安土の日々7
適当に返事していた、花鳥風月のお披露目ライブの件。
すっかり忘れていた。
ロックから念を押されて、ダンスの練習に来いと言われてしまったが、実はあまりやる気が無い。
だからといって今更断るわけにもいかずに考えていたところ、ラビが居ればなぁと夢想していると、何故か女性の姿をしたラビが現れた。
と言っても、ラビは元々女性らしいのだが・・・。
僕の代わりに踊ってもらいたいと頼むと、彼女は身体強化をしたダンスでなければという条件でOKをもらった。
翌日、ダンスの心配が無くなった僕は、アデルモ達の新しい街を造る為の話をしに行った。
彼の話では、一部の人間のみが移住しないと言う。
その一部に彼の娘、ロゼが入っていたのは気掛かりだったが、それは長可さんにぶん投げる事にした。
決して、面倒だと思ったりしてない。
それが良いと思ったんだよ?
それよりも先に新たな街を造ってくれる、ノームとオーガを訪ねた。
彼等を伴い、安土から数キロ離れた先にある森の中に街を造る事を提案。
皆の快諾を得て仕事に取り掛かるという前に、報酬の話を少しすると、オーガの棟梁から報酬の条件を提示された。
それはドワーフ製の工具品だった。
僕はある事を思い出し、もしかしたら前払いが出来るのではと話したのだった。
「前払いとは?」
「実はね、安土にドワーフの鍛治師を呼びました〜!」
「な、何ですと!?」
オーガの棟梁は大きな声で驚いている。
新しい店はまだ開店してないからか、全く知られてないみたいだね。
「ホントホント。しかも上野国の領主に次ぐと言われている、凄腕さんです!どう?報酬は彼の作る工具って事で」
「勿論でさぁ!しかも上野国の領主様って言ったら、名工で有名です。彼に次ぐなんて言われた日には、こんな嬉しい報酬無いですぜ!」
興奮が冷めないらしい彼は、今回の街造りに大きく貢献してくれる事を約束した。
それに対してノーム達には、ちょっと若狭の薬草だけじゃ可哀想な気がしてきた。
何か良い案があれば良いんだけど。
【酒は?ノーム達、酒好きだろ】
酒かぁ。
酒ってなると、王国産が良いな。
長浜とは輸出入してるはず。
電話でテンジに連絡してみよう。
その前に、本人達に確認だ。
「ノームは若狭の薬草類と王国産の酒、どっちが良い?」
「酒で!酒でお願いしますだ!」
「おおぅ!わ、分かった」
珍しくガバッと腕を掴まれてしまい、慌ててしまった。
ノームがこんなに自己主張してくる事は、あんまり無かったからな。
「アデルモ達には、彼等の報酬を払ってもらう。立て替えておくから、ちゃんと返してくれよ」
「ありがとうございます!」
報酬に満足してもらえた事で、この新しい街造りも始まる事だろう。
後の事はアデルモと相談してもらって、どんな街にするかは彼等に任せたいと思う。
安土に戻る途中で電話を掛け、テンジに酒の依頼をしておいた。
それを横で聞いていたノームは、顔が緩みまくっている。
そうなると次は、オーガの方の報酬を頼む番である。
「えーと、案内だとこの辺に昌幸の店があるはずなんだけど」
「アレじゃないですかい?」
オーガの棟梁が示す方向には、真新しい看板が付いた店があった。
「沼田、ここだね」
「魔王様!わざわざお越しいただき、ありがとうございます」
お礼を言う昌幸だが、あまり顔色は良くない。
店に並んでいる物も、数が思ったよりも少なく感じる。
「何か困った事があるっぽいね」
「やはり分かりますか。実は火起こしが上手くいかず、熱量が足りないのです」
「それは窯の問題?」
窯の問題となると、土が問題かもしれない。
そうなると、土を何処かに取りに行かないと駄目なんだけど。
「はい。窯が熱に耐えきれず、壊れてしまうのです」
やっぱり窯か。
これは時間が掛かる・・・とも言い切れないかな?
