真に狙われた男
コバは自分が狙われたと言った。
バスティが狙いであろうと予想したコバは、ゴリアテの防衛組と又左達が居るから安心だと思ったらしい。
しかしその考えは甘かった。
海藤次郎と名乗る男が、コバを攫おうとして来たという。
彼は召喚者の中でも最上位のSクラスに属し、高野達助手三人衆ですら名前を知っているくらいだった。
奴は敵が持っている武具を、奪う能力を持っているという話だ。
コバが逃げようとしたが、三人衆は全く歯が立たなかった。
そこに現れたのは、コバの護衛であるロックだった。
ロックは田中を助けカッコ良く登場したものの、相手がSクラスだと知ると、すぐに日和った。
某猫型ロボットを呼ぶが如く又左を呼ぶと、その槍が次郎を襲った。
と思われたのだが、又左の槍すらも奪われてしまう。
次郎を追い又左は立ち去り、ロックは僕達を助けようと城へ向かったとの事だった。
隠し通路を通り、僕達はアデルモの治める新しい街へと向かった。
この街はまだ何処にも知られていない。
安全だと思われたその矢先、ハクトが街で見たのは、帝国兵と黒騎士の戦闘だった。
「僕達も黒騎士を助けに行こう!」
「待て!相手はどれくらい居る?」
ハクトは確認の為にまたロープを上り、そっと頭を出す。
ロープをクルクル回転させて周りを見た後、再び降りてきた。
「おかしいね。安土よりこっちの方が、敵が多い気がする」
「バスティがこっちに居るのがバレたんだ。このまま外に出ても、コバ達は危険かもしれない。戦闘が一通り終わるまで、上がらない方が良い」
「待つのである!住民は居たかね?」
「あ!そういえば街の人達は見掛けなかったかも。何処かに隠れたのかな?」
「アデルモ殿の経験が、活きているのであるな」
「どういう事だ?」
コバ達は満足気な顔をしているが、僕とハクトは理解出来ない。
何やらこの街には、秘策があるようだ。
「フランジシュタットの街を襲われた時を覚えているか?あの街は火を放たれ、燃えたのである。しかし、この街とフランジシュタットの大きな違いは何だ?」
「え?場所以外だと規模とか?」
「かーっ!ダメダメであるな」
残念な目で僕を見るコバ。
何か悔しい。
本気出して考えてみよう。
頭脳は大人だという事を思い知らせてやる!
「・・・近くに安土がある」
ヤバイ。
それくらいしか思いつかなかった。
またダメ出し食らうのか。
「正解である」
「えっ!?」
「自分で答えておいて、何を驚いている。良いか?近くに友軍が居るという事は、籠城が出来るという事である。だからこの街には、援軍が来るまでの時間を稼げるように、避難シェルターがあるのである!」
「避難シェルター!?そんなのあるの?」
誰が提案したんだろ?
