安土の日々6
半兵衛達もチャレンジメニューに挑戦中だった。
ラコーンは激辛でたらこ唇になり、長谷部は大食いに挑戦中。
そして半兵衛は一人で三部門制覇という、前代未聞の偉業?を成し遂げた。
バスティの提案により、キング半兵衛が誕生。
しかしそのキングも、更に大食いメニューを追加した事により、賞賛からドン引きへと変わるのだった。
食事を終えて外に出た僕達は、ようやく長谷部をバスティに紹介する事が出来た。
本人にも能力が分からないというデメリットがありながらも、彼は長谷部を護衛へと指名。
周りを驚かせていた。
長谷部を受け入れた理由、それは他の者達のレベルアップが目的だったようだ。
長谷部はラコーン達が束になっても敵わない。
だから彼にラコーン達を鍛えさせるというのが、目的の一つだった。
あまり認められた事が無い長谷部は、どうやらそれがとても嬉しかったらしい。
下を向きながらも、顔が緩んでいたのを見てしまった。
こうして接してみると、そこまで悪い奴じゃない。
頑張ってほしいものだ。
そして護衛役の仕事?として、いきなり前方から来る変なおっさんを捕捉。
変なおっさんことロックの用件は、僕に花鳥風月デビューライブのダンスレッスンの参加要請だった。
てっきり忘れていた。
既に頭の中から消えていた話だ。
「えーと、それいつやるの?」
「三日後」
「三日!?早くない?」
「でも、そんなに曲数は無いから。花鳥風月のお披露目ってだけで、三人にはそんな負担にならないようにしてるつもりだけど」
そう言われてしまうと、あまり断れない。
だけど、どうしたってダンスとか踊りは苦手なんだよなぁ。
「とりあえず長可さんの部下からは許可もらって、やる事は確定してるから。急いで城の大広間に来てね」
「えっ!?お前、城で稽古するの?」
「だって、街中でやったら知らない人に見られるじゃない。お披露目なのにそれは意味無いでしょ」
言ってる事は理屈通ってる気もするんだけど。
ただ知らない間に、城の使用許可が下りてるのか分からない。
そういえばあの城、誰が管理してるんだろ?
普段僕達居ないし、よく考えてみるとどうなってるのか分からない。
下手にそういう話をすると、じゃあ自分達で管理してと言われても困るし。
今のままがベストなんだろう。
それよりも、今はこのおっさんの話が問題だな。
「分かった。用事が済み次第、行くから」
「ちゃんと来てよ?サボらないでよ?見てないと、すぐにサボろうとするんだから」
彼はそんな事を捨て台詞に、城の方へと帰っていった。
何故魔王なのに、こんな小言を言われないといかんのだ。
イラッとしたけど、言ってる事は間違ってないので反論はしない。
多分、誰も見てなければ真面目にやらないと思う。
どうせ下手なのは分かっているのだから。
「魔王って、ダンスもするのな。帝国で聞いてた話と全然違うわ」
今の話を聞いていた長谷部は、大きく勘違いをしていた。
頼まれてしまった手前、断れなかっただけなのだ。
「三日後にライブやるから、お前もバスティと一緒に観に行く事になると思うよ?」
「へぇ、そういうのはあんまり分からねーけど、楽しみにしてるわ」
楽しみにされたところで、やる事は日本のアイドルグループと変わらんと思うけどね。
それで長谷部がハマるようなら、元々そういう気質があったというだけだろう。
「というわけで、僕は向こうに行かなくてはならない。長谷部、細かい話はバスティやズンタッタ達とちゃんとするんだぞ」
「お、おぅ!頑張るわ!」
あの様子なら緊張はしても、やる気は見られる。
最初はギクシャクするだろうけど、大丈夫だろう。
踊りたくないでござる。
慶次じゃないけど、まさに僕の気持ちだ。
兄も同じ気持ちだが、最終的には運動神経が良い兄に託すしかないと思っている。
【誰か代わりに踊ってくれれば、良いんだけどなぁ】
代わりなんか居ないよ。
居たとしても、僕達じゃない限り、ロックだって納得しないでしょ。
【一人だけ居るっちゃ居るんだけど、何処に居るか分からないからな。どっちにしろ無理だろう】
そんな人居る?
