神様からの贈り物
500人中、八割もの被害を出した帝国兵であったが、最終的には投降する形で終わった。
「おーい!いい加減終わったなら出してくれー!」
そうだね。
こっちの壁の中には、キミ等が居るんだったね。
忘れてなどいないさ。
ただ、頭の引き出しの奥底に置いただけ。
鉄壁を解除し、中から蘭丸達が出てきた。
オーガもミノタウロスも皆倒れてはいたが、大半は意識が戻ったらしい。
中にはまだ眠ったままの人もいたけど、特に危険は無さそうとの事。
「ふざけるな!これだけの被害を出しておいて、今更投降だと!?」
何やら騒がしくなってきている。
帝国兵の内部で、投降に不満を持つ者達も居るようだ。
「お前等分かっているのか!魔族の言う事を鵜呑みにしているが、本当に命の保証をされると思っているのか!?俺達の仲間が、あんなに殺されたんだぞ!」
コイツは上級の馬鹿だな。
命の保証に関しては、本来攻めてきているお前等に選択権など無いのに。
それに仲間が殺されたとな?
じゃあ無抵抗に、こちらが殺されろというのか?
「俺はまだやるぞ!どうせ殺されるんだ!せめてやれるだけやってやる!俺が正しいと思う奴はついてこい!」
数名の帝国兵が足元に落としていた剣を握り、蘭丸達が回復させたオーガ達の元へ走っていく。
目が血走っていて、我を見失っているようだ。
「お前等、分かっているんだよな?」
「うるさい!この化け物が!」
怯む様子もなくこちらへ向かってくる。
馬鹿は死ななきゃ治らないって、こういう時に使うのだろう。
再び同じように壁で囲おうとしたが、僕の出番は無かった。
何故なら彼等は、急に現れたトラックに跳ねられたから・・・。
ブオオオオン!!
キキイィィ!!
ドン!
「あちゃ~、急に飛び出してくるから・・・。あ、でも生きてるっすね」
白い全身タイツのような男が運転席から降りてくる。
トラックを見ると日本で見たような馴染みのあるロゴが・・・。
決定的に違ったのは、飛脚ではなくて天使だった。
「あ、阿久野さんっていらっしゃいます?」
「ハイ、私です」
「あぁ!良かった!住所変更してるなら連絡くださいよ!神様から聞いてた町に行ったら、既に居ないって言われるし」
「あ、ハイ。すいません」
「こちらがお届け物になります。ハンコは・・・持ってないですよね~。なのでサインお願いします」
なんか随分ちゃらい運転手だな。
周りを見ると、敵味方関係無く固まってるし。
「えーと、文字はどっちで書けばいいですかね?草書?楷書?」
「分かればどっちでもいいですよ。サインもらったって分かればいいんで」
やっぱ軽いな~。
とりあえずサインをして運転手に渡した。
「ありあとやした~!あ~あ、やっぱ前面凹んでるわ。この鎧、ミスリルかよ。めんどくさいわ~」
ぶつかっておいて、随分と軽い言い草だな。
下手したら業務上過失致死になるんじゃないのか?
「とりま、こっちの倒れてる人達は・・・」
何やら青い液体を身体にかけると、全身が光り始める。
数秒で光は消え、鎧すらも綺麗な状態に戻っていた。
「これで全身回復したっしょ。トラックは・・・まあ帰ってから直すからいいか」
皆、全身タイツの動きに注視している。
こんなの僕だって見るわ!
「じゃ、またのご利用お待ちしてま~す!それじゃ!」
トラックに乗り込み、倒れているオーガやミノタウロスを轢かないように走り始める。
途中で飛行機の離陸のように空に舞い上がり、しばらくすると見えなくなった。
あのトラック、日本のヤツと同じような音してたけど、軽油で走ってるのかな・・・?
他の人は、何が起きたか全く分かっていない。
蘭丸もハクトも、ポカーンと口を開けたまま空を見上げている。
帝国兵も兜で顔は見えないが、動かない所をみると同じ様子だろう。
「あ、あの。ちょっといいですか?」
「何でしょう?」
隣に居たオーガ氏が何やら尋ねてきた。
分かるよ?聞きたい事は分かる。
僕も何だこれって感じだから。
「さっきのは一体何でしょう?あの全身が白い人?なのかな?あの方はどなたですか?」
「え~、何と言いますか。さっきのは神の使いです。私に神からの神器を届けに来ました」
神の使いというか、お使いだと思うけど。
間違ってないよね?
