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音魔法の可能性

 坐禅とは何ぞや?

 兄に聞いても分からない僕達は、センカクに尋ねた。

 が、同じような説明に結局は分からず、兄に再び助言を求めた。

 喧嘩になりそうになりながらも、どうにか理解出来た僕達は、センカクから明鏡止水に関しては合格を言い渡されたのだった。


 兄と蘭丸はほぼ順調に修行をこなしている中、ハクトは行き詰まっていた。

 何度呼んでも鳥は来ず、とにかく空に向かって叫んでいる痛い人という立ち位置だ。


 半年の時を経て、各々の修行の成果が出始めた。

 兄は魔力の体内循環により、一点集中した拳が大岩を粉砕出来るようになっていた。

 益々脳筋になっていくに違いない。


 蘭丸は木の棒に火魔法を固定。

 その木の棒で、草を燃やせるらしい。

 魔法の組み合わせで色々出来て、汎用性に富んだ攻撃が出来そうだ。


 勿論僕も、パワーアップしている事を実感する事は出来た。

 ドラゴンの姿になってから、火魔法で炎を吐く事が出来たのだ。

 今までなら変身してから魔法を使うと、威力が弱かったのに、まさにドラゴンの吐く炎並みの強さだった。

 アレを見てから、知恵の輪飽きたと言うのはやめました。


 そんな中、一人だけ躓いている男が居た。

 ハクトだ。

 彼は半年経っても成果は出ず、未だに空に向かって叫んでいる。

 そこに蘭丸が喉を痛めるような事はやめろと言うと、彼は何かを思い付いたようだ。

 叫ぶのをやめて歌い始めると、森の方角から鳥が飛んでくるのだった。





 鳥が飛んできたのをチラ見したハクトは、もっと呼ぶ為に更に気持ちを込めて歌い始める。

 目を閉じて、渾身の歌を。



「凄い!ハクト、凄いぞ!え・・・もう良い!やめておけ!」



 せっかく鳥が来るようになって、気持ち良く歌っていたのに。

 蘭丸の大声が台無しにしてくれた。

 これで目の前に鳥が居なくなっていたら、蘭丸に文句を言うところだ。

 そんな事を考えながら目を開けると、やめろと言っていた理由がようやく分かったのだった。



「な、何これ!」


 目の前には百羽どころではない。

 下手をすれば四桁はいるんじゃないか?

