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兄と海藤

 半兵衛はこちら側に裏切り者が居ると言った。

 本来なら、軍師である半兵衛は前線に出ない。

 それなのに半兵衛の存在を知っていて、尚且つ一番のターゲットだと狙ってきた。

 顔すらも知られている時点で、もはや疑う余地は無い。


 この話をしていて、ようやく半兵衛が殺してくれと言ってきた意味が分かった。

 彼は自分の存在を消して、再び狙われないようにする考えだったようだ。

 しかしその見返りに、ロゼとの婚姻の話は延期となってしまった。

 流石にいきなり未亡人も無いので、いつか平和になったらという事になった。

 半兵衛の死は、葬儀をして大々的に広める。

 そしてこの話は今居る者と兄、僕達だけの秘密となった。


 その頃の兄は、城へ行き、ラビを助ける為に動いていたみたいだ。

 どうやらSクラスの一人、海藤という男が僕達に扮したラビを狙っていた。

 ロックはそれを聞き、武器が使えないならと僕達を助けに来たらしい。

 少し見直した。

 奴はなんとなくで、ここに来たようだ。

 兄がパンチを見舞い最上階から叩き落とすも、奴は生き残りまた這い上がってきた。

 そして本気を出すと言って取り出した物。

 それは慶次が持っているはずの、クリスタル内蔵の槍だった。





「マジかよ。彼等の武器も奪われてたのか」


「どういう事?」


 ロックに説明を求めると、奴は武器を奪う能力を持っているという。

 どんなに警戒していても駄目らしく、この様子なら又左や太田も盗られているはずだと言った。



「この泥棒が!」


「そうだよ。泥棒だよ。でもさ、鹵獲って言葉知らない?」


「知らん!」


「知らないなぁ」


 俺とロックが即答すると、奴は黙ってしまった。

 知ってる体で話したかったっぽいけど、本当にそんな言葉は知らない。

 知ったかぶりをするのは、性に合わないのだ。



「魔王様。敵の武器や補給物資等を奪う事を、鹵獲と言います」


「影武者くんは頭が良いねぇ。話が早くて助かる。それに比べて、本物の魔王と無知なおっさんは・・・」


 憐れむような目で俺達を見てくる海藤。

 馬鹿にされているのが丸分かりで、イラッとする。



「泥棒風情が偉そうに。盗人猛々しいとはお前の事だ!」


 決まった。

 ちょっと難しい言葉を使ってやったぜ。

 使い方が合ってるか分からないけど。



「戦争だもの。それは当たり前でしょ。使える物は敵の物でも使う。下手なプライドのせいで負けたら、愚か者じゃない?」


「確かに。俺っちもそう思う」


「お前の場合はプライド無さ過ぎだ!」


 俺の後ろから同意するロックに、尻を軽く叩いた。



「ま、そういう事だから。自分達で作った武器で、死にな!」


 奴は慶次の槍を振った。

 が、使い方が分からないらしく伸びてこない。



「あら?俺が見た時は伸びてたんだけどな・・・」


「使い方も調べないで使うから、そうなるんだよ。バーカ!バーカ!」


「あ、伸びた」


「おわあぁぁぁ!!」


 馬鹿にしていたら使い方が分かったらしく、急に伸びてきた。

 危うく腹に穴が開くところだった。

 馬鹿にしてる最中に死んだら、俺その辺のモヒカン雑魚並みにダサいぞ。



「さて、使い方は分かったし。あとはこっちもかな」


 クリスタルをトントンと叩く海藤。


 マズイな。

 俺は避けられたとしても、後ろの二人が危険だ。



「二人とも、俺が合図したら、部屋から出て下に降りろ。ロック、ラビを頼んだぞ」


「う、うん。ラビさんは任せて」


 自信無さげな返事だが、コイツは自分の大切な人の事になればやる時はやる奴だ。

 ラビの事なら任せられる。



「おい、お前。それの使い方は知ってるのかよ?」


「フフン。既に試したよ」


 嫌な顔しやがる。

 下の焦げた死体は試した結果か。

 俺の仲間達に手を出した事、絶対に後悔させてやる。



「スパーキング!」


