安土炎上2
安土が燃えている。
煙を見た僕達はそれを確信した。
センカクはすぐさま出入り口を作り、僕達は元いた森の中へと戻った。
どうやら帝国に攻撃をされているようだ。
何故セキュリティで感知出来なかったのかは分からないが、今はそんな事を考えている暇は無い。
街に入ると、やはり帝国兵が大量に徘徊していた。
手を出してきた兵を始末して隠れていると、太田らしき人物が暴れているとの情報が手に入った。
そっちに行ってみるとしよう。
その頃蘭丸は、イッシーと合流していた。
イッシーの部隊は壊滅。
チトリとスロウスは殺され、イッシーは逃亡するしかなかったという。
しかしイッシーに長可さん達が無事だと聞かされた蘭丸は、イッシーと共にここで戦う事を決意する。
生き残った連中を助ける為に。
ハクトは激怒していた。
ラーメン屋街に行くと、そこには倒れた人の姿があったからだ。
一番弟子とも言えるその人の死体の近くには、調理道具が転がっていた。
血が滴る剣を持つ帝国兵を押さえつけ、ハクトは言う。
同じように斬ってあげると。
肩で息をするハクト。
初めて人を斬った感触を思い出し、剣を放り投げる。
「う、うわあぁぁぁ!!」
叫ぶハクトに帝国兵達は恐怖した。
目の前でただ斬られるだけの仲間を見て、自分達も同じ運命を辿るのだと思ったからだ。
「や、やめて殺さないで!」
「どの口が言ってるんだ!アンタ等はそのまま地面に張り付いて、餓死でもしてろ!」
店の中に入り、彼の遺品となる調理器具から、包丁だけを持ち出した。
「ヒイィィィ!!」
包丁を見た彼等は、刺されると思い泣きながら助命を懇願している。
だがハクトはそれを無視して、他の店の方へと走り出した。
「逃げ遅れた人は他には居ないか。僕も城へ向かおう」
「ハクト!?」
「マオくん!じゃなくて、コウくんか。小さな二輪車だね」
移動速度が遅い僕は、だったら乗り物をと考えた。
トライクでと最初は考えたのだが、自分しか乗らないならバイクで良いのでは?
久しぶりにスクーターを作ってみたのだ。
「どうだ?誰か見つけたか?」
「うん、誰も居なかったよ・・・」
「そうか」
声の感じからして、生きてはいなかった。
そういう事だろう。
あまり詮索する事じゃないし、この話はこれで終わりだ。
「今は何処へ向かってるんだ?」
「城へ行こうかと思ったんだけど。コウくんは?」
「太田が暴れているっぽい。だから、そっちに行ってみる」
「それなら僕もそっちに行くよ!」
正直な話、あまりハクトには来てほしくなかった。
太田が暴れている。
これはおそらく、暴走しているんじゃないかと僕は思っている。
あの状態を戻すには、兄が頭に衝撃を与えるのが一番なんだが。
その兄は今居ない。
僕でも止められるかは分からないのだ。
「城へ行った方が良くないか?」
「何か嫌な予感がするし、そっちに行くよ」
焼け残った建物の上に登ったハクトは、太田が暴れているであろう場所を特定した。
「向こうだ。ここからなら僕は走った方が早い。先に行くね」
ハクトが目的地を言い残して、先に行ってしまった。
壊れた建物を避けながらとなると、確かにハクトの方が到着が早そうだ。
急いで追いつかなくては。
「うぜぇ!お前等邪魔!」
魔王の一撃で建物が崩壊する。
追手を建物を壊して振り切ったケンは、城へと到着した。
「中もめちゃくちゃだ。誰か!誰か居ないか!?」
衛兵である獣人達の死体を見て、ケンは異変に気付いた。
武器を持っていない。
「誰か!生きてる奴は返事しろ!?」
「魔王様!?降りてきたのですか?」
壊れた棚の陰から出てきたのは、何故か花鳥風月の四人だった。
「降りてきた?どういう事だ?」
「え?上から指示を出しているのでは?」
「!?上には誰が居る!」
「魔王様以外には、凄く強い敵とプロデューサーが・・・」
「ロック!?何でアイツが!」
「恩を返すと言って、燃える城に来たんです。俺達は逃げるように言われたんですけど、逃げる前に敵がわんさか城に入ってきて・・・」
コイツ等は逃げ遅れた連中か。
ロックがこっちに来たせいだろう。
全く、何をしているんだ!
