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ロックの健闘

 ハクトの機転によって半兵衛が殺されるところを、危機一髪助ける事が出来たのだが、彼の口から殺してくれと言われてしまった。

 よく聞くと、死んだ事にしてくれという事らしい。

 詳しい事情は分からないが、僕は半兵衛の言う通りにするべく、ハクトとコバの協力を得て半兵衛を隠した。


 半兵衛の言う通り、男は火だるまになりながらも息があった。

 奴の能力で死なないとは聞いたのだが、この姿を見ると納得だ。


 半兵衛が死んだという一芝居を打つ為、何も知らないアデルモ達の下へとやって来た。

 彼等には土人形を半兵衛に見立て、泣き芝居をしてもらった。

 土壁を壊して現れた男は、二人が泣いている姿を見て半兵衛が死んだと確信。

 そして奴は名乗った後、帰還命令があると言って立ち去った。


 居なくなった事を確認した僕達は、半兵衛が無事なのを確認する。

 そして半兵衛の口から思わぬ言葉を耳にした。

 裏切り者が居ると。






「う、裏切り者!?」


「静かに!魔王様、この穴大きく出来ますか?」


 ハクトと半兵衛、そしてロゼの三人が入った穴を大きくしてくれと言ってきた。

 三人が居るだけで窮屈な穴だ。

 入れても人形姿の僕くらいしか無理だろう。



「ちょっと待ってろ。よっ!これで余裕はあるはずだ」


 ちょっとしたワンルームくらいの大きさまで広げ、敵が来ないように創造魔法でボロボロの建物を作り、その上でわざと火を放つ。

 迷彩シートを被せれば、そこそこ大きな穴があるなどと思わないだろう。



「半兵衛、大変であったな」


「コバさんも狙われませんでしたか?」


「本気かどうかは分からないが、狙われたのである」


 コバの言葉を聞いた半兵衛の顔は、確信めいた感じだった。



「やはり間違っていないと思われます」





 穴の中はとても静かだった。

 上からボロ小屋がパチパチと燃える音が聞こえるくらいで、他には何も聞こえない。

 それくらい半兵衛の言葉を、皆が待っていた。



「まず一番に疑問に思ったのは、私が狙われたという事です」


「半兵衛さんはスゲーから、狙われても不思議じゃないんじゃ?」


「いえ、それはあり得ないと思います」


「何故すか?」


「私は強くありませんよ」


「でも、凄い頭が良いじゃないですか」


「頭が良い事を、相手は知りませんからね」


 長谷部との話を聞いた僕とコバは、ハッとなった。

 ある事に気付いてしまったのだ。



「半兵衛は前線に出ない。帝国側もこっちに頭が良いのが居ると分かっても、それが半兵衛なんて分かるはずが無いんだ!」


「吾輩は元々帝国に召喚された身。吾輩が狙われる事があっても、半兵衛が狙われるのはおかしいのである!」


「そう。そして男、天堂は言いました。私が一番の目標だと」


「認めたくないが、内部から情報が漏れているとしか考えられないな」


 長谷部もようやく理解したらしく、裏切り者という言葉に怒りを露わにした。



「その裏切り者、とっ捕まえようぜ!皆が許しても、俺が絶対に許さねー!」


「バカタレ。裏切り者が分かっていたら、こんな穴に隠れて密談しないのである」


「あ、そうか」


「なるほど。それで私を殺してくれに繋がるのか」


「え?どういう事?」


 分かっていない長谷部だが、アデルモの頭も追いついていないっぽい。

 目が回っているように見える。



「まず半兵衛が生きていると分かれば、再び狙ってくるのは分かるな?」


「ああ、それくらいは」


「だから半兵衛は、アイツに殺された事にした。そして奴は、まんまと騙されて帰っていった」


「でも実は、賭けに近かったんです。天堂が言う魂のストックが個々人で判別が出来てしまったら、私が死んでいない事がバレてしまいますから」


 自分の魂を大切にと言われた時、魂の判別が出来るのでは?と思ったらしい。

 分の悪い賭けだったが、今思えば虫や動物の魂の判別なんか出来るわけない。

 それを考えれば、この結果は一目瞭然だったのだろう。



「半兵衛さんが狙われないように、殺されたフリをしたのは分かった。でもよ、いつまでも死んだフリ出来ないだろ?」


「確かに。婿殿はこのままでは、隠れ住むしか方法が無いのでは?」


「そこでアデルモ様達に、お願いがあります」


「私達に?」


 半兵衛は頭を下げた後、今後の事を話し始めた。



「私をシュバルツ家の遠縁の者として、迎え入れてくれませんか?」


「遠縁の?むしろ婿になられるのでは?」


「申し訳ありません。今は無理だと判断しました。もしロゼさんと結婚となると、私の存在がバレる可能性があります。その結果、ロゼさんにも危険が及ばないとは言い切れません」