「ロック!」


 俺は奴がクリスタルの中の魔法を使うと同時に、鉄球を奴に向かって投げた。

 当てる為じゃない。

 電気を逸らす為だ。

 俺達の方へ向かうはずの光が、奴の目の前で止まる。

 鉄球に電気が集まっているからだ。



「ハイサッ!マオっち、後はよろしく!」


 ラビを担いだロックは、電気が光ったタイミングで部屋の外へ出て行く。

 やはり逃げ足になると、コイツの足は一流だと実感した。



「なるほど。鉄球を使うとは聞いていたけど、まさかこんなやり方で避けられるとはね」


「俺だって避雷針くらいは知ってるから。鉄球で出来るかは分からなかったけど」


「流石は魔王と言ったところかな。でもね、まだあるんだわ」


「バルディッシュ!?太田の武器かよ!」


 あんな大型の武器を急に目の前に出されると、手品師も形無しだな。



 普段、クリスタルに入れている魔法は、各自違うという話を聞いている。

 慶次の槍がスパークなら、バルディッシュは何だ?


 火か?

 氷か?

 氷だと俺の足も封じられる。

 それだけは気を付けないといけない。



「行くぜ!シャイニング!」


「しまった!」


 まさか一番頭の中に入っていなかった魔法だ。

 俺の目が潰される!

 ロック達を追われるのはマズイ。

 しかしそれ以上に、俺のパンチを耐えるコイツの強さだ。

 目が見えない間に攻撃されれば、俺でも耐えられないかもしれない。

 なんて思っていたのに・・・。



「何でよ!こんな魔法だっけ!?」


 バルディッシュの刃部分が、チカチカと光っている。

 なんだろう、古い懐中電灯みたいな明るさかな。



「やっぱり使い方が慣れてない奴は、威力が低いな。隙あり!」


「おごぉ!」


 鳩尾にパンチを入れると、奴はくの字に身体を曲げる。

 ヨロヨロと後ろへ下がり、バルディッシュを杖代わりにして立っている。

 俺のパンチが効いている証拠だ。



「一気に行くぜ!」


「なんてね、フリージング!」


「何ぃぃぃ!!」


 トドメを刺す為にダッシュで距離を詰めた時、目の前にバルディッシュが無くなっていた。

 そして目の前に現れたのは、佐藤さんのグローブだった。

 俺の足が薄氷で動きが止まると、その拳が俺に襲い掛かってきた。



「ほらほらほら!どうした!避けてごらんよ!」


「痛っ!イテっ!くそっ!うぐっ!」


 両腕で亀のようにガードしていても、腕や脇腹を殴られれば痛い。

 こんなの他の人が見たら、幼児虐待だからな!

 と考えられるだけ、俺はまだ余裕はあるらしい。

 片足に魔力を集中すると、そのまま地面を踏み込んだ。



「フン!」


「は?マジかよ」


 他の皆が使うより氷が薄かったおかげで、力を入れて踏み込んだら、氷がバリバリと割れていく。

 足が自由になった瞬間、奴へ蹴り込む。



「うっ!なかなかやるな。ん?」


 奴が何かに気を取られている。

 今なら・・・。

 と思った矢先、奴は距離を取った。



「どうした?俺を殺すんじゃないのか?」


「悪いね。魔王様、アンタはついでなんだ」


「ついで?」


 何か嫌な予感がする。

 この先を聞いてはいけないような、そんな予感が。



「ターゲットだった者は始末したから。アンタは用済みってワケ」


「ターゲット?もしかして、俺の足止めの為だけにここに来たのか!?」


「それだけじゃないけどね」


 グローブを外した海藤は、それをヒラヒラと振って見せる。

 なるほど。

 俺達の装備を盗る為って役割もあったか。



「・・・ターゲットって誰だ?」


「聞いちゃう?どうしよっかなぁ。おっと!」


 その態度が気に入らない。

 俺は鉄球を奴の顔面に目掛けて投げたが、簡単に避けられてしまった。



「言えよ。言わないと、本気で投げるぞ」


「おぉ、怖い怖い。そこまで言うなら教えてあげる。キミの所の軍師さんだよ」


 軍師と言われてハッとなった。

 安土に入ってから半兵衛を見ていない!

 何処に居たんだ!?



