狙われた男
兄は城で花鳥風月の四人を見つけた。
彼等が居た理由は、ロックが城に向かったからついて来たらしい。
逃げるタイミングを失い、隠れていたとの事。
当のロックは、僕達に恩返しをする為に手伝いに来たという。
微妙にありがた迷惑かと思ったが、実際はラビだったのでロックでも来てくれるだけありがたいと思った。
しかも相手は召喚者。
武器を奪うという能力の持ち主らしい。
無手で戦えるロックは、敵からしたら嫌な相手かもしれない。
ハクトと合流した僕は、太田の下にやって来た。
やはり暴走している。
止める術が無い僕等が隠れて様子を伺っていると、反対の方からセンカクがやって来た。
どうやら太田は、このままだと自爆するという話だった。
帝国兵もセンカクの話を信じて、攻撃を中断。
そして太田が爆発するのを恐れ、逃げていくのだった。
暴走を止めると言ったセンカクを残し、僕達は隠し通路を探す事にした。
するとコバ達と偶然にも会う事が出来た。
彼は発明品を持ち出すのに、時間が掛かって逃げ遅れたと言う。
そして、何故セキュリティが作動せずにこんな事態になったのかを確認すると、驚くべき答えが返ってきた。
空からやって来た敵には、セキュリティは作動しないと言う話だった。
「飛行機って何?」
この中で唯一この世界の人間であるハクトは、飛行機の存在を知らなかった。
彼にもその危険性を教える為、コバは飛行機の話を始めた。
「ハクト、飛行機を見つけたら逃げるのである。上を取られるというのは、危険な事なのだ」
「ありがとう、コバさん。分かりました」
「ところでお前、何故こんな中途半端な発明品を全て持ってきたんだ?」
「おいおい魔王よ。そんな事も分からないのであるか?」
上から目線のコバに少しイラッとしたが、今はそれどころではない。
歩きながら話を聞く事にした。
「奴等、飛行機なんか作れる技術を手に入れたのである。おそらくは吾輩以外に召喚者の中から科学者が現れたという事であろう。そんな科学者が、吾輩の研究を持ち去ったら?」
「なるほど。敵からしたら制作途中でも、科学者が居れば完成させられるか。むしろ途中まで使ってあるからこそ、手間と時間も掛からずに手に入れられる。向こうからしたら、万々歳で喜ぶわな」
「その通りである。と言いたいのだが、実際はもっと緊迫した状況だったのである」
「どういう事?」
「吾輩、奴等に連れ去られかけたのである」
コバはこれまでの事を語り始めた。
最初に異変が起きたのは、街からである。
爆発音と悲鳴が入り混じり、安土の街は混乱していた。
しかし吾輩は、街の事は関係無いと思い、そのまま研究を続行した。
「ドクター!」
「街の事であろう?火事か何かではないのか?」
「帝国です!召喚者だと思われる連中が、空からやって来ました!」
吾輩はその時、初めて手を止めた。
窓から外を見ると、そこには飛行機が数機飛んでいるのが見えた。
「アレ、ドクターの作った物じゃないですよね?」
「・・・違うのである。マズイな。前田殿達の新しい武器はまだ完成していないというのに。っ!昌幸殿は何処だ!?」
「あの人なら、今日はあっちの街に出ています」
「なら良い」
「ドクター、いつもの口癖、であるが無いですね」
今はそれどころではない。
「敵の狙いはおそらく皇帝。難癖つけて、安土を破壊するつもりだろう」
「じゃあ、皇帝がここに居ないって言えば良いんじゃないですか?」
「高野、お前はアホなのか?敵が皇帝は居ませんと言って、誰が信用するのだ」