 半兵衛が頭を下げたのは、この話をする為だったのか。

 相手の父親に、やっぱり結婚出来ませんなんて話、僕なら言えない。



「う・・・む。しかし」


「お父様。半兵衛様の言う通りにしましょう」


「お前はそれで良いのか?」


「私から気持ちが離れた。というわけではないのです。いつの日か、本当に結ばれる日が来る事を信じます」


 ロゼの複雑そうな顔を見て、アデルモも半兵衛の言葉を承諾した。



 カーッ!

 何でこう、蘭丸といい半兵衛といい、良い女が寄ってくるのかね。

 ここに優良物件がありますよ〜。

 私、魔王ですよ〜。

 街を燃やされた敗北者ですけどね・・・。



「んじゃ、こうしよう。半兵衛はしばらく、この街に隠れてもらう。その間に半兵衛の葬儀を行おう。しかも大々的にな」


「裏切り者に信じさせる為であるな?」


「その通り。皆が悲しみに暮れる中、この街を復興させる為にシュバルツ家の遠縁の者が現れる。それが半兵衛だ。勿論、身分どころか姿も隠すけどな」


「では、私の隠し子として、ブッ!」


「お父様、お母様にそんな事言えますか?」


「すいません。無理でした」


 ロゼにビンタされたアデルモは、おとなしく引き下がる。

 言ってしまえば、別にシュバルツ家と関係が無くても問題無いのだが、アデルモとロゼが支援しやすいだろうという考えがあった。

 その辺はやりやすければ、他人でも遠縁でもどっちでも良いだろう。



「細かい話は、隠れた後にでも詰めれば良い。ここからが最終確認だ。半兵衛は死んだ事にする。生きている事を知っているのはこの七人。絶対に他言無用だ」


 六人は無言で頷く。

 これは半兵衛の命が懸かっている。

 軽々しく話す奴は、ここには居ない。



「あ、魔王様。もう一人の魔王様には言わないんですか?」


「あ・・・」


 忘れてたな。

 てっきり身体の中に居るもんだと、思い込んでいた。



「七人じゃなくて、八人に変更。もしかしたら、もう少し増えるかもしれないけど。又左や太田、蘭丸にもこの話はしない。何処から漏れるか分からないからね」


「分かりました。では婿殿は、私達が責任を持ってこの街で預からせていただきます」


「そういえば、この街の名前って決まったの?」


「決まってますよ。フランジヴァルド、新しい街の名です」


 なかなかカッコ良い名前だ。

 安土の近くに、横文字の名前の街があるのも変な感じだけど。



 気付くと外から音がほとんどしなくなった。

 そのおかげでハクトの耳が、何かを捉えたようだ。



「コバさん、三人が探してますよ」


「という事は、外での戦闘は終わったようである」


「それじゃ、ハクトとコバは外に出てくれ。僕達は半兵衛の身柄を見つからないように、何処か見つからない場所へと移動させるから」


「分かった」



 二人が外に出てからも僕達は待機して、しばらくしてから外に出た。

 やはり帝国兵はこの街から引いたみたいだ。

 そうなると、安土はどうなっているのだろうか?

 今頃兄は、戦っているのかな?






