国兵よりも目立っていたので、戦場でも注目していたのですが。実は一度も戦ってなかったのです。戦うような方ではないと思い、彼女が高貴な立場にある可能性もあるかと。なので失礼の無いよう、牢も他とは違い綺麗な場所を用意してあります」


 うーん、もしかしたら姫とか貴族のお偉いさんの可能性もあるんだろうけど。

 それよりも思ったのが、お前等嫌われたくなかっただけじゃね?


「じゃあ彼女と直接話を聞いてみるよ。それで解放するか決める。ただ帝国軍として攻めてきたくらいだから、魔族の事を嫌ってるかもしれないからな。お前達は好意があるかもしれないが、それだけは覚悟しておいてくれよ?」


「はい!よろしくお願いします!」


「お前、ずるいぞ!わしもせめて四十歳若ければ。あんな美人のお相手を願いたいわ!」


 町長さん、本音出てますよ?

 しかし彼だけでなく、町長までそう言うとは。

 オーガ全体から見て美人だという事なのだろう。

 その後、彼女が居るという場所に案内してもらった。




 代わる代わるアタイの様子を見に来るオーガ達。

 ただ単にヒトの女が興味があるのか、それとも大きい女が珍しいのか。

 後者だとは思いたくないけど。

 それが何度か続いた後、なんと神の使徒である魔王が姿を現した!

 周りに居るオーガ達も想定していなかったのか、大慌てで下がっていった。


「ちょっと彼女と二人で話がしたい。皆下がっててくれ」


 子供の姿なのに、なんという凛々しい姿。

 あの恐ろしい悪魔の所業を行った人物と同じとは、到底思えない。

 オーガ達はその命令に従い、下がっていった。

 その目は名残惜しいような恨んでいるような、何かを訴えているような感じがした。

 神の使徒はアタイの牢の鍵を開け、中に入ってきた。

 何をされるのだろうか。


「えーと、はじめまして、とは言えないか。戦場では会ってるわけだから。僕、阿久野です。魔王やってます」


「え?あ、はじめまして!アタイはオーグです!」


 何だ!?いきなり自己紹介されたんだけど。

 魔王やってますって、そりゃあれ見たら分かるわ!

 何かを宣告されるのかと緊張して待ってたが、ちょっと拍子抜けしてしまった。

 あの時のオーラを隠しているのか?

 今のこの子・・・ではなく神の使徒は、その辺に居る子供と大差無い印象を受ける。


「えー、何だ。何だろう、あ!怪我とかはしてないですか?」


「は?はい、アタイはあの場で戦っていないので」


 何だろう?

 話のきっかけを作ろうとしている?

 何か言いづらい事でもあるのか?


「あのぅ、えっと、あ、ちょっと待って下さい」


「?」


 何だ?何か言い淀んでいるような気がする。

 もしかして、命の保証は出来ないみたいな話だろうか。

 それはそれで仕方ないのかもしれないね。

 巻き込まれたとはいえ、アタイも当事者なんだから。

 覚悟を決めよう・・・。


「よし!アンタ、ちょっと確認だが、何で戦わなかったんだ?戦場に出ていた者に聞いたけど、後ろに控えたままだったそうじゃないか」


 あら?急に雰囲気が変わったような?

 ちょっと言葉が荒くなった気がする。

 ただ、さっきみたいな話し方より、アタイには気が楽だね。


「アタイは帝国兵じゃないから!、です。森に詳しかったので、魔物専門のハンターとしてオーガの町までの案内をして、此処まで来ただけです。だから戦争を仕掛ける事も知らなかったし、オーガと戦う気も無かった」


「なるほどね。帝国以外にもヒト族の国ってあるの?」


「アタイはライプスブルグって国の出身です。帝国とライプスブルグ以外なら、フォルトハイム連合や騎士王国ケルメンが有名ですかね。他にも小国がありますけど、ほとんど属国なので変わらないと思います」


 何でヒト族の国なんかに興味があるんだろう?

 まさか、帝国以外も滅ぼすとか、そういう考えなのか!?


「そっか、二つだけじゃないんだ。ところでオーガと戦う気は無かったって言ってたけど、魔族には拒否反応とか無いの?」


「帝国の人間もそうですけど、大抵のヒトは別に嫌ってなんかいませんよ。特にアタイは子供の頃に、ホブゴブリンにお世話になったくらいだし。逆に親近感はあるけど、そういう嫌な気持ちみたいなのは無いです」


