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会話

 アデルモは自分を曲げなかった。

 兄は仲間を危険に晒した事を普通に怒っていたが、それどころではない。

 ルードリヒの説明によると、山下が原因という事が発覚。

 怒るドラゴンを背に、逃げる事を選択した。

 しかし兄は、爪で進路を邪魔されたトライクが急に曲がった事で、後部席から落ちてしまった。


 兄は考えた。

 死んだフリをすれば、見逃してもらえるのではと。

 落ちたまま死んだフリをして動かない兄だったが、そこに半兵衛からの声が聞こえる。

 死んだフリは逆効果。

 目を開けると、そこには笑っているように見えるドラゴンが、今から炎を吐くぞと言っているようだった。

 危機一髪でブレスを避けた兄。

 しかしドラゴンの笑みを見た事で、一発目にモノ見せないと気が済まないという空気になってしまった。


 鉄球も刀も効かない。

 そこで考えたのは、太田と慶次のクリスタル内蔵の武器による攻撃だった。

 太田と慶次の渾身の一撃に、僕と秀吉の最大限の魔法を封じる。

 だがその攻撃も、致命傷には遠く及ばなかった。


 残りの攻撃で考えたのは、毒魔法による弱体化と音魔法だった。

 使い勝手の悪い音魔法はあまり期待していなかったのだが、大きく魔力を減らす事になった音魔法。

 その結果、ドラゴンが地面に落とす事に成功した。

 そしてそれは、ドラゴンが僕達の言葉を理解している証拠でもあった。





「何とか言ってくれ」


 何も喋らないドラゴン。

 言葉は理解しているけど、話す事は出来ないのか?



「魔王様、そろそろ耳から手を外しても良いですか?」


「あ、そうだった。良いよ」


 伝えたところで耳から外さない太田。

 というか誰も外さない。

 何故?と思ったのだが、聞こえてないんだから当たり前だった。

 皆の前で大きく頭の上に丸を作ると、ようやく耳から手を離した。



「ドラゴンが落ちてきましたが、魔王様の魔法ですか?」


「そうね、たまたま効いたらしい」


「なんと!?ドラゴンにも効く魔法があるなんて。私も知りたいですね」


 秀吉がどうやったか興味津々のようだ。



「音魔法って知ってる?」


「古代使われていた魔法ですね。使い勝手の悪さから、今では使える人は少ないと聞きますが。まさか、音魔法でこれをやったと?」


「あとは無詠唱で、毒魔法とか使ったりしてるけどね」


「なるほど。いくつかの魔法が重なって、このように落とす事が出来たというわけですね。素晴らしい!」


 秀吉は感心していたが、実際は音魔法だけだろう。

 魔力が大幅に減ったのは、平伏せと言ったあの瞬間だったからだ。


 この魔法、ハクトには気を付けるように言わないと。

 彼の場合、一度の使用で魔力切れを起こしてしまうかもしれない。



 それよりも、目の前の事に集中しよう。

 地面に落ちたこの姿でも、炎を吐くくらいは出来るはず。

 半兵衛には少し後ろに下がってもらい、皆には警戒するように言った。



「さてと、兄もこの姿には満足してるらしい。そこで提案なのだが、この辺で勘弁してもらえないだろうか?」


「・・・」


 何も話そうとはしないドラゴン。

 言葉を理解しているなら、喋れないにしても反応は出来るはずなのに。



【魔法を解いたら良いんじゃないか?】


 ハァ!?

 そんな事したら襲われるだろ。



【だから、これって俺達が上から言ってるように見えるじゃないか。提案だと言うなら、それは五分五分の立場で話すべきだと思うぞ】


 それは・・・怖いな。

 下手したら、魔法を解いた途端に攻撃される可能性も考えないといけない。

 だから、その前に少し安全確認をしてからにしよう。



「悪いんだけど、皆ここから離れてくれない?」


「魔王様はどうされるのですか?」


「ちょっとドラゴンと話がしたい」


「危険ですぞ!そんな事、ワタクシが許しません!」


「太田、これは命令だ」


「そんな命令、聞けません!」


 太田の言葉に賛同する慶次と秀吉。

 そして半兵衛も反対の意見だった。



「それじゃ、代表として半兵衛だけ残ってもらう。他は戻れ」


「何故、半兵衛殿なのですか!?」


「良い?今はドラゴンの襲来で忘れているかもしれないけど、まだ王都軍は残ってるんだよ?トラックは離れたけど、それを守護する人達が足りない。イッシーやラコーン達だけに任せるつもり?」