「俺は上に行く。お前達、自分等で逃げられるな?」
「武器があれば多分」
「倒れてる奴等の武器をかっぱらえ。ちなみに衛兵達が武器を持ってない理由は分かるか?」
「あっ!上の敵のせいです!アイツ、武器を奪うんですよ!」
武器を奪う?
組み合ってひったくるのか?
「アイツの能力なのか、気付くと持っていた武器が相手の手の中にあるんです。プロデューサーは、それを見て城に来たんです」
「武器を奪う能力か。なるほど。」
ロックは合気道が使える。
武器を持たない奴なら、相手が出来ると考えたっぽいな。
それに上に居る魔王。
間違いなくラビだろう。
俺達の影武者をしてくれとは言ったが、死ぬまで影武者をやれとは言ってない!
「ロックに助けられたか。いや、アイツ弱いから分からないな・・・」
「プロデューサーは頑張ってましたよ!護衛の仕事もあるから、戦力にならないといけないって。それでもコバさんからの扱いは、変わりませんでしたけど」
少しは強くなったのか?
うーん、あんまり信じられない。
「とにかく俺は上行くから。お前等も気を付けて逃げろよ」
太田が居ると思われる目的地は、凄い事になっていた。
帝国兵に何重にも囲まれて、単独で立っているのが分かる。
しかし驚いたのはそれではない。
帝国兵の死体の数だ。
首から捩じ切られていたり、腹に大きな穴が開いていたりしている。
かなり無惨な死に方だ。
「うわあぁぁ!!バーニング!バーニング!バーニング!」
「え?」
何でアイツが又左の槍を持っているんだ?
しかもそれを使って太田に攻撃をしている。
だが太田は、血塗れになりながらも、近くの敵から誰彼構わずに攻撃を仕掛けていた。
「ウガアァァァ!!」
「これはマズイな・・・」
「コウくん!こっち!」
声がした方を見ると、焼け残った建物の上に、隠れるようにハクトが身を伏せている。
僕はバイクから降りて、その建物に飛び乗った。
「完全に暴走してるね。幸い、味方は誰も周りには居ないけど、代わりに敵が太田さんの所に、集中してるみたいだ」
「どうにかして止めないといけないんだけど。方法が無い・・・」
太田が暴走した時は、二回とも兄が止めた。
頭にショックを与えれば良いという事なのだが、僕やハクトではその術が無い。
「音魔法で動きを止めて、それからショックを与えるのは?」
「駄目だ。僕達が太田に近付く前に、帝国兵に身動きが取れない太田を攻撃される」
最終手段は、このまま見過ごすという手もあるんだけど。
万が一にも太田がやられたら、僕達は後悔する事になる。
何か良い案がないものか。
「暴走しとるじゃと!?このままではいかん!」
聞き覚えのある声に下を見ると、センカクがやって来たようだ。
太田を見て何か焦っている。
「何だ、このジジイ?」
「お前達、攻撃を止めろ!」
「爺さん、お前も魔族だろ。後で殺してやるから待ってな」
「お前達が攻撃を続ければ、必然的に皆死ぬわ!」
攻撃を続けると皆が死ぬ?
太田が死ぬんじゃなくて、皆がと言ったな。
「爺さん、何を言ってるんだ。何故俺達が死ぬんだよ」
「見てみい。身体が赤黒くなってきておる。奴の身体が完全に赤くなった時、奴は死ぬ」
「やっぱり死ぬんじゃねーか」
「そして溜め込んだ攻撃を全て魔力に変換して、それを爆発させる。自爆じゃ」
自爆!?
暴走ってそんなヤバイの!?