「じゃあどうしろって言うんです?」
「ゴリアテ殿が防衛隊を出すはずである。前田兄弟や太田殿、あとは佐藤達も動くであろう」
不意を突かれたが、こちらの戦力の方が上のはず。
問題無い。
と、吾輩は思っていたのが誤りだった。
「へえ、ここで武器とか作ってるんだ。色々置いてあるね」
「誰だ!」
後ろから不意に声を掛けてきた男。
小柄で細身の身体だが、思ったより筋肉はありそうな感じである。
そしてこの場所には鍵が掛けてある。
吾輩達四人以外では、外に居るオーガの衛兵一人しか持っていないはず。
「まさか、オーガが倒された?」
「え?あの人、ミスリル製の斧と鎧で重装備ですよ。音も立てずにやられるなんて、あり得ないですって」
「斧ってコレの事?」
奴が片手に取り出したのは、外の衛兵が持っていた物と同じだった。
それよりも分からないのは、何処から取り出したかという事だ。
「お前、何者だ?」
「俺?帝国の召喚者だよ。名前は海藤」
「お前達、知っているか?」
助手三人衆にコバが尋ねるが、三人とも首を振る。
オーガを簡単に倒せる奴が、無名なはずが無い。
「あれれ?俺ってそんなに有名じゃないのか。参ったな、名乗ったのが恥ずかしい」
「でも、海藤って聞いた事あるような?」
「知ってる?俺の事知ってるの?」
鈴木が思わせぶりな事を言うと、彼は前のめりになった。
「海藤・・・やっぱり思い出せない」
「何だよ!」
「下の名前は?」
「下の?次郎だけど。海藤次郎」
「次郎!もしかして、盗人次郎!?」
「知ってるのであるか?」
鈴木が下の名前を聞いた途端、三人とも顔が青褪めている。
それに反比例して、海藤と名乗る男は満面の笑みに変わった。
「何だ、魔族の方でも俺って有名じゃん」
「俺達は魔族じゃない。俺達も召喚者だ」
「ドクター!俺達の後ろに!」
ナイフを取り出した高野。
奴に突きつけるように前に出したが、その手には何も持っていなかった。
「俺の事知ってるのに、武器を出したらダメでしょ」
知らぬ間に奴の手には、高野が持っていたナイフが収まっている。
「奴は何者であるか?」
「・・・盗人次郎。俺達でも知ってるSクラスの召喚者です!」
「何だ、だから知ってたのか。つまんね。とりあえず、そこのコバとかいう人。俺と一緒に来てほしいんだけど」
奴がそう言うと、ナイフが後ろの試作品に刺さっていた。
投げた瞬間すら見えなかった。
「やっぱ、武器と防具以外は盗れないな。完成していないからか?ここのアイテム、全部貰っていこうと思ったのに」
「ドクター!俺達が時間を稼ぎます!急いで逃げて」
「お前等如きが時間を稼ぐ?」
田中が言い終える前に、奴に口を塞がれ、片手で田中は持ち上げられてしまった。
速くて見えない挙句、人を片手で持ち上げる腕力。
ただの盗人ではないようだ。
「手を離せ!」
「あ?」
ドアを蹴破り、五人の間に入ってきた男。
それはロックだった。
ロックは次郎が田中を持ち上げている腕に手刀を入れると、その勢いで円を描いた。
次郎の身体が回転すると同時に、田中はその腕から逃れる事が出来た。
「お前も召喚者か。まったく、裏切り者が多いなぁ」
「俺っち参上!」
何やらカッコ良いポーズを決めて、吾輩の前に入るロック。
今回ばかりは護衛として、認めてやっても良いかもしれない。
「ロックさん!助かりました」
「この人は何者かな?」
「海藤次郎、Sクラスですよ」
「Sクラス!?無理!俺っちじゃ無理!又左さーん!」
前言撤回である。
助けを求めるのが早過ぎる!