【居るだろ。俺達の姿でめっちゃオーラがある奴が】
居たあぁぁぁ!!!
確かに!
だけど、何処に居るのか分からないってのが問題だね。
【だろ?彼、じゃなくて彼女なんだっけ?ラビが居れば話が早いんだよな】
「ラビかぁ。すぐ近くに居れば、頼むんだけどなぁ」
「お呼びですか?」
「え?」
振り返ると、女の人が立っていた。
普通の格好をして買い物しに行くような、ごく普通の女性だ。
「えーと、ラビ?」
「はい」
「その格好が素の格好?というより、自分の顔?」
「違いますよ」
違うのかよ!
本当の姿のラビを見たと思って、ドキドキしたのに。
「それで、私に何か用事があるのでは?」
「そう!お願いがあるんだけど」
ラビに花鳥風月のライブの話をすると、彼女は少し考えた後、承諾してくれた。
「先にお話しておきますが、身体強化を使った激しい動き等は、特に無いですよね?」
「うーん、どうだろう?ロック自身が出来ない動きは見本が見せられないし、多分無いとは思うけど」
「もしそういった動きがあるなら、本物ではないとバレるおそれがありますので。それだけは覚えておいて下さい」
「了解した。頼んでいるのはこっちだからね。よろしくお願いします」
軽く頭を下げてお願いすると、ラビは少し慌てていた。
他人が見れば、子供が女の人に頭を下げているだけにしか見えないから、問題無いと思う。
「では、私が城に向かいます。夜になったら交代しますので、魔王様はその頃には自室で待機していて下さい」
ラビはそう言い残して、城へと向かっていった。
夜になり城の自室で待っていると、ラビは普通に入ってきた。
いきなり扉を開けられたからビックリしたけど、考えてみれば僕の姿をしている。
自分の部屋に入るのに、ノックをするのはおかしい。
彼女の行動は間違っていないのだから、怒るのはおかしな話だ。
「今日の稽古は終わりました」
「そう。どうだった?」
「誰にもバレていないので、問題無いと思われます」
「それは助かる!本番までの残り二日、僕の代わりにダンスの方はよろしくね」
「かしこまりました」
僕の部屋で城で働く小人族の姿になったラビは、そのまま部屋を出ていった。
翌日になり、まずはアデルモ達を訪ねる事にした。
彼等も一刻も早く、新しい生活に慣れるべきだと思ったからだ。
「お待ちしておりました。昨日、全員に確認を取りましたよ」
少し疲れた顔をしているが、やる気はあるみたいで元気はある。
「結果は?」
「ほぼ全員が、新たな街に移住を希望しております」
ほぼ全員か。
残る人は何がしたいんだろう?
「ちなみに何人くらいが、移住しない予定なの?」
「移住しないと言っているのは、数人の黒騎士と商人。それと・・・私の娘です」
「は?」
「半兵衛殿と離れたくないから、ロゼは残りたいと言っていまして・・・」
ぐぬぬ!
モテ男は死すべし!
と言いたいところだが、半兵衛なら許しても良い気がする。
それにロゼは強い。
尻に敷かれるのが目に見えているので、それはそれで面白いからアリだろう。
許す!
「黒騎士と商人というのは?」
「彼等は行商人を希望してました。どちらに住むでもなく、様々な土地に行くので家は必要無いとの事です。色々な物を買って戻り、新たな街に届ける。それがやりたい事だと言っていました」
「やりたい事があるなら問題無いね。家が無いなら、馬車くらいはこっちで用意してあげるよ」
「それは喜ぶと思います!と、彼等の方は問題無いとして・・・」
ロゼか。
別に安土に残るのは問題無い。
だけど、安土で何をするのだろうか?
それに家は?