「し、信じられねーよ!爺さん、敵だし」
「信じなければ、お前さん達も死ぬだけじゃ。攻撃を続けるつもりなら、ワシは空を飛んでここから離れる。勝手に死ぬが良い」
「ちょっ!逃すわけねーだろ」
センカクの肩を掴もうとした兵は、空振りしてつんのめる。
彼は鶴の姿になり、上空へと退避していた。
「身体がさっきより赤くなっておる。お前達の命運も、もうすぐ尽きよう。地獄でワシの助言を聞かなかった事を、反省するが良い」
空に上がった事により、センカクは僕達が建物上に隠れていると気が付いた。
しかし視線はこっちに送らず、敢えて兵達の方を向いている。
「待て!攻撃止め!」
指揮官らしき男の一言で、銃や弓での攻撃が一斉に止まった。
男は空を見上げ、センカクに声を掛けた。
「攻撃は中断した。この後、どうすれば良い?」
「逃げるしかないの」
「逃げる!?ジジイ、その間にコイツを助けるつもりだろ!」
「では問うが、その暴走した奴をどうやって抑えるのじゃ?攻撃をすれば自爆する。ここに居て、何をするつもりじゃ?傷付けないように奴を抑える手段があると言うなら、構わんが」
それを言われると、兵達に動揺が走る。
一方的に攻撃はされるが、攻撃は出来ないと分かり、近い者から振り回された腕によって吹き飛んでいく。
「退避!全員退避だ!」
指示を聞くと、一目散に門の方向へと走り出していく。
我先にと、味方を押し退けているのが分かる。
ものの数分で、太田を囲っていた帝国兵は全員居なくなった。
「もう出てきて良いぞ」
センカクの言葉を聞いて、僕達は下に降りた。
太田はこっちに向かってきている。
「止まりなさい!」
ハクトの言葉に、ピタリと地面と足が張り付いたように動かなくなる太田。
「ホホホ、やりおるの。しかし、まだ甘い」
「えっ!?」
太田が足を引きずりながら、少しずつ前進を始めたのだ。
まさか魔法を、力ずくで解除しようとするなんて。
「ど、どうする?」
「頭に強い衝撃って、僕達の攻撃程度で目が覚めるかな?」
しかもこの赤い身体を見る限り、失敗する事も出来ない。
もし頭を攻撃して弱かったら、次の攻撃。
逆に攻撃が強過ぎても、それは自爆するスイッチになってしまう。
ハッキリ言って、その加減が全く分からない。
「お主達では危険じゃ。ワシがやろう」
「師匠が!?」
「ここは任せて、他の場所に行きなさい。助けを求めている人がまだ居るかもしれんからの」
「本当に任せて良いんだよね?」
「ワシは仙人。お主達より、暴走を止める術を知っておる」
自信満々に答えるセンカクを見て、僕はこの場から離れる事にした。
「太田をお願いします!」
太田とセンカクを残し、更に先に進む。
その時、ある事に気付いた。
「あっ!隠し通路って開通したのかな?」
「隠し通路?フランジシュタットみたいな?そんなの作ってたんだ」
「頼んではいたんだけど、何処に作ったかまでは僕も知らないや」
作るなら、多分だけど新しい街の方に近い場所だろう。
壁沿いに行けば、見つかるかもしれない。
そう考えた僕達は、壁の方向へと向かった。
「うおっ!」
「アウッ!」
何か大きな物にぶつかって、バイクが転倒してしまった。
痛くはないのだが、ちょっと目が回った。
「バイク?敵か!?」
「違う。この人形は魔王である」
「その声、コバ?まだ逃げてなかったのか!」
「吾輩の発明品を奪われてはたまらんからな。全て持ち出してきたのである」
僕がぶつかったのは、どうやらコバの発明品の山らしい。
どうやらクリスタルを使ってトライクを走らせて、発明品を積み込んでいるみたいだな。
「もしかして、隠し通路に向かってるのか?」
「そうです。ドクターが全て積むって言うから、逃げ遅れちゃいました」
コバの助手三人衆も、結局巻き込まれて逃げ遅れたらしい。
あまり戦闘能力が無い三人だ。
本音はさっさと逃げたかったに違いない。
「ところでコバ、何故セキュリティが発動しなかったんだ?安土の周りにカメラとか設置してたんじゃなかったっけ?」
「奴等、吾輩の上を行ったのである」
「上?」
「セキュリティは森や岩に隠して設置したのである。だが、それは全て無と化した。それは何故か!奴等、空からやって来たのである。船の話は聞いていたが、まさか帝国が一足飛びで、飛行機を作っていたとは思わなかったのである」