「おぉ!そうかそうか!じゃあオーガも特に嫌いってわけじゃない感じ?」


「別に嫌ではないですけど。ただ、さっきからジロジロと見に来られてるのは、見世物みたいで嫌ですね」


 アタイはさっきから何を話してるんだろう。

 身の上話に魔族について。

 何かこの子、妙に話しやすい。


「あちゃあ、アイツ等も馬鹿だねぇ。でも話してくれてありがとね!また後で来ると思うから。その時はよろしくね」


「え!?はい、お待ちしてます」


 にこやかに話をして、彼は出て行ってしまった。

 奥の方で、オーガに怒っているような声が聞こえる。

 何だか変わった神の使徒様だな。

 緊張が解けたのか、疲れがどっと出てきたみたい。

 ちょっとだけベッドで横になろう。




 さて、あの女性に話を聞きに行かないといけないんだけど。

 正直な話、どうすればいいか分からない。

 そもそも僕は友人に、女性関係の相談なんか受けた事が無い。

 どうやって話を切り出せばいいのかすら分からないよ。

 安請け合いしたものの、困ったな。


「僕は阿久野です。魔王やってます」


 魔王やってますって何だよ!

 さっきの戦闘で名乗ったじゃんか!

 我ながら酷い・・・。

 でもまあ、彼女の名前がオーグというのは分かったぞ。

 しかし、この後何をどうやって聞けばいいのやら。


【お前、まどろっこしいな。そんなのパパっと聞いちゃえばいいじゃん】


 簡単に言うなよ!

 オーガに対しての印象とかも聞かないといけないし、あまり直接的に聞いて悪い印象持たれたら駄目じゃんか!


【そこまで気にする必要ないだろ。だったら俺が代わりに聞くよ】


 あ、そう?

 こういうの苦手だから助かるわ。




「よし!ちょっと確認だが、何で戦わなかったんだ?」


「アタイは帝国兵じゃないから!、です」


 なるほどね。

 彼女は兵士じゃないし、戦う気も無かったと。

 それにホブゴブリン?にお世話になったって言ってたな。

 つーかホブゴブリンって、ゴブリンと何が違うんだ?


(あぁ、それね。ゴブリンは人に悪戯をするっていう妖精だかそういう扱いなんだよ。悪意は無いけど悪戯するから嫌われてるけど、ホブゴブリンは逆に人の手助けをしてくれる存在だったはずだよ?)


 おぉ!お前凄いな!

 何でそんな詳しいんだ?


(子供の頃にやったゲームの雑魚キャラでゴブリンが出てきたけど、ホブゴブリンも全然強さ変わらなかったじゃない?何が違うのかなって、調べた事あるんだよね。まあ今聞かれるまで役に立ったかと聞かれれば、特に何にも役に立ってない雑学だけど)


 あー、あのゲームか。

 2人でよくやってたな。

 しかしそんな事考えてたとは思わなかったな。

 でも彼女がホブゴブリンのおかげで、魔族に親近感持っているってのは大きな収穫だな。

 オーガにも、そこまで悪い印象持っているわけじゃなさそうだし。


(それよりも、ヒト族の国の事を知ることが出来たのも大きいって。何気に兄さん、凄い事聞いてくれたよ)


 え?そう?

 お前に褒められるとちょっと嬉しいな。

 じゃあとりあえず、また町長さんの所に戻ろうか。

 その前にアイツ等・・・


「お前等!何をチョロチョロとやってるんだ!」


「うわっ!魔王様すいません!」


「お前等のせいで彼女、見世物みたいになってて嫌だって言ってたぞ」


「そ、そんな!?私達は彼女の前で少しでも良いところ見せようと・・・」


 良いところを見せるって何だよ。

 牢屋に入ってる人の前まで見に行ったって、警戒されるだけに決まってるだろうに。


「それでお前等は、何をしてたんだ?」


「このように、私達の素晴らしさを知ってもらおうと、フッ!ハッ!」


 掛け声と共にボディビルのポージングを決めていく。

 駄目だ、頭痛い。

 こんな事して、彼女が惚れるわけが無い。


「あのさ、それ逆効果だぞ?」


「えっ!?まさかそんなわけ・・・。ヒト族はこの素晴らしいマッスルが分からないと!?」


 マッスルって・・・。

 オーガのナンパみたいなものか?


「とりあえず、嫌われる前にやめとけば?嫌われてもいいなら続けても良いと思うけど」


 唖然とした顔で立ち尽くすオーガ達。

 オーガって変な奴等だなと思いつつ、俺は町長の家に向かった。



「こんちわーっす。戻りました~」


 家に戻ると、若いオーガが部屋で筋トレをしていた。

 あぁ、彼もアピールする気満々なんだな・・・。


「というわけで、彼女は帝国兵でもなければ、魔族に悪い印象は無いと分かった。もちろんオーガもそうだ」


「ハハッ!流石は魔王様!素晴らしい情報をありがとうございます!」


 めっちゃ頭を下げてきたけど。

 これ、町を救ったさっきより感謝してないか?

 気のせいだよな?