「半兵衛殿はその点、戦闘能力が無いからと?」


「そうだね。半兵衛並みの策略を練る事が出来る秀吉が居れば、僕が居なくてもトラックを守る事は出来る。頼んだよ」


 王都軍のあの逃げる様を見る限り、おそらくその可能性は低いけどね。


 ただ、召喚者だけは例外だと思う。

 この混乱に乗じて、襲ってこないとも言い切れない。



「それじゃ、三人でトラックの護衛を続けてほしい。話が済んだらすぐに追い掛けるから、それまでは頑張ってくれ」


「承知しました。ワタクシ、その命令を遂行したいと思います。ただし!必ず戻って下さいね」


「分かった。必ず戻る」


 三人はトライクで、その場を離れた。





「じゃあ、話の続きをしよう。とりあえず楽にして良いよ」


 音魔法を解くと、ドラゴンはすぐさま起き上がった。

 大きく咆哮すると、威圧するようにこっちを見てくる。



「ま、魔王様。何故魔法を解いたのですか?」


「会話をするのに、押さえつけて上から言うのはおかしいだろう?僕達は彼に、見逃してもらいたいと頼む立場だしね」


 半兵衛は納得していないらしい。

 そのまま逃げる事も可能だったかもしれないけど、安土まで追ってこないとも言い切れない。

 どっちにしろ、やっぱり話し合う必要があるんだよね。



「言葉は分かってるでしょ?話す気は無いみたいだから、まずは一方的に話をするね」



 僕はまず、山下がやった事を謝罪した。

 知らなかった事とはいえ、無断で人の家に土足で入ったようなものだからね。

 敵とはいえ、同じ日本人。

 やらかした事には謝るのが筋だと思う。



「もし許されるのなら、その代償も対価として払います。人の命とかは駄目だけどね。何か無いかな?」


「・・・」


 やっぱり話してくれないか。

 信用されてないっぽいなぁ。

 と思ったのだが、とうとうその時が来た。





「山を荒らした者はどうした?さっき逃げた者達か?」


「話した!?あぁ、それはもう死んでるよ。さっき貴方が食べたからね」


「そうか。コイツか」


 口からぺっと吐き出される骨。

 肉だけ食べるとか、身体の割に器用だな。

 骨だけ残してるなんて、カルシウム不足、していませんか?



「あの、何故急に話す気になったの?」


「それよりもまず問いたい。私が知っている魔王は、こんな小さくなかった。しかし面影はある。お前は彼の子供か?」


 なぬ!?

 前の魔王ってドラゴンと知り合いなの?

 かなり驚きなんだけど。



「えーと、子供ではない、かな?」


「しかし、それにしては似ていると思うのだが。人類の区別など、私にはそう見分けられないからか?」


「うーん、何て言えば良いのかなぁ」


「詳しく言えんのか?」


 知り合いっぽいけど、その魔王の身体を勝手に使ってますとか言っても、怒らないよね?

 それで怒りを買って食われるとか、最悪なんだけど。



【下手に隠し事しても不機嫌になるだけだろ。だったら正直に言った方が良いんじゃない?】


 不機嫌になって殺されても困るし、どっちにしても話さないと駄目って事だね。



「僕の、いや僕達の事を全て教えるよ」


 身体の事。

 魂の欠片の事。

 二人で一人になった事。

 全てを包み隠さずに話した。



「な、なんと!それなりに長い生を歩んできたが、お前のような、違うか。お前達のような者に会うのは初めてだ」


「ドラゴンを驚かす事が出来て光栄だね」


「というか、私も初耳なのですが。聞いて良かったのでしょうか?」


 半兵衛もここまで詳しくは教えてなかったっけ。

 まあ彼の事は信用してるし、別に構わない。



「それでは、奴の身体を使ってお前達が存在していると。となると、彼奴は死んだのか?」


「多分ね」


「惜しい男を亡くしたな」


 ドラゴンに惜しまれるとは、やっぱり前魔王の所業はかなり怪しい点が多い。

 馬鹿みたいに、力押しで帝国と戦うような人じゃないっぽい。



「それで、奴は誰にやられたのだ?」


「帝国だと思う。さっき、僕達を追い掛け回してた連中ね。ちなみに逃げてたのも帝国の人だけど、魔族を匿ったら追われる立場になっちゃった。だから魔族を助けてくれた彼等を、僕も助けに来たってわけ」