 俺は自室を目指した。

 あの部屋からは安土を一望出来る。

 俺達の影武者をするなら、部屋から指示を出すと思ったからだ。



「邪魔!ホント邪魔!」


 階段を登る度に敵が出てくる。

 やっぱ俺狙いなのか、城の中には敵が多い。



「早く倒れなよ」


「倒れろと言われて倒れる奴は、ここに居るんだけど。でも今回だけは引けないんだよね」


 なんとも微妙なセリフが聞こえてくる。

 やはり俺達の部屋に居るようだ。



「このままだとオジさん、殺す事になっちゃうけど。それでも良いの?」


「それは困る。俺っちの夢は、まだ始まったばかりなんだから。それに素手なら、俺っちもそんな簡単に死なないと思うしね」


「素手ならって。誰もお互いに素手でやり合うとは言ってないんだけどなぁ」


「ちょーっ!何処からその武器出したの!?ダメだよ〜。オジさんには優しくしないと」


「そうだなぁ。後ろの子を差し出したら、優しくしてあげても良いよ?」


「今、後ろの子は予約済みなんですよねぇ。他のいい子を紹介しますんでって、危なっ!人の話は最後まで聞こうよ!」



 どうにも聞いてると、あまり戦ってるような気はしないな。

 時間稼ぎをしているんだろうと分かるんだけど、力が抜ける会話だ。


 そろそろ部屋に入るとしよう。



「ジャーン!俺、参上!」


「え?」


「え?」


 なんとも間の抜けた返事をしてくれる。

 二人揃って口を開けていて、かなり馬鹿っぽい。



「ハイ!ハイハイハーイ!」


「ハイ、そこの名前知らない男の人」


「俺、海藤と言います。よろしく。それで聞きたいんだけども」


「何?」


「双子ですか?」


「違いますよ。いや、双子だけども。ん?何て答えるのが正解?」


「魔王様!」


 ラビが僕の方へと走ってくると、後ろに隠れた。

 それを見たおっさん、ロックも後ろに隠れた。



「おい、おっさん。アンタは戦えよ」


「ようやく分かったよ。何故魔王様が俺っちにおとなしく守られてるのか、不思議で仕方なかったんだよね」


「すいません」


 ラビが謝ると、ロックはむしろ守れて良かったと告げた。



「ラビさんはね、うちの看板になるから。絶対にスターになるから。俺っちが命懸けで守った甲斐があったってもんだよ」


「えーと、結局双子ではないと?」


「双子だよ。この子とは双子じゃないけど」


「もう!何言ってるか分からない!仕方ないな。全員殺させてもらうよ」


 海藤は軽く拳を握った。

 何も持っていないはずの拳を振ると、自分の目の前に剣が現れる。

 軽く握った拳の中には、知らぬ間に剣が握られていた。

 もう少し反応が遅かったら、剣が頭を半分に割っていただろう。



「おろ?コレを初見で避ける奴、初めてかもしれない」


「危なかったわぁ」


「ソイツは武器の出し入れが自由に出来ます。出てくる武器も、直前まで分かりません。今のようにギリギリで避けるのは危険です」


「なるほど。剣だと思ったら、槍とか斧の可能性もあるのか。怖いけど、まあ問題無いな」


 奴の手がピクッと動いた。

 どうやら癇に障ったらしい。

 長髪に乗ってくれるとは、コイツはあんまり頭良さそうじゃないな。



「なるほどなるほど。最初の子は影武者ってところかな。後から来た間抜け面が本物か」


「間抜け面だと!?お前、俺が入ってきた時の顔を自分で見てから言えよ。こんな顔してたからな!」


 わざと大袈裟に口を開けて、馬鹿面をしてみる。



「このガキンチョ、嫌いだわ。魔王だって聞いてるから、殺した方が良いはずだし、殺してから帰るわ」


 少し声のトーンが下がった。

 冷静になったのか、今までロックとしていた馬鹿トークの時とは違う雰囲気に変わった。

 ただ、軽い調子で殺すと言われたのはムカつく。



「口だけ野郎に負ける俺じゃねーよ」


「言わせておけば!」


「武器を持つと駄目なんだったな。必殺!俺パンチ!」


 左足に魔力を溜めてから、右拳に魔力を溜める。

 二点集中で勢いよく奴の腹を殴ると、部屋を突き抜けて外へ吹き飛んでいった。



「この高さから落ちたから、死んだかな?とりあえずラビは俺の姿をやめて良いよ。狙われるのは俺だけの方が良いから」


「マオっち、アイツはそんな簡単に死なない。Sクラスって呼ばれる、最高位の召喚者だから」


 ロックは油断するなと言ってきたが、あの感じだとそこまで警戒しなくても良いと思うんだけど。


「オジさんの言う通りだね。正直、死ぬかと思ったけど、もう油断はしない。キミ達からもらった武器を使わせてもらうよ」





「は?お前が何故、慶次のその槍を持ってるんだ?」

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