アデルモが言ったとも考えられるし、コバの思いつきにも思える。
それでも街の人がそのおかげで助かっているなら、この考えは成功したと言えるだろう。
「それなら、コバ達はシェルターに向かった方が良いな」
「トライクにこの迷彩式シートを被せれば、敵にはそう簡単に見つからないのである。行くとしよう」
「ハクト!」
「落ちろ!その鎧に罪の重さが覆い被されて!」
ハクトの音魔法に、帝国兵達だけが地面へと叩きつけられる。
それを見た黒騎士は、一斉にトドメを刺す。
「魔王様、助かりました!」
「避難シェルターには人が入っているのであるか?」
「三棟は人が入っていますが、未完成の一棟は人が入れません」
「流石に完成には、間に合わなかったのである」
「しかし生活スペースが狭くなるというだけで、この三棟でも全員収容可能です」
黒騎士の説明だと、無理矢理入れれば入る的な感じっぽい。
しかし、狭くて個人スペースが無いというのは、大きなストレスだろう。
いつまでも帝国兵が街に滞在するとも思えないが、焼き払われた街では居住出来る建物の方が少ないと思われる。
どちらにしろ、避難シェルターが仮住まいとなるのは明白だ。
「バスティは避難した?」
「皇帝陛下は護衛の方々と共にシェルターへ。慶次殿と佐藤殿は召喚者と対峙を。それと半兵衛殿が、一般市民達を各シェルターへ誘導しています」
慶次と佐藤さんなら、何とかなるだろう。
それよりも意外だったのは、半兵衛がこっちに来ている事だ。
てっきり城の方で、ラビと一緒に何かを仕組んでいるものだと思っていた。
「半兵衛の周りには誰が?」
「アデルモ様がロゼ様と一緒に。元々今日は、未完成のシェルターの件でアデルモ様と話し合いの予定が設けられていたので」
なるほど。
襲撃時には、こっちに来ていたってわけね。
「コバ達が入れるシェルターはある?」
「申し訳ありません。我々にはそこまで・・・。半兵衛殿が振り分けているので、彼に聞くのが早いでしょう」
「それならば、半兵衛の所へ向かうのである」
黒騎士達と別れた後、あまりこの街に詳しくない僕は、たまに来るという鈴木の先導で半兵衛の下へと向かう事になった。
「このタイミングで、ヨアヒムが仕掛けてくるとはね」
バスティ達はシェルターの中で、輪になって座っていた。
その輪には、ズンタッタとビビディ、そしてシーファクと長谷部が入っている。
「慶次殿の機転ですぐに隠し通路へ入れたのが幸いでしたが、まさかこの街がバレているとは」
「あのコバ殿のセキュリティシステムを掻い潜るなんて。向こうの斥候が、とても優秀という事でしょう」
バレているとは思わなかった。
ズンタッタとシーファクの言葉に、長谷部以外の連中が頷く。
「でもよ、商人のフリをすれば、安土には簡単に入れるだろ」
「長谷部、この街は未完成ゆえに、まだ誰にも知られていなかったのだぞ」
「左様。シーファクの言う通り、斥候が見つけたとしか思えん」
「分かった、分かったよ爺さんズ。俺の考えが甘かった」
「爺さんズと呼ぶな!」
長谷部の言葉に、バスティは笑いを堪えていた。
シーファクも薄ら涙を浮かべるくらい、我慢している。
「でも、半兵衛さんの判断も早かったよな。俺達が隠し通路から通り抜けてきた事を知って、即緊急避難速報を出したし」
「アデルモと半兵衛くんが近くに居たのも、運が良かったねぇ。おかげで安土の皆も、すぐに避難シェルターに誘導されたし」
「でも陛下、俺ちょっと思ったんだけど」
「コラッ!お前はもっと口の聞き方に気を付けろと、言っておろうが!」
長谷部はズンタッタの厳しいゲンコツを躱すと、バスティがズンタッタの行動を制した。
長谷部の言葉が気になるらしい。
「今回、帝国の王子が攻めてきた理由って、何なんだ?」
「何って、アンタそんな事も分からないの!?」
「シーファクの姐さんは分かるのか?」
あまりに残念な長谷部の頭に、シーファクはため息を吐いた。
「陛下を取り戻す為に決まってるでしょ。それを理由に安土を、そして魔王様を殺す。もしかしたら、陛下を弑する為かも!」
「そうかなぁ?」
「アンタねぇ、じゃあ何が狙いだって言うのよ!」
長谷部の惚けた声に、苛立ちが隠せないシーファク。
目の前にはバスティが居るのに、既に素が出てしまっていた。
「だってよぉ、陛下が狙いなら一番最初に狙われるのは、このシェルターだろ」