コバに頼めば解決しそうな気がする。
「ちょっと待っててくれ」
「なるほど。任せるのである」
話をすると、全ての仕事を投げ飛ばして窯作りに協力してくれた。
現地に行くと、何やら運んできた機材を組み立てるコバ。
「よくこんなのあったね」
「吾輩も耐熱に備えた機械を作っておるのでな。これはその試作品である。しかし窯として使うなら、これで充分であろう」
コバは設置を完了すると、試しに火を入れろと言ってきた。
「では」
昌幸が火を起こすが、熱が上がるまで時間が掛かる。
面倒なので、僕が魔法で一気に火力を上げてみた。
「あちっ!」
「馬鹿か!一気にこんな火力にしたら、駄目なのである!」
コバに叱られてしまったが、昌幸は火をジッと見ている。
どうやら問題は無いようだ。
「これなら良い物が作れそうです。魔王様、それにコバ殿、感謝します」
「良いのである。昌幸殿とは今後とも良い関係を築きたいとも思っていたし、今回の一件は丁度良いとも思ったのである。だから、もっと気軽に話し掛けてほしいのであるな」
「そうですか?では失礼して。本当に助かりましたわい。コバ殿、ワシ等の力が必要ならば、呼んでくれ」
「うむ。その時が来たら、是非ともお願いするのである。では、吾輩は自分の研究があるので失礼する」
コバは店の裏手を出て、城の方へと歩いていった。
昌幸とも仲良くなったようだし、これでコバの研究にミスリルが必要な時も捗る事だろう。
「これでミスリルを使った物を作れるよね?」
「はい。もしかしてここに来たのは、何かの依頼ですかな?」
昌幸が客が来たと、早々に商売人として顔を出し始める。
独立心が大きかったから商売人の顔もあるかと思っていたが、その通りだったらしい。
自分で作って自分で売る。
昌幸はこれがしたかったとの事だ。
「彼等が性能の良い工具を求めていてね。色々あってすぐに必要なんだ。あまり急いで粗悪品になっても困るから、完成したら順次もらい受けたい」
「すぐにですか?武具ではなく工具となると、まずはこの三点くらいしか在庫はありませんね」
「じゃあその三点はお買い上げという事で。残りは出来たら、ここに届けてほしい」
森の奥に作業場があると伝え、後はこちらも任せる事にした。
ノームとアデルモの二人と合流した僕達は、街の事は今後アデルモと相談するように伝えた。
「これで街の方は任せても良いよね?」
「はい!魔王様の方から、街に要望はありますか?」
街に要望?
そんなもの、特に無いと思う。
【いや!一つだけ作ってもらいたいモノがある!】
そんなのあった?
【必要かは分からんけど、俺としてはあっても面白いかなと思うんだけど】
兄の話を聞くと、特に必要性も感じなかった。
しかし兄の、女子供だけで移動するのには便利だという意見を聞いて、なんとなく押し切られる形で納得した。
「アデルモが必要と思うかは分からないんだけど、抜け道は作れる?」
「抜け道、ですか?」
「そう。僕達がフランジシュタットに入った時みたいな。それを安土と繋げるというのはどうかなって。女子供や老人でも行き来出来ると思うんだけど」
「なるほど。しかし・・・」
アデルモが話を聞いて思案に入った。
あまり良くない案だったかな?