「彼女の話は信用出来ると思う。だから解放には賛成だ。ただ、先に言っておく」


 牢屋の前でのアピールが、逆に悪い印象を与えていると伝えた。

 アレが良いという人も中にはいるんだろうけど、彼女はそれに当てはまらない。


「そんなわけ・・・あるんですか!?そうすると、私達はどのようにして彼女に接すれば良いのでしょうか?」


「そうだな。それは本人の意向を聞いた方が早いんじゃないか?だって悪い印象は無くても、良い印象を持たれているわけじゃないんだから」


 その通りだと頷く若いオーガ。

 彼女に下手な接し方をしたら、嫌われるのは分かっている。

 だからこそ、下手に動けないのだ。


「まずは彼女を解放しよう。その為の部屋を用意してくれ。俺が彼女に好みの男性でも聞いておいてやるから」


「本当ですか!?じゃあ既に部屋は準備してあるので、よろしくお願いします!」


 もう準備してあるのかよ!

 はえーよ!

 俺等に確認する前から、解放する気満々だったって事じゃねーか。


「彼女の部屋まで連れていけ。俺が彼女を連れていくから」


「それには私が!」


「お前、それは抜け駆けってヤツじゃないのか?」


 サッと目を反らすオーガ。

 他の連中より先にお近づきになろうという魂胆が丸見えだ。


「駄目だな。俺はお前が嫌いじゃないけど、そういうのは公平にやらないとな」


 釘を刺した後、準備した彼女の部屋を案内してもらった。

 おい、俺が案内された部屋より豪華なんだが。

 女性の部屋だからと考えれば分からんでもないが、仮にも俺は魔王なんだけどなぁ。

 気を取り直して、とりあえず彼女を解放するとしよう。



「どうも~、また来たよ。オーガ達は見に来たりした?」


 軽い感じで声を掛ける。

 これは勿論わざとだ。

 俺達に親近感を持ってもらって、警戒心を解いてもらうようにね。

 ホントだよ?


「あら、使徒様。魔王様の方が良いのかしら?」


「どっちでもいいよ。さて今回は大きなお知らせがあって来ました」


 大きなお知らせと聞いて、ちょっと強張った感じがした。

 やっぱりまだ警戒されているって事だな。


「そんな警戒しなくてもいいから。お知らせっていうのは、オーグさん。貴方を解放します」


「え!?アタイ、此処から出られるんですか?」


「さっき聞いた話だけど、信用出来ると俺は判断した。だからもう捕虜としての扱いは終わりね」


 ちょっと何言ってるか分からないような顔をしているけど、そのまま話は続けちゃおう。

 彼女にとっても、下手したら人生に関わる事だから。


「というわけで、貴方は今からお客人としてオーガの町に迎え入れられる事となりました。これからこの町での新しい部屋に案内するから、ついてきてね」


 捕虜から客人扱いという、あまりの急展開に頭がついてこないのだろう。

 気の抜けた返事と共に、一緒に歩き始めた。


 彼女はやはり大きい。

 外を歩いているオーガと比べても、遜色ない背の高さだ。

 それに身体もハンターを生業としているからか、筋肉もある。

 おっと、別にいやらしい目で見ているわけじゃないよ?

 ホントだよ?

 彼女居なくても、分別は出来る男です。


「やっぱりこの町でヒト族は珍しいんでしょうか?」


「そりゃ珍しいとは思うけど、何で?」


「さっきからすれ違う人とかに、ジロジロと見られている気がします」


 あぁ、そういう事か。

 うーん、多分アレだろう。

 彼女が魅力的だからって事だろう。

 俺等からしたら、グラビアアイドルが自分の町を歩いているような感覚じゃないかな?

 知らぬ本人からしたら、どういう目で見られているか分かっていないから、気味悪いかもしれないね。


「それについては、貴方の部屋に着いてから説明しようと思う。大丈夫、危険な事は無いから」


 なんか最後のセリフ、ちょっと勘違いされそうな気もする。

 やらかした感があるけど、まあいいか。


「危険な事って・・・。変な事はあるんですか?」


 ぐわぁぁぁ!!!

 やっぱり怪しまれたー!

 俺は大丈夫、俺は大丈夫。

 よし!落ち着いた。

 ここで慌てたら、本当に怪しい奴になってしまう。


「いや、変な目にも遭わないから。神の使徒で魔王たる俺が保証する」


「・・・分かりました」


 流石は神の名か魔王の名か。

 信用してもらえたようだ。

 ちょっと間があったのは怖いけど。

 そして彼女に滞在してもらう部屋に着き、中を案内した。


「あの、これ間違ってないですよね?アタイなんかが良いんですか?」


 オーガの用意した部屋に驚くオーグだけど、まあ無理もない。

 俺の部屋より凄いからね。


「間違ってないから安心してほしい。これもオーガからの好意って事さ」


「オーガからの好意って、アタイ何もしてないですよ?」


「そう、それが本題だ。オーグさん、貴方はオーガからとても好意を持たれている。分かりやすく言えば、貴方が魅力的だから交際をしたいと思っているんだよね」



「はぁ!?」

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