流石に嫁入り前の若い女が、半兵衛の家に入り浸りっていうのもあんまり聞こえが良くない。
彼女が良くても、半兵衛が風評被害を受けるからだ。
「・・・長可さんに任せよう!」
「よろしいのでしょうか?」
「大丈夫!花嫁修行中の女の子が一人から二人になったって、そんな変わらんでしょ!」
多分・・・。
セリカにシーファク、それにロゼ。
女三人寄れば姦しいとは聞くけど、長可さんがそれも抑えてくれると思うし。
「とりあえずさ、新しい街は安土から数キロ離れただけの下町みたいな感じで良いよね?」
「それはもう。しかし、そんな簡単に出来ますか?」
「細かい事は後でやるとして、仮家ならすぐに作れるよ。仮家からちゃんとした家を建てるのは、その後でも良いし。まずはノーム達と大工職人に声を掛けに行こう」
「こんちわ!」
「魔王様でねぇですか!帰ってきたばかりなのに、忙しいこって」
ノームの代表に話を通すと、彼等は快く承諾してくれた。
ついでにオーガの大工職人にも話をしに行くと言ったら、ノームも一緒に行くという事になった。
三人で歩いていると、たまたま見知った顔を見掛けた。
秀吉である。
彼は安土へは旅人として来ているので、僕達とは別行動を取っていた。
「魔王様、秀吉様は手伝ってもらえねぇですか?」
「うーん、今回はやめてほしいかな。せっかく旅をして安土を楽しんでいるのに、仕事を押し付けるような事をしたくないし」
「そうですか。惜しいなぁ・・・」
確かに一人で、何人分もの仕事をしてくれるだろう。
でも、それに甘え過ぎるのも甘いしね。
そんな秀吉だったが、ある店の前で立ち止まった。
それを見た僕は知らぬ間に汗を掻いていたが、敢えて何も言わない。
「魔王様、どうかしましたか?」
「いや、何でもない。ただ、秀吉が何にチャレンジするのかなって思ってね?」
「チャレンジ?」
秀吉はその店に入っていったが、僕の中では三部門とも秀吉がクリア出来るというビジョンが浮かばなかった。
後で感想聞いてみよ。
大工職人にも快諾を得た僕達は、次に新たな街を造る事になる土地へと出掛けた。
トライクで行くのもアリだったけど、ノームもオーガも運転出来るわけじゃないしアデルモも居るので、四人で馬車で移動する事にした。
「ここが広いから丁度良いんじゃない?」
「そうですね。森を抜けるとすぐですし、丁度良さそうです」
アデルモのOKも出た。
本当はもう少し探せば良さげな場所もあったが、なんとなく僕がここを気に入ってしまった。
森のおかげで安土から距離は近いが、向こうからはここが見えない。
森の隠れ里みたいな街になりそうで、僕の厨二心をくすぐってしまったのだ。
「森の木を倒せば、拡張も出来て資材にも使える。魔王様の言う通り、この場所そんなに悪くないですぜ」
オーガの棟梁も賛成のようだ。
それならと、街の外れに大きなプレハブ小屋を作る。
「安土から近いけど、一応はここも使ってよ。ノームとオーガが作った家が出来次第、順次移住していって。黒騎士も居るから、こっちから護衛出す必要も無いしね」
「ありがとうございます!」
「ノームとオーガの報酬は、後で相談という事で。若狭からの薬や薬草辺りが良いかな?」
「それなら一つお願いが」
オーガの棟梁は別の報酬が欲しいらしい。
時間が掛かる物や高価な物だと面倒だな。
心の中で面倒じゃない物をよろしく!と願いながら、聞いてみた。
「何が欲しいの?」
「実は、新しい工具が欲しいと思っているのですが、出来れば良品質な物が欲しくてですね」
「工具?じゃあ、上野国のドワーフ製が欲しいと?」
「その通りです」
ドワーフ製か。
という事は輸入するしかって、ちょっと待てよ。
丁度良いのが居るじゃないか!
「分かった!ドワーフ製の工具品、前払いで渡せるかもしれないぞ」