「うおっ!」


「油断してると殺すよん?」


 半兵衛の事を考えていたら、目の前に弓矢が見えた。

 武器を交換して、いつの間にか放っていたらしい。



「それじゃ、俺はコレでサヨナラだ。殺されない限り、またいつか会うはずだよ。じゃあね〜」


「待て!」


 最上階の窓から飛び降りる海藤。

 燃える炎に照らされていたが、その身体は徐々に暗闇の中に消えていった。






「半兵衛はしばらく何処に住んでもらうんだ?」


「それなんですよねぇ。街もかなり破壊されてますし、婿殿以前に皆が住む場所を作らないといけないんですよ」


 そうだった。

 今は地下に居るから分からないけど、街はかなり悲惨な有り様なのだ。

 今のところは避難シェルターがあるが、家作りは急務だろう。

 となると、半兵衛だけが特別とはいかない。



「魔王様よ、街の外に家は作れないのか?」


「作れなくはないけど。何故そんな事聞くんだ?」


「俺が街の外に住む。そして、そこに半兵衛さんを匿えば良い」


 どうやら長谷部には、何か考えがあるみたいだ。

 だがそれには、大きな問題が一つ残っている。



「バスティの許可無く、僕の一存で決める事は出来ないぞ」


「大丈夫だ。俺が街の外に住むのは、奴等への牽制の意味を兼ねている事にする」


 牽制って。

 一人が外に居るだけで、それは無理があるだろ。

 ん?

 待てよ。



「分かった。お前一人じゃなく、主要メンバーを外に配置しよう」


「それ、何か関係あるのか?」


「大アリだ!又左に慶次、太田と佐藤さん。イッシーはちょっと考えた方が良いかな。このトップクラスの戦力を、安土とフランジヴァルドの周りを囲むように警備させるんだ」


「なるほど。それの中に長谷部殿が加われば、外に住んでいてもおかしくないというわけですな」


 アデルモの言葉で、長谷部はようやく理解した。



 とは言っても、やはりバスティにはその件で護衛から外れる事を、許可してもらわないといけない。

 どちらにしろ話さないと駄目だし、こっちも長谷部が居なくなっても大丈夫だという安全を保障する必要がある。



「シェルターに行って、バスティに話してくるか」





 ヤバイ。

 簡単に外に出たまでは良いが、どのシェルターにバスティ達が居るのか知らない。

 避難誘導をしていたのは半兵衛だったから、聞いておくべきだった。



「あの、ちょっと話良いですか?」


「あん?ゴーレムか?話す人形とか初めて見るな。だけど悪いな。今は復興作業で手一杯なんだ。他を当たってくれ」


 フランジヴァルドの住民だろう。

 この姿だと、僕が魔王だとは知らないっぽい。

 言っている事は至極真っ当なので、他を当たる事にした。



 これは失敗だった。

 声を掛けてみても話は聞いてくれるのだが、やはり忙しいと言われるか分からないという答えしか返ってこない。


 忙しそうですねと言ったら、今度こそ自分達の街を守るんだと言われてしまい、フランジシュタットの事を思うとそれ以上は何も言えなくなってしまった。



 彼等は一度街を失っている。

 新しい街をと僕達が誘ったのに彼等を守れないとか、口だけ魔王と罵られてもおかしくないのだ。



「魔王様!無事でしたか!」


「おぉ、長可さん!セリカとチカも怪我は無さそうだね」


 女性組は長可さんを筆頭に、シェルターに避難していたらしく何も無かったようだ。

 蘭丸がここに居ないのは少し意外だったが、怪我も無くて安心した。



「ところで、バスティ達は知らない?」


「バスティアン陛下ですか。あの先の見えているシェルターが私達が居たシェルターですが、そこには居ませんでしたね」


 という事は、残り二つか。

 そんな事を考えていたら、街中が騒がしい。

 どうやらその騒がしい元凶が、こっちにやって来るようだ。



「兄さん、ちょっといっぶぅ!」


 思いきり殴られて、僕の身体は縦回転にゴロゴロ転がっていく。

 普段じゃ見られない光景を、目の当たりにした。

 そして怒りの声を、耳元で聞く事になる。





「お前、半兵衛が死んだって聞いたぞ。あの半兵衛が!殺されたって言うのに!お前は一体!何を呑気に歩いてるんだ!!」

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