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半兵衛

 コバ、いやアデルモかな?

 細かい事は分からないが、この街には避難シェルターが建造されているらしい。

 フランジシュタットの経験から、安土という都市からの援軍が来るまで耐えられるよう、設計されたという。


 街中で戦っていた黒騎士の話によると、バスティは既に避難済み。

 慶次と佐藤さんは、こっちで召喚者と対峙中。

 半兵衛は安土やこの街の住民達の、避難誘導をしているとの事だった。

 他の連中が何処に居るのか分からないが、おそらくは避難しているか安土に居るのだろう。


 僕達が半兵衛を探している頃、バスティ達はシェルターの中に居た。

 シェルター内で話していると、長谷部が不思議な事を言い始めたらしい。

 その内容は、何が目的でここに来たのか?

 バスティが狙いなら、シェルターに攻撃を仕掛けてくるはずなのに、それが無い。

 バスティは長谷部の言葉を受け、彼等の狙いに気付いた。


 バスティは長谷部に新たな指示を出した。

 半兵衛を守れ。

 彼が半兵衛を見つけ、その身が無事だと確認した時、隣に居たアデルモが落馬させられたのだった。





「お父様!」


「くっ!何者だ!?」


 アデルモはロゼの手を借りて、立ち上がった。

 振り返ってみると、フードを被って顔は見えないが、背の高いヒョロっとした男が立っていた。


 油断はしていなかった。

 それなのに一撃で馬から落とされたのだ。

 彼は目の前の男に対する警戒レベルを、一気に引き上げた。



「お?死んでない。咄嗟に武器で防いだかぁ」


「貴様の未熟な攻撃ならば、そう簡単にはやられはせんよ」


 アデルモの挑発に、男は乗った。



「だったら、いっぺん死んでみる?」


「ウオァッ!」


 男の繰り出す剣技に、アデルモは徐々に押されていく。

 予想以上に速い攻撃に、彼は二本の剣で受けるのが精一杯だった。



「おっと!お嬢さんも参加?斬っちゃうよ。斬っぢゃうぅぅぅ!!」


「キャッ!」


「ロゼ!」


「はい、ダメー。やっぱりアンタ、弱いわ」


「ぐあっ!」


 ロゼは男の剣を受けきれず、弾き飛ばされる。

 それを見たアデルモは助けようと動いたところに、奴は足に剣を突き刺した。



「ん〜、良い筋肉。馬に乗って良いよ。それならその足でも戦える」


「ナメおって!」


 太ももから血を流しながら馬に乗り込むと、アデルモは剣を構えた。

 さっきとは逆に、男の方からチョイチョイと手を招かれる。

 攻撃してこいという事みたいだ。



「このっ!シュバルツリッターの総隊長である私に、そのような態度を取って無事でいられると思うな!」


「アハハハハ!速い、速くなったよおぉぉ!!」


 二本の剣が交互に襲い掛かり、男はそれを弾いたり受け流すので手一杯に見えた。

 しかし余裕が無いと思われた男の口調が、突然変わる。



「速いけど、軽くなったね。これじゃダメなんだよおぉぉ!!」


 左手の剣が振り下ろされるのに合わせ、奴が剣をわざと当てに来た。



「何っ!」


 片手で持っているとはいえ、並みの力ではないはずのアデルモが、剣を吹き飛ばされてしまった。

 左手の痺れを感じたアデルモは一旦距離を取ろうとしたが、男はすぐさま距離を詰める。



「もうアンタは良いや。要らない」


「ぐわあぁぁ!!」


 両肩を見えない速さの突きで貫かれたアデルモは、その勢いで落馬。

 片足と両肩をやられ、戦闘不能の父を見たロゼは、咄嗟に彼の前へ出た。



「ロゼ!」


「ロゼさん、危ない!」


「女かぁ。泣き叫ぶ声がうるさいだけで、嫌いなんだよね。だからキミは即死コースで、取っておいてあげるね」


 アデルモやロゼには見えない速さで振られる剣。

 半兵衛はロゼの前に身体を投げ出し、背中を斬られる。



「うわぁ!」


「あっ!良いねぇ、良いよぉ。ウフフフフ!」


「半兵衛様!」


「き、キミは逃げるんだ。アデルモさんを連れて、逃げるんだ!」


「でも」


「キミ達は逃げても良いよ。彼が半兵衛でしょ?キミが残れば問題無いから。半兵衛、キミだけはダメ。キミは危険だから殺せと言われているからね。ま、言われなくても殺すけどおぉぉぉ!!」



