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ヤンキー

 ドラゴンであるエクスに驚かれた後、既に長い時間が経っている事に気付いた。

 神様が認識阻害をしている間、こっちから外の様子を知る事も出来なかったのが要因だろう。

 僕達はエクスにいつかまた会うという約束をして、別れを告げた。


 皆の下へと向かっている時、半兵衛は僕達に考えさせられる質問をしてきた。

 いつか日本に戻るのか?

 確かに魂の欠片を取り戻して、身体が治っていたら。

 僕達にはこの世界での目的を果たした事になる。

 だが懸念されるのは、この世界と日本の時間だった。

 もし日本も同じだけの時間が経っていたら、僕達は十年以上も行方不明になっている人間だ。

 そんな奴が今更戻っても、知人友人に親類縁者も困るかもしれない。

 結局は半兵衛に、曖昧な返事しか出来なかった。


 太田や秀吉達と合流した後、イッシーやラコーン達を探す為にその場を離れる事にした。

 先頭集団と合流する前に問題になったのは、アデルモが連れ帰ったルードリヒの解放時期だ。

 アデルモと半兵衛が対立したが、僕の一言で途中で引き渡す事に決定。

 どうせならと王都軍には、ルードリヒが英雄である事に仕立てる事になった。

 彼が王都軍で一目置かれれば、向こうに行った住民も無碍に扱われる事は無いだろうという配慮の為だ。

 彼を王都軍に引き渡す際、王都軍を恐れさせた太田と慶次に一言付け加えさせて、信憑性を高めたのだった。





「あの破壊力を持つ二人が認める男!?」


「彼は片腕を惜しくも失ったが、それでも貴殿等よりは強い。ワタクシ達に負けるとも劣らない闘志の持ち主である」


 闘志ねぇ。

 強さではなく意志なので、負けないというのはあながち間違いじゃないかも。

 だから嘘は言っていない。



「拙者達の居場所を教えるのも構わないが、その時は片腕を失った英雄を欠いた状態で、ドラゴンを退けた拙者達と一戦交えるという覚悟はおありでござろうな?」


「そんな自殺願望は無い!」


 めっちゃハッキリと言い切ったな。

 周りの連中も敵対しないと、気持ち良いくらいに頷きまくっている。



「ちょっと良い?」


 ルードリヒを呼び、内緒話として耳元で話し掛ける。



「無いとは思うが、次に敵対したら容赦はしない。だけど今の状態なら僕達から帝国へと攻める気は無いから。向こうで平穏に暮らしてくれよな」


 そう言うと、ビックリした顔をした後に、ルードリヒも耳元で話してきた。



「本当にドラゴンを退けた英雄に、敵対するなんて馬鹿げた事しませんよ。皆さんに助けられた命、元フランジシュタットの民の為に使うと誓います」


「そっか。それなら助かるよ」


 僕は最後に彼と握手を交わし、アデルモと交代した。



「正しいとは言わん。だが一言だけ。頑張れよ」


「総隊長こそ、新しい場所でも頑張って下さい」


 お互いにそれだけを言い残し、二人は背を向けた。

 向こうの王都軍の残党もそれを見て、その場を離れる。

 僕達も彼等を見送った後、イッシー達を追う事にした。



 ルードリヒのした事は、こちらからすれば許せない。

 だけど街の人達の為に行動した事と考えると、間違いでもない。

 アデルモもルードリヒも、自分が街の人達の為に行動した結果なのだ。

 フランジシュタットで起きた事は、何とも言えないモヤモヤした気持ちを残した。

 僕には考えさせられる出来事だったな。






 イッシー達の進む方向は、長浜方面なのは分かっている。

 なので、同じように長浜方面へ向かえば、何処かで見つけられると思っていた。

 それは予想通りで、イッシー達を見つける事に成功したらしい。

 だが、思わぬ障害が待っていた。



「見つかったなら安心だな」


「と思っていたのですが、一筋縄ではいかないみたいです」


 秀吉が戻ってくると、そんな事を言っている。

 周りの連中も少しピリピリしていた。



「何があった?」


「慶次殿と見知らぬヒト族が、戦闘に入りました」


「見知らぬヒト族?」


 誰だ?

 この辺りに隠れ住む人達かな?



「それで、そのヒト族を倒しちゃった感じ?」


「それが、なかなか強いのです」


「慶次と同じくらいの強さだって!?本当にヒト族?」


「間違いなく」


 むむむ!