 見た事も無い鳥まで混ざっていて、圧巻の光景だった。



「なあ、鳥を呼べまでは俺も聞いていたけど、この後はどうするんだ?」


「さあ?僕もそれしか聞いてないし。解散してもらう?」


「歌で解散出来るのか?」


「やってみないと分からないけど。鳥さんサヨナラ〜、また来てよろしく〜」


「そのヘンテコな歌詞で、よく魔法が発動するな」


 僕が再び歌い始めると、鳥達は一斉に四散していく。

 アレだけ叫んでいたのに、今は歌うだけで聴かせられるようになった。

 しかし、一羽だけ飛んでいかない鳥が居た。



「見事じゃ!」


「師匠!?」


 飛んでいかない鳥。

 それは鶴だったのだが、まさか師匠のセンカクだとは思いもしなかった。



「まんまとやられたわ。ワシにもまだ、鶴の意識が残っておったらしい。お主の歌声を聴いて、勝手にここへ飛んできてしまったようじゃ」


「師匠、どうでしたか!?」


「うむ、とても良い歌声じゃった」


「いや、そっちじゃなくて」


「え?あぁ、音魔法もキッチリ発動しておった。合格じゃ」


 それを聞いた蘭丸は、ハクトの背中をドンと叩く。



「やったな!」


「痛いよ。でも、ありがとう!」


「次は動物を呼んでみて、何かを指示してみると良い。そうじゃな、鹿だけを呼べるようにしてみなさい」


「分かりました」


「では、頑張るが良い」


 鶴の姿になり、飛んでいくセンカク。

 蘭丸も自分の修行に戻ると言い、その場から立ち去った。



「・・・やったぁぁぁ!!」


 誰も居なくなったところで、ハクトは自分の喜びを爆発させた。

 誰にも聞かれないように、皆が居なくなってから。

 控えめな彼はそう考えていたのだが、結局は叫んだ事で全員がハクトの成功を知るのだった。





「やったな、ハクト」


「おめでとう」


 夜になり、いつものように四人が集まると、僕達の第一声はコレだった。

 蘭丸は何も言わなかったが、笑顔だった事から知っていたのだろう。



「ありがとう、二人とも」


「これで敵味方の判別も出来るってわけか。試しに何か掛けてくれよ」


「えっ!?人にはまだ使った事無いから、危ないんだけど」


「だったら尚更じゃない?僕達が実験台になるよ」


 三人しか居ないんだ。

 下手な攻撃魔法じゃなければ、問題無いはず。



「ハクト、自信を持て。アレだけの鳥を呼べたんだ。お前なら出来る!」


「蘭丸くん・・・。やってみる!とは言ったものの、何をすれば良いの?」


 蘭丸の檄にやる気を出したハクトだが、確かにそこまで考えていなかった。

 敵味方というか、誰に効果を与えるかで判断しないといけないし。


 むむむ!

 意外と難しい。



「ならば、魔王だけに魔法を掛けてみなさい」


「師匠」


 四人の後ろには、センカクが立っていた。

 僕達だけに魔法を掛ける。

 それで蘭丸やセンカクには効果が無ければ、確かに成功した事になる。



「ワシと蘭丸には発動しない音魔法を、何か唱えてみるのじゃ」


「だったら俺達にだけ、力を付与するような感じで良いんじゃないか?」


「そうだね。分かりやすいかも」


「分かりました。やってみます!」


 ハクトは立ち上がり、何かを考え始める。

 何故すぐに歌わないのか?

 蘭丸に小声で聞いてみた。



「歌詞が無いんだよ。だから今、考えてるんだと思う」


「なるほど」


「歌います!」


 どうやら歌詞が出来たらしい。

 ハクトは歌い始めた。



「魔王の力よ強くなれ〜、力こぶが見えるくらい大きくなれ〜」


 ・・・ダサいな。

 力こぶが見えるくらいって、どういう判断だ?

 と思ったのだが、実際に掛けられると実感した。



「す、凄い!俺の腕が!パンプアップしているわけじゃないのに!」


「うげっ!僕の腕が気持ち悪!」


 何もしていないのに、筋肉が盛り上がっている。

 自分の腕がピクピクしているのが分かる。



「これ、オーガとか太田が知ったら喜びそうだな」


「別に筋肉にこだわる魔法じゃないんだけど。おっと、それよりも蘭丸は?」


 僕と兄は効果があった。

 蘭丸とセンカクを見ると、この気持ち悪い腕をしていない。

 成功だ!



「やったな!」


「成功じゃな。見事と言っておこう」


 蘭丸とセンカクも喜んでいるが、センカクは少し安心した様子だった。



「どうしたんです?」


「いやな、もし失敗しておったら、ワシの腕もこうなっていたと考えるとな・・・」


 確かに老人の肉体でこれは、子供の身体より気持ち悪い。

 むしろ後で、筋肉痛とかになってるんじゃないの?と疑いたくなる光景になるだろう。



「これで、味方にだけを支援したり出来るな」


「うん、でも少し思った事があって。聞こえる範囲でしか発動しないとなると、戦場で使えるのかなって」


「どういう事だ?」


 ハクトは成功した事により、何か疑問が湧いたらしい。

 センカクもそれに関しては考えていたらしく、少し渋い顔をしている。



「簡単な事じゃ。この山は静かじゃ。離れたお主達にも、ハクトの声が聞こえるくらいにの。しかし戦場がここほど静寂に包まれている事はあり得ん」


「あ、なるほど。聞こえなければ発動しない。という事は、ハクトの声だと認識出来なければ、支援にもならないって事か」


「その通り。戦場から離れた本陣ならいざ知らず、戦場ではどれだけ効果があるか。疑問じゃのう」


 センカクの言葉に、ハクトの顔は暗くなっていく。

 せっかく成功したのに、確かにこれでは意味が無い。


 しかし、聞こえるだけなら問題無いのかな?