だが、逆にそれが功を奏したのかもしれない。
「やはりコバ殿の下にも賊が居たか!」
「ま、又左さーん!ヘッヘッヘ!コイツをやっちゃって下さいよ!」
吾輩を放置して、又左殿の後ろに隠れるか。
やっぱコイツ、クビにしよう。
「敵は死すべし!」
又左殿の神速の槍が海藤を貫く。
はずだった。
「ほうほう、これがクリスタル内蔵の槍ってヤツか。キミ、良いタイミングで来てくれたね」
「なっ!私の槍が!?」
「流石にこの槍の持ち主と戦うと、時間が掛かりそうだ。コバさんは諦めよう。じゃあね〜!」
「待て!槍を返せ!」
「あ、コレ?ありがとう。俺達が有意義に使ってあげるよ」
ドアの前にはロックが居たのだが、海藤は知らぬ間に部屋から出て行った。
それを目で追えたのは、又左殿だけだったらしい。
「悪いが私は奴を追う!キミ達はコバ殿を安全な場所へ」
又左はそれだけ言い残して、部屋から飛び出して行った。
「という感じで、又左殿が来なければ、吾輩は連れ去られていたであろう。しかし助けてもらった代わりに、奴に武器を奪われたのである」
「そんな奴が居るのか。武器を持つと奪われる。そしたら、武器として見なされない物はどうなんだろう?」
「それはどういう意味であるか?」
「例えば、兄の鉄球。アレは武器として数えるのか。もっと極端に言えば、木の棒とかね」
「うーむ、それは分からないのである」
武器を出しちゃいけないか。
佐藤さんとかロック、兄さんくらいしか相手に出来ないかもな。
と言っても、ロックは相手にならなそうだから除外だけど。
「そういえば、ロックは?」
「奴なら城に行ったのである。吾輩が狙われるなら、他にも魔王が狙われるのは必然。魔王はロックより強いのだから、行く必要は無いと言ったのだがな」
「城に?あっ!」
ラビだ!
そういえば影武者よろしくで、修行に出ていたんだった。
という事は、ロックが助けに行ったのは正解だったっぽいな。
「でも、城に残って何をしていたんだろ」
「何を言っている?街の住民達や外の商人達が残っていないか、城から見張って最後に出ると言っていたではないか?」
「あ、そう。そうだったね」
影武者をしろとは言ったが、自分の安全を無視してまでやれとは言ってない。
ラビの奴、Sクラスが居るっていうのに無茶をする!
「着いたのである」
コバが指し示す方向は、畑だった。
横には腰が掛けられそうな岩があるくらいで、ただの畑だ。
「畑だけど、ここに隠し通路が?」
「高野、岩を回すのである」
「はい」
高野が岩を回すと、畑が徐々に階段の形に変わっていく。
中を見ると、明かりが点灯していた。
「ここを通れば、アデルモ殿が治める街と繋がっている。奴等はここを知らないし、あの街の存在もまだ知らないはずである」
「という事は、安土の人は向こうに行ったって事?」
「その通り!犠牲者が居ないとは言えないが、安全に安土を抜け出すには最適な場所なのである」
やはりこういうのは、作っておいて正解だった。
「吾輩達は向こうに行くが、お前達はまだ安土に残るか?」
「向こうには誰が居るの?」
「皇帝は一番最初に向こうへやったはず。おそらく非戦闘員扱いで、長可殿達も行ったであろうな。あとは分からん」
「慶次や佐藤さん、イッシー達の居場所は分からないか。向こうにも敵が居たら、黒騎士だけじゃ危ない。こっちにはゴリアテが残っているはずだし、僕達も行こう」
完全に完成したわけじゃないのか。
前回の秀吉達が作った通路よりも、まだ荒い気がする。
地面も整地されているわけではなく、少しボコボコだ。
「作業中にこの通路を使うハメになるとは、思わなかったのである」
「やっぱりまだ完成してない?」
「何やら凝り始めて、街以外にも繋がるようにするつもりみたいです」
「鈴木はたまに、ここに手伝いに来てるよな」
やたらめったら掘った跡があるのは、別の場所に繋げる為だったのか。
確かに迷路みたいにして、知らない人が使用するのは難しくするのは良い手かもしれない。
「見えてきた。あのロープを上がると、井戸から出る事が出来ます。まだ大きな通路が、こちら側は出来ていないので」
「このトライクはどうするの?」
「ここに隠すしかないですね。元々帝国に盗られないように、持ってきただけですし」
盗まれなきゃ問題無い。
彼等はそう言ってここにトライクを停めた。
「それじゃ、最初は僕が上がるよ。何かあったら、トライクで逃げられるようにしておいてね」
ハクトが上がっていき外を見ると、ロープから手を離しすぐに降りてきた。
そしてハクトの口から衝撃的な事を聞く事になる。
「こっちも駄目だ!帝国兵と黒騎士が大勢戦ってる。このままだとこっちも陥落するのは時間の問題だ。狙われてるコバさんは、この場から出ない方が良いですよ」