やはり兄の遊び感覚の思いつきなんか、採用されないという事か。
「やめとく?」
「いえ、作るのは構わないんですけど。使い道がそれで良いのかなと思いまして。特定の人物以外には秘密にしておいて、緊急時の連絡通路として使った方が良いのではと考えてました」
フランジシュタットの経験があるから、そういう考えになるって事ね。
でも、安土に攻め入る奴なんか居ないし、普段使いの通路で問題無いだろう。
作る事に問題は無いみたいだから、今は通路の用途に関しては保留で良いだろう。
「とりあえず作るのは確定で、使い道は後で考えよう。それにまずは街造りが先決だしね。この通路は後回しで大丈夫」
「それもそうですね」
「それじゃ、街造りは任せた!後はよろしく」
いよいよライブ当日。
僕は魂の欠片を使って変身。
エルフの町娘Aとして、会場に入っている。
【なんかバレないかとドキドキするな。ラビの事は信じてるけど、大丈夫かな?】
ダンスレッスンはそんなに難しい事を要求されなかったみたいだし、問題無いと思うよ。
多分だけど、ロックがそれなりにレベルに合わせたダンスにしてくれたんだと、僕は思っているけど。
【なるほど。花鳥風月と蘭丸、ハクト達には要求レベルが高くて、俺達、というかラビにはそこまで求めてないという事だな。そうやって聞くと、ロックもプロデューサーやってるなって実感湧くなぁ】
あくまでも予想だけどね。
お、出てきた。
「はい、皆さんこんにちは。俺っち、じゃなかった。ワタクシ上野国で芸能事務所を作ったロックと申します。以後、お見知り置きを」
ロックの演説がちょっと長い。
子供が飽きて走り回り始めたぞ。
仕方ない。
少し手伝ってやろう。
「おっさん、話が長い!早く蘭丸くん達を見せなさい!」
町娘Aである僕がヤジを飛ばすと、それを皮切りに若い女性陣が一気に不満が爆発した。
ロックはそれを見て、すぐに話を切り上げた。
サングラスをしているけど、多分顔色は悪いんだろうな。
「では、登場していただきましょう。マオーズwith花鳥風月」
マオーズ?
僕等、グループになってるのか?
というか、何故に僕等が前面に出てるんだろ。
曲紹介が始まったけど、おかしい。
何故僕がセンターに居る!?
「では一曲目、お聞き下さい。燃えろ炎のストレート」
「ダサっ!」
思わず声に出してしまった。
流石に周りの女子達に、睨まれてしまった。
しかし、なんつー曲名だ。
これは駄作では・・・って、曲はカッコ良いな。
【お、おい!それどころじゃないぞ!】
な、何ィィィ!!
歌ってるの、僕じゃないか!
しかも上手いし、後ろの花鳥風月のハモリも綺麗だ。
【何これ、めっちゃ良い】
周囲を見渡すと、皆ノリノリである。
しかも、僕に対しての黄色い声が聞こえる。
今までは、邪魔とか退きなさいとか言われてたのに。
こんな形で自分がキャーキャー言われる声を聞くとは、全く予想だにしていなかった。
「ありがとう!皆、ありがとう!」
どうやら僕の歌は、一曲目で終わりらしい。
僕だけ居なくなって、次はハクトがメインで歌うとの事だ。
そして蘭丸は、ギターを持っている。
後ろの花鳥風月は、バックバンドと化していた。
ハクトの歌は、普通に?
いや、かなり上手かった。
日本でもメジャーデビュー出来るんじゃない?というくらいの歌だ。
蘭丸も何故か上半身裸で、失神者が出るほど人気があった。
ようやく最後に、花鳥風月の四人だけの曲が始まった。
彼等がトリという事で、観客が途中で帰らないか心配だったが、そんな人も居ないようだ。
なんだかんだで花鳥風月も、アイドルグループとして認められたらしい。
約一時間のライブ後、花鳥風月だけが握手会を開いて、このイベントは終わりを迎えた。
町娘Aをやめて元の姿に戻った後、僕はさりげなく控え室に座っている。
そんな中、イベント大成功でハイテンションなおっさんが入ってきた。
「お疲れお疲れお疲れサマー!皆、サイコーのライブだったよぉ!」
「社長、お疲れさまです!」
蘭丸とハクトが立ち上がり、ロックに挨拶をしている。
というか、社長?
え?
僕も立ち上がらないと駄目なの?
「お疲れ、ロック」
「ノンノンノン!アイアム社長。ユーアーアイドル。どぅーゆーあんだすたん?」
うぜぇ。
ぶん殴りてぇ。
「へばっ!」
何故か右手が勝手にビンタをしていた。
【すまん。気付いたら叩いていた】
いや、グッジョブとしか言いようがない。
「社長に手を上げるなんて、ダメな子!」
「うるせー!もう茶番は終わりだ!」
「茶番って。キミ達マオーズも、これからデビューしてもらうんだからね?」
「しねーよ!」
「マオっち、約束は守らないと駄目だよ?」
約束?
どういう事?
するとスタッフに変装していたラビが、後ろから小声で話し掛けてきた。
「申し訳ありません。断りきれずに、三人でデビューすると約束してしまいました」