 アデルモの時も驚いたけど、ヒト族にも強者がまだまだ居るっぽいな。

 流石に負けたら心配だし、ちょっと見に行こう。





「でぇい!」


 慶次の気合いの入った声が聞こえてくる。

 人集りが出来ている事から、タイマンらしい。

 まさか一人で慶次と同じ強さなのか?



「ちょっとごめんね。中通らせて」


 人集りを押しのけて中心へ行くと、楽しそうに槍を振るう慶次と、それに対して木刀で槍を叩き落とす男が戦っていた。

 確かに互角に見える。

 だが、それよりも気になる点があった。



「・・・誰?」


 明らかにこの辺の人ではない。

 何故言い切れるのか?

 それは彼が、金髪のリーゼントだからである。



 服装も制服っぽいのか?

 ヤンキー漫画で見たような、短ランだったかな?

 そんな感じの服装だった。



「オラァ!」


「ハッハー!コイツ、やるでござる!」


 慶次の目は爛々としている。

 もはや楽しいの一言だろう。



 対して向こうも、慶次の槍で作ったと思われる傷はあるものの、致命傷ではない。

 傷が無いという事は、あの槍を初見で避けたのか?

 なかなか勘が鋭い男だ。

 しかも、なんだかんだでコイツも薄ら笑っている。

 二人とも、楽しんでいる感がある。



「ところで太田。何でこの男と戦っているんだ?」


「はい、イッシー殿やラコーン殿は見当たらなかったのですが、トラックが固まって止まっているのを見つけました。すると、そのトラックの周りでウロチョロする怪しい男が。それを見た慶次殿が、有無を言わさずに突撃しまして・・・」


 トラックの周囲でウロチョロする、召喚者と思しきヤンキー。

 そりゃ怪しさ満点だわ。

 慶次の判断が正しい。

 だから慶次の戦いを、このまま止めずに見る事にした。



「ちょっと!ちょっとストップ!その戦いを止めて!」


 遠くから大きな声で叫ぶ声が聞こえる。

 馬に乗っているから、頭が見えた。

 ラコーンが叫んでいるらしい。



「止めた方が良いのかな?太田、止めてきて」


「御意」


 完全防備のフルアーマー太田なら、彼等の間に入っても問題無い。

 僕は安心して見ていた。

 が、それが間違いだった。



「双方、武器を納めよ」


「ぬおっ!太田殿!」


 慶次が咄嗟に槍を引く。

 少しだけ伸びた槍が、太田の腹をコツンと叩いた。

 流石は慶次。

 飛び出した相手をすぐに判断出来るとは、なかなかやるな。



「邪魔だ!他人の喧嘩に手を出してんじゃねぇ!」


 太田は木刀で、側頭部を殴打された。

 しかし兜は頑丈だ。

 少し凹んだだけだった。

 だったのだが、中身はそうはいかなかったらしい。



「太田殿!?」


 殴られた方向と反対側へ、直立不動のまま倒れる太田。

 どうやらその衝撃までは耐えられなかったようだ。

 白目を剥いて気絶してしまった。



「おのれ!許すまじ!」


「いや、許して!頼むから許して!」


 下馬したラコーンが、太田の近くまで来て慶次を止める。

 ひたすらペコペコ頭を下げるラコーン。



「アニキ!」


「アニキィ!?」





 ハクトの回復魔法で、無事に目を覚ました太田。

 ラコーンは太田に本当に申し訳ないと、土下座をする勢いだった。



「ラコーン殿、気にしないで下さい。ワタクシが油断したのがいけないのです。魔王様から止めるように言われたのに、それを遂行出来ませんでした。やられた事よりもそっちが悔しいです」


「それでも申し訳ない!」


「アニキ、もう良いだろ」


「良くない!お前も謝りなさい!」


 頭を押さえて謝罪させるラコーン。

 それよりもだ。



「ラコーン、ソイツは誰?」


「何だこのガキ?アニキ、ちゃんと礼儀作法を教えといた方が良いぜ」


「お前が言うな!」


 僕の質問に対して、軽くキレ気味のヤンキー。

 ラコーンはヤンキーに注意した後、ため息を吐いていた。



「それで、誰?」


「ハイ、コイツは長谷部。召喚者の一人です」


「やっぱりね」


 召喚者なのは間違っていなかったか。

 ただ、何故こっちに居るのか?