神器というか本当は多分スマホ。
「か、神は本当に存在したのか・・・!?そして貴方様は魔王・・・ではなく神の使徒!?」
オーガ氏の言葉が、静かなこの場に響き渡る。
「魔王で神の使徒!?」
「あんなのはまやかしだ!」
「いや、あんな見たことも無い空を飛ぶ魔獣に乗って現れたんだ。間違いなく神の使いだろう」
「どちらにしろ、あんなのに戦争を仕掛けたのが間違いだったんだ・・・」
敵も味方も騒然となり始める。
とりわけ太田さんは、倒れているのに大興奮。
これはマズイ。
「静粛に!まずはこの投降を拒否した不定な輩の処分からだ」
その声にようやく我に返ったオーガ氏が、部下に捕縛させた。
「さて、キミ達には武装を解いてこちらの指示に従ってもらう。無抵抗の相手を殺すような真似はしないと、魔王の名に誓っておこう」
彼等は指示に従い、武装を解き始めた。
剣や鉄砲は捨ててもらい、鎧と兜は外してもらった。
そんな中、オーガの連中から大きな声が上がった。
余程強そうな兵でも居たかな?
後はオーガの方に任せよう。
ようやくと悪夢が終わった。
あの暴れるミノタウロスの恐怖が終わり、地獄から解放されたと思っていた。
でも本当に怖かったのは、その後に現れた子供の方だった。
「それ以上近付いたら全員殺すよ」
子供の口から、思ってもみない言葉が出てきた。
当たり前だが、普通に考えれば子供の言う事なんかハッタリだと思うだろう。
アタイもそう思ってた。
でも違った。
アレは悪魔だ。
いきなり壁が出現したと思ったら、突撃した兵を四方から覆った。
閉じ込めて人質にでもするのかと思っていたら、そこからだ。
周囲に火の手が上がり、更に壁の上に蓋がされる。
あれでは中の人間は、じわじわと蒸し焼きになって死ぬだろう。
楽には殺さないという言葉は、間違っていなかった。
あんな事をしておいて、無邪気な笑顔で隊長に話し掛けている。
ミノタウロスも恐ろしかったが、この子はそれよりも数段怖い。
一瞬で100人以上を閉じ込め、見た事も無い残虐な殺し方をした。
私達もあんな殺され方をするのか・・・。
自分がじわじわと焼けていくのは、想像も出来ない。
一瞬で炎に焼かれれば恐怖を感じる間もないが、あれは恐怖を煽るやり方だ。
これが伝説の魔王なのか。
しかも自分で、悪の魔王だと名乗った。
この光景を目にした者は、誰も疑わないだろうさ。
そして隊長が投降を決めた。
周りからは安堵の声が聞こえる。
しかし馬鹿な連中が反旗を翻した。
その時の事は一生忘れない。
金属の皮膚を纏う大型の魔獣に乗って現れた、神の使徒の事を!
アタイは神なんか信じちゃいなかった。
神が居るのなら、何故父を!
そしてホブゴブリンを助けてくれなかったんだと!
しかし目の前に、神の使いとやらが実際に来ている。
この目で見てしまったのだから、信じるしかないだろう。
そして魔王と何やら話をしている。
もしかして魔王を倒しに来たのか!?
神もまだアタイ達を見捨ててなかったんだね!
そう思ったのも束の間だった。
神の使いは魔王に何かを書かせ、小さい箱を手渡している。
そして信じられない事に、あの神の使いが魔王に頭を下げたのだ!
神の使いは再び魔獣に乗り込み、空を駆けて去ってしまった。
私達はその後、自分達の過ちを知った。
あの恐ろしい魔王こそが、真の神の使徒だった!
魔王は神の使いに、神器を手渡されたと言っている。
もしこれが本当なら・・・。
いや、神の使いを見た今、真実なのだろう。
ならば帝国が、アタイ達が間違っていたんだ。
おとなしく武装を解いて、神の裁きを受けよう。
武装を解いたアタイを見て、オーガ達も勝利の大声を上げているよ。
アタイは、とある牢に連行された。
周りには他の兵は居ない。
100人に満たないものの、かなり大勢なのにアタイだけ別なのは女性だからか?
その牢は、鉄格子はあるが中はとても綺麗だった。
昔、父さんが狩ってきた獣と同じだと思う。
かなり大型の獣の皮が敷いてあり、ベッドも用意されている。
奥の扉を開けると、外から見えないようにトイレまであった。
牢屋の中というより、ちょっとした部屋のような感じなってしまう。
オーガから見ても、こんな大きな女は珍しいのかね。
食事を持ってきてくれたオーガが来た後、ちょくちょく他のオーガが現れるようになった。
鉄格子から少し離れた場所から、変わった仕草をしていき走って逃げていく。
アタイはオーガからも見世物扱いか。
アタイより大きい女なんか、見た事無いから当たり前かな。
まあ周りからこういう目で見られるのは、慣れっこだけどね。
「魔王様!この度は我がオーガの町を救っていただき、まことにありがとうございました」
オーガの町長が目の前で跪く。
僕等はそのまま町長の家に招かれた。
応接室であろう広い部屋に通され、歓待されている。
創造魔法云々よりも、あの配送トラックの影響が大きいだろう。
空飛ぶトラック便利だな!
「ミノタウロスを助けるついでだから、気にしなくていいですよ」
「我等にそのような言葉使いはおやめください。我が民は、そのような扱いをされていいものではないのですから」
どういう扱いだよ!
