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悪の魔王

「暴走だって!?」


「昔はオーガとミノタウロスも対立していたんだ。俺は直接戦った事は無いが、俺の爺さんがミノタウロスとやり合って片腕を持っていかれている。その時のミノタウロスが暴走していたらしい」


 おいおい、オーガは強いって聞いてたのに、ミノタウロスってもっと凄かったのか。

 太田のせいで評価が全く合ってない。


「昔は色々あったが、今ではミノタウロスの町の連中とは定期的に模擬戦をやる仲なんだ」


「ミノタウロスの町!?あの集落以外にミノタウロスの町があるんですか!?」


「あぁ、あの集落の連中は、ミノタウロスの中でも変わり者だけが集まっているからね。300年以上も勉強ばかりしている、変な連中さ」


 何だよ!アイツやっぱり、変な人扱いなんじゃないか!

 全国のミノタウロスの皆さん、間違ったイメージを持ってごめんなさい。

 しかし太田ですらこの状態なんだから、普通のミノタウロスはもっとヤバいんじゃないか!?

 少し離れたからこっちに来なくなったけど、完全に我を失ってるもんなぁ。


「ミノタウロスって、皆あんな感じなんですか?」


「町の連中と模擬戦やっても、暴走する人は見た事無いね。おそらくだけど、限られた人しか出来ないんじゃないかな?」


 限られた人って、太田って選ばれし戦士的な奴なの!?

 絶対違うでしょうよ!


「しかし、アレどうやって止めるんですか?いつか俺達も巻き添え食らいますよね?」


「そうなんだよ。この壁を見て倒れた連中は安心かと思ってたんだが、彼が暴走したのが分かって戻ってきたんだ。爺さんの言ってた方法で、正気に戻るとは思うんだけど・・・」


「正気に戻す方法なんか分かるんですか!?あの状態が長く続くのも良くないと思うし、早くやりましょう!」


 既に戦いではなくなっているこの状況を止めるには、彼の知っている方法しかないのだろう。

 正直、太田はよくやった。

 俺としては、もう休ませてやりたい。


「と言われても、俺に出来るとは思えないんだよ・・・。ミノタウロスの暴走が、あそこまで凶悪な強さだとは思ってなかったし。爺さんの話は盛っているものだとばかり思っていたぐらいだけど、こんなの命懸けじゃないと無理だろう」


「分かった。俺がやる。だから方法を教えてください」


 その言葉に驚き、こんな子供に出来るわけが無いと言わんばかりに視線をこちらに向けてきた。

 だけど彼は知らないから。

 俺が魔王で、太田のトレーニングは俺がやったって事をね。


「俺は魔王だ。そして太田の鍛練をしたキャプテンとして、俺が太田に引導を渡してやる!」


(引導は渡しちゃ駄目だ!太田殺しちゃだめだから!)


 ・・・難しい言葉を使ってみようとしたけど、どうやら間違った使い方だったようだ。

 すまん太田。キミの勇姿は忘れない。


(それも死んでいく人へ向ける言葉っぽいよね。もう普通に、太田を止めるで良いと思う)


 それな!太田を止めて楽にしてあげよう。


(もう何も言わない・・・)


「それで止める方法は?」


「やる事は簡単なんだ。頭に強い衝撃を与える事。それもかなりの衝撃を。でもアレの頭に衝撃って、接近しないと無理だろ。俺は巻き添えで、下手したら死ぬんじゃないかと思うのだけど」


「じゃあ鉄球でもぶつけてみるか。本来なら頭部死球は、一発退場ものだけどな」


 一発退場?と首をかしげるのを横目に、太田の動きを観察する。

 まあ一球目で当たらなくても、別に構わないんだけどね。

 どうせ周りに居るのは、敵である帝国の兵なんだから。

 そっちに当たっても、俺にとっては好都合。

 じゃあコントロール抜群の俺が、ちゃっちゃと当ててやりますよ!



 これは夢なのだろうか?