「その召喚者が、何故ラコーンに味方しているんだ?」


「えーとですね、帝国に居た頃にズンタッタ様の用事で城に行った時、たまたまコイツに会ったんですよ」


「あの時のラコーンのアニキは、イカしてましたぜ!」


 イカしてたって、ラコーンの奴は何をしたんだ?

 コイツも少しヤンキー気質があるし、気になるな。



「ラコーンは昔、何したの?」


「アニキは俺をぶん殴ったんでさあ!」


「は?」


 殴られたのに嬉しそうなんだけど。

 コイツ、そっちの趣味か?



「か、勘違いしないで下さい!コイツが召喚されたばかりで暴れていたので、俺が面倒を見てやったってだけです」


「あぁ、そういう事ね。てっきり、男相手にそういう趣味だと思ってた」


「そんなわけないでしょ!」


「ぶん殴って止めたのに、何で懐かれてるんだ?」


「その後にメシとか奢ってやったら、妙に意気投合しまして。俺の事をアニキって呼ぶから、ちょくちょく相手をしてやったんですよ」


 それって、ヤンキーの先輩として認められたってだけじゃんか。



「なるほどね。慕われているのは分かった。それで、何故ここに居る?」


「それは」


「偉そうなクソガキだな。だが俺が説明してやるよ」


 クソガキは余計だ。

 説明してくれるみたいだから、終わってから文句を言うとして。

 早く説明しなさい。



「俺はアニキが帝国から脱走したって聞いた。嘘だと思ったけど、帝国のやり方はクソだからあり得るとも思った。それから帝国で訓練を無理矢理受けさせられて、俺は強くなった」


 ラコーンがビクッとしている。

 近付いて小声で話すと、面白い事を言われた。



「今のアイツの強さだと、俺がボコボコにされます。半殺しどころか普通に殺されるかも」


 だからアニキとしての威厳を保ちつつ、下手に手合わせしようとか言われないように気を付けているらしい。

 歪んだ笑顔で、強くなった事を褒めている。



「それで俺も作戦とかいうのに行かされたんだけど。やってる事がマジでクソだった」


「何してたんだ?」


「魔族狩りだよ。ガキも女も関係無く襲ってやがった。だから俺は、アイツ等をボコボコにした」


「アイツ等って、帝国兵?」


「そうだ。それと俺みたいな召喚者もな」


 味方も居ないのに、なかなかやる事が凄いな。



「ぶん殴ってる最中に、頭が割れるくらい痛くなったけど、気合いで堪えてやったぜ。それからも気に食わない命令には逆らいまくった。魔物退治だけは真面目にやったけどな。アレ、美味いし」


 コイツ、精神魔法に逆らってまでも殴ったのかよ!

 ちょっと信じられないくらいの変人だ。



「それで、今回の作戦が街の襲撃だったと?」


「そうだ。しかも同じ帝国の街で、魔族でもふざけんなって話なのに、ヒト族も住んでるって言うじゃねーか。だから山下の魔物狩りに一緒に付いてったんだけど、アイツもふざけた事言い始めたから、途中で別れたんだわ」


 あの魔物使いと一緒に来たのか。

 もしコンビを組まれていたら、魔物と木刀による遠近両方の攻撃で厄介だったに違いない。

 反りが合わなくて良かった・・・。



「別れた後は?」


「指揮官のセードルフはムカつくし、一人でブラブラしてた。そしたらバカでかいドラゴンが見えたから、追いかけたんだわ。気付いたら見えなくなっていて、途中で見失った後、更に道に迷っちまった」


 途中で見えなくなったのは、多分神様の認識阻害が原因かな。

 もし見えてたらあの場に来てたのかと思うと、ちょっと面倒だった。



「そこで迷ってたコイツを、俺が見つけたんです」


 ラコーンが最後だけ言うと、長谷部は頷く。



「最初は他人の空似かと思ったんだけどよぉ、名前呼ばれたら間違いないじゃんか」


「そうね。確かに」


「だから俺、すげー嬉しくて、帝国を裏切る事にしたわ」


「ん?何て?」


 聞き間違いじゃないよな?





「アニキと一緒に行く事にしたって、言ってんだろ!?クソガキ、さっきから随分と偉そうだけど、アニキに面倒掛けたら承知しねーぞ!」

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