「なるほど。身内を助けてくれた恩を返す為に、お前も彼等を助けるとな。しかし分からない点もある」


「分からない点?」


「お前は魔族として、生を受けたわけではないだろう?むしろ魂はヒト族と近い存在のはず。なのに魔族に加担する理由は無いのでは?」


 そう言われてしまうと、彼の指摘は間違っていない。

 何度かその考えをした事もある。



 でも、だからといって助けてくれた猫田さんや又左、それに友達になってくれたハクト達を見捨てて、帝国側に付くなんて事は絶対にありえない。

 帝国の人全員が悪いわけじゃないと、今回のフランジシュタットの事で分かった。

 ならば、自分が信じられる人達とは上手くやっていきたいと思う。



「要は、自分が気に入った人だけは助けたいって事かな」


「傲慢な考えよな。だがそんな傲慢さなら、嫌いではない」


 そう言ったドラゴンは笑い始める。

 ドラゴンって笑う時も、ハッハッハって言うのね。



「それで本題なんだけど」


「山に立ち入った件か。別にそれに関しては対して怒っていない。だが、人の眠りを妨げるような騒ぎを起こしていた事に、怒っていたのだ」


「それは、山の近くで争いをしてた事に対する怒り?」


「そうだ。別に私の山というわけではない。故に立ち入る事は禁止していないのだが、昔会った連中が勝手にそういう風に決めたらしい」


 寝てる側で騒いでるんじゃねぇ!って怒ってたって事ね。

 だったらもう問題無い。



「争いはもう起きないと思う。フランジシュタットの人達は、この土地を捨てるからね」


「そうか。彼等はこの土地を離れるか。山で成人の儀とやらをやっているのは知っていたが、年に一度の楽しみにしていたのだがな。残念だ」


「帝国との戦いが終われば、もしかしたら戻る人も居るかもしれない。それはまだ先の事だけど」


「永年住んだこの土地だが、私も出てみるとしようかな」


 ドラゴンが他の土地に行くとか、生態系壊れるんじゃないの?

 そういえば、他にもドラゴンとか居るのかな?



「ちょっと聞きたいんだけど」


「何だ?知っている事なら話そう」


「別の場所に住むドラゴンとか知ってる?」


「知らん」


 知らないのかよ!

 しかも即答だし。



「縄張り争いをしているわけじゃないからな。会えば知ってる顔かもしれんが、知らないかもしれん」


「ドラゴンって何匹くらい居るの?」


「知らん」


 知らない事だらけじゃないか!

 コイツ、役に立たんぞ。



「ドラゴンも死んだり、新たに生まれているだろうしな。せいぜい居ても、十匹程度だと思うぞ」


「なるほどね。ちなみにドラゴンが脅威だと思う相手とかは?」


「私が脅威だと感じる相手か。うーむ、特には思い当たらんが、龍神様には逆らわないと思うぞ」


 あ、そういえばドラゴンと龍の違いが分からないんだった。

 本人に聞くというのも、乙な感じがする。



「ドラゴンと龍って、何が違うの?」


「貴様、本気で言っているのか?」


 ありゃ?

 何かおかしな事言った?

 ドラゴンを驚かせる事に、二回成功したぞ。



「無知で申し訳ない」


「そういえば、お主は変わった経歴を持っておったな。この世界の常識を知らなくても、仕方のない事なのかもしれん。ちなみにお主の国では、ドラゴンと龍というのは、同一なのか?」


 同一かと言われると、ちょっと違う・・・のか?



【ドラゴンは竜って感じで、龍は龍っていうのが、俺の感想かな。龍の方が神々しい感じがする】


 字で見ないと分からないけど、言いたい事は分かる。

 そうやって説明してみよう。



「とまあ、こんな感じなんだけど。この世界とは違うかもしれないね」





「いや、あながち間違いでもないな。龍とは龍神様。我等とは違う存在である。神に逆らう生き物など、居ないであろう?」

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