 さっきまでオーガと戦っていたら、後ろから一人のミノタウロスから奇襲を受けた。

 ハルバードを持って攻撃を仕掛けてきたが、やはり多勢に無勢。

 かなりの人数を吹き飛ばして行動不能にしていたが、囲んでしまえば後は嬲り殺すだけ。

 アタイの横で隊長が、的確な指示を出していた。

 こんなにも勇敢な戦士も、数の暴力には勝てない。

 そう思っていた。


 武器が壊れ、とうとう諦めたのだろう。

 動きが止まったミノタウロスに、一斉に銃口を向けたその時。

 聞いた事も無い絶叫と共に、地獄が始まった。

 普通では手に入らないこの装備。

 鉄とは比べ物にならないはずのミスリル製の鎧を、角で軽々と貫いたのだ。

 煩わしい虫を振り払うかの如く、頭を振り貫いた兵を投げ捨てる。

 一撃で絶命したのだろう。

 一切動かなくなった。

 その姿を見た四方を囲む兵士は、我先にと散り散りに逃げ始め、自らを守る盾役が居なくなった鉄砲隊は、勝手に発砲をしていた。

 醜いな。

 そんな連中の片棒を担いだ自分も、そんなに変わらないんだろうな。


 気付けば周りに居た帝国兵も約半分が倒れていた。

 全員が死んだわけじゃなさそうだけど、戦闘不能だろう。

 あのミノタウロスも、こちらに真っ直ぐ突進してきている。

 アタイの運命もここまでか。

 もうすぐお世話になったホブゴブリンに、お礼を言いに行く事になるだろう。

 ・・・やっぱり怖い。


「太田ー!止まらんか!キャプテン命令だ!」


 覚悟を決めていたその時、遠くから子供の声が聞こえた。

 こんな戦場にまで出てくるなんて、馬鹿な子だななんて思ってたのに。

 止まれと命令しているその声に、期待している自分が居る。


「ぶ、ぶもあ゛ぁぁぁ!!!」


 声に反応して方向を変えるミノタウロス。


「報復死球じゃないけど、悪く思うなよ!一発退場しな!」


 子供は何かよく分からない事を言って、何かを投げた。

 投げた黒い何かは、ミノタウロスの額に直撃した。

 直撃を食らったミノタウロスは、その場で頭から倒れた。

 それを見た帝国兵から、歓声の声が上がった。

 アタイが乗った船は、どうやら地獄の入り口の前で止まったようだ。

 この時はそう思っていた。



「報復死球じゃないけど、悪く思うなよ!一発退場しな!」


 見事に直撃、太田は動きを止めた。

 というより頭から倒れた。

 死んでないよな・・・?


「お前、いやキミ凄いな!あの暴走を一撃で止めるなんて!」


 横で興奮するオーガ氏だが、まだ終わってない。

 帝国の奴等は絶対に動くはずだ。

 俺がもし帝国の兵なら、太田にトドメを刺しに行くからな。


「まだだ!あの化け物にトドメを刺せ!」


 隊長らしき兵士が、指示を出している。

 鉄砲隊が銃を構える。

 銃声が聞こえるよりも先に、俺は太田の元へ走り始めた。

 鉄の壁を作り、銃弾を全て弾き返す。


「何者だ!子供だと!?しかしあの魔法、侮れぬ」


 銃弾の雨が壁に降り注ぐが、全く関係無い。

 俺は太田を揺り動かした。


「太田!太田!分かるか!?目を覚ませ!」


「うぅ・・・」


 おぉ!生きてたじゃないか!

 傷だらけではあるが、致命傷ではなさそうだ。

 あれだけ暴れたのに大したもんだ。


「アレ?頭に銃弾を食らったのでは?目の前が赤くなって意識が薄れたので、死んだものだと思っていたのですが?」


「ちゃんと生きてるよ。お前凄かったぞ!」


「そうですか。しかし身体が、身体中が痛いです。ワタクシ、久しぶりに全身を動かしたせいか、どうやら筋肉痛のようですな」


 アレだけの暴れっぷりで筋肉痛って。

 笑わせてくれる男だな。


「ええい!銃が効かぬのなら、直接攻撃しろ!」


 どうやら戦法を変えてくるようだ。

 しかしまだまだ敵は多い。

 どうにかしないと。


「ぬう!まだ終わらぬようですな!ワタクシ、最期に魔王様の逃げ道だけは作ります。どうかお気を付けて!」


 他力本願だったコイツが、こんな事言うなんてね。

 ここは男として、キャプテンとして魅せる時だろう。


「お前は頑張った。昨日のお前から見た今日のお前は、凄くかっこよく見えてるだろう。そんなかっこいいお前なら、手を貸したい奴だって出てくるんだよ!」


(なんかまたテニスの人っぽいセリフだね。じゃあ兄さん、交代しよう。その手を貸したい人は、僕なんだから!)


え?キャプテンとしての威厳は?



 考えていたんだ。

 ミスリルなんて装備を、僕がどうやって攻撃すればいいか。

 兄さんみたいなやり方は、僕には出来ないから。

 アレはある意味反則のような気もするけど、僕は僕なりにやるしかないんだから。

 兄さんより僕の方が優れているのは、やっぱりこれしかない。


「止まれ!お前等に勝ち目は無い。武器を捨てて投降しろ。それ以上近付いたら全員殺すよ。死ぬ覚悟がある奴だけ来い!」


 僕だって別に殺したいわけじゃない。

 一度は降伏勧告もしないと。


「何を戯けた事を!あのガキ共々、牛を殺してこい!」


 子供の姿だからいけないのかな?