 半兵衛の背中にはナナメに血が流れているが、致命傷ではない。

 時間稼ぎなら出来ると判断し、彼等を逃がそうとした。



「ロゼさん、早くして下さい」


「ロゼ、私の事は置いていきなさい。もはや足手まといにしかならん。半兵衛殿、私の義理の息子になる男と一緒に離れるのだ!」


「アデルモ様!」


「あ〜、もう話が長い。おっさんが生きてるからだな。悪い、俺がさっさとアンタの命をもらえば良かったんだ」


 大きく振り上げた腕が、アデルモに襲い掛かる。

 背中を斬られた半兵衛は勿論、ロゼも半兵衛に腕を掴まれ、アデルモの下へは行けない。



「アンタの命は、俺が大切に使ってあげるからね」


「させるかよぉ!」





 長谷部が速度を落とした途端、横から帝国兵が複数人現れて道を塞いでしまった。

 彼等のせいで、半兵衛達の様子が見えない。



「邪魔だぁ、この三下がぁ!」


「さ、三下!?変な髪をした男に言われたくないわ!」


 ミスリルで身を固めた帝国兵達は、長谷部へと襲い掛かった。

 持っている物が剣ではなく木刀。

 そう思っていたからこそ、彼等は反撃をされても余裕だと考えていた。



「痛ぁ!」


 頭を殴られた兵が大きな声を挙げる。



「お前、それ木刀じゃねーだろ!」


「木刀だ!」


「嘘つけ!木刀でミスリルの兜が凹むはずないだろ!」


「・・・木刀だ!」


 長谷部は本当に知らなかった。

 少し重くなったかなとは思っていたが、色は前と同じだし気のせいだと思っていた。


 だが、やはり本当は違った。

 見た目は木刀だが、言ってしまえばミスリルの棒だった。

 わざわざ昌幸が木刀の形にして、色も木刀そっくりに塗った偽木刀である。

 本人には教えてないが、バスティの護衛という大役を任されたのを機に、ラコーンが勝手にすり替えたのだった。



「邪魔だ!どりゃあぁぁ!!」


 目の前に居る連中をボコボコにする長谷部。

 動かなくなったのを確認した後、半兵衛達の方から悲鳴が聞こえた。



「あっ!?何で急に敵が?急がないと!」






「なあ、ここは何処なんだ?」


「お、おかしいですね。えーと、何処だろう?」


「また敵に見つかったぞ!」


 建物の間を通っていくと、行き着いた先は壁だった。

 既に一時間近くは歩いている。



「鈴木ぃ!地図見てないで手伝え!」


「田中、前!前!」


「オオゥ!」


 戦力的には弱いと言っても、そこは召喚者。

 並みの帝国兵よりは強い。

 ただし装備が揃っている敵には、彼等では致命傷は与えられなかった。



「鎧が灼ける。街を燃やす地獄の業火が燃え移り、灼熱となって自らを焼くのだ」


 ハクトの声を聞いた兵士達が、急に鎧を脱ぎ始めた。



「熱い!鎧が急に熱い!死ぬ!」


「脱げ!皆脱がないと死ぬぞー!」


 鎧を脱いだ帝国兵の多くは、皮膚が爛れていた。

 軽傷な部分でも、ハッキリと火傷をした痕が残っている。



「高野!」


「せい!」


 転げ回る男達に、僕が作った剣で首を斬り裂いていく。

 他の二人も同じくトドメを刺していた。



「鈴木ぃ、シェルターにはまだ着かないのかよ」


「うるさいな!地下通路で作業してばっかりで、こっちに出たの数回しかないんだよ!」


「だったら最初から案内出来ないとか言えよ!」


 田中の文句に鈴木はキレ始めた。

 しかし田中も売り言葉に買い言葉で、鈴木にキレ始める。



「バカモノ!お前達がそうやって騒いでると、ほら、来ちゃったのである」


 コバの言う通り、帝国兵がこっちを見つけたようだ。

 ガチャガチャ鎧の音を立てながら、こっちに走ってくる。



「お前等、後で罰ゲームな」


「魔王様!それはちょっと・・・」


「ハクトの魔力温存の為、お前達だけでどうにかしなさい」


「そんな!」


「俺は関係無いのにいぃぃぃ!!」


 高野の絶叫が更なる敵を呼ぶ事になるのだった。






「させるかよぉ!」


 長谷部の木刀が真横にフルスイングされる。

 フードの上からでも聞こえる。

 ゴキッ!という骨が折れた音。

 首が変な方向に曲がって倒れたのを見た長谷部は、すぐに半兵衛の安否を確認した。



「大丈夫っすか!」


「は、長谷部くん。陛下の護衛は?」


「陛下の命令で、半兵衛さんの護衛に来たっす!」


「そ、そうなんだ。痛っ!」


 背中の怪我が、今になって痛みが増した半兵衛。



「怪我してるじゃないっすか!」


「いや、私よりもアデルモ様を」


「おっさん、大怪我じゃないか。仕方ないから肩を貸してやるぜ。姐さんは半兵衛さんを」


「は、長谷部くん!」