「そうよ。だからこうやって避難してるんじゃない」
「それならおかしくないか?」
「何がよ」
「だって安土で陛下が見つからない。それならこの街を探す。だから今、帝国兵はこっちに大勢押し寄せているんだよな?」
「アンタ、何が言いたいのよ!ハッキリしなさいよ!」
急かすシーファクに、長谷部はイラッとした。
しかし以前と違い、そこでキレる事は無い。
彼は落ち着いてから、続きを口にし始めた。
「だからよぉ、ここに陛下が居ると思われるのが普通だろ?だったら何故、シェルターへの攻撃がほとんど無いんだ?街中で見つからないなら、まずここを攻撃して陛下を探すのが筋だろうが」
「あ・・・」
シーファクはおろか、バスティすらも言葉を失った。
皇帝という身分から、まず狙われるならバスティがターゲットだと、思い込んでいたのだ。
その先入観が、彼等の判断を鈍らせていた。
「長谷部くん!キミは賢い!」
「えっ!?」
バスティから褒められた長谷部は、思わず裏返った声で返事をしてしまった。
バスティはそれだけ言うと、ブツブツと自分の考えを口に出していく。
「私が狙いだと思わせておいて、守備をある方向へ集めさせる。それによって緩慢になった所へ攻撃。狙うなら魔王。いや、それなら魔王も同じように、避難を進めさせて動きを封じる」
「陛下?」
「ちょっと待って。私と魔王が狙いではないなら・・・。安土での重要人物。長可殿は既にシェルターに避難済み。ならば・・・コバ殿!それと半兵衛くんか!?」
「コバ殿と半兵衛殿?」
「陛下、何か分かったんですか?」
「長谷部くんの言葉から推測するに、私がターゲットというのはフェイクだ。おそらくは長可殿とコバ殿、そして半兵衛くんの三人が狙いだと思われる」
バスティの考えに、ズンタッタ達はあり得ないと思っていた。
そしてあり得ないと思いつつ、自分達の考えが間違っていたと気付いてから、思考が停止している。
だが、一人だけそれに反応した者が居た。
「マズイじゃないっすか!半兵衛さん、外で誘導してますよ!狙われているなら、一番危険じゃないっすか!」
「長谷部くん!」
バスティが長谷部の両肩を強く叩く。
そして彼の目を見て、バスティは言った。
「一時、私の護衛の任を解く。そして新しい任務だ。今すぐに半兵衛くんの護衛に就け」
「っ!陛下の指示により、今から半兵衛さんの護衛に行ってきます!」
「木刀を忘れるな」
「はい!」
長谷部は出入口に走り出した。
シェルターの外へ出ると頼み込んで、彼はシェルターから外へ出て行く。
「陛下。何故コバ殿ではなく、半兵衛殿の方に向かわせたのですか?」
「んー、近いからというのもある。だが、それよりも彼のモチベーションが上がるのは、半兵衛くんの護衛だと思ってね。それにコバ殿も、他のシェルターに入っているかもしれない」
「私は発明品が大事で、逃げ遅れているのではと思いますがね」
「まさか!自分の命が危ないのかもしれないのに。そこまで彼も馬鹿じゃないだろう」
バスティはそう言ったが、ビビディの予想の方が正しかった。
彼はそこまで馬鹿なのだという事を、ここに居る者達は誰も知る由もなかった。
「半兵衛殿。安土には、あとどれくらいの人が残っていると思う?」
「隠し通路から来た人の数と照らし合わせると、残りは極少数です。アデルモ様、もう少し頑張ってもらえますか?」
「アデルモ様なんて呼び方はよしてくれ。もうそろそろ、お義父さんと呼んでも良いんだぞ?」
街の中が戦場になっているというのに、何故か能天気なオヤジが一人。
これがこの街を治めているなどと、帝国兵は思いもしないだろう。
「お父様、常在戦場という言葉をお忘れなく。この街は今、戦場なのですよ」
「分かっている。だが、正規兵とはこうまで弱いとな。魔物の方がはるかに手強い」
「皆さん、ここで耐えれば安土の防衛隊が盛り返してくれるはずです。どうかもう少し頑張って下さい」
「半兵衛さんが立っていたのは、確かこっちだ」
木刀を持って走る長谷部。
時折遭う帝国兵を殴り倒し、黒騎士からは感謝の言葉を貰っていた。
「居た!」
アデルモとロゼの三人で、談話しているのが見える。
緊迫した状況じゃない事から、長谷部は走る速度を緩めた。
その瞬間、馬上に居たアデルモが落馬した。
「第一目標、見いぃぃつけたぁぁぁ!!」