「ちょっと確認して良い?」


「何じゃ?」


「それは本人の口から発せられた音のみに、発動するの?」


「どういう意味じゃ?」


「例えば、ハクトが離れた場所から歌っていて、遠くに音を出すような装置があったら?」


「あっ!スピーカー!」


「すぴいかぁ?」


 僕の質問の意味を、三人はすぐに理解したようだ。

 しかし、ロックの頼みでコバが作った、ライブ用のスピーカー。

 こんな物を仙人どころかこの世界の人達が知るわけが無いのだ。

 だからまず、マイクとスピーカーの説明をセンカクにしてみた。



「それは流石にワシも分からん。やってみない事には何も言えんわい」


「当たり前か。誰も試した事無いんだから」


「しかし今の話を聞く限り、それが出来るのならばハクトは凄い戦力になるな」



 蘭丸が凄い戦力になると言ったが、僕もそう思う。

 攻撃魔法が苦手な分、直接的に攻撃は出来ないだろう。

 だけど、戦場で戦う味方全員に支援を。

 聞こえる範囲の敵には、弱体化も出来そうだ。



「大規模範囲の支援、そして弱体化か。勝敗を分ける戦略型魔法になるかもしれない」


「うえっ!?そこまで?」


「ハクトが想像しているより、はるかに凄い事になりそうだ」


 僕の想像だと、もはやハクト一人で兵器に近くなってしまった。

 昔の人も、スピーカーなんかあるって知ったら同じ事を考えただろうな。



「ただ、すぴいかぁという装置から発せられた声を聞いて発動すれば、という条件付きじゃな」


「お、驚かさないで下さいよ!僕はそこまで考えて覚えたんじゃないんだけどなぁ」


 思ったよりも大ごとになった事で、ハクトは冷や汗を掻き始めている。

 さっきまでは戦場で使えるか分からないと心配していたのに、今は違う意味で心配しているようだ。



「うーん、これはコバとロック、それと昌幸に協力を要請する案件かもな」


「昌幸に?何で?」


「スピーカーが壊されたらそれまででしょ。だからミスリルで作ってもらう。それと刻印も上手く使えば、ただのスピーカーと違って発動するかもだし」


「ロックは何故?」


「曲作らせた方が歌いやすいだろ。支援する方向性で曲を変えても良いし」



 それと本人には言えないが、あのダサい歌詞は駄目だ。

 あんなのを戦場に大音量で響かせたら、敵味方関係無く腰砕けになりそうな気がする。

 作詞作曲はロック。

 ついでだからその曲もライブで使用して良いとか言えば、アイツからしても万々歳だろうしね。

 その時は勿論、音魔法無しだけど。



「しかし流石は魔王よな。ワシでも思いつかない、面白い発想をしよる」


「そうかな?」


 まあ、歌いながら戦闘機乗ってる人とかが出るアニメとか知ってるし。

 戦場で歌う歌姫の話もあったな。

 似たようなもんでしょ。



「しかし、そうなるとスピーカーとマイクで出来るか試したくなるよな」


「蘭丸の言う通りだな。一度戻って、コバ達三人に話をしてみたい」


「でも、まだ修行も終わってないし。流石に中途半端でやめるのは嫌だなぁ」


「中途半端どころか、僕なんか今日初めて成功したんだよ!?これからって時に外に出たくないんだけど」



 兄さんと蘭丸は修行自体が順調だからか、外に出ても良いと考えていた。

 だけど、僕とハクトはまだ手応えが無い。

 修行をする時間を外に出て割きたくないという考えだった。



「ワシが行っても良いぞ」


「師匠が?」


「その三人に、お主達が言うすぴいかぁを作ってほしいと伝えれば良いのじゃろう?」



 センカクに任せるのもアリなのだが、どうにもすぴいかぁという話し方からして、伝わるのか不安で仕方ない。

 メモを渡して、コバとロックに伝えれば問題無いか?

 ついでに今のうちに、コバには音魔法用の歌詞と曲を作らせておいた方が良いかも。

 それに、まだ修行中の兄さん達を行かせるより、センカクに任せた方が良い。



「それでは、お使いに行かせるようで申し訳ないんですけど、お願いして良いですか?」


「うむ、任せておけ!ついでにラーメンを食べて戻るからの」


「結局、自分が出たいだけじゃないのか?」


 兄がそう言うと、センカクは視線を逸らした。

 図星らしい。



「今は夜じゃからの。明日にでも・・・うん?明るい?」


「どうしたんですか?」


 センカクが手を目の前でクルッと輪を作ると、外の様子を映し出した。



「この中と外では、時間の流れが違うとか?」


「そんな機能は無いわい。森から少し離して見てみるかの」


「えっ?」





「安土が・・・燃えてる?」

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