と思ったら、話を聞く限りでは納得いく気もした。
まずオーガの一族は、元々信長に仕える気は無かったらしい。
むしろ反抗したとの事。
ミノタウロスと同じように、力が強い者が正義という考えだったので、ヒト族のよく分からん初老の言う事なんざ知るか!という感じだった。
しかし搦め手や奇襲を受けたオーガは、信長に卑怯だ!と言ったところ、凄い言葉が返ってきたらしい。
『力が強い者が正義などではない!勝った者こそが正義なのだ!』
オーガはその言葉を受け、信長の軍門に降った。
そしてオーガを降した戦の作戦を指揮したのが、自分達よりはるかに弱い鼠の獣人だった事を知り、強さが正義でないと思い知ったのだという事だ。
という理由らしいので、魔王には絶対服従と決めていたらしい。
前魔王にも歴戦の戦士を連れて行かせたが、誰一人帰ってこなかったとの事。
脳筋魔王だったみたいだから、力が強いオーガはこき使われたんだと思う。
特にミノタウロスが、不甲斐なかったのもあるだろうけど・・・。
「話は分かりました、じゃなくて分かった。これからも協力してくれ。ちなみにちょっと聞きたいんだけど、オーガも信長から名前付けてもらったの?」
「我等オーガは誰一人もらっていません。恐れ多いと全員固辞したと聞いております」
あのネーミングセンスが、ここでも炸裂しているかと思ったのだが。
どうやら杞憂だったらしい。
トントンとノックの音がして、若いオーガが入ってきた。
「町長!我等の願い、伝えてもらえましたでしょうか?」
オーガの願い?
もしかして捕虜になった兵達を食わせろとかじゃないよね?
「捕虜を食うとかじゃないよね?」
「ヒトなんか食べませんよ!」
めっちゃ大きい声で言われた。
偏見でした。
ごめんなさい・・・。
「控えろ!魔王様に何という口の利き方。無礼だぞ!」
「あぁ、悪いのは僕が変な事を聞いたからだから。すまんね」
「い、いや謝れるような事では!なんというかそんないや・・・」
魔王が謝るというのはおかしいのかな?
若いオーガもそれを見て、しどろもどろになっている。
「ところでお願いって何なの?」
「あぁ!そうです。実は私だけではないのですが・・・」
ん?何でそこで声が小さくなる?
恥ずかしい事なのかな?
「どした?何か恥ずかしい願い事?だったら町長に席を外してもらおうか?」
「いやいや!そこまでではないのです!なんと言いますか・・・帝国の兵にとても気になっている方が居まして」
帝国の兵で気になる?
「隊長の事かな?あの太田を囲んで鉄砲で撃つ作戦は、敵ながら見事だと思ったしね!何か話がしたいんでしょ?」
「隊長?あぁ、あれには全く興味は無いです」
違うのか。
隊長以外で目立つ動きをした人物なんか居たかな?
「お前分かんねーのかよ。アレだろ?あのひときわ背の高い兵」
そう言って、蘭丸が横から口を出してきた。
そういえば、頭一つ抜きんでてる兵が連行されてたな。
「おぉ、覚えているさ!アレか?あの兵と模擬戦がしたいとかか?」
「お前、本気で言ってるのか?」
「オーガ並みに大きかったあの男と、1対1で戦いたいって事じゃないの?」
蘭丸は盛大にため息をついた。
ハクトも困ったような顔をしている。
何?僕間違った事言ったか?
「お前、間違ってるよ」
「何を?」
「男じゃなくて女」
「誰が?」
「その大きい兵士」
「・・・なにぃぃぃ!!!!」
マジか!
あの人、女の人だったのか!
え!?気付いてないの僕だけ!?
「ハクトも知ってたの!?」
「頭一つ抜きんでてたし、兜取った時に顔見えたから・・・」
何やら言い辛そうに答えた。
マジかぁ・・・。
気付いてなかったの僕だけかぁ。
【安心してください!俺も気付いてませんよ!】
ブ、ブラザー!
流石は身体を半分ずつ使い合う仲だよ!
普通はあんなに大きな人、男だって思うよね!?
「お前、そんな事にも気付かないようじゃモテないぞ?」
「余計なお世話だ!!」
おぉい!
何だコイツ!
喧嘩売ってきてるのか!?
イケメンだからって上から目線なのか!?
お前、どうせ気付いてたんだろ!
キャーキャー言われてるの、知ってたんだろ!
ハイハイ、どうせマメ呼ばわりでしたよ。
プラモで言ったら、アレ?このパーツ何処に使うの?的な扱いでしたよ。
しかも日本でも、彼女居ませんよ!
彼女出来た事もありませんよ!
【安心してください!俺もありませんよ!】
ブ、ブラザァァァァ!!!
「ちくしょおぉぉぉ!!!」
「お待ちください!魔王様!」
僕は走って外へ出た。
ふぅ、やけに夕日が目に染みるぜ。
泣いてなんかいない。
僕は泣いてなんかいない。
【俺は心で泣いてるけどな】
泣きそうになるから言わないで・・・。
ところで、お願いって何だったんだ?