 絶対になめられてるよね。

 でも殺すって言ってるのに来るんだから、自業自得としか言いようがない。


「止まらないなら死んでくれ。僕のやり方は兄さんより苦しむけどね」


 こちらに向かってくる連中の前に長い鉄壁を作る。

 いつもより分厚くした。

 ミスリルの剣でも、時間を掛けないと斬れないくらいに。


「道を塞ぐのがお前のやり方か?お子様な考えだな!」


「別に塞ぐのは前だけじゃないさ」


 そう。

 前後左右塞いで、行動不能にしてからが本番だ。


「何だ!?詠唱も無しにこんなに早く!?クソッ!壁を斬れ!」


 精々頑張ってくれ。

 その間に本命の魔法を唱えるから。

 壁を斬り終える前に、僕の魔法は完成した。

 威力はあまり高くないが、効果範囲は大きいこの魔法。

 火魔法、炎の壁。

 この魔法で鉄壁の周りを全て覆った。


「何だ?熱くなってきたぞ?」


「そうだね、壁の外で火を起こしているからね。直火で焼くより、じわじわと苦しめると思うよ」


「おい!早く壁を斬れ!じゃないと蒸し焼きになるぞ!」


「ま、頑張ってよ。その壁、一瞬で作れるからさ。じゃあサヨナラだ」


 最後の仕上げに天板も作った。

 これで熱が逃げるところはもう存在しない。

 中の空気もどんどん薄くなるだけ。


「やめろ!俺達が悪かった!投稿する!助けてくれ!」


「僕は最初に言ったじゃないか。これ以上来たら殺すよって。精々苦しみながら逝くと良いよ。あまり暴れてると、すぐに空気無くなるからね?」


 僕はそう告げて、敵の隊長に声を掛けた。


「戦争を仕掛けてきたのはお前等だ。まさか自分は敵を斬ったり撃ったりしてるのに、逆に殺される事を考えてなかったなんて言わないよね?」


 薄く笑みを浮かべながら、僕は静かな口調で問うた。


「な、何だお前は!こんな残虐なやり方、戦争なわけあるか!」


「じゃあ逆に聞くけど、相手に何も知らせずに町に火矢を放ったり、剣でいきなり斬りかかるのはいいのかい?」


「それは奇襲という兵法だ!お前がやっている残虐なやり方とは違う!」


 憤る敵の隊長だけど、言い分が稚拙だね。

 兵法だというなら、僕のやり方だって同じだよ。


「キミはこのやり方に恐怖を覚えたね?自分達と敵対する相手に対して、恐怖を与える。そうなるとキミ達は攻めづらいよね?だってキミ達も同じ目に遭うかもしれないんだから。そう、これは防衛策の一つだよ」


 何も言わずに敵の左右に鉄の壁で覆っていく。


「ヒィ!もう嫌だ!戦いたくない!」

「もう帰る!俺は国に帰る!」

「何だよ!ミスリルの装備なんて役に立たないじゃないか!」


 各々、泣き叫び始めた。

 怒り悲しみ嘆いている。

 でも、そんな事をさせているのは自分達だと理解していない。

 自分達が侵略をしてきたからだと、彼等は理解していないのだ。

 自分勝手な言い分で、何で俺達がこんな目に!とでも思っているのだろう。


「お前は何だ!誰なんだ!?」


「僕は阿久野!魔王だ!」


「あ、悪の・・・魔王」


 名前を聞いて、よれよれと下がり尻もちをつく隊長。

 余程ショックだったのか、わなわなと震えている。

 何故名前を言っただけで、こんなにも恐怖に怯えるのだろう?


「悪の魔王!?」

「あのような仕打ち、確かに凶悪な魔王がやりそうな手口だぜ」

「子供の姿で油断させておいて、実は極悪な魔王とは・・・」


 聞こえてくる声を聞く限り、勘違いされてるような気もする。

 まあそれも良い。

 帝国で魔王が王子の他に存在すると、派手に喧伝してもらおうか。


 生き残った帝国兵からは、恐怖に満ちたその目をこちらに向けられている。

 しかし、逆に尊敬の眼差しを向ける稀有な奴もいた。

 後ろで倒れている太田である。


「キャプテン!身体能力だけじゃなく、魔法も凄いなんて!流石はキャプテンです!」


 もう場違いなくらい盛り上がっている。

 正直うるさい。


「きゃぷてん?奴の名か!?」

「きゃぷてん魔王!悪の魔王、きゃぷてん魔王だ!」


 なんか、思っていた方向とどんどんかけ離れていくような・・・。

 別に名前なんかどうでもいいか。

 要は帝国の内部に、魔族側に魔王が存在すると知らしめればいいだけなのだから。


「さて、再び問う。これ以上前に来るのであれば、殺す。更に違うやり方で殺す。投稿する意思があるのであれば、武器を捨ておとなしくしたまえ」


 これ以上やっても勝てない事は、明白だと思われる。

 おそらくは500人は居たであろう兵達も、既に100人に満たない。

 敵ながら隊長が玉砕を選ぶような人かと聞かれたら、僕は違うんじゃないかと思っているけど。


「兵達の命の保証は、してもらえるのだろうか?」


「それについては、僕じゃなくオーガの連中に聞いてくれ。キミ達が攻めたこの町は、オーガの町だからね」


 後ろを振り向いて、オーガ氏を呼ぶ。

 投降の意志がある事を伝えると、全ての身柄の安全を保障してくれた。


「すまない。感謝する」



 こうして、オーガの町をめぐる戦闘は終わった。

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― 新着の感想 ―
「キャプテン魔王」、、、「キャプテン翼」の亜種かな、、、?笑
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