 長谷部はアデルモの声に反応し、すぐに横へ飛んだ。



「ぐっ!」


 避けきれずに足を斬られたが、長谷部は立ち上がり木刀で次の剣を受け止めた。



「骨が折れたんじゃないのか!?」


「痛かったよぉ。久しぶりに死にました」


「死んだのに生きてるって、どういう意味だ」


「ん?次の魂があるからね」


「次の魂?」


 半兵衛に情報を与えよう。

 そして誰かが来るまでの時間稼ぎを。

 アデルモと長谷部の考えは一致していた。



「俺の頭でも分かるように説明してくれよ」


「んー、まあ良いか。俺ね、殺した相手の魂をストック出来るの」


「た、魂をストック?」


「そう。ま、魂だけじゃなくて武器も出来るんだけど、武器をストックすると、その分魂のストック分は減る」


「なるほど。長谷部くんの攻撃で一度死んだが、次の魂があるから生き返ったという事かな?」


「瀕死のおじさん、大正解!正解したおじさんには、後で殺してあげるね」


 殺してあげると言われて、喜ぶ馬鹿が何処に居る。

 そう言いたかったアデルモだが、時間稼ぎに徹する為に、更なる情報を引き出そうとした。



「その魂とやらは、人じゃないと駄目なのか?例えば魔物とか虫とか」


「いや、何でも同じだよ。俺は平等に扱うからね。人も動物も魔物も虫も。でも、一番殺して楽しいのは人だよね」


「お前、狂ってるな」


「そう?日本に居た時から変わらないよ。その髪型、キミも召喚者でしょ?こっちの世界で日本人殺すのは、初めてだなぁ」


 長谷部は自分が息を呑んだのが、すぐに分かった。

 こっちの世界で。

 そう言った彼の言葉を聞いて、コイツは元から殺人鬼だと分かったからだ。

 そして、半兵衛を殺すのに躊躇しないと分かり、長谷部は行動に出た。


「お前なんかに半兵衛さんをやらせるかよ!」


「アッハッハッハ!良いねぇ。良いよぉ!」


 木刀を剣で受け止める男。

 長谷部の猛攻を余裕で全て受け切っていた。



「ん?」


 しかしその剣に異常を感じた男は、木刀を避け始める。

 何度か再び受けると、彼はまた笑い始めた。



「面白い能力だねぇ。この剣、今は軽く百キロくらいになってるよ。でもこうしたらどうだろう」


 重くなった剣を長谷部に向かって投げると、次の剣を取り出した。



「やっぱりぃぃぃ!武器が重くなるだけで、俺には影響が無いんだね。ネタも分かった事だし、もうキミも死んでいいよ」


「ぐおぉぉぉ!!」


「長谷部さん!」


 急に速度を上げたのか、長谷部は全く反応出来なかった。

 両腕に両足を深く斬り刻まれ、立つ事すら出来ない。

 木刀で身体を支えて立っていたが、男に蹴られてアデルモの横へと吹き飛ばされてしまった。



「さて、動ける人も居なくなったし、そろそろ半兵衛って子を殺らないとね」


「ヒッ!あぁっ!」


 猛スピードで半兵衛の前に移動した男は、半兵衛の耳と尻尾を斬り落とす。



「頭の耳と尻尾を斬ると、ほとんど見分けが付かないね」


「半兵衛様!」


「うわあぁぁっ!!」


 足に剣を突き立てられ、そのまま抉られると、そのまま顔面を何度も蹴り上げられる半兵衛。



「アハハハハ!肉が良い感じに固くなってきたよおぉぉ!!緊張してるねぇ」


「ふぐうぅ・・・」


「やめろ!」


「やめろって言われてやめる人、居る?」


 足に何度も剣を突き立てる男。

 その度に半兵衛の叫び声が響き渡り、ロゼは聞くに耐えないと気を失った。



「アレ?もう足が引き千切れそうになっちゃった。というより、死にそうかな?」


「半兵衛さん!半兵衛さん!?」


「もうダメみたいだね。それじゃ、キミの命もムシケラと同様に、俺が大切にストックしてあげる。アーハッハッハ!」


 半兵衛の頭に剣が突き立てられそうになったその時、男の身体が一気に燃え上がった。



「え?」


「僕だ!頼むから誰か受け止めてって、無理かあぁぁぁ!!」


 人形が空から降ってくるのを見た長谷部とアデルモだが、二人とも動けずに落ちてくる地点を見ていただけだった。

 派手な音と煙が舞い上がる。

 煙が晴れたその先には、ボロボロになった魔王人形が立っていた。



「僕、参上!半兵衛、大丈夫か!?」


「あう、あ・・・」


「息はあるな。もうすぐハクトもやって来る。すぐに回復魔法を掛けてくれるから、ちょっと待ってろ」


 人形が燃えている男の方へと近付こうとすると、その腕を半兵衛は弱々しく取った。

 そして半兵衛の口から、あり得ない言葉を耳にする。





「わ、私を